れみりゃとふらんの居る生活

  • 『紅い月に吠える』
赤い満月の夜に、大量に現れたれみりゃとふらん。それらは世界の終わりを告げる悪魔か、世界に救いをもたらす天使か。
予言された"終末の日"は近い…。



「うー♪ うー♪」

「だど、だどぉ♪」

「…」

私は家でゴロゴロしながらテレビを見てゆっくりしていたのですが、気が付いたら目の前に可愛いおちびちゃんたちが遊びに来ていたみたいです。一人は体がついていて、ぶきっちょなダンスを踊っています。かわいいなあ。
…少し目を離しただけなのに、この子たちはさもずっと居たかの様に胸を反らせてそこにいました。
やはり私にとってゆっくりは、未だに謎に包まれた存在のようです。どうやったらそこまで正確に一瞬の隙を付けるのでしょうか。

「うー♪ おねーさんは、ゆっくり出来る人?」

体のついていない、背中に何やら宝石の様な生えたゆっくりが話しかけてきました。何やら私の顔色を伺っているようで、びくびくした様子です。
体が付いたゆっくりも、不安そうな目をしています。
二人のゆっくりには悪いのですが、その様子すら可愛いです。

「…大丈夫ですよ。私はゆっくり出来る人です」

私がそう答えたら二人は安心したのか目をトロンとさせ、すぐに跳ねあがり歓喜の声をあげました。
私は、その様な様子の二人に言いました。

「ふふ。ゆっくりしていってね!」

「「ゆっくりしていってね!!!」」



  • 『自己紹介』

「じゃあ、自己紹介でもして貰おうかな。そっちの体のおちびちゃんは、どなたさんですか?」

「うー? れみぃはれみぃだど! こーまかんのおぜうさまなんだど~♪」

体つきのおちびちゃんは何やらちょっとわからない事を喋り、手を頭まで挙げて何やらダンスを始めました。
いちいちもたついている所がなんともかわいいですね。

「うー! そんな説明じゃあ、おねーさんがわかんないよっ! ゆぅ、ふらんはふらん! おねーちゃんと一緒にお外に出たらここに来たんだ、よろしくね!」

きちんと挨拶が出来て、偉いですね。私は、ふらんの頭を撫でてやります。
それにしても、姉妹だったのですか。おねーさんとおねーちゃんの違いが少しわかりにくいですね。
れみぃ? が姉で、ふらんが妹かな。確かに二人とも面影があるように見えますね。
ふらんは嬉しそうに羽をパタパタさせて笑顔を浮かべています。対称にれみぃ? の方は『私もやって!』と言わんばかりに目を吊り上げて体をずいっと私に近付けます。

「はいはい、撫でてあげますよ。お前は、れみぃでいいのですか?」

「うー♪ おぜうさまのれみぃの頭を撫でられるなんて、特別なんだどぉ♪ れみぃはれみぃでいいんだどぉ!」

「違うよ、おねーちゃんはれみりゃでしょ!」

「うー…?? れみぃ、わかんないどーっ!」

「もうっ、しっかりしてよおねーちゃん!」

妹に叱られるお姉さんの図があまりに絵になっていて、思わず笑ってしまいました。
はたから見るとふらんの方がしっかりしていて、お姉さんにみえますね。

「ともかく、れみりゃとふらん! これからよろしくお願いしますね」

「うっうー♪」

「だどぉ♪」



  • 『プリン』

私は今日の家事を全て終わらせ、至急台所の冷蔵庫へ向かいます。何故か? 理由は一つです!

「うふふ…、このキンキンに冷えきったプリン!! 神社に居たときはいつも何だ間だで妨害されて、食べれずじまいでしたが…。
今日こそ! 誰にも邪魔をされずに食べる事が出来るのです!!!
れみりゃたちは寝てるよね…、寝てた。タオルケットお腹にかけて仲良く眠ってる。かわいい」

冷蔵庫の前で一人馬鹿みたいな独り言を喋る自分に自己嫌悪しつつ、食器棚からスプーンを取り出してテーブルに座ります。
いざ、プリンオープン! べらあと綺麗に蓋がとれていき、同時にその肌の色を表す至福の時!
親父が脱衣麻雀が好きな理由も頷けますよ!
完全にプリンが肌を表してその均一なる大地を掬おうとした、その時でした!

