オレ設定満載の小説です
前半はゆっくりが出てきません、と言うか全体的にゆっくりがゆっくりらしくありません
えーりんはガ板風にナスになっています。
それでも見てみたいという人はご覧下さい。
「「ゆっくりしていってね!!!」」
「ゆっくりするよ!」
縁側で二人の孫がれいむ達と遊んでいる。外で妖怪が闊歩しているこの世の中
ゆっくりのような安全で喋れるナマモノは子供達と良い遊び相手になれそうだ。
「おばあちゃんもゆっくりしていってね!」
「はいはい、十分にゆっくりしてますよぉ」
それにしてもゆっくり達も大分多くなったものだ。昔はこの幻想郷自体にゆっくりは殆どいなかった
それがここ数年幻想郷にれいむやまりさなどのゆっくりが大量に出没したのだ。
「おばあちゃん」
「どうしたんだい?」
「おばあちゃんが子供だった頃のゆっくりってどうだったの?」
「れいむたちもききたいよ!」
昔のゆっくりか……思うと本当に懐かしいあの日々……
「いいでしょう、おばあちゃんがゆっくりだけの村、ゆっくり村に行ったことを話してあげましょう」
「やったー!」
私がまだ年端もいかない女の子だった頃、その当時私たちの村は食糧が不足して
若かった私でさえ遠くの山へ山菜を採りに行かなければならないほどだった。
私は出来るだけ妖怪が通らないような道を近くの住民から聞き、採っていったので
比較的身の安全は確保できていたのだ。
だけどそうやって山菜を採っていたある日のことであった。
山菜を籠一杯に詰めて帰ろうとしたとき突如日常では聞けないような破壊音が聞こえてきたのだ。
若さ故の好奇心からか私はその音が聞こえる方へと近づいてみる。
そこには二つの影。互いに火花を散らせて交差しそれと同時に血さえも降らせていました。
今の弾幕ごっことは違う本物の殺し合いだった。
「やめてけれ!オラは戦いたくなんかないっぺ!」
「はっ!貴様のような口からそんな言葉がでるとはな!」
雰囲気と動きで私は二人とも妖怪であることが分かった。
しかしどう見ても麦わら帽子を被った妖怪が一方的に痛めつけられているように見えない。
先ほどから舞い散る血も全て麦わら妖怪のものだ。
そしてもう一人の妖怪の攻撃を受け麦わら妖怪は全身から血を流しながら
無残にも木に打ち付けられていったのだ。
木を血で染めながら麦わら妖怪の身体は木にもたれる形となっていった。
「おねげぇだ……助けてけれ……」
「はん!」
もう一人の方の妖怪が麦わら妖怪にとどめを刺そうとした瞬間、私は目を覆おうとして
手が木の幹に当たり、枝が折れ音が響く。
その音のせいで私は妖怪に見つかってしまった。
「人間か……しかし博麗や八雲に報告されても困るな」
そう言って妖怪は麦わら妖怪に振り落とそうとした手を戻しこちらに向かってきたのだ。
一瞬だけど走馬燈が見えた、今まで大切に育ててくれた親や近所の人、
妖怪に食べられていった仲間達との思い出が一瞬にして駆け巡り私は死を覚悟した。
「これは儀式だぁ!俺のための生け贄となれ!」
「クワこうげき!!」
身体をかがめた直後、麦わら妖怪の叫びが聞こえた。何をしたか分からなかったが
目を開けた瞬間もう一人の妖怪がものすごい勢いで頭上を吹き飛んでいくのが見えたのだ。
「ぐぎゃあああああああああああ!!!!」
「はぁはぁ……だ、大丈夫だっぺか?」
麦わら妖怪は血だらけであるのに私のことを心配していた。よく見るとその麦わら妖怪は
緑の髪が目立った女性で妖怪とは思えない優しい目をしていたのだ。
「な、ま、まさかぁ……あのサディスティッククリーチャーであるお前が……後ろから……」
「カマこうげき!」
森の奥から戻ってきたもう一人の妖怪を麦わら妖怪はカマで一閃していった。
それと驚きだったのがもう一人の妖怪は先ほどまで全く無傷だったのがたった2撃で
麦わら妖怪以上の傷を負っていたのだ。
「な、何故ほ、本気、を、だ、さ……」
「イネカリぎりィィ!!!」
麦わら妖怪がその一撃を加えるともう一人の妖怪は全身ばらばらになって吹き飛んでいった。
死体が私の目の前に転がっているが見たくもない。
「はぁはぁ……」
麦わら妖怪は立つ力さえないのか血まみれのまま私にもたれ掛かった。
「大丈夫ですか!?」
「………オラはもういいっぺ、さぁ早く家にけえれ……」
