さて冬だ、二月だ。
テストは終わったが卒論の準備を始めたり、院を目指すか就職をするかを考えねばならない時期に来た。
そんなときである、ここ数年実家に帰らなかった兄が突然やってきた。
「やぁマイシスターお兄様が久しぶりにやってきたぞ、ほらたたえろ甘えろ」
「黙れ(同時に掌底アッパー)」
といった愛溢れる兄妹再開をしつつ、しばらく家に転がり込んできた。
バレンタインの間違えてる話をちぇんズに教えようとしたり、と実にフリーダムな行動でわやくちゃにして回ったがその辺は割愛しよう。
そしてきてからの疑問を兄に問うことにした。
「というか兄よ、カバンが動いてるんだが」
「おぉう、すっかり忘れていた!!」
そう言いながらドラムバッグを開けて、中からラベンダーか紫蘇の香りと共に実にゆっくりと寝ているゆっくりゆかりん(体付き)が出てきた。
……数日ずっと寝てたんだろうか。
「ゆかりしゃまだぁぁぁぁぁぁ!」「いいにおいがするね!」
ちぇんズは耳と尻尾をパタパタさせながら伸び縮みして興奮している。
「どうだ、可愛いだろう」
と踏ん反り返る兄に向かい、私は迷わず
「貴様……どこから誘拐したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と殴りかかった。
―――数分後。
「なるほど、山登ってたら一人で寝てたからお持ち帰りしてそのまま暮らしていたと。
やはり誘拐じゃないか。このロリコンめ!!」
「合意の上だ! あ、ごめんなさい広辞苑振りかぶらないで!!無罪ですよこれ無罪ですよ!?」
「……有罪(ギルティ)」
更に数分後。
「「ゆっくりしていってね!」」「ゆっかりしていってね!」
消し炭な感じになっている兄をよそにちぇんズとゆかりんは仲むつまじく遊んでいた。
手足のあるゆかりんはちぇんズを抱きかかえて高い高いをしたりしていて実に楽しそうだ。
ちぇんはらん、ゆかりんとよばれるゆっくり種と仲が良い、と言うが大体は真実だったらしい。
「というわけで俺はこ奴を置いて、寮の下見に行こうと思います」
「寮?」
「おぉ就職先の薬屋の寮だ、なんでもゆっくりとペットは禁止らしくてなぁ……俺も実に心苦しいのだが」
「あたしの部屋に追加で住ませようって魂胆だったな貴様」
「その通りだが何か?」
「食費を出せば話に乗らんでもない」
こうして、わたしの家の同居人にゆかりんが増えたのだった。
「ゆっかりしていってね!!」
というゆかりん独特(らしい)の挨拶に対し
「ゆっかりってどうするの?わからないよぉ」「どうするの?わからないよぉ」
「ゆっかりはゆっくりとおなじだけどゆかりんだけがいえるのよ」
「ゆかりしゃまはすごいね!」「すごいね!!」
と頭に本当に?マークを浮かべながらゆかりんに聞いているちぇんズが実に微笑ましかったり。
おぉそうだ、これは聞いておかねば。
「ときにゆかりんよ、これからは兄の変わりに私が一緒に住むことになったのだが何か嫌いな食べ物とかはあるか?」
「う~ん……、こいにおいのたべものさんはゆかりんのしょうじょしゅうがうすれちゃうからゆっかりやめてね!」
「オーケー、わかった」
ゆかりんはじぶんの【しょうじょしゅう】が大事なゆっくりのようだ。
「ゆかりしゃまはいいにおいがするねぇ」「するねぇ」
と実に幸せそうなちぇんズ。
「そうだなぁ、昔行ったラベンダー畑を思い出すな……、GWに花畑とか行ってみるか?」
「「「どこにあるの?」」」
それにしても会ったばかりなのに実に見事なハモリぶりである。
「春休みだったらまだ咲いて無いだろうしGW辺りだったら……カタクリがあったな」
「カタクリってかたくりこさんのざいりょうだよね、おねえさん?」
「昔はそれで片栗粉作ってたんだが今それで作ったら罰金払わされるぞ、確か」
「たいへんなのね?」
「大変なんだよ、時に兄とはどんな感じで住んでたんだ?」
「おにぃさんはゆかりんにかんたんなかんじをおしえてくれたよ!あとごほんもよんでくれたよ
おにぃさんがおそとにいっててもひまなときでもごほんがあればたのしかったよ!」
「テレビとかは?」
「てれびってなぁに?」
そういえば、兄はテレビを持っていなかったし、コンピュータも持たない男だった。
「ということで、ポチッとな」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……そんなにおどろかなくても。
最終更新:2009年02月15日 18:40