自ら敷く布団

 久々に寝坊してしまった。
 机の上で転寝していたと思っていたら、布団に入っていた。目が覚め、やたらと明るい日差しに慌てて1階におりると、
おじさんとおばさんがもう食事を取っていた。
 これで、遅刻は確定である。


 「「おはよう!! ゆっくりしていってね!!!」」


 ――――2人ともゆっくりなのだ
 れいむとまりさの典型的な組み合わせだが、どちらがおじさんでおばさんなのかは実は未だに知らない。初めて挨拶した
時、「なまえでいいよ~」と質問を遮られ、以後さん付けで通している。と、いうか、別に夫婦とかそういう関係でも無い様
子だった。何故2人で暮らしているのだろう。
 この家に下宿する時、「おじさんとおばさんの所」と簡単に説明されたが、それを話してくれた母親は、どうもこの家の内
情を知らなかったらしい。
 と、いうか、どれ程遠縁なのか、父母どちらの家系に当たるのか未だに聞いても誰も教えてくれない。


 「――――起してくれなかったんですか?」
 「いそがなくても大丈夫だよ!!!」
 「大丈夫なもんか・・・・・・」


 朝食も取らずに支度をしていると、頭に皿を乗せ、トーストを運んできてくれた。断るわけにも行かず、咥えながら登校す
るなんて漫画みたいな事もできず、その場でいそいそと頬張った。


 「行って来ます」
 「「いってきてね~」」


 ゆっくりのペースに合わせていると、こちらが困る。時間の無い受験生である。
 本当に、ゆっくりしている時間など無いのだ。
 どたどたと走っていくと、途中で何人か見知った顔にあった。近所の人間の知り合いでもあるが、その大半がゆっくりだった。
パン屋のありすや、修理工場のぱちゅりー、自転車屋の同じくれいむなど―――――向こうから、大声で「ゆっくりしていってね!!!」
と言われた。
 何度か彼は無視してしまった。

 それにしても、この町はゆっくりが多すぎる。

 店など、人間がやればすぐ済むところを――――大抵胴付きや浮遊できるれみりゃやふらん、ちるのがいるが――――ゆっくりが応対
 すると時間がかかりすぎる。ゆっくり同士ならばそれ程問題は無いのだろうが、人間中心の社会で生きてきた彼には、大きなストレス
要因だった。
 町の作りも、ゆっくりを基準としてやがるのか、ものが子供用の様に大体低く作られていることが多いし、道も段差や溝が少ない。
幅も広く、車さえ少ない。時折すぃーが来ることもあるが、それすら襲い。

 が、その日は角を勢い良く曲がった瞬間にぶつかってしまった。


 「ゆがああああああっ!!!」


 乗っていたまみょんは、すぃーごと宙を軽く舞ったが、そのまま先に落ちたすぃーのシートベルト(?)にかじりついていた様で、地面に体を打ちつ
ける事も無く、そのまま体制を整えて、またのろのろと進んでいった


 「あ、すみません・・・・」
 「ゆっくりしていってよー」


 みょんは怒りはしていなかったが、却って気の毒そうに彼を半目で眺めていた。
 何とも言いようの無い後味の悪さを覚えたが、彼はまた走り始めた。


 「時間が無い・・・・・・・」


 受験期間など、意識しても泡沫のようなもの。


 「確かに学校は近いけどさ・・・・・・・・」


 親の期待にもそって、名うての進学校にも入学できた。しかし、通学片道3時間には限界を覚え、親戚から紹介してもらった下宿
先が、この町だ。


 「あそこは、ゆっくりできていい所よ。私もできる事なら住みたいけどね」


 家から大学に受かるまで出て行くことが決まった時に祖母に言われた訳がわかった。確かに高齢者にとっては、かなり理想的な作りと
いえるかもしれなかった。それでも何度も言うが、受験生の彼には時間が無いのだ。ゆっくりなどできない。
 ―――その日も、段差の無いバスに乗り込み、一息ついて改めて時間を確認したが、思ったほど遅れてはいなかった。ぎりぎり遅刻には
なら無い程度の時間。
 ほぼ毎日寝坊気味の、れいむまりさ夫妻(?)が既に食事を取っていたくらいだから途轍もなく遅れると思っていたが、意外だった。
 単語帳を取り出していると、朝方出会った面々のことを思い出した。
 流石に無視は無かったと思うが、こんな時間に店を開けるのだから羨ましい限りと、見下し気味に思う。
 そういえば、最近彼らと会う事が多いのは、毎日少し遅刻気味だからだ。
 級友の中には、受験を始めてから、布団で寝ることをやめ、常に机で寝ていると豪語するものもいる。彼自身もそうして睡眠をとることが
多かった―――というか、この町に来て、最初の頃は殆どそうしていた。
 最近は、無意識のうちに、布団で寝ていることが多い。だから、寝坊気味になるのだろう