「……そう言うわけにはいきません!!」
いくら妖怪でも、私の命を助けた人をこのまま見捨てることが出来なかった。
正直三撃で妖怪を粉々にした力に対しての恐怖もあったけれど、命の対しての
恩はどうやったって心の底からぬぐい去る事なんて私は出来なかった。
「オラはもう戦いたくねぇ……だから死んで……ゆっくりするだ……」
「死んじゃったらゆっくりなんて出来ません!!生きてるからゆっくり出来るんです!」
私は山菜の詰まった籠を降ろし麦わら妖怪さんを出来るだけ慎重に背中に乗せた。
重すぎず軽すぎでもない、普通に人間を乗せたような重量であった。
「………どこさつれてくっぺ?……」
「医者の所です、近くにある村ならほんの数時間で着きますよ」
「……オラは妖怪だ、人間の医者が診てくれるはずがねぇ」
「でも……」
「それに……もう無理ッペ……もう身体が保たないだ……」
「どうしてそう死にたがるんですか!私たちの村の人々は生きたくても死んでく人がいるんですよ!」
そう私は麦わら妖怪さんを生きろと励ましつつ近くの村へとようやく着いた。
しかし道行く人は私たちを見ると過剰なほど怯え、出て行けと喚き罵り、挙げ句には石を投げつける人までいた。
訳が分からぬまま私は背負いながら走っていく、途中転んだが痛くもない。
やっと医者へと辿り着くも医者も村の人々と同じ様な反応をし
門前払いでやむなく私たちは村から出て行かなければなりませんでした。
「どうして……でしょうか」
「きっとあの村はオラの娘に迷惑をかけられたんだっぺ……それで娘さに似ているオラも……」
「麦わら妖怪さんは全然悪くないのに……」
悪態をつきながら道を行くも先ほどの村以外に近くにいる医者を私は知らない。
私は自分の村へと連れて行こうと思った。けれどそれはここからあまりに遠く
麦わら妖怪さんの命が保つか分からない。
「もういいだ、お嬢さん。ここでゆっくりさせてけれ……」
「……どうして……そんなに死にたがるんですか……」
長い道のりで疲弊した足を休めるために私は麦わら妖怪さんと一緒に木に背もたれにして座った。
「オラは戦いなんてでぇ嫌いだ。けどオラを娘と勘違いした者達がどんどんやってくるだ」
「…………」
「だからオラは死んでゆっくりしたいっぺ……」
私は自分の衣服を千切り出来るだけ出血を抑えようと麦わら妖怪さんの傷口へ巻き付けていく。
それでも流れ出る血を全て抑えきることが出来ない。
「嘘付かないでください。あなたはあの妖怪に命乞いしたでしょう」
「……土壇場で命ってのは生きたがるもんだ……」
疲れていた足も大分回復して私はまた麦わら妖怪さんを背負い歩き始めた。
「死にたくない人だっているんです……だから生きてゆっくりしてください」
「さっきも言ったっぺ…それ、それにオラがゆっくり出来る所なんてどこにもねぇ……」
「じゃあ探しましょう、ゆっくり出来る場所を」
「………………嬉しいっぺ………」
声が小さくなったと感じ、今まで私の肩に掛けられていた力が急に弱くなっていった。
「もう目の前がぼやけてるだ……今まであんがとな……お嬢ちゃん……」
「そんな!!一緒に生きてゆっくりしましょうよ!」
私は足がもげそうな勢いで走り出す。もう麦わら妖怪さんの体力は恐らく保たないだろう。
走っている間、何故か私の目からは大粒の涙が流れ始めていく。
けれど潤み、ぼやけていく目に一つ集落らしきところが見えたのであった。
「麦わら妖怪さん!見えましたよ!!」
麦わら妖怪さんの返答はない。私は無心で一目散にその集落へと走っていった。
「どなたか!医者!!医者はおりませんか!?」
私はその集落に入り精一杯叫びました、しかし声はただ静寂に響くだけ。
それどころか人の気配すらあまりない様に感じられた。
「どなたか!………!」
ふと前を見ると私は道の真ん中にある一つの帽子を見つけた。帽子があるという事は人がちゃんといると
思い私はより大きな声で思い切り叫んだ。
「お願いです!!!この人を助けてください!!!」
「うるさいわねぇ……」
正直予想もしていなかった。なんと道ばたにある帽子が返事し始めたのだ。
さらにその帽子は動き出す。
「きゃああああ!!!」
つい叫んでしまった。生首だ、生首が動いている。つるべ落としか!!
