冬も半ば、ここは大樹の真下にあるゆっくり一家の巣だ。
冬場は寒さも厳しく、食料となるものも少ないため、多くのゆっくりは外に出ない。
この巣の中にいるゆっくりの一家も同様で家族で小さな輪を作って眠っている。
冬場の冷たい空気に極力触れないようにするための生活の知恵だ。
「そほーし……そほーし……」
家族の輪を崩し、こそこそと動いているのは家族の中でも最も大きなまりさだ。
その大きさから判断するにその家族の親なのだろう。
家族が目を覚ましてしまわないようにと極力小さな声を出している。
まりさの口から漏れる音はむしろ声というよりは空気が漏れるような小さな音だ。
「ゆっゆっゆ……ゆゆ……」
まりさはゆっくりと巣の入り口まですり足で移動し、
しきりに出入り口の部分を観察している。
時には目で観察し、時には口を開け舌を出して空気の流れを感じようとしている。
「こ……ら……ゆっ……でき……」(これなら、
ゆっくりできるね)
まりさは満足そうに呟くと、再び家族の輪に入り、やがてゆぅゆぅと寝息を立てた。
寝ている間に巣の入り口が壊れていないかの確認だったのだろう。
まりさの満足そうな呟きを聞き取ることのできた生物はいなかった。
「ゆ~ゆゆゆ~ゆぅ~ゆゆぅ~」
静かな巣の中に、れいむの歌声が響く。
その声は歩くよりもさらに遅いテンポで聞く者の精神を落ち着かせるようだ。
大きなれいむ……一家の親であるれいむは子守唄を歌うことで子供を寝かし続けるのだ。
冬場に必要以上に動くのはエネルギーの浪費に繋がるため、
親としては起きてこられないほうがありがたいのだ。
また、冬場の厳しい寒さは平時のそれよりもエネルギーの消費を早める。
そのため、出来る限り目覚めることが少ないことに越したことはないのだ。
ゆっくりの間で『よりゆっくりできる』と判断される理由の一つである、
『歌が上手である』という能力はこのような時に実際に役に立つのだ。
れいむの歌うこの歌は子守唄のようなもので、精神を落ち着かせ眠気を誘う効果がある。
眠っている親のまりさも含め家族は生まれた直後の祝福された記憶を夢として再生する。
何かの拍子に目覚めた時に子守唄を歌うのは、
冬の陰鬱とした閉塞感から家族を守るれいむの仕事だった。
物理的な面は体力のあるまりさが担当し、
精神的な面は情緒面に優れるれいむが担当する。
子供達が幸福な夢を見ている冬の間に、子供の知らない両親の頑張りがあった。
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ところ変わってここは別のゆっくり一家の巣、ありすとぱちゅりーの家族の巣だ。
その家の中はあまり広くなく、三つの部屋があるだけだ。
入り口には柔らかい草が敷き詰められ、冷たい空気が入りにくくなっている。
「さ、今日はこれをたべるのよ」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」
親であるぱちゅりーが三つある部屋のうちの一つ、食料庫から食料を取ってくる。
いずれも保存と栄養価に優れた食料で、量も十分にある。
「ごはんをたべたらみんなでねむるのよ!!!
はるさんがくるまではたべたらおやすみするのがとかいはなのよ!!!」
もう片方の親であるありすが言う『とかいは』という言葉は、
他のゆっくりが言う『ゆっくり』と同じようにさまざまな意味を含む。
冬場は外出が出来ないため、食料やエネルギーを温存するために可能な限り眠るのだ。
「さ、このとかいはなベッドでおやすみするのよ!!!」
親ありすが飛び跳ねてアピールする『ベッド』とは高く積み上げられた干草の塊だ。
干草は幾重にも敷き詰められ、家族が輪になった時の大きさよりもさらに一回り大きい。
子供達は親についていき、小さな輪を形成する。
体の弱い子供のぱちゅりーが最奥に、その次は子供のありす、
そして親ぱちゅりーに親ありすの順だ。家族が干草の塊の中で眠りにつく光景は、
傍目から見れば干草の上に親二匹の帽子が埋まっているようにしか見えないだろう。
この家族は時々一家で起きては食事をし、そして眠る。
ゆっくりの間で頭脳派と器用派で通っているつがいの手によって巣の防衛は特に優秀だ。
そのため何度か起きて食事をとっても問題がないようになっている。
両者とも体力面ではあまり高い能力があるわけではないが、
こと冬篭りだけにおいてはそれはむしろプラスに働いていた。
巣が狭いため、巣の中で動き回って運動しようにも狭くて動きにくい上に、
狭い巣の中に知能と技術を凝らした防寒設備があるため暖かいのだ。
そのため食料の消費量が他よりも多かったのだが、
寒さによるエネルギーの浪費は少なく済ますことが出来たのだ。
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ゆっくり達は春を待ち続ける。目覚めの日は、遠くない。
- ゆっくりしてるね! -- 名無しさん (2010-12-02 06:17:30)
最終更新:2010年12月02日 06:17