 「たるんでる証拠だ・・・・!」


 後部座席に、妙に行儀良く、ひしめいて座って寝ているゆっくり達を腹の底で小馬鹿にしながら、彼はバスを降りた。

 その日は、一日中気分が悪かった。急いでいるのが当たり前の学校が、何やら息苦しかった。

 朝方、ご近所を無視してしまったこと、ぶつかったみょんに、何やら馬鹿にされたこと。
 元々ゆっくりには愛着は無かったが、この町に着てから、少し嫌いにすらなりかけている。
 だから、却って人間しかいない、この学校の方が彼にはゆっくりできるような気がした―――――周りは敵だらけだけど―――――

 しかし、放課後塾に行っている間にも、同じ様な気分は襲ってきた。
 ゆっくりに対してはイライラしているはずなのに、あの町から出てから何か落ち着かないのは、その空気に慣れてしまったせいか。人間、楽な方向
へいきたがるものである。
 苛立ち紛れに消しゴムをかけていると、何度も教科書を授業中に落としてしまった。


 「さっきからうるさい」
 「すみません」


 正直、こんな所にはいたくない。
 勉強は元来嫌いだし、人間は大抵はゆっくりしていないし、他者には優しくない。
 それでも彼自身人間である以上、その中で生きていかねばならないし、そんな連中よりも「上」へいかねばならない。
 ――前へ前へ
 ――上に上にっ
 あのみょんの様に、そこから他の人間を見下して哀れんでやればいいのだ。
 ゆっくりの生活なんて、たかがしれている。
 「ゆっくり」を至上としているから、それはそれで満足なのかもしれないが、基本的に連中の生活水準は高くない(あくまでも人間から見てだけれど)。
下宿先は、それ程不自由は感じていないが、彼は将来をあんなちっぽけな質と大きさの空間で過ごすつもりはさらさらなかった。


 (だから、今頑張らないと―――時間が無いけど)


 そういえば、何年も前に流行った「これからの勝ち組・負け組」なんて単語を一切聞かなくなってしまった。
 もう、完全に差をつけられているのが当たり前になっているから、一々言うまでも無いのだろう。「格差社会」なんて単語がその後流行ったが、今はそれ
すら聞かない。
 とにかく人よりも上に行くしかない。


 ========


 深夜に帰宅すると、れいむとまりさが待っていた。
 2人とも、ちゃぶ台にもたれてだらしなく涎を垂らし掛けていたが、入ってくると足音に敏感に反応して飛び起きた。


 「ゆっくりおはよう!!!」
 「おかえり!!! 疲れたでしょ?ゆっくりしていってね!!!」


 適当に会釈をすると、そのまま2階の自室に篭る。
 何やら夕飯を用意してくれていた様だが、ちかくのコンビニで済ませたし、こんな深夜に食べる気にはなれなかった。
 布団はあらかじめ敷かずに、彼は机に向かった

 いつもなら、部屋の前で色々話をしたがるれいむとまりさが、何も言ってこない事にも気がつかなかった


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 翌日も、気がつくとやはり布団で寝ていた。
 今日は完全に遅刻するような時間ではなかったが、無意識に布団を敷いて寝てしまうような自分のだらしなさに憤慨し、1階に下りると、
やはりれいむとまりさは起きていた。最近早い。


 「「ゆっくりしていってね!!!」」」


 しかし、目の下には軽く隈があったが、気がつかない振りをしていた。
 ――――そういえば、ここに来た時はいつもご飯だったが、いつトースター等を購入したのだろう
 挨拶もそこそこに、学校へ行く