しかし妖怪なら妖怪の治療も出来るだろうと思った。そう思い近づいてよく見ると私はさらに
衝撃的な驚愕を体験したのであった。
「や、八雲様の生首!!いやああああああああああああああああああ!!!!」
妖怪達の賢者とも言われる、たった一人のスキマ妖怪。
道に転がっていたのはその八雲紫様の生首だったのだ!
「お黙りなさい、後ろの怪我人に響くわよ」
その冷静な言葉によって私は正気を取り戻す。よくよく見てみると
帽子や髪の色、声は確かに紫様であるが肝心の顔は何か太々しい。
時々私たちに見せる表情とは全く違っていた。
「あ、あなたは……」
「わたしはゆっくりゆかりん、このゆっくり村の賢者よ」
「ゆっくり……ゆかりん……」
一体この情景は何なのだろうか、これは恐怖と焦りでどうかしてしまったのだろうか
「まずはその怪我人よ、ちょっと貸してご覧なさい」
呆然としてその生首に言われるがまま麦わら妖怪さんを生首さんの前で横にした。
「すきますきま~はいっ!」
生首さんは謎の呪文を唱えるが全く訳が分からない、しかしその呪文を唱えた瞬間
麦わら妖怪さんの口から微かに息をしているのが聞こえた。
「!!!一体何を…!」
「死と生の境界をいじっただけよ」
「境界……じゃあやっぱりあなたは紫様……」
「とは言ってもオリジナルとはほど遠いわ、もって半刻延命できたぐらいね」
オリジナル…?横文字とやらはよくわからない……
「本物の紫ではないという事よ」
そう言って生首さんはまた変な呪文を唱える、今度は麦わら妖怪さんの傷口がどんどん閉じていく。
「ここはゆっくり村、存在の歴史が記録される聖域
私は紫の記録というわけ、本人じゃないわ」
「………記録?」
「そう、幻想郷で活躍した人や悪名高い人たちの存在を饅頭にして記録しているの
それらはゆっくりという名前の饅頭妖怪として保存される、私はさしずめカレーまん」
「…………おまんじゅうなんですか!?」
「食べてみる?」
食欲をそそられる香ばしい臭いが漂うがが今はそんな事をしている暇はない。
「とりあえずありがとうございました。おかげで麦わら妖怪さんの命が助かりそうです!」
「…………ダメよ、まだ」
ゆかりんさんは身体を左右にゆっくり振る。
「私はオリジナルに到底力及ばない。だから境界を操る能力も弱いの
せいぜいこのゆっくり村までが限界なのよ」
「………と言うことは」
言わずともゆかりんさんの言おうとしていることが分かる。
けど心の奥底からその考えを否定したい気持ちで一杯だ。たとえゆかりんさんが
その旨を話したらどんな優しい言葉であっても激昂してしまうほど、私は恐れていた。
「………このゆっくり村に医者はいないわ、
けどゆっくりしたいと思っている人には絶対に応えてくれる、それがゆっくり村よ」
「どうすれば……どうすれば良いんですか!!!」
「落ち着きなさい、とりあえずこのゆっくり村のゆっくり達を頼りなさい
人口そのものは少ないけどみんな力のある者達の記録よ。頑張りなさい」
そう言ってゆかりんさんは地面から出てきたスキマに入ってしまった。
私は麦わら妖怪さんを担ぎながらゆっくり村を歩き回る。背中越しから呼吸の音が聞こえるが
それもいつまで保つか分からない。
それにしてもこのゆっくり村というのは歩き回って気づいたのだが
まるで幻想郷を丸ごと小さくしたようなものであるように思えた。
あちらには妖怪の山らしき丘が、こちらには魔法の森らしき林が、
そして目の前には氷精の湖らしき池があった。
「あたいってばさいきょーゆっくりね!!」
湖の真ん中には二つの生首がふよふよ浮かんでいる。あの顔には見覚えがあり
一人は氷の妖精チルノ、もう一人は名前を忘れたが相当徳が高い妖精だ。
「あっおきゃくさまだよ!ちるのちゃん!」
「「ゆっくりしていってね!!!」」
まるで親の敵を討ったかのようでその上無邪気な笑顔を浮かべるゆっくり。
ゆっくりなんて出来ないのに、何処かゆっくりしてしまう自分が嫌になる。
「貴方たち!この人の怪我直せますか!?」
「ん?だれそれ」
「ひどいきずだよちるのちゃん……わたしやくそうとってくる!」
そう言って緑髪のゆっくりは森の中へと入っていく。
目の前のゆっくりちるのはと言うとバカな笑顔を浮かべて池でぷかぷか浮いている。
そして何を思い立ったのかいきなり池から出てきて麦わら妖怪さんの所へやってきて
いきなり吹雪を吐き始めたのだ。
私は突然の事態に驚きすぐにゆっくりちるのを池の中へ投げ込んだ。
「何するんですか!」
「だってこおらせればなんか「かしじょうたい」になるとかなんとかってゆかりんがいってたもん!
