理想郷

暗くて長い道を抜けると、そこは楽園だった。
どこまでも続くかと思われる程広い草原、沢山の木の実を与えてくれる森。
可愛い小鳥達は歌い、綺麗な蝶が飛び、そして何より沢山の仲間―――ゆっくり達がゆっくりしている。
今までそれなりに苦労してきたゆっくりれいむにとって、そこは楽園以外の何でもなかった。
ここならあの恐ろしい人間達に襲われる事も無い。そういう確信が、れいむの中にはあった。
仲間達から聞いていた噂の理想郷。それがここなんだ。
れいむは今までの苦労を思い返し、これから始まるゆっくりライフを思い描きながら、万感の想いを込めて叫んだ。
「ゆっくりしていってね!!!」

「ゆ!ゆっくりしていってね!!!」
「あたらしいおともだちだね!?ゆっくりしていってね!!!」
「わかるわかるよー!ゆっくりわかってねー!!」
「ちーんぽっ!ゆっくりちんぽーっ!!」
「うつくしくゆっくりゆかりんとゆっくりしてね!!!」
「うーうー♪ゆっくりゆっくり~♪」
「むきゅーん!ゆっくりしようね!」
「と、とくべつにゆっくりしてあげるわよ!!」
「ここがゆっくりプレイスだと感じてしまってるやつは本能的にゆっくりタイプ」
れいむが挨拶すると、大勢のゆっくり達が集まってきて歓迎してくれた。
今までゆっくりを食べたり襲ったりしていた種族も、一緒にゆっくりできるようだった。
れいむは、生まれて初めて嬉しさで視界を滲ませた。
そんなれいむの頬を伝う涙を、歓迎してくれたゆっくりまりさのうちの一人が舐め取ってくれた。
まりさははにかんだように笑って、れいむを皆の輪の中に入れてくれた。
この時れいむも、この楽園の住人になった。
漸く安心してゆっくりできる場所を得たれいむも、新しい友達ができて喜ぶ原住ゆっくり達も、皆幸せそうに笑っていた。

楽園はれいむが考えていた以上に素晴らしい所だった。
皆とそこそこ遊んだ後、慌てて巣作りに適した場所を探し始めたれいむにまりさが説明する。
「ここはどこでもゆっくりできるんだよ!!わざわざおうちをさがさなくてもだいじょうぶなんだよ!!!」
「そんなことないよ!!おうちがないとゆっくりできないんだよ!!!」
「できるんだよ!!ほらみて!!ぱちゅりーがゆっくりねむってるでしょ!!!」
れいむがまりさの指す方を見ると、ゆっくりぱちゅりーの親子がすやすやと眠っていた。
体が弱いぱちゅりー、しかも子連れが野原で熟睡するなんてれいむが今まで居た場所ではあり得ない事だった。
「ね!ゆっくりできるでしょう!!」
「ほんとうだね!!ゆっくりできてるね!!!」
体中傷だらけにして地面を掘って巣穴を作ったり、いつ他のゆっくりに奪われるか分からない洞穴に住み着いたり、
そういった生きる為に最低限必要な苦労すらここでは無縁なのだ。
れいむはあらためて思う。ここでこそ本当にゆっくりできるのだと。
この日れいむはまりさと一緒に眠った。まるで長年連れ添った友達の様にぴったりと寄り添って。
以前ならば絶対に長居できなかった、見晴らしが良く誰からも狙われ易い丘の上で、ゆっくりと眠った。

