ゆっくり餡人形にしてやろうか!

 三途の川。
 死者が渡り、幽霊となった生き物達が集う川である。
 しかし、それ以外は普通の川とほとんど変わりがない。
 川には魚が泳ぎ、川岸は自然にあふれている。
 以前はそこに住まう生き物たちはほとんどが霊体だったのだが、最近では実体のある…つまり生きている生き物や人妖もごくたまに見かけられる。

 三途の川から少し離れた、霊体と実体が混在している辺りに、2人の少女はいた。
 「…この辺りでいいかしらね。河童さん、例の物を」
 「あいよ」
 永琳が声をかけると、にとりは背中のリュックを下ろし、明らかにリュックより大きい機械を取り出した。
 人が入れそうな扉付きの円筒が2つ並び、上が細い管でつながっている。円筒の間には操作パネルがある。
 「あとは被験体ね」
 永琳は辺りを見回した。霊体・実体含め、ゆっくりが何体かいるようだ。機械の物珍しさからか、数体が近寄ってきた。
 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
 永琳は1匹のゆっくりまりさ(霊体)を抱き上げ、片方の円筒に入れ、扉を閉じた。そしてにとりのリュックから饅頭を取り出し、もう片方の円筒に入れた。
 「ゆゆっ!おねーさんまりさになにするの?」
 ゆっくりれいむが問いかけた。
 「ちょっとした実験よ」
 「ゆっくりできるの?」
 「どうかしら。やってみないとわからないわ。河童さん」
 「ほいさ」
 にとりはパネルを操作した。独特の機械音が響き、「ゆーっ!」というゆっくり特有の苦しそうな声が聞こえてきたが、10秒ほどで止んだ。
 永琳はまずまりさの入っていた方の扉を開ける。何も入っていなかった。
 「なかにだれもいませんよ!」
 れいむは問いかけた。
 「そうね」
と言いながら永琳はもう片方の扉を開けた。そこにはまりさ(実体)がいた。
 「すっきりー!!!」
 「ゆゆっ!だれなの?」
 「ゆっ!まりさはまりさだぜ!れいむはわすれんぼさんなんだぜ!」
 「…成功ね」
 実験とは、魂と器の実験だった。魂や霊体を、魂のない相応の物体に入れることで、物体を新しい生命として誕生させることできるかどうかを知ることが目的の1つである。
 永琳はまりさに問いかけた。
 「まりさ」
 「なんだぜ?」
 「気分はどう?」
 「なんだかからだがおもいんだぜ!」
 「ゆっくりできる?」
 「まりさはいつもゆっくりしてるんだぜ!」
 「そう」
 永琳はまりさを入れたまま扉を閉めた。
 「おねーさんなにするんだぜ!」
 「今やったことの逆のことをやるのよ」
 にとりがパネルを操作した。機械音の後、扉を開けると元の饅頭が、もう一方にはまりさ(霊体)が入っていた。
 「すっきりー!」
 「気分はどう?」
 「からだがかるくてゆっくりできるんだぜ!」
 こうして、目的の2つ目…魂と器を分離することができるかどうか…も達成された。
 永琳は饅頭とまりさを取り出した。
 「…こんなところかしらね」
 「ねえ薬師さん」
 「何かしら、河童さん?」
 「私も1つ実験してみたいんだけど、いいかな?」
 「…いいわよ。折角手伝ってもらったんですものね」
 「やった!」
 そう言うとにとりは、片方にれいむ(霊体)を、もう片方にれいむ(実体)を入れた。
 「何をするのかしら?」
 「外の世界の漫画っていうのでこんなのを見たのを思い出してね」
 「こんなの?」
 にとりはパネルを操作した。機械音が終わった後、霊体が入っていた方を開けると、中には何もなかった。実体の入っていた方を開けると、れいむ(実体)がいたのだが、顔は白く、目や口の輪郭が黒で強調され、頬も黒くなっている。額には黒字で"ゆ"と書かれている。
 「YUKKURIせよ!YUKKURIせよ!」
 れいむが口を開いた。
 「おー、思った通りだ」
 「…何これ?」
 「えーっと…説明すると長くなるからこれ読んで」
 にとりは永琳に本を1冊渡した。サングラスをかけた黒い男が、銃と化した片腕を正面に向けている。
 「…これ、どうするの?」
 永琳はれいむを指して言った。
 「うーん、一応やりたいことはやったし、薬師さんが欲しいならあげるよ。お礼代わりというにはアレだけど」
 「そうね…」
 永琳はれいむを見つめた。
 「ゆっくり餡人形にしてやろうか!」
 「…とりあえずもらっておこうかしら」