そうすればゆっくりねむれるもん!」
「ちるのちゃん!!」
緑髪のゆっくりが何枚かの葉っぱをくわえながら私とちるのの間に入ってくれた。
そしてくわえていた葉っぱを私の手の上に載せてくれた。
「これをきずぐちにあてればすこしはもつとおもいます……あとちるのちゃんがひどいことを…」
「ひどくないもん!あたいはてんさいでさいきょーなのよ!」
ちるのは有りもしない才能を主張しながらわめきちらしている。
氷の妖精とは実際に会ったこと無いが本人もこのようなものなのだろうかと心配になってくる。
「ありがとうございます、それでは」
そう言って私は麦わら妖怪さんに先ほど貰った薬草を傷口にすりつけその場を去る。
ほんの些細な薬草だけでも助けになるものだ。あの二人にはいずれ本格的に感謝を言わなければならないだろう。
あのちるのも私たちを助けてくれようとしてあんな事をしたのだ。邪気はない、むしろ善意だ。
ただ一つだけ、ちるのが麦わら妖怪さんに吹雪を吹きかけたときから
どうしようもない不安が心の中で巻き起こってくる。
ゆかりんさんが言っていたようにゆっくりしたい人には絶対応えてくれるのがゆっくり村らしい。
けれど麦わら妖怪さんが言った「死んでゆっくりしたいっぺ」その言葉が引っかかるのだ。
もしそのニュアンスでゆっくり村が応えたとしたら。
麦わら妖怪さんの呼吸は途絶え途絶えながら聞こえる。
「かっぱっぱ~わたしにはむりだよ~」
妖怪の山らしき丘で河童のゆっくりに訪ねてみたが返答はこの通りだ。
通り道、秋の神様ゆっくりや厄神様のゆっくりらしきモノもあったが
どの子も人の傷を癒すなんて事は出来ないという。
なんでこうも役立たないんだと舌打ちしいけない事だと分かってはいても幻想郷を呪った。
「おや、人間とはめずらしい」
そんな私たちの元へ一つのカラスっぽいゆっくりがやってきた。
この子は見覚えがある。よく新聞を渡してくれるあの鴉天狗だ。
「あやや、話はきいています、私にできることががあったら言ってください」
「それじゃあ、この人の傷を治せる人はこのゆっくり村にいる?」
「ゆかりんでもないと無理ですね」
気づいたら私はその鴉天狗ゆっくりを蹴飛ばしていた。
「なんてことするの!あやはなにもわるくないって!」
そんな事はしっかりと頭で分かっているのだ、分かっているはずなのだ。
けれどこの感情の昂ぶりは理性を破壊する。
私は泣いて現実を呪った。麦わら妖怪さんと会ってから初めて流した涙だった。
「………そのようすだとゆかりんでもむり……だったんですね」
蹴飛ばされたゆっくり鴉天狗はすぐさま私たちの所へ戻ってきた。
私は噛みつかれるのを覚悟したがゆっくり鴉天狗は何もせずに私を見つめている。
「せめてこの言葉だけでも」
そう言って河童と鴉天狗のゆっくりは向かい合うように並ぶ。
そして満点の笑顔でこう叫んだ。
「「ゆっくりがんばってね!!!」」
私は涙を拭いて立ち上がる。今はただゆかりんさんの言葉が理不尽でないものであって欲しいと
願うだけ。麦わら妖怪さんを背負って丘を下っていった。
気づいたら草履がいつの間にか脱げていた。いつ脱げたのであろうか。
私の息が荒々しくなるのに反比例して麦わら妖怪さんの呼吸が弱くなっていく。
ゆかりんと会ってからどのくらい経つのだろうか、ゆかりんは半刻は保つと言っていた。
「あっ…」
足を何かに引っかけて私は盛大に転んでしまった。
すぐに立ち上がろうとしたが力が入らない。そして自分の足も限界だと言うことに気づいたのだ。
「こんな…こんな所で……」
死なせたくない。
「ひどいよ!ひどすぎる!!!これがゆっくりだというの!!