 始終イライラしながら勉強する

 深夜に帰る。
 疲れには勝てず、転寝する

 朝、布団で寝坊しつつ目覚める

 どこかで切り上げて、早目に寝て朝起きる、という発想は、何故だか生まれなかった

 れいむとまりさはあまり話しかけなくなっていった
 それにも気がつかなかった。


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 そんな日がずっと続いた。
 努力して、頑張っていけば―――勉強がもっとできれば輝かしい未来が―――と、必死でかじりついた


 そんな形で、今までの努力が結果となってやってくる、模試の日が来た―――――――

 結果は――――――


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 土曜の夜、殆ど初めて、れいむとまりさは部屋に入ってきた。


 「大丈夫~?」
 「ゆっくり立ち直ってね!!?」


 無理もない。
 いつも深夜に帰ってくるのが、夕方に帰ってきたと思ったら、思いつめた顔で部屋にこもり、そのまま夕飯も取らず今に至るのだ。
 振り向かずに呻くように彼は言った


 「出て行ってください」
 「じゃ、じゃあ、いつまでも机でなんかで寝ないでね!!?ゆっくり今日は休んでね!!!」
 「明日からまたゆっくりがんばってね!!!」


 ガラガラと襖が開く音。
 ぽふぽふと布団が投げ出される音。
 あの首だけで、やや重い人間の布団を手間をかけながら敷いているのだろうか

 ――敷いているのだろうか


 「あの?」
 「ゆっ?」
 「もしかして、布団、毎日敷いてました?」
 「そうだよ!!!」


 何かが腹から湧き上がっていった。


 「何でです?」
 「あ・・・・・・部屋に勝手に入ってごめんね!!!」
 「いや、そうじゃなくて。布団敷いて、それで僕をそこに寝かせてたんですか?」
 「ゆう・・・・最初は声かけてたんだけど、全然起きなかったから」
 「れいむがひきずり倒したんだよね」
 「まりさが下でクッションになってね!!!」
 「で、2人でおふとんにはこんだの!!!」


 理不尽だという事は解っていたが、我慢できなかった。


 「何でそんな事したんですか!?」
 「よ、よけいだった・・・?」
 「余計っていうか・・・・・・・・・・・・余計ですよ」
 「ごめんねえ。でも、本当に疲れてたみたいだったから・・・・」
 「模試、結果全然でした。志望校、変えたほうがいいってまで言われました」
 「あ・・・・・・」
 「こうなったのも、みんなあんたらのせいだ」


 自分でも最悪だということは解っていた。しかし、弱音も吐かず、ただ一人足掻いてきた彼は自分を抑えられなかった。


 「あんたらが勝手に僕を寝かしつけたりしたからだ。放置してくれれば、寝坊もしなかったし、そのまま途中で起きて、もっと勉強が進
  んだんだ」
 「つ、辛そうだったし・・・・・・・」
 「おかげであれから毎日寝坊しかけたじゃないか!!!自分勝手に親切の押し売りのつもりか!?ふざけるなよこの糞饅頭ども!!!」
 「ご、ごめんなさい・・・・・・・」
 「何が『ゆっくりしていってね!!!』だ!こっちはゆっくりしてる暇なんてお前等と違ってないんだよ!もっと必死で頑張って努力して戦って、
  前に行かないと生き残れないんだ!!! 自分勝手に ゆっくり なんてしていられるか!!!」
 「でもね・・・・・・」
 「うるせえよ!!お前等、生首だけで、大したことできねえじゃねえか!!手も足も無い役立たずのくせに、やることなすこと遅いんだよ!だから
 『ゆっくり』か!? 人に押し付けるんじゃねえ!!!」
 「違うよ?ゆっくり理解してね?れいむ達が『ゆっくり』って言ってるのは・・・・本当に・・・・・・・」
 「あんたら俺に何やってくれたんだ?もういいよ!!!出てけよ!!!」


 2人が出て行くのも確認せずに、机につっぷすと、彼はさめざめと泣いた。
 試験の結果もさることながら、こんな馬鹿な八つ当たりをしている自分が惨めだった。
 できることなら謝りたかったが、それもできそうになかった。
 ついでに言えば―――――この、ゆっくりし過ぎている町が、自分の成績を落としたのだと思いたかった。






 次の日曜日。
 実家に連絡を取り、彼は、この家から出て行く事にした

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 一週間後の、その日
 前夜に最低限の挨拶は済ませていたので、そのまま早朝に出て行くつもりだった。
 しかし、まだ暗いうちに目が覚めた
 台所が騒がしい。


 「何なんだ?]