ぐぎゅるるるる~…

「ぬおっ!?」

来た、来ちゃった、来ちゃいましたよ! 3日に一度のお通じが、ああっ!
トイレに行きたい! でも、ここでトイレに行ったら一生プリンにありつけないような気がする、ぐぬぬ…!

「やむをえないっ!」

私は泣く泣くその場でのプリンを諦め、隼の如く速さでトイレに駆け込みました。ああ、この瞬間も至福の時だし、どうでもいっか…!

「うー、おねーさんの声がうるさくて起きちゃったどぉ…うー?」


少女便所中…

「さーて、麗しのぷっりっん~っと♪ …ん、無い? な、無い!!? そんな!」

無い、無いんです! 予想はしてたけど、確かにテーブルの上に置いてあったはずのプリンが、スプーンだけ残して颯爽とどこかへ消えてしまいました!
一体何があったと言うのですか!

「…うー? おねーさん、どうしたんだどぉ?」

ふと、寝ていたはずのれみりゃが話し掛けて来ました。
れみりゃは起きたてなら目を擦りながら話し掛けてくるはずなのに、今はそれがないんです。まさか、れみりゃが…?
私は、質問に答えながら注意深く辺りを見回します。

「私のプリンが無いんですよ! せっかく有二屋で買ってきたのに! …あーーーーーーーっ!
テーブル下に有るのは、有二屋のプリンのカップ!
さてはお前たち、食べましたねぇ~!」

やはり嫌な予想だけは当たるもので、見事テーブルの隅っこに空に置かれているカップを発見しました!
几帳面に、カラメルソースまで無い! これは間違いなくれみりゃたちの犯行ですね、現行犯で逮捕します!

「うっ、うううーっ! ごめんなさいおねーさん! ふりゃんと一緒にあまあましてたのだー!」

「ゆうう、ごめんなさい~!」

「…ふう。まあ、いいですよ。気が付いているんです、私はプリンがどうしても食べられない星の元に産まれて来たんだって。
何をどう工夫しようが、最後には他の人たちの胃袋にプリンは行ってしまうのです」

「お、おねーさん…?」

れみりゃとふらんが何の話をしているんだと言う顔付きで私の顔を覗き込んできたので、私は二人の頬をぷにりと触ながら外に出るための財布と防寒具の準備をします。

「まあ、おやつを一人占めしようとした罰でもありますしね。3人で、パフェでも食べに行きましょうか」
きっと、欲張りすぎたから神様から罰が当たったんです。おいしいものは、皆で共有しないとね。

「う、いいの? やったー!」

「うっうー♪」

二人の笑顔をみると疲れも吹っ飛ぶというものです。さあ、行きましょうか!
私はおちびちゃんたちの手を引き連れて、近くの喫茶店へ向かいました。



  • 『けんか』

「う゛ーっ! う゛ーっ!」

「うー! うー!」

和室でお昼寝をしているはずの二人の部屋がうるさいから様子をみてみると、なんと二人がけんかを始めているではありませんか!
まあ、とは言ってもこの時期のけんかというのは大切な事ですからね。二人には悪いですが可愛らしいですし、遠目で眺める事にします。ううん、悶えるなあ。
…よくよく観察していると様子がおかしい事に気が付きました。先程からずっとふらんの方がれみりゃを叩いていて、れみりゃはというとうーうー泣いていて頭を縮こませて耐えている一方では無いですか!
私はたまらず足を踏み出します!

