―――慶長五年の冬
身も凍るような師走の朝
一人の浪人が、霧の立ち込めた沼の一本橋を渡っている
かれこれ、二日前から水以外のものを口にしていない。空腹は確実に
彼の心を蝕んでいった。
一寸先も、霧でようとして解らぬ中、不安定な足場を気にしつつ進む
ややあって、前方から霧の中に不自然な影が浮かぶ。
子どもともとれる大きさだが、その幅の大きさと動きが不自然に丸い。
何事かと構えると、その本体が目前に現れた
「ゆっ!!」
「何、ただのゆっくりか……」
しかし、ここは一本橋。2人同時には通れぬ。ましてや相手は丸々とした
ゆっくり
「ここはれいむの通り道だよ!!!オサムライさんは、ゆっくりゆずってね!!!」
「何を言う、それはこちらの台詞」
双方こう着状態が続いた挙句、ついに彼は腰の刀に手をかけた。
れいむの方も、頬を膨らませ臨戦状態
しかし―――命とも呼ぶべき刀を、行きがかりのゆっくりの餡で汚して
しまう事が許されるだろうか?
「―――否!!」
刀を納め、かれは膨らんだままのれいむを両手で持ち上げた。
「ゆゆっ!!!オサムライさんはれいむを食べるつもりなの!!?」
「いかにも」
「こんな沼でお饅頭を食べて楽しいの?貧乏なの?食べる事しか頭に無い
人間なんだね!!!」
「食らう事は生きる事なれば、それを否定するは生きる事を否定する事なり」
ゆっくりは、あの半目と半開きの、最高潮に人を小ばかにした顔を作って
嘆息した
「そこまで言うなら仕方が無いね!!!さあ、お食べなさい!!!」
「無論!!!」
「さあさあさあ、お食べなさい!!!」
「時にゆっくり、一つ問うが、お主の皮と餡子は何だろうか?」
少し間をおいて、応えた
「よもぎと粒餡だよ!!!」
「ふむ」
いただきまーーす
―――刹那、れいむの後頭部が軽くかじられ、そこに開いた小さな穴に、
浪人の口が密着し―――ずるずると吸い上げ始めた――――
「ゆきゃあああああああ」
「ごちそうさまーー」
霧のかかった沼の一本橋の上
気付くと、皮が妙にたるんで一回りちいさくなったゆっくりと、人間の
武士が、背を向け合っている。
「ゆゆ………!?」
「粒餡は食せど、よもぎは好まぬ」
振り返って彼のほうを見やると、早、霧に隠れて陰しか見えぬ
「安心せい、峰喰いじゃ!!!」
「無駄に覚悟した結果がこれだよ!!!」
姿は見えなくなっても、彼の腹の虫がなり続けていることを、れいむは
聞き逃さなかった
「また、つまらぬものを食ってしまった……」
- しゅーるだ・・・ -- 名無しさん (2010-11-27 22:23:34)
最終更新:2010年11月27日 22:23