 朝ごはんの用意だったらしい。
 何やら油まみれになり、大騒ぎしながら、2人は調理器具と格闘していた。
 彼がおきてきたことにも気がつかなかった。
 今日は、ご飯だった。
 飯を器用によそい、皿に色々と盛り付け、ちゃぶ台に運ぶ辺りになって、初めて彼に気がついた。


 「ゆっくりおはよう!!!」
 「ゆっくり食べていってね!!!」


 今から出発しても、恐らく始発も動いていまい。顔は合わせずらかったが、彼はそのままもそもそと朝食をかきこみ始めた。
 美味かった。
 朝食は、余裕のある時トーストを食べる程度だったし、昼は学食、夕飯はもう作る必要も無い、と2人に伝えていたくらいだ。
まともに、この家で食事を取ったのは、いつからだろうか
 炊き立てのご飯は、やはり何ともいえなかった。


 「あ、ありが・・・・・・・・」


 礼を言おうと仕掛けたが、2人は解りやすく鼻提灯を膨らませながら眠っていた


 「―――――――そういや」


 最初に来た時、この2人は朝寝坊だったし、ご飯派だった。
 それが


 ――遅刻しない程度の早起き
 ――ご飯から、時間をかけずに食べられるトーストへの切り替え
 ――深夜の布団への移動
 ――朝ごはん
 ――充血した目と、少なくなった口数


 「――――してくれたじゃないか」


 人間はゆっくりできないものなのだ
 2人はそれを十分解っていたのだろう
 押し付けではなく
 急いで焦っている彼を、2人なりに少しの間でもゆっくりさせようとしたのだろう。


 「でも、ゆっくりなんてできないんだよ・・・・・・・」


 粒一つ、汁一滴残さず食べ、食器も洗い――――――彼は家を出た。
 明け方―――――人間もゆっくりに影響されてか、ゆっくりし過ぎているこの町は、誰もいないはずだった。
 しかし


 「やっぱり早いね!!!」


 パン屋のありすだった。
 一袋抱えている


 「おはようございます」
 「ゆっくりおはよう!!! 今日帰るって聞いたよ!!!」
 「ええ」
 「パン屋なのにだめだね!!!お寝坊することがたまにあるんだけど、今日はうんと早く起きたから、これをあげられるね!!!」


 ひょこひょこととびはね、直接袋を渡す


 「焼き立てだよ!!!ゆっくり食べてね!!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「れいむとまりさ、心配してたんだよ!!!」


 あまりにもゆっくりしていなかった。
 恐らく、彼女等にとって、彼はモンスターにも等しい存在だったのだろう
 それどころか・・・・・


 「僕は・・・・・みんなをゆっくりできなくさせていました」


 袋を握り締め、涙を堪えて彼は言った。


 「――――そうかもしれないね」
 「ゆっくりなんてできないですよ。どうすればゆっくりできるっていうんです?」


 ありすは少し考えていた様子で、しばらく下を向いた。
 ややあって自信なさ気に言う


 「あれもこれも―――――全部をほしがったら、多分ゆっくりできないよ!!!」
 「じゃあ、どうしろって言うんです?」
 「ゆっくりしてても、できないことはあるよ!!!やっていたらゆっくりできなくなることもあるよ!!!」
 「じゃあ、何で『ゆっくりしていってね!!!』なんていつも言うんです?僕に受験をやめろとでも?」
 「そんな事ないよ~。でも、よく解らないね!!!」


 ゆっくりには珍しく、苦笑いを浮かべるありすを、彼は見ていられなかった。
 どうしてこうなってしまうのだろう


 「僕はここではゆっくりできないし、皆をゆっくりさせられなくする」
 「人間がいると、楽しいしけどね!!! お祭りの時とか、お手伝いしてもらうと助かるよ!!! ゆっくりしてもらいたいよ!!!」
 「あの2人に言いたかったけど、僕はゆっくりできなくても、もう良いんです。志望校出て、もっと上へ行って夢をかなえてから、ゆっくりします」
 「ゆぅ・・・・・・・・なら仕方が無いね!!!」