「こら、ふらんっ! やめなさい!」

「う゛、…う゛ー゛っ゛!゛ お゛ね゛ー゛さ゛ん゛!゛!゛!゛」

「うう…、…ぷんっ。おねーちゃんが悪いんだからね、ふらんに意地悪したおねーちゃんが悪いんだいっ!」

「うーん、それでも暴力に訴え出る事はやってはいけない事ですよ、ふらん! …れみりゃ、どうかしたのですか? お前が何かしたのですか?」

「う゛ー、れ゛み゛ぃ゛悪く゛無いも゛ん゛っ!」

れみりゃは嫌々のポーズを体に表してとうとう私の膝の上で泣き出してしまいました…。これは、当人から事情を聞くしかありません。

「ふらん、お前が暴力をふるうということは何かひどい事をされたのでしょう、何をされたのですか?」

「うー、おねーちゃんが、寝ているふらんのほっぺを叩いてきて…、う、う゛え゛え゛え゛ん゛!゛!゛!゛」

すると、ふらんも泣き出してしまい私の胸にうずくまってしまいました。
…大方、寝惚けていたれみりゃが間違いでふらんの頬を叩いてしまい、それにショックを受けたふらんがれみりゃを一方的に押し倒した、という所でしょうね。
私の目下ではやや落ち着いたのでしょう、涙目になりながらも二人が『ばーか!!』とやじを飛ばしあっています。
ああ、子供のけんかというのも可愛らしいなあと新たな発見に感動するのも束の間、私はれみりゃとふらんを向き合わせます。

「ほら、二人ともお互いを見て! 薄々お互いに悪かったって気が付いているのでしょう? 仲直りです」

「…うー」

「…ぷいっ」

中々素直になれないみたいで、二人は目をあわせようとせずそっぽを向いてしまいました。しかし、その様子も次第に変わっていき、最後には二人とも小さな声で『ごめんね』を言いあいました。
仲直り出来て、よかったですね!
…それにしても、姉より腕っ節の強い妹かあ。新しい、自分の性癖を発見したような気がします。



  • 『かくれんぼ』

「うー! おねーさん、かくれんぼしようよっ!」

テーブルに座り縫い物をやっている私の膝にふらんが乗っかってきて、かくれんぼをしようと言ってきました。
やることもないし、別にいいですよ。でも、どこでするんですか?

「うっ、もちろんおねーさんの家でだよ! んもー、わかってる癖にいっ」

このこのと嫌に体を押し付けてくるふらんの頬をつねりながら、私は危なくないか考えます。
うーん、家の中でか。二人とも、特にれみりゃ。何か物を壊さないかな?
あ、いや。待てよ? ふらんが一人で私を誘いに来たということは、れみりゃは既に隠れてるということですかね…?

「ふらん! れみりゃはもう隠れているのですか?」

「うっうー! その通りさっ! ふらん、じゃんけんで負けて鬼になっちゃって…。おねーさんも誘えば、仕切り直しになるかなって思って!」

なるほど。子供的で可愛らしい考えですね、思わずふらんを抱き締めちゃいます。
それにしても、じゃんけん…? れみりゃは手がついているから分かりますが、果たしてふらんはどうやってじゃんけんを行うのでしょうか?
興味を持ちました。


「ふらん、私とじゃんけんをしませんか? このじゃんけんで負けた方が鬼です」

「うっ、いーよ! さーいしょはグー! じゃんけん!!」

もう始まったのですか! 私は急いでチョキを出しました、するとふらんは

「んー!」

と可愛らしいお口を紡ぎました。そして、『やった、勝ったあ!』と嬉しそうに笑顔を綻ばせてぴょんぴょん床に跳ねました。
なるほど、今のがふらんのじゃんけんなのですね、チョキが半開き、パーが開くといったところでしょう。違いがわかりにくくもめやすいのが難点ですね。
同時に私の鼻の奥が熱くなって、チリチリと舌に鉄の味が広がりました。
…むっちゃかわええ!!!