死ぬことがゆっくりなの!?じゃあ生きている意味って何!?
みんなゆっくりしたいから生きたいの!私も!親も!友達も!!!
ゆっくりしていってねと言うのなら!!!私たちをゆっくりさせて下さい!!!!!!!」
あらん限り私は叫び散らし顔を地面に埋めた。
理由なんて無いが麦わら妖怪さんが死んだら私も死んでしまうような感覚に襲われた。
その感覚に従うように私の息も次第に弱くなっていく、じわじわ迫り来る死の恐怖。
こんな恐怖に襲われてゆっくりなんてできっこない。
でも私がゆっくりを願おうとも叶えてくれる者なんていないのだ。
私は現実を呪いつつ竹林の下静かに目を閉じていった。
「にんげんウサ」
目の前で何かの声が聞こえる。
「あなたはラッキーウサ!このてゐに会えるとなんと幸運がもれなく付いてくる!」
「幸運……?」
不運とか幸運とかそんなの概念に過ぎないものを一体どうしようというのか。
心には辛さしかない。今はただ辛い、悲しい。
「さらにこの壺を買えば運気は二倍!これがたったの二万ゆっくり円ウサ!」
「いくら運がよくなっても……意味ないよ」
私を助けてくれた麦わら妖怪さんが死ぬ。
もうちょっと話したかった。生きてて楽しいことやゆっくり出来る事を教えたかった。
優しい人とお友達になりたかった。
「上の妖怪も傷だらけウサ……」
目を開けて見てみると目の前にはウサギのようなゆっくりがいる。
見た事はないがこのゆっくりが麦わら妖怪さんの傷を治してくれるとは思えない。
「あんたはやっぱりラッキーウサ」
そう言ってそのウサギゆっくりは何の訳もなく跳ね飛ぶ。
太々しい顔だがどこかしら喜びがあるようにも見えた。
「このてゐに付いてくるウサ!」
そのゆっくりウサギは竹林の奥へと入っていく。
しかしついて行こうにも足が動かない。しかし希望は見つかった。
私は腕を必死に動かしゆっくりウサギについて行った。
「ここウサ!」
腕も殆ど動かないがようやく竹林の奥に辿り着くことが出来た。
竹林の奥にこんな屋敷があるなんて聞いた事がない。実際の幻想郷にもあるのだろうか。
「お~い、え~りん」
ウサギが屋敷に呼びかけると今度はナスっぽいゆっくりが現れた。
ナスゆっくりは私たちの姿を見ると慌てた様子で屋敷の中へと踵を返していった。
「月から来たんじゃなさそうから連れてきたウサ」
「………そうなのですか?」
私はまだまだ動ける首をブンブンと縦に動かす。
「承知しました、どうぞお上がり下さい」
私は何とか屋敷の中まで這い上がることが出来た。
麦わら妖怪さんは何枚ものゆっくり用布団の上に寝かされナスゆっくりの検査を受けている。
「ギリギリ応急処置が間に合った、とりあえず輸血と栄養を用意するわ」
「え~りんお腹すいた」
屋敷の奥から聞こえてきた声にナスゆっくりはいち早く反応し会話の途中で出て行ってしまった。
「てゐは外で遊んでくるウサ」
そう言ってウサギも屋敷から出て行き実質的この部屋には私と麦わら妖怪さんだけになった。
「大丈夫?麦わら妖怪さん」
返事はなくただ寝息が聞こえるだけ、けれどその寝息は安らかでようやく私は安心が得られた。
体勢を緩めようとして身体全体が床に崩れ落ちる。足に力が入らない。
「何で……」
何分かそうしていると先ほどのナスゆっくりが血と薬が入ったビニールパックを持って帰ってきた。
意外!ナスゆっくりは手がないので髪の毛を使う!慣れた手つきで麦わら妖怪さんに注射をすると
何故か私の方へと近づいてきた。
「足を出しなさい」
そう言われても動かないのが現状だ。そう告げるとナスゆっくりは無理矢理私が痛がるのも
気にしないで髪の毛を使い私の足を引っ張り出す。
そこで私はようやく気づいた。草履を履かずにさんざん歩いてきたためか足の裏の皮が剥げていたのだ。
