523 : ◆S3nETPe5DI :2009/02/12(木) 23:19:45 ID:YgYBDvAe
バレンタインと言えば、少し不思議な思い出があります。
子供の頃、僕は祖父の家で何日か夏休みを過ごすのが恒例だったんですが、
小五の夏の時の話です。
いつもは、自分の家に帰る日までずっと祖父母の家でだらだらとしてるのが普通なんですけど、
その日は何故だか裏の方の山に出掛けていったんです。
ちょうど、祖父母のどちらも出払っていて、暇だったんでしょうね。
ただ、都会でもなければ田舎でもない、中途半端な街で育ったもやしっ子の僕は、
すぐさま道に迷ってしまって。
これはマズい、と来た道を引き返そうとしたんですけど、一向に見覚えのある道が見えない。
足を棒にしながら、とにかく辺りをうろついてたら、小さな民家みたいなものを見つけたんです。
助かった、と思いました。
住んでる人に道を尋ねれば帰れる、
或いは……なんでだか、道が分からなかったら泊めてくれるかもしれない、だなんて突飛なことまで考えてました。
早速道を尋ねようと思って戸の前まで歩いて行ったんですけど、
ここで、ようやく自分が引っ込み思案だってことを思い出したんです。
まぁ、なんというか……なんて声をかけようか、とか、どういう言葉で質問しようか、とか、玄関の前に立ち止まって延々と考えてました。
その内、あることに気が付いたんです。
『もしかして、人が居ないんじゃないか』、と。
とは言っても、もしかしたら人が居るかもしれないし、
結局無人かもしれない、いや、今出掛けてるだけかもしれない、いやいや……
そんな堂々巡りを繰り返して、最終的に戸を少し開けて、中を覗くことにしました。
……なんというか、見事なまでに視線が合ったんですよね。
驚くことまで忘れてました。
おかっぱの女の子でした。
花には詳しくないんですけど、牡丹だったかなぁ……。そんな飾りのついた簪を差してて。
綺麗とかじゃなくて、何処か愛嬌のある、可愛い子でした。
「ど、どうも……。」
なんてことを言ったら、彼女は真ん丸な目をまばたかせてから、
「ゆっくりしていってね!」
って言ったんです。
細かく覚えてるのはこのくらいで、あとは何だか色々尋ねられて。流されるままに受け答えしている内に、仲良くなっていって。
思い返してみれば、その頃の自分としては有り得ない程のスピードで、初対面の女の子と打ち解けてました。
続きます。
524 : ◆S3nETPe5DI :2009/02/12(木) 23:20:33 ID:YgYBDvAe
続き。
僕は仲良くなったその子と色々話してました。
ほんと他愛もない話……だったと思います。まるで、本当に昔から知ってる子みたいに、愚痴みたいなことまで。
それで、ちょこちょこ話してる内に、初めて気が付いたんです。
僕、それまで彼女の名前を聞いてなくって、僕も名乗ってなかったんです。
「そう言えば、僕名前言ってなかったっけ。ええと、」
「どんなかんじ?」
「どんな感じと言われても……うーん……。」
漢字って気付くまでに結構時間が掛かったのを良く覚えてます。
ようやく質問の意味を理解した僕は、何故だか持ってた水性ペンで、そこらにあった葉っぱに自分の名前を書きました。
「太郎(注、仮名です)っていうんだ。」
「君は?」
僕がそう言うと、その子は同じ葉っぱに自分の名前を書いてくれました。
何だかそれが無性に嬉しくなって、後は、彼女と一緒に家のそこら中に色々な言葉を書いてました。
それで、ふと外を見ると、もう夕方なんです。
「帰らなきゃ。」
僕がそう言うと、彼女は、
「ゆっくりしていかないの?」
と尋ねてきます。
「遅くなるとおじいちゃん達が心配するし。」
「そうだね。」
「楽しかったよ。」
「たのしかったね。」
そんなやり取りをして、僕は彼女がいた家を出ることにしました。
名残惜しくて、彼女の方を何度も振り向いて。
未練がましい僕がやっと諦めて玄関から出ると、
辺りはもう、真っ暗でした。
それどころか、祖父の家の裏にある、道端なんです。
裏山とはまるで関係ない道。
後は大変でした。
僕を探していた祖父母は僕を見つけるなり、怒ったり泣いたりで、何かと忙しくて。
祖母によれば、近所の人達を総動員してまで探したらしいんですが、それでも見つからなかったそうです。
祖父に拳骨を食らいながら、状況が良く飲み込めない僕は、これまでの事を二人に話しました。
血の気が引く、っていうのはこのことなんだろうなってぐらい、二人とも真っ青になってました。
祖母によれば、この辺りには『癒作狸』という妖怪みたいな何かがいるという言い伝えがあるらしく、
僕がそれにさらわれと考えたそうです。
そう言われて、僕は初めて彼女が人間にしてはおかしい外見だったことに気が付きました。
記憶の中の彼女は、目も口も手も足も体も、全てがヒトの様でヒトでない「なにか」だったんです。
続きます。
525 : ◆S3nETPe5DI :2009/02/12(木) 23:21:25 ID:YgYBDvAe
続き