「うっ、おねーさんが鬼だからふらんの事探してね! じゃあ、あとでね!」

ふらんはそそくさと居間を出ていきどこかに隠れてしまいました。
まあ、この家、そもそもマンション自体一人暮らし用のマンションで広さは1LDKほどしか無いので、すぐに見付かるでしょう。
私は座りっぱなしで重くなった腰をあげ、二人を探しに向かいました。




  • 『かくれんぼ 2』

「8、9、…10! もーいいですか?」

「いいよー!」

「うっうー♪」

私はわりかし小さめの声で二人に呼び掛けたのですが、すぐに返事が返ってきた事から近くにいるんだなと考えました。
家自体が狭いとはいえ、せめてもう少しくらい遠くに行けばいいのに、おバカさんなんだから!
まあ、そこがまた堪らなくかわいいのですけどね。

「じゃあ向かいますよ…、あ!」

早速見付けました、おちびちゃんのお姉さんの方です。
れみりゃは居間を出てすぐの和室の押し入れに隠れたつもりなのでしょうが、可愛らしいお尻が丸々出ていて隠れきれていません。
そのお尻すら、私の『あ!』と言った声に反応してもぞもぞと動いている始末です。うーん、かわいい。
押し入れに無理に潜り込んだため、布団もぐちゃぐちゃになっていますし…。あーあ。これは、かくれんぼが終わったら畳み直さないといけませんね。
私はぷりちーなヒップのれみりゃの背中をポンポンと優しく叩きながら、見つけたことを伝えます。

「れみりゃ、みーっけ」

「う? …うー!! 何で見付かっちゃうのー!?」

「そりゃあ、お尻がはみ出るどころか全部出ていては見付かりますよ」

「そんなこと無いもん! れみぃの隠れ家は完璧なんだどぉ…、うー? あっ、お尻が隠れてないどー! 通りでスースーすると思ったど!」

どうやら本人は気が付いていなかったらしく、押し入れに入った布団からもぞもぞと出ると、舌を出してのウィンクを貰ってしまいました。
鼻血もんです、このまま叶う事なられみりゃを抱き締めながら頬を甘噛みしたい欲求に駆られましたが、そうも行きません。
まだかくれんぼは始まったばかりで、ふらんが隠れているからです。
そもそもお前があまりに見付かるのが早すぎたのですよ、れみりゃ!

「うー? ニンゲン誰だって失敗はあるんだど、大切なのはそれを乗り越えて行くことなんだど! うっうー♪」

れみりゃは笑顔で得意気にいつものダンスを踊ります。なんてことのない、手を挙げる動作にすらもたついているのですからかわいい事この上ありません。
私はれみりゃを抱きかかえ頬擦りをしながら和室を出て、様々な場所を探しました。
玄関前、風呂場、それこそ居間のテーブルの下まで…。しかし、とうとうふらんを見付けることはできませんでした。

「ふらん、ふらん~。私の負けです、出てきてくれませんか~?」

「うー、ふりゃん! おねーさんを心配させちゃ駄目なんだどぉ、かくれんぼはおしまいだど!」

かくれんぼが始まってから既に一時間が経過しました。私とれみりゃは家中にふらんを呼び掛けて探しているのですが、一向に現れる気配が見えません。
まさか、外に出ちゃったのかな。事故に遭っていなければいいけど…。
いても立ってもいられなくなった私は近くの公園まで向かおうとれみりゃに呼び掛けようとしたときでした。
れみりゃが、『うー、いたどぉ!!』と大声をあげて私の手を掴みます。そのまま誘導されるがままに先程調べた風呂場にまで連れていかれます。
れみりゃが洗濯機に指を指すので、覗いてみるとそこには隠れている途中に眠くなったのでしょう、すやすやと眠るふらんの姿がありました。