「破傷風になるから今後気をつけなさい」
足に何か塗られていって気持ちいい感触があるがやっぱり薬が染みて痛い。
動く腕で辺りをのたうち回り、痛みで狂いながら涙を流しそうになった。
「それにしても無茶しすぎよ、まぁここでゆっくりしてい」
「え~りんのどかわいた」
その声が聞こえた刹那ナスゆっくりは言葉の途中で出て行ってしまった。
また私は麦わら妖怪さんと二人きりになる。
出来るだけ私は足を風に当てないように麦わら妖怪さんに頭を向けて俯せになった。
「ゆっくり………」
麦わら妖怪さんが助かると思い自然に心が安らいでいく。
私は生まれてこのかたこの時ほどゆっくりしたことはない。
これがゆっくり村の神秘なのかなと思い、それに甘え心ゆくまでゆっくりした。
いつの間にか涙が出ていたがそんな事は大したことではないだろう。
ゆっくり出来れば涙なんて雨の雫みたいなものだし、怒りも悲しみも安らぎへと変わる。
私は今まで会ってきたゆっくり達のことを思い出して思い出し笑いをし、
その笑い声に呼応するように麦わら妖怪さんの瞼が開き母のような優しい声が漏れる。
「オラ……生きてるんだっぺか……」
「ええ……死んでたらこんなにもゆっくりは出来ないわ」
「ゆっくり……」
麦わら妖怪さんの目に涙が溜まりどっと溢れ出していく。
それから麦わら妖怪さんと私は満足するまでゆっくりと話し合った。
嬉しいことに麦わら妖怪さんは死んでゆっくりするという考えをきっぱり捨てたようだ。
死ぬことの恐怖を覚え、そして生きることの力強さを私を見て感じたそうだ。
それはゆっくり村が授けてくれたこと。私はただ訳の分からぬまま迷っていただけだといまは思う。
奥の部屋からナスゆっくりが黒髪のゆっくりを連れて戻ってくる。同じように
外からウサギゆっくりが似たようなウサギっぽいゆっくり達を連れて戻ってきた。
「さぁ!みんなでゆっくりしよう!」
ゆっくり村の夜更け、女の子は足に包帯を巻き、ゆっくり用の布団を被りすやすや眠っている。
麦わら帽子を被った緑髪の妖怪、風見農香は体中に包帯を巻きながらも縁側に座り月を見る。
この竹林のスキマから覗く月は農香が見たどんな月よりも妖美であった。
「元気みたいね、それにしてもこんな所にこんなものが……」
そこへゆっくりゆかりんは月光が指す地面からスキマを通ってやってきた。
「この子のおかげだッペ……本当に嬉しいだよ」
「思う存分ゆっくりしてるようね……ゆっくり村の賢者として鼻が高いわ」
農香とゆっくりゆかりんは微かに笑い合う、そこへ屋敷の中からゆっくりえーりんが二人の下へやってきた。
「はぁ、あなたには来て貰いたくなかったんだけどゆっくりのためですものね」
「そうね、私たちが幻想郷の記録だとしても私たちにゆっくりの名を課せられてる以上
ゆっくりしたい者には全力でゆっくりさせるわ。
例えオリジナル同士が会っていなくてもね」
ゆかりんとえーりんは互いに月のような狂気を持った笑みを浮かべている。
「……聞きたいことがあるっぺ、どしてオラは今までゆっくりしたいと思ってたのに今日になって
このゆっくり村に入れたんだっぺ?」
「そりゃあ死んでゆっくりなんて許さないわよ、あの子も言ってたでしょ……
それにあの子もあなたとゆっくり話したいと言ってたからね」
ゆかりんは一回すやすや寝ている女の子に視線を動かしまた農香の方へと戻した。
「……………あの……オラ……」
「ゆっくりしたい話であればなんでもいいわよ」
農香はどもりながら、けれども嬉しそうにゆかりんに向き合う。
「オラ、この村に住んでいいっぺか?」
ゆかりんはわざとらしく間を開けて縁側へと上がり込む。
首を振るように頭を動かすとえーりんもそれに応えるように同じ動作をした。