ただ、一番不思議なのは、それに至っても、僕には彼女に対する恐怖が沸いてこなかったことです。
バレンタインに関係ないだろ、と思われるでしょうが、実はそれに託つけてこの話をする事になった後日談があります。
そんな大事件の後、当然の如く、僕はすぐに自分の家に返されました。
その時、あの家で使った水性ペンが無くなっていたのに気が付いたのですが、
とくに思い入れもなく、暫くの間忘れていました。
それ思い出したのは、翌年のバレンタインです。
夏に限らず、僕は長期の休みに祖父母の家に行っていましたが、冬休みは例の事件の為中止となっていました。
ただ、なんとなく祖父は落ち着かないらしく、
土日を潰されて、僕は久し振りに祖父母の家に訪れていました。
なんだかんだであの事件は祖父母にとっても不思議な思い出になっているらしく、改めて不思議がっていました。
母と祖母がその話に夢中になっているとき、僕は席を外してトイレに行っていたのですが、その帰り。
母達のいる居間とトイレを行き来するには、玄関を通る必要があるのですが、
ぽつん、とあの時の水性ペンと、葉っぱが置いてありました。何故か、「怖い」とは思いませんでした。
ただ、不思議と懐かしかった記憶があります。
葉っぱには、僕の名前と、
「ちょこのかわり」
という字が書いてありました。
その日が二月十四日。バレンタインです。
思えば、僕は「バレンタインにチョコが貰えない」と愚痴っていました。
彼女は、それに応えてくれたのでしょうか。
あの時書いてくれた彼女の名前を、私は未だに失念したままです。
526 :創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:22:49 ID:YgYBDvAe
>>523-525
誤爆orz
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そう書き込んで、私はブラウザを閉じた。
……やってしまった。別のスレを開いていたつもりで長文を書き込んだというのに、まるで関係ないスレに誤爆とは。
今まで、生暖かい目で見ていた光景だが、それをやらかした自分の馬鹿さ加減に腹が立ってしまう。
祖父の葬式が終わってから、もう二ヶ月が経っていた。
昔を懐かしむ祖母の口から出たこの話を、私は何故だか行き着けのスレで怪談話として書き込もうとしていた。
結果は前述の通りだが。
……それにしても、いつ私はこのスレを開いていたのか。まるで関係がないスレだ。
PCを付けっぱなしでトイレに立ったことはあるものの、ここは自宅。
自分以外の誰かがいじるわけもないのに。……祖父の祟りだろうか。新しいもの好きだった祖父だから、
私の目を盗んでPCをいじったのかもしれない。
そんなアホなことを考えつつ、何処か気になった私は、履歴を手繰り再度あのスレを開く。
……どんな反応が来ているだろうか。なんだか荒らしの気分である。
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527 :創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:24:16 ID:Jz9Eas2Z
>>526
いい話乙
誤爆じゃなけりゃよかったのにw
528 :創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:29:48 ID:V8aIJybt
どこの誤爆だよwwwwwwww
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本当にその通りです……ごめんなさい。
思わず、意味もなくPCの前でリアルに謝る私。
なんとなく、変な笑いを浮かべて次のレスを見ると、
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529 :創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:36:22 ID:qPi6Udzk
ゆっくりあきゅんかと思いきや誤爆かよ!
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あきゅん。
その言葉を目にしたとき、ふっ、と幽かな記憶がよぎる。
『たろうっていうんだ。』
『君は?』
『わたしはね。』
あのとき、彼女が言った名前は――
「あきゅう。」
声が聞こえた。
後ろでも真下でもなく、傍から。
「……やっほぅ。ひさしぶり、たろう。」
「うん。久しぶり。」
僕がそう応えると、彼女はあの時と変わらない笑顔で、微笑んだ……みたいだった。
――
以下弁明とか
思い立ったその日に書き上げたネタ。
しかし、それに力を奪われてしまったようです……うう。
アホなことしてごめんなさい。
スレの書き込みを引用してごめんなさい。
とにかく迷惑を掛けっぱなしでしたが、なんか色々ありがとうございました。
これで弁明を終わります。
最終更新:2009年02月16日 10:15