「…全く。人を心配させて」

私は洗濯機に入ったふらんを私の胸に抱えながら和室まで持っていき、座布団とタオルケットを用意して簡易的にベッドを用意してあげます。
れみりゃも『れみぃも寝るどー!』とふらんの隣に元気いっぱいに寝転がったと思いきや、疲れていたのでしょう。すぐに眠りの世界に入っていったみたいです。お腹にタオルケットをかけてやります。
私も、眠くなってきちゃったかな。ぐちゃぐちゃになった押し入れからもう一枚タオルケットと二枚座布団を取り出して、それぞれ私の枕とれみりゃの枕にして頭を乗せてあげます。
おやすみ。ふらん、れみりゃ。二人の額に軽くキスをして、私は眠りにつきました。


  • 『仕事』

「それじゃあ、れみりゃ、ふらん。行ってきますよ」

「うーっ、うーっ!」

「行ってくるんだどぉ♪」

今日は仕事の日です。私の仕事はいわゆる事務系の仕事で、忙しく無い時は自宅待機をしていても良いといった恵まれた職場環境なのですが、今は決算の時期。
猫の手も借りたいくらいに忙しく、こうして仕事に駆り出されて行くことが度々あるのです。
私は玄関までお見舞いに来てくれたおちびちゃんたちに別れを言い、外にへと出ました。
…今日は夕方まで帰ってこれないのですが、お昼ごはん、大丈夫かなあ。
一応チャーハンを炒めて用意したのですが、心配だなあ…。



「…さてと、ふりゃん! おねーさんがいない間、れみぃ達がしっかりして、おねーさんを安心させるんだどぉ!」

「うー♪ でも、何をすればいいの?」

「…うーん。 …うっ! そーだど! れみぃたちで、いつもおねーさんがやってる事をやればいいんだどぉ!」

「…いっぱいありすぎて、わかんないよ」

「うー…。やっぱり、れみぃたちが普段通りでいることが、おねーさんにとって一番良いことなんだどぉ♪」

「もうっ、おねーちゃんったら! それはそれとして、何をして遊ぶの?」

「うーっ! まずは、かくれんぼでもするんだどぉ♪」



「はーちぃ、きゅーう、…十っ! もーいーかいっ?」

「いいんだどぉ!」

「よーし、おねーさん! 一緒に…、いないんだった。おねーちゃんどこかな、あ。
…みっけ」

「うぅー!? なーんでれみぃは、こんなに早くみつかっちゃうんだどぉ!?」

「そりゃ、押し入れにお尻がはみ出てるからねぇ」

「うっ? まーたやらかしたどぉ! れみぃのぷりちーなヒップはとどまることを知らないんだどぉ!」

「…つまんないね」

「…うー」

「…他の遊びしようよっ、トランプとかさあ!」

「うー、いいどぉ! でも、れみぃトランプがどこにあるかわかんないどぉ…」

「ふらんも、わかんない…」

「…うー! お絵描きするのはどうだどぉ?」

「いいね! …でも、ふらんたちだけでやっても、褒めてくれる人がいないもん」

「うー…」

「…おねーさん、早く帰ってこないかなあ」

「…うー」

「…ぐすっ」

「うう、ふりゃん、泣くなどぉ…」

「只今帰りましたっ!」

私は玄関を開け、大声で二人にその旨を伝えます。
二人は大層驚いているようで、少しの間きょとんとしてすぐに『おねーさん!』『仕事は!?』と叫びつつ立っている私の膝に抱きついてきました。
こらこら、かわいいですね。私は抱きついてきた二人を抱き返しながらちょっと意地悪な返事を返します。

「ふふ。おちびちゃんたちは気にしなくてもいいのですよ」

どうもふらん達の様子が気にかかって仕事に熱が入らなかったので、上司の人に無理を言って自宅で作業することになりました!
もちろん私は大急ぎで家へと向かい、ふらん達にただいまの挨拶をしたというわけです。

