ゆっくりの帰るところ

この話は以下のイラストを元にしています
ドスまりさ1
ドスまりさ2
ドスまりさ式たかいたかい


「ゆ……ぎ……ゆぎぃぃ……」
 魔法の森の一角で、一体のゆっくりまりさが死にかけていた。
 強く蹴られた頬はへこんで裂け、餡子が漏れていた。帽子はかぎ裂きができ、
型崩れしていた。
 このまりさは人里の近くの草原で遊んでいたところ、近くの畑にもぐりこんで
いた別のゆっくりと間違えられ、人間に袋叩きにあったのだった。
 命からがらここまで逃げてきたが、ダメージが大きすぎてもう一歩も動けなかっ
た。動けたにしても帽子がダメになっているので、仲間うちでも偏狭な者に出会っ
たら、襲われてしまうかもしれなかった。
「ゆっぐ……ゆっぐぅ……」
 涙を浮かべて、朦朧とまりさは考える。
 どうして、こんなことになったのかな……。
 何がいけなかったのかな……。
 何も悪いことしてないのに……。
「ゆっぐり……じだがったよぉ……」
 ヒュー、ヒューと漏れる息が少しずつ細くなっていった。まりさは意識を失っ
ていった。
  ……ぼよーん……
  ……ぼよーん……
 森の奥から不思議な音が聞こえてきたが、まりさはすでに音のするほうを見る
こともできなくなっていた。ただ意識のどこかで、これ以上こわいものがこなけ
ればいいなあ、と思っていた。
  ……ぼよーん。
 接近した不思議な音が、ふいにすぐそばで止まった。何やらきゃらきゃらとさ
んざめくような、大勢の声が聞こえた。
 かと思うと、深みのある美しい声で、話しかけられた。
「ゆぅっくり、していってねぇ~?」
 まりさは、残った力を振り絞って目を開けた。
「ゆ……ぅ?」
 不思議なものが目に映った。見上げんばかりの、もちもちと丸い頬。
 その上に、とうもろこしの房を思わせるふさふさの金髪と、何やら面白がって
いるような大きな瞳が見えた。
 広い広い魔法使いの帽子が、まりさとその周りの茂みに影を投げかけていた。
 それは枝を広げた木ほどもある、巨大なゆっくりまりさだった。まりさが今ま
で見たことのあるどんなゆっくりよりも大きかった。ただ大きいだけでなく、き
らきらと光る不思議な粉のようなものをまとわりつかせ、見たことのないとても
穏やかな場を周囲に作り出しているような感じがした。
 まりさは一瞬、幼いころ森の動物に殺されてしまった母の姿をそれに重ねた。
 おかあさん、迎えに来てくれたの。
 それが、もう一度言った。
「ゆぅぅぅっくり、していってねぇぇぇぇ~?」
 それを聞いたまりさは、涙をこぼした。あとからあとからぽろぽろとこぼした。
 ゆっくりしたい。
 痛みもつらさも忘れて、体を休めたい。
 なんの心配もないところで、のんびりと日を浴びて座っていたい。
「……ゆっくり、させてぇぇぇ」
 心の底からの細い泣き声を漏らして、まりさは哀願した。
 すると、大きなまりさの後頭部のあたりから、ぴょんぴょんといくつもの小さ
な影が飛び降りた。それらがまりさを囲んで、口々に挨拶した。
「ゆっくりしたいのね!」
「いっしょにゆっくりさせてあげる!!!」
「ゆっくりと乗せてあげるね!!!」
 そのゆっくりたちに抱えあげられ、まりさは大きなまりさの金髪の中に連れ込
まれた。
 そこは優しい匂いに満ちた空間で、まりさの痛む肌をそっと包み、温めてくれ
た。
「さぁぁぁて、ゆぅぅぅっくり、行こうねえぇぇぇ」
 意識を失う直前、まりさは体をふわりと持ち上げられるのを感じた。
  ……ぼよーん……
  ……ぼよーん……
  ……ぼよーん……
 大きなゆっくりまりさは大きな放物線を描いて、森の奥へと進みだした。