 ありすの横を通り過ぎると、前方から、すぃーに乗ったみょんが通り過ぎた。こんな早朝からどこへ行くというのだろう。
 今度はぶつからなかった。
 こちらには気がつかなかったようだった。
 少し焦った様に、ありすが後ろから言った。


 「でも、ゆっくりは良い事だよ、きっと!!!」


 始発の誰もいない電車の中、朝食を食べ終えた後だが、暖かいパンを食べながら彼は思った。




 ―――何でも、得られる事はできない



 ゆっくりする事は夢を捨てることなのか?
 そうではあるまい

 しかし、このままでは―――――夢がかなった所で、それはそれでゆっくりできない気がする


 「僕だってゆっくりしたいよ・・・・・・・・でも、ゆっくりなんてできないよ」


 次の駅に停車し、ぞろ人間が入ってきて、彼は急いで目を拭った



===========================



 胴があったり、飛んだりできる種は、やはり重宝がられる。中には良い様にこき使えると勘違いする輩もいるが、そんな態度をとっていたらゆっくりできない
事は皆わかっていた。少なくともこの界隈のゆっくり達の殆どがそうだ。


 「自分がゆっくりしたかったら、周りをまずゆっくりさせなさい」


 大昔、多くのゆっくりが赤ちゃんだった頃に預けられていた託赤ちゃんゆっくり所の、保母さんが言っていた言葉だった。何とはなしに、幼児期の教え
が、ずっと皆の胸に残っていたのだった。
 何、胴付や人間を酷使などしなくても、焦らなければいいのだ。
 欲張らず、自分達のペースで生活できれば―――――

 しかし、限界もある


 「ゆーしょ!!!ゆーしょ!!!」
 「徳利さん、中々持ちにくいね!!!」
 「太鼓さんは終わったー?」
 「オミコシさんは明日にしようね~。誰かに手伝ってもらわないと終わらないよ!!!」


 夏祭りまでそれほど時間も無いが、神社から必要な神具を取り出すのに、ゆっくり達は四苦八苦していた。別の場所で、役員の人間達は本当に
この時ばかりはゆっくりできずに働いてくれているから、せめて自分達の持ち場だけは自力で終わらそうと、皆額に汗水流していた。


 「「「「「ゆっくりしすぎた結果がこれだよ!!!」」」」」


 ――――まあ、こうした現実も、ある

 都合よくはいくまい


 「ゆぎゃあっ」


 帽子で受け止めようとおもったダンボールが、事の他重かったため、まりさが潰れかけている。


 「だ、だいじょうぶ!!?」
 「ゆっくりしないでおろしてねえええええ!!!」


 と、その箱をどかし、蔵にのこった残りのダンボールも取り出してくれる手がある


 「ゆー?」
 「あんた誰?」
 「―――――!! 知ってるよ!!」
 「久しぶり!!!」


 ただいま――――という程おこがましくはない。
 少し照れくさく、気まずそうに人間は笑って会釈した


 「ご無沙汰してました、おじさん、おばさん」
 「「なまえでいいよ~」」
 (本当にどっちがおじさんでおばさんなんだろう・・・・・?)


 集団で荷物を運びつつ、長い年月を感じないように、れいむとまりさは彼に話しかけた


 「大学は受かったんでしょ?」
 「遊びに来てくれたんだね!!!」
 「いえ・・・・・・」


 驚くだろう


 「ここに引っ越してきました」
 「あ、そうなの」
 「――――驚かないの?」
 「大学には受かったんだよね!!!」
 「その・・・・・夢はかなったの?」


 そう。大学には受かった。
 いい成績で卒業もできた

 しかし・・・・・・・


 「夢――――っていうか、あきらめって訳じゃないけど・・・・・・・」


 照れくさいけど


 「どっちかっていうと・・・、こっちの方が夢になっちゃのかな?」


 一度に全ては手に入らない

 気まずそうな笑顔を、彼はゆっくり達に見せた
 それに、皆大声で答える



 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」


 今夜からは、自分で布団を敷いて寝よう
                                              了


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    -- 名無しさん (2012-10-22 00:40:44)
  • イイハナシダナー -- ゆっくり好きのただのオタク (2012-10-22 18:47:50)
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最終更新:2012年10月22日 18:47