「ともかく、帰ってきたとはいえ私は忙しい身なのですぐに仕事に取り掛かります。しかし、トランプくらいでしたら一緒に出来ますよ」

「うっ、ほんと!? じゃあ、やろうよおねーさんっ!」

「うーっ、うーっ♪」

「はいはい、和室からトランプを持ってくるからちょっと待っていてくださいね」



  • 『雪』

「うー、おねーさん! 雪が降ってるよ!」

「雪なんだど、雪だるまさん作るんだどぉ♪」

「どれどれ、お。本当ですね…。もう三月なのに雪が降るだなんて、珍しいですね」

二人はベランダ越しの窓からサラサラと降っている雪をはしゃぎながら見ています。曇天の空からの贈り物に、二人は大喜びです。
しかし、ここらの地理を考えると降り積もってもすぐに除雪されるか、そもそも地面が濡れていて雪も溶けているので積もる可能性の方が低いです。この雪も、あと数十分したらただの雨に変わり、しまいには晴れていくのでしょう。
二人の肩を落としてがっかりする姿が目に浮かびます。ううん、なんとかしてあげたいなあ。

「…二人とも。残念ですが、この雪は積もらない雪です。恐らく、雪だるまなどを作ることは出来ません」

「う、う!? そんなあ!」

「折角の雪さんなのに!」

「だから、今から外にいきましょう。雪が無くなる前に、少しでも触れておきませんか?」

「…うー!」

「うあうあ♪」

二人は私の提案に手をあげて喜んでいます。ああ、拒否されなくてよかった。
しかし、二人はそのままの薄着で外に出ようとします、こらこら。そのままでは風邪を引いてしまいますよ。
私は暇な時間を使って繕っていた黄色の毛糸のマフラーとてぶくろの防寒具を、それぞれれみりゃとふらんにつけてあげます。
初めてで、本を見ながら作ったので所々ぶきっちょになっています。二人とも、気に入ってくれれば嬉しいのですが。

「…うー♪ あったかいどぉ!」

「ありがとう、おねーさん!」

どうやら、色の好き嫌いもなく気に入ってくれたみたいです。思わずホッと胸を撫で下ろします。
ハンガーにかけてある白のトレンチコートとマフラーをはおい、おちびちゃんたちに長靴を穿かせます。私たちは、玄関から外に出ました。
マンションの通路沿いから見える雪の景色は、脆く儚いものでした。



マンションのエレベーターを降りて、近くの駐車場にまで来ました。昼の時間帯なら滅多に車が来ませんし、ここなら広く遊べると考えたからです。

「うっ、ちべたい!」

早速雪が額に当たったのか、冷たそうに目を尖らせるれみりゃ。対称に、雪を掴もうと必死に手と体を動かしているふらん。
どちらも思わず頬が無意識にあがり、にやけてしまうくらいにかわいいです。そして、マフラーを落とした時に大切そうに雪をはたいて、また付けてくれる心遣いが嬉しいです。