 小町が現れたのは2人が帰り支度をしている時だった。
 「おい」
 「ひゅい!?」
 「…あら、死神さん。仕事はクビにでもされたのかしら?」
 「客が来ないだけだよ。それより、死なない人間がこんな所に何の用だい?」
 「ちょっとした実験よ。もう帰るところだけどね」
 「実験、ねえ…」
 小町はれいむを見た。
 「ウドンゲからここのゆっくりの話を聞いてね、ちょっと興味がわいたのよ。その子は副産物ってところかしら」
 (…あの月兎か…そういえばこないだ話したかも…でもなぁ…)
 小町の目つきが変わった。
 「…命を弄ぶのがそんなに楽しいか?」
 「無下に苦しめるようなことはしてないわ」
 「その子はどうする気だ?」
 「帰ってから考えるわ」
 「…当てにならないな」
 小町は構えた。
 「その子は置いていってもらおうか」
 永琳も顔つきが変わる。
 「…貴女、"身の程を知る"って知らないのかしら?」
 「どうだか」
 「わ、私は先に帰るよ…」
 にとりは逃げ腰だ。
 「どうぞ。報酬は後日」
 「わ、わかったよ…」
 にとりは一目散に走っていった。
 「…あんたも逃げるなら今のうちだよ」
 「…それはこっちの台詞よ」
 その時、れいむが永琳に向かって言った。
 「下から来るぞ!気をつけろ!」
 「え?」
 永琳が下を見ると、どこから出てきたのか、永琳の上から大量の小さな蜜柑が降ってきた。
 「当店自慢の一口みかんにやられてゆっくりしていってね!」
 永琳のいた場所には蜜柑の山ができた。
 「ほえ~…」
 小町は拍子抜けしてしまった。
 「お前すごいな」
 「ゆっへん!」
 「しかしなぁ…」
 小町は辺りを見回した。ゆっくりが数体、怯えた様子でれいむを見ていた。
 「…これじゃあみんなとゆっくりできないなあ」
 「ゆゆっ!霊夢ゆっくり出来ないのは嫌だよ!」
 その時、空間が裂けて紫が現れた。
 「お困りのようね」
 「おお、あんたか。なあ、こいつどうなってるんだ?」
 紫は簡単に説明した。
 「そんな無茶な…」
 「ここは幻想郷よ。忘れたの?」
 「しかしどうやって元に戻すんだ?」
 「簡単よ」
 紫はスキマを2つ作り、片方にれいむを投げ入れた。すると、もう片方から元のれいむ(霊体)とれいむ(実体)が出てきた。
 「「すっきりー!」」
 「ね、簡単でしょう?」
 「…そりゃああんたの能力ならね」
 「むきゅーん」
 「お?」
 小町達が振り返ると、いつぞやのぱちゅりーとけーねの姿があった。
 けーねが小町に問いかけた。
 「おねーさん、れいむになにがあったの?」
 「ん~、何もなかったよ」
 ぱちゅりーは2匹のれいむに問いかけた。
 「むきゅ、れいむたちはゆっくりできる?」
 「れいむはゆっくりしてるよ!」
 「れいむもゆっくりしてるよ!」
 「むきゅ。けーね、ふたりともゆっくりしてるわ」
 けーねは納得いかないという表情だったが、小町も説得した。
 「ゆっくり出来るならいいじゃないか。なあ、ぱちゅりー?」
 「むきゅ」
 「ほら、けーねも細かいことは気にすんなって」
 「そうよ、あなた達はゆっくりなんだからゆっくりしてればいいのよ」
 紫も加勢した。
 「…ゆぅ、わかったわ」
 「よーし、そんじゃあみんなでゆっくりするか!」
 「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」

以下作者の言い訳など
尻尾の人

  • 誤字と編集忘れあったんで直しました。 -- 作者 (2008-12-23 18:53:18)
  • 2人の少女···? -- 名無しさん (2008-12-23 20:56:02)
  • あの……これって人体実験みたいなものですよね?
    全然愛でていないような気がするのですが…。 -- ゆっけの人 (2008-12-24 06:46:55)
  • >>少女?
    永琳「あら、実験台にされたいのかしら?」

    >>ゆっけさん
    確かに…でもいじめではないと思います。

    実は入れ忘れたネタ(大した物じゃないですが)があるんで、
    それ含めて、そのうち愛でる方向で加筆修正入れたいと思います。 -- 作者 (2008-12-24 09:54:23)
  • ヒューッ! -- 名無しさん (2008-12-24 10:23:43)
  • >>ヒューッ!


    早速加筆修正しました。
    小町の出番以降と、それに伴い言い訳を追加しました。
    愛で、というよりゆっくりする方向になってしまいましたが…。 -- 作者 (2008-12-24 11:22:45)
  • 銃と化した片腕でスペースコブラしか浮かばなかったので思わずヒューッ!した。今では反省している。 -- 名無しさん (2008-12-24 11:30:43)
  • きゅうりペプシ一年分……ちなみににとりの一日当たりのペプシの摂取量はいくらですか? -- 名無しさん (2008-12-27 10:18:31)
  • ほっとしました♪
    でも、無茶苦茶な我侭を言ってしまったようです。
    作者様、ごめんなさい。
    それと、ありがとうございました。
    -- ゆっけの人 (2008-12-27 10:58:15)
  • >>摂取量
    ふつうのペプシなら週1くらいですが、
    きゅうりペプシだと毎食とおやつの時間に1本なので1日4本です。
    ただし他の河童に取られまくったので1年どころか1ヶ月ももたなかったのだった!

    >>ゆっけさん
    いえいえ。小町は元々出したかったので、
    自分もこれですっきりー!しました。 -- 作者 (2008-12-27 13:38:38)
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最終更新:2009年10月15日 08:35