そして二人は向かい合うような体勢となる。
「「ゆっくりしていってね!!!」」
「…………嬉しいっぺ……」
一粒一粒の涙が縁側に滴り落ち、月の光を受け取り輝いている。
農香は女の子にも娘にも見せたことのない笑顔を浮かべ目に涙を浮かべた。
そうしてゆっくり村の夜は更けていく。
「正直言ってゆゆことやりたいけどゆゆこって「ゆゆ~」ってしか
喋れないからしょうがなくやってんのよ」
「私だって出来ればかぐや様と一緒にやりたかったわよ」
「でね、朝起きるとおばあちゃんは自分が住んでる村にいたの
おばあちゃんのお父さんもお母さんも私がいなくなったのを心配してねぇ…」
孫達は一度も耳をそらすことなく私の話に食いついている。
一語一語語るごとに忘れていた記憶がどんどん湧き出ていく。
「あの頃のゆっくりは本当に少なかったわ……でもれいむちゃんやまりさちゃんのおかげで
こうしてみんながゆっくり出来るもの」
「ゆっくりさせるよ!!」「ゆっくりするぜ!」
ゆっくり村にいたゆっくり達と比べるとちょっと生意気だけど
この子達もみんなをゆっくりさせてくれている。
「と言うわけでおばあちゃんの話はこれでお終い」
「ねぇ、麦わら妖怪さんって結局どうなったの?」
「う~んおばあちゃん結局お別れも言わずに帰って来ちゃったからねぇ
でも今もゆっくりしてると思うわ」
あの帰ってきた日からずっと思い続けていた。
結婚して子供を産んでも、娘が結婚してもその思いは消えなかったのだ。
「おばあちゃん!またうーパックからお届け物よ!」
玄関から娘の声が響く、自分の親なんだからおばあちゃんはないでしょと悪態をつくが
これが結構合ってる気がする。あれだけ歩けた足も今ではボロボロのガタガタだもの。
玄関に行くとゆっくりれみりゃの派生であるうーパックが段ボールを持ってきている。
私はうーパックを撫でて見送った後段ボールを開いた。
「おやおや、今度は秋の野菜かい、不思議と送られてくるものは秋のものが多いねぇ」
「季節外れにもほどがあるわ、それに一体誰がおばあちゃんに送ってるのかしら……」
うーパックが持ってきた段ボールには受取人として私の名前が書かれている。
だが肝心の差出人の名前には見覚えがないのだ。
「ふふふ………そういえば、まだ名前教えて貰わなかったわねぇ……」
そう言えば刺繍に名前を入れたお守りを子供の頃持っていたことを思い出した。
ただうっかり母さんが私の名前を間違って入れてしまい結局そのまま持ち歩くこととなったのだ。
だけれどゆっくり村から帰ってきたときにそのお守りはなくなっていたのだ。
そして受取人の名前も同じ様に同じ風にきちんとぴったり間違っていた。
「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー アノノアイノノォオオオォーヤ♪」
ゆっくり村は最近影の薄い秋姉妹が目立とうとその能力を惜しみなく使っていて
丸ごと秋模様であった。
「ラロラロラロリィラロローラロラロラロリィラロ ヒィーィジヤロラルリーロロロー♪」
ゆっくり村に音楽が響く。麦わら帽のゆっくりと紅いリボンのゆっくりが歌い
ウサギのゆっくりがその歌に会わせ踊り出す。
ゆっくり村は今日もゆっくりである。
生意気な後書き
ガ板でのうかりんが本物の風見幽香にゆっくりを送るネタがあった。
それでのうかりんも元は妖怪だったと考えてしまった。
テスト前でむしゃくしゃしてやった、今も反省している
- イイハナシダナー(AA略
のうかりんはゆうかりんのお母さんってヤツですかw
のうかりんかわいいよね。
-- 名無しさん (2009-01-18 22:57:08)
最終更新:2009年07月10日 21:17