「ふふ、二人とも。雪はどうですか?」

「うー! 冷たいどぉ!」

「うー…。全然捕まえられなくて、ふらん疲れちゃった」

二人はそれぞれの感想を口にします。どれも素直なもので、思わず顔が綻んでしまいます。

「ふふ。二人とも、素直ですね。…冷え込んできましたし、家に戻りましょうか」

「うー!」

「うー♪」

私は顔が真っ赤なおちびちゃん達の手をてぶくろ越しに握りしめて、マンションのエレベーターに乗るためロビーへと向かって行きました。



  • 『一人暮らし』

「うっうー! おねーさんって、他に家族いないの?」

おちびちゃんのれみりゃが風呂掃除中の私に話し掛けてきたので、私は質問に答えました。

「いや、いますよ。ただ、一人立ちしたので今は一人暮らしですが」

「うー、一人暮らし! 一人暮らしって事は…、いやん」

れみりゃは何を想像したのか、顔を赤らめて身をよじり、手を頬に当ててうっとりとした表情をしています。
全く、大体想像出来ますけどね。

「どうせ、彼氏がどうとかそういう事でしょう? わかってるんですよ」

私は風呂掃除に使っているスポンジをキュッと握り、れみりゃの額に軽い泡を付けてやりました。

「うっ、こしょばゆい!! おねーさん、彼氏とかいないの?」

「そうですね、今はいないです。強いて言えば、お前たちが彼氏ですかね、れみりゃ?」

「う、う? …―うううううううーーーっ!!!? れ、れみぃお外でおダンスしなきゃ! それじゃーねー!」

れみりゃは最初は言葉の意味を理解できなかった様ですが、理解したとたんにちゃぶ台を引っくり返した様に慌てて風呂場を出ていきました。石鹸でつるっと滑るのはご愛敬です。
全く、うぶなやつですね! そこがまた、堪らなくかわいいのですが。

「うー、ふりゃん! れみぃ、おねーさんの…。キャー!!!」

「???」


  • 『プリン れみりゃサイド』

「…う~? ふりゃん、ふりゃん! うー!」

「うー? どうしたの、おねーちゃん…。ふらんまだおねむだよ、ビルゲイツでもいたの?」

「うー! 机の上に! ぷっでぃんがあるどぉー♪」

「ゆう、私には高くて見えないよ…。おねーちゃん、持ち上げてよ!」

「うー! お安いごようだどぉ♪」

「よっと、うっこいしょ! …うー、あった! でも、一個しか無いね」

「うー♪ ふりゃんが、食べるんだどぉ♪」

「うー? おねーちゃんは食べないの?」

「れみぃはおぜうさまだからいつでも食べられるんだど! それに、今はぽんぽんが痛いんだどぉ…」

「ゆう、それなら遠慮無しに貰うよ! はぐはぐ、もにもに…。しあわせ~!」

「うー♪ れみぃも、しあわせだどー!」

「…はあ、おいしかった! カップ、片付けなきゃ! …うーしょっと!」

「うー、ふりゃん何したんだどぉ?」

「プリンの容器を隠したんだい! …あ、おねーさんだ!」

「さーて、麗しのぷっりっん~っと♪ …ん、無い? な、無い!!? そんな!」

「…うー? おねーさん、どうしたんだどぉ?」

「私のプリンが無いんですよ! せっかく有二屋で買ってきたのに! …あーーーーーーーっ!
テーブル下に有るのは、有二屋のプリンのカップ!
さてはお前たち、食べましたねぇ~!」

「うっ、うううーっ! ごめんなさいおねーさん! ふりゃんと一緒にあまあましてたのだー!」

「ゆうう、ごめんなさい~!」

「…ふう。まあ、いいですよ。気が付いているんです、私はプリンがどうしても食べられない星の元に産まれて来たんだって。
何をどう工夫しようが、最後にはゆっくりたちの胃袋にプリン行くんだって」

「お、おねーさん…?」

「まあ、おやつを一人占めしようとした罰でもありますしね。3人で、パフェでも食べに行きましょうか」
「う、いいの? やったー!」

「うっうー♪」

「…おねーちゃん、ありがと」

「うー? れみぃ、素直に謝っただけだどぉ♪」




  • 『叱られて…』

「こら、二人とも! あれほど洗濯物で遊んじゃいけないと言ったのに、何回言えばわかるんですか!」

「うー…」

「うー…」

ふとインターホンが鳴ったので、干している洗濯物を一先ずベランダに置いて玄関に出向きまたベランダに戻って来たのですが、そこで目にした光景は洗った洗濯物を振り回して遊ぶ肉まん二人でした。
目の前で叱られている二人はうなだれた表情で、しょんぼりしています。
このまま許してしまってもいいかなと思いましたが、この二人は何回も同じ事をしでかしているのです!
ここは心を鬼にして、二人にとって死刑にも等しい宣告を下しました。

「全く、一回ならともかく何回も全く同じ事を繰り返すなんて! 今日のおやつは抜きです!」

「「!? うー!?」」

流石にショックだったのでしょう、二人とも目を丸くして驚き、そのままがくりと床に崩れ落ちました。かわいいと思ったのは秘密です。
反省したかなと思うと、今度は頬を膨らませてぶーぶー文句を垂れてきました。
全く、全然反省なんかしないんだから!