それからの日々は驚きと感動の連続だった。
食料はどこにでもあった。その辺に生えてる草は今まで食べたどんな草よりも美味しく柔らかかった。
森に少し入ればいくらでも木の実が手に入った。他のゆっくりと取り合いになどならない程豊かな森。
川や湖もあった。溺れてしまう程の急な流れでも深さでもなく、綺麗で冷たく美味しい水だ。
会うゆっくりは皆ゆっくりできていて親切だった。
種族同士のいがみ合いも上下関係も無く、皆で疲れ果てて動けなくなるまで駆け回った。
どんなに疲れても清清しく、心地よかった。これでは危険に備えられないという焦りもいつしか無くなった。
ある時などあの恐ろしい人間にも出会った。
れいむは慌てて皆に逃げるよう伝えて回ったが、皆は不思議そうな顔をして人間とゆっくりしていた。
よくよく見ると、人間は皆に食べ物を分けている様だった。
集まった皆でそれらを食べ終えると、れいむにとっては信じ難い事に人間とゆっくりが一緒になって遊び始めた。
ゆっくりと走る人間を皆で楽しく追いかけ、色んな持っている本を読み聞かせてくれ、
危険の無い程度の高さに放り投げて普段では見られない景色を見せてくれ、
見た事も無い不思議な道具で様々な驚きを与えてくれたりもした。
この理想郷では、人間ですら共にゆっくりできるお友達だったのだ。
れいむがこの不思議な、けれどいくらでもゆっくりできる場所に馴染むのにそう時間はかからなかった。

ここに来て以来、あのまりさは特に親切にしてくれた。
ここに来るまでに出会ったまりさは、皆どこかれいむを小馬鹿にしたような態度だった。
れいむの意思などお構い無しに行きたい所にれいむを連れて回り、何かあればれいむに責任を押し付ける。
れいむの知っているまりさはそんなどこかゆっくりできていない人ばかりだった。
けれどこのまりさは違う。心の底かられいむと仲良くしているのがよく分かった。
家族にすら感じられなかった程の深い情を、まりさからは感じられた。
れいむがそんなまりさに惹かれるのに、そう時間はかからなかった。
ある時れいむは、いつもの様にまりさと眠るその直前に、顔を赤く染めて言った。
「ま、まりさ……すす、すきです!!れ、れいむとずっとゆっくりしてください!!!」
「もちろんだよれいむ!!まりさもれいむのことだいすきだよ!!ずっとゆっくりしようね!!!」
一週間後、れいむは二人の子供を産んだ。れいむ種とまりさ種が一人ずつ。
初めて産んだ子供は、これまでにれいむが見たどの子ゆっくりよりも可愛かった。
まりさは身重のれいむの為に沢山の食料を持ってきてくれた。
どんなに疲れていてもれいむに寄り添って、子供を産む事への不安と向き合ってくれ、ゆっくりしてくれた。
子供が生まれた後も、良き親でありパートナーであってくれた。
子まりさだけを贔屓するような事も無く、深い愛情を三人に注いでくれた。
れいむもそれに応え、三人の家族と共にいつまでもいつまでも幸せにゆっくり暮らし続けた。




作:ミコスリ=ハン

  • はぁ…こういうほのぼのしたお話…とても好きです。 -- 名無しさん (2009-03-03 04:39:21)
  • ゆっくり達の幸せそうな姿が垣間見えて、実に癒されます♪
    こんな平和な世界がずっと続くといいですね~♪ -- 名無しさん (2009-07-08 04:17:29)
  • 冒頭の雪国に吹いたw -- 名無しさん (2009-08-17 03:12:28)
  • なぜ分類が鬱なのかが、よく分からない -- 名無しさん (2010-06-11 21:30:24)
  • 衣食足りてなんとやらって感じかな -- 名無しさん (2010-11-27 15:01:37)
  • これってやっぱ天国での話って事なのか・・・? -- 名無しさん (2011-07-03 22:26:17)
  • くっそwwwいきなりのブロント語はやめろwww -- 名無しさん (2012-02-27 23:43:56)
  • ゆ虐板出身なのでいつゆっくりの平穏がぶち壊されてしまうのかとビクビクしてたw -- 名無しさん (2015-03-08 00:41:52)
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最終更新:2015年03月08日 00:41