 まりさはほどなく回復した。大きなまりさの髪や帽子に住んでいる、十匹ほど
のれいむやぱちゅりーたちが、親切に世話をしてくれた。
「ゆっくり、ゆっくり良くなってね!!!」
 下心も誤解もない、純粋な親切。まりさは熱い感謝のおもいに浸されて、何度
も例を言った。
「ありがとぉぉ、ゆっくりしていくよ……!」
 起き上がれるようになると、まりさは大きなまりさの帽子のつばに出て――頭
の上から直接出られるよう、ちょっとした穴が帽子に開いていた――ゆっくりと
した跳躍風景に目を見張った。大きなまりさは悠然とした動きながら、人間が走
るよりも早く移動し、川や崖もらくらくと乗り越えていくのだった。
「ゆっくり! この人はどんな人なの?」
 まりさが聞くと、親しくなったれいむが教えてくれた。
「この人はドスまりさだよ! とてもゆっくりさせてくれるまりさなの!」
 なぜドスというのかはわからなかったが、まりさはその素性を知った。ドスま
りさは魔法の森のもっとも深いところに住む、ふるいふるいゆっくりで、傷つい
たゆっくりや心優しいゆっくりの前にだけ、現れてくれるのだという。
 ドスまりさのすごいところは、その金髪から不思議な光を振りまいて、自分の
周りに常にゆっくりできる小さな世界を作ってしまうことにあるのだそうだった。
「ゆゆゆ? ゆっくりできる世界? どういうこと?」
「見ればわかるよ! ゆっくりと見ていてね!」
 じきに機会が訪れた。ドスまりさが跳ねていく前方に、人影が現れた。棒や箱
など、いかにもゆっくりできなさそうなものを身につけた、男性のようだ。まり
さは驚き、声を上げる。
「ゆゆっ、『おにーさん』だ! れいむ、『おにーさん』だよ、ゆっくり逃げて
ね!」
「だいじょうぶだよ!」
 ドスまりさがおにーさんに近づくと、不思議なことが起こった。食い入るよう
にこちらを見ていたおにーさんの顔が、不意にとろんとゆるみ、敵意も意志もまっ
たく感じさせないものになったのだ。
 ドスまりさはおにーさんの前で立ち止まると、声をかけた。
「ゆぅぅぅっくり、していってねぇぇぇぇ~」
「……ゆっくりしていくよぉ~」
 おにーさんは焦点の定まらない目で言って、片手を挙げた。
 ドスまりさはその場を離れ、ゆっくりと去っていった。おにーさんは追ってこ
なかった。
 ぽかんとするまりさに、れいむが微笑みかけた。
「ね! みんなゆっくりするんだよ! だかられいむたちはだいじょうぶ!」
「ゆっくりしていってね!」
 驚きつつも、まりさは遠くなった人影に声を投げかけた。

 ドスまりさは深い深い森の奥に、大きな大きな洞窟を持っていた。そこには、
まりさと同じように助けられたゆっくりたちが、たくさんゆっくりしていた。
 まりさもそこでゆっくりしていけばいいと薦められたが、まりさはそれを断っ
て言った。
「まりさは助けられてとてもうれしかったよ。だから、まりさもおなじことをし
たいよ……!」
「ゆっ! それなられいむといっしょに、おしごとをしようね!」
 まりさはれいむに教えられたとおり、自分の帽子のレースをすこし噛み切って、
ドスまりさの髪にリボンのように結び付けた。そこには他にも何十ものリボンが
ついていた。
 それが終わると、ドスまりさは振り向いて、穏やかで温かい笑顔を向けてくれ
たのだった。
「ゆぅっくりしていってねぇ~!」
「ゆっ!」
 まりさはにっこりとうなずき返した。

  ……ぼよーん……
  ……ぼよーん……
  ……ぼよーん……

 魔法の森の奥を、不思議な音が通り過ぎていく。
 その正体を確かめた人間は、いない。


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  • かっけぇw -- 名無しさん (2008-08-06 02:19:10)
  • ついでに、お兄さんも心の底からゆっくりさせてあげてね。焦点の定まらない目で、ってこぇぇぇぇw -- 名無しさん (2008-10-20 17:45:56)
  • おぉっ、ドスまりさの生態を描いた貴重なSSハケーン♪ 俺もゆっくりさせt(ry -- 名無しさん (2008-12-09 15:24:23)
  • 俺は常にゆっくりしてるから、一緒にゆっくりしようぜ! -- 名無しさん (2010-03-21 03:01:52)
  • なんてかっこいいんだ、姉貴と呼ばせてください!! -- 名無しさん (2010-06-08 23:02:23)
  • どすはとってもゆっくりしてるね! -- 名無しさん (2010-11-28 01:42:11)
  • まりさを袋叩きにしたやつ、後で屋上な? -- 名無しさん (2012-12-13 21:33:13)
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最終更新:2012年12月13日 21:33