ある日、アリス・マーガトロイドが目を覚ましてみると、自分が巨大なゆっくりになっていることに気づいた。驚きのあまりアリスは声をあげるが、
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっくりした結果がこれだよ!」
これだけしか言葉を発することができない。
途方に暮れていたアリスだが、同居人ならぬ同居ゆっくりのゆっくりまりさのことが気になった。人間は――今はゆっくりの身だが――想定外の自体が起こっても、気にかかることは得てして身近で触れやすい事柄なのである。
アリスはゆっくりまりさを探した。這いずりまわるのに慣れていないため家を回るのに時間がかかった。結局家を半分ほど回ったところで、声をかけても返事がないので諦めて外を探すことにした。
外でも声を呼んで探すのだが、そのうち言葉のバリエーションが増えてきた。それらの中には
「あったかくて気持ちのいいものちーんぽ?」
など、原作の孤高な設定とは逸脱した汚辱極まるセリフもあったのだが、このまま語彙を増やさないでいると幻想郷の住民に逢った時に意思疎通を図ることができない。文字通り手も足もでない状況下では言語を通じて意思を伝えるしかないと諦め、アリスは声を上げ続けた。
「まりさー。どこー?」
「ゆっくりしようよー」
幾分まともなセリフを吐けるようになり、一安心していたその時、目の前を(現在の自分の)等身大ほどの物体が横切った。その物体には、見なれた金色の髪と黒い三角錐の形状をした帽子を纏っていた。
ゆっくりまりさである。そう確信したアリスは、この異常な状況になってから始めて誰かと逢えた喜びも加わり、足早にまりさに近づいて行った。
「まりさ! やっとあえた!」
人間であれば手を繋いだり、抱きついたりすることもできたのだが、そうもいかない。今のアリスは頬を摺り寄せる程度の能力しかない。
「……」
まりさがアリスの方を向く。その顔は見事に不貞腐れ、普段のまりさの緩んだ可愛さが微塵もない、独特の魅力のある表情だった。
(まりさ……?? そ、そっか。今の私はゆっくりアリス。まりさが怖がるのも……怖がっているようには、見えない)
アリスはまりさの異様な反応に虚を衝かれていた。そのうち小さく溜息をついて、まりさはこう呟いた。
「私は、ゆっくりじゃない。魔理沙だ……」
その話しぶりはドライな表情にとても調和していた。アリスの中で漂っていた、『どこかで逢ったことのある別の人』というイメージとよく合致した。
「魔理沙なのね。魔理沙までゆっくりに……」
「なんなんだこりゃ。呪いか? 魔術か? 妖術か? 新兵器か? 最後の審判か?」
魔理沙もよほど参っているようだ。思うに、彼女も知り合いを探していたのだろう。おそらく、人間の。
「魔理沙……」
「霊夢のところに行くか」
「霊夢?」
「最初にアリスのところに行こうとしてたんだけど、この通りの有様だしな。霊夢がまだ人間のままかもしれないだろ?」
この状況では反対する理由はない。同意することにした。
「そうだね! れいむのところでゆっくりしようね!」
「ちーんぽ!!!」
「……」
「…………ごめん」
「…………いいの。わかってる」
この悪癖を早く直さねば。
博麗神社は外から見た限りでは誰もいなかった。これはいつものことである。とりあえず境内にお邪魔したところ、見なれた箒があった。
「これ……私のだ」
「置いてたの?」
「いや、昨日これに乗って帰った」
「と、言うことは……」
「アリス」
声のする方を向くとゆっくりれいむを抱いた魔理沙が立っていた。手足のある、れっきとした魔理沙だ。姿だけは。
魔理沙はれいむをそっと下に置いて、二人を一瞥した。
「……!」
次の瞬間魔理沙は駆け出し、アリスを鷲掴みにした。反応はしたのだが、ゆっくりのスピードでは到底逃げられない。
「人の身体を使って何すんだ!」
「う、う」
まりさが足元に体当たりをかますが、弾力がある今の身体では無力だ。簡単にはじき返される、というより勝手に撥ねかえる。魔理沙は笑みを浮かべると、そのままアリスを顔に近づけ……
「や、やめろ!」
「アリスおねえさん~」
頬ずりした。
「「……は?」」
「ゆっくりになってもアリスがわかるのね。逢えて嬉しいんでしょ」
今まで黙っていたゆっくりれいむが口を開いた。
「れ、霊夢なのか?」
「信じられないけどね。この人型の魔理沙にはゆっくりまりさが憑いてるみたいよ」
まるで悪霊のような表現だ。
「最近アリスかわいい! まりさはアリスのことが大好きだぜ!」
「ま、魔理沙、ゆっくりやめてってね!!!」
「アリス、ずいぶんとゆっくり私を躾けているようじゃないか」
魔理沙に抱きしめられる傍ら、アリスはゆっくりまりさの冷たい視線を感じる。斬新な図である。
「ま、魔理沙、違うのこれはむっ!」
キスされた。
「……」
「だ、大丈夫よアリス。アリスがどんな趣味を持っていようと、私はアリスの友達よ」
霊夢からの追い撃ちに等しいフォローも入る。
「魔理沙はアリスのことが大好きだぜ! 魔理沙はアリスのことが大好きだぜ!」
(……いっそ殺して……)
- なんというアリスいじめ。ここのアリスはかわいいですね。 -- 名無しさん (2008-07-12 19:46:49)
- このシリーズ、おもしろいな -- 名無しさん (2008-08-16 00:35:32)
- いっそ氏にたくもなる罠ww カワユ過ぎてこっちが萌え氏にそうになってますが(ぉ -- 名無しさん (2008-12-09 02:44:36)
- すてきだ -- 名無しさん (2010-11-27 14:57:16)
- がんばれアリス。そのうちきっと(多分)良い事があるさ -- 名無し (2011-03-19 20:04:53)
- 公開処刑wwww -- ななし (2011-07-05 01:06:42)
最終更新:2011年07月05日 01:06