人里から離れた森の中。普段は人間も妖怪も立ち入らない。
そこをひたすら突き進む男が一人。
頭には黒くて長い帽子を被り、手にした鞄は男の歩きに合わせガッチャガッチャと音を立てて揺れる。
鬱蒼と生い茂る森に似つかわしくないタキシード。
彼は今しがた仕事先から逃げてきたのだ。
元はといえば人見知りするほうなんだ。それなのに人前に出るなんて、手品師なんて出来るわけない。
男は適当な切株に腰掛け、ぼんやりと物思いに更ける。
小道具なら、揃っているのに……
心の中で自分に言い訳をし、空を仰いだ。
――その頃
「ゆっ!おいしそうな りんごだね!」
「ゆっくりぷれいすに はこぶんだぜ!」
森のちょっと奥、ゆっくりれいむとゆっくりまりさが林檎を見つけて大喜びしていた。
自らもていんていんと跳ねながら林檎を体当たりの要領で転がして“ゆっくりぷれいす”に運んでいる最中である。
この先の茂みを抜けるといつもの切株。そこでゆっくりするつもりだ。
「もうすぐだぜ!はやく いくんだぜ!」
「ゆっ!まりさ、もうすこし ゆっくりあるいてね!!」
ガサガサと茂みが揺れた音が、上の空だった男を引き戻した。
音の方を見やると林檎が転がってくる。不自然だ。
拾いあげてみるがなんてこともない、普っっ通の林檎の様。
少し遅れて二つの頭が飛び出す。
跳ねてきたソレを見て男は身構える。
な、生首!?
魔女のような黒い帽子を被った金髪と、赤くて大きなリボンの黒髪の……なんだこれ?
ポヨンポヨンと跳ねてきたソレと目が合った。
「ゆゆっ!?おじさんだぁれ!?」
「そこは れいむたちのゆっくりぷれいすだよ!」
生首らしき何かがギャンギャンと喚き散らす。
ははん、と男は気付いた。巷で噂の謎生命体、なるほど、これがゆっくりという奴か。
知能は子供と同じ程度。良く言えば純粋、悪く言えば世間しらず。
男は思った。『こいつらに見せてみて、成功したらもう一度戻って試してみよう』と。
「ゆゆゆっ!まりさのりんごがとられたんだぜ!ゆっくりかえすんだぜ!」
手にしていた林檎の事をすっかり忘れていた。
男はニヤリと笑みを浮かべ、力任せに林檎を握り潰した。
「ま゛り゛ざの゛り゛ん゛ごぉぉぉぉ!!」
目の前で好物を砕かれ、まりさが泣き叫ぶ。
怒りに任せて突進してきたまりさを受け止めるてやりすごすと、
胸ポケットからハンケチをとりだし拳を包む。
「どぼじでぞんあごどずるの゛ぉぉぉぉ!」
涙と鼻水(?)でぐしゃぐしゃの二匹に落ち着けと手で合図して制する。
シルクハットにハンケチを入れ軽くかき混ぜ、切株に置く。
1…2…3
指をパチンと鳴らし、ハットを持ち上げる。
すると中からは…
「ゆ゛うぅぅ…ゆっ!まりさのりんご!!」
確かに握り潰されたはずの林檎がそこにはあった。
それだけではない。林檎の他にバナナ、柿、イチジクが入っていた。
「ゆゆっ!これ、ほんとにほんとの まりさのりんごだよ!おじさん、どうやったの!?」
瞳をランランと輝かせれいむが聞いてくる。
男は、残念ながら企業秘密だから教えられないよ、とだけ答えておいた。
そこに、他の果物は泣かせたお詫びと付け加える。何も伝えず使ったのだから当然といえば当然か。
「おじさんは、ゆっくりできる人間なんだぜ?」
さっきまで泣いていたまりさもいつの間にか目を輝かせ質問してくる。
もちろんさとだけ答えて、男はその場を立ち去ろうとした。
「れいむたちに、もっとゆっくりみせてね!」
「ゆっくり、てじなみたいんだぜ!」
引き留めようとするゆっくり達に、男は今度は首を横に振る。ごめんと言いながら二匹をソッと撫でた。
その代わり、里で開かれる大道芸大会に招待することにした。
空を見上げれば、太陽がゆっくりと西に沈む所だった。
――数日後、大道芸大会でまりさとれいむが客寄せをしていた。
しかし男の手品よりも二匹の客寄せの方が受けていたようである。
支離滅裂なままEND
- >森のちょっと奥、ゆっくりれいむとゆっくりまりさが林檎を見つけて大喜びしていた。
>涙と鼻水(?)でぐしゃぐしゃの二匹に落ち着けと手で合図して制する。
>さっきまで泣いていたまりさもいつの間にか目を輝かせ質問してくる。
感情豊かなゆっくりは可愛いなぁ -- 名無しさん (2008-12-05 00:55:14)
最終更新:2008年12月05日 00:55