「何を言っても駄目です! これが嫌なら、今度から気を付けなさい!」

「…うー! れみぃ悪くないもん! れみぃはこーまかんのおぜうさまだから、何をやっても良いんだどぉー!」

「うー! うー!」

「あ、こら! 待ちなさいっ!」

空気に耐えられなかったのか、二人ともベランダを出てどこかへ行ってしまいました。

「もう、仕方ない子たちなんだから!」 


私は文句を垂れながら二人が汚していった洗濯物を籠に入れ、また洗濯機に入れに風呂場へと向かいました。



ふらんたちは、アテもなく町をただぶらぶらとさ迷って、近くの土手にまでたどり着きました。
土手の向こう岸の太陽さんが皮肉にも町全体を賛美するかの様に真っ赤に照らしていて、ふらんは嫌な気分になりました。

「…うー。」

「…ふんだ。おねーさんが悪いんだもん。れみぃの様なおぜうさまがいるありがたみを、おねーさんは理解していなかったんだど!」

「…悪いのは、私たちだよね」

「…うー」

「…」

「…ううー! れみぃ、おねーさんが謝るまで帰らないど!」

「…ふらんね、最近考えるんだ」

「うー?」

泣きべそをかいているおねーちゃんが、手で涙を拭ってこっちを向いて反応してくれます。
私は、頭の中にある漠然とした恐怖を、おねーちゃんに伝えます。

「私たち、おねーさんに重荷になってる」

「…う~? あうあ、うー?」

「迷惑になってるってことだよっ! 私たちは、いつもおねーさんに依存してばかりで!」

「…うー♪ それなら、おねーさんも求めてるから、いいんだどぉ!」

「そりゃ、今はね! でも、何かある度に素直に謝れなくて逃げてちゃあ、愛想つかれちゃうよっ!」

「…うー? そうかなあ?」

「そうだよっ、もっと現実をみないと!」

「…ふりゃん、なんでそんなに焦ってるのだどぉ? もっとリラックス、リラックスなんだどぉ♪」

「…でもっ!」

私は、頭の中のもやもやとした恐怖の正体をおねーちゃんに伝えます。

「ふらん、みたんだよ! てれびで、私たちの様なゆっくりが捨てられていくのを!」

「…うあー?」

「私たちが捨てられていくのは、なんて事のない、普通のことなんだよっ!?」

「…うっ、うっ、…う゛あ゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛!゛ れ゛み゛ぃ゛、゛も゛っ゛と゛お゛ね゛ー゛さ゛ん゛と゛ゆ゛っ゛く゛り゛し゛た゛い゛ど゛ー゛っ゛!゛」

いつも呑気なおねーちゃんも、流石に事の大きさに気が付いたのかわんわん泣き始めました。
私も玉の様な涙を流しているおねーちゃんを見て、悲しくなって、釣られて声を出して泣いてしまいました。

「あ゛ー゛ん゛あ゛ん゛あ゛ん゛あ゛ん゛!゛!゛!゛」

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!゛!゛!゛ …゛う゛ぎ゛い゛!゛」

一通り泣き終わったのか、おねーちゃんは変なしゃっくりをしつつ泣きやんだみたいです。
でも、私はまだ気持ちの整理がつかなくて、どうしても溢れ出る涙を止めることは出来ませんでした。
すると、おねーちゃんが私の頬につたう涙を手で拭ってくれて、頬と頬をすりすりしてくれました。

「う゛ー、ふりゃん。泣いてても始まらないど! おねーさんに、謝りに行くんだど!」

さっきまでとは打って変わって、おねーさんに謝りに行こうとするおねーちゃん。
でも、会わせる顔がないし、何だか恐いよ…。

「うー! 駄目だったらその時! こーまかんのおぜうさまたるもの、立ち止まっちゃいけないんだど!
それに、れみぃが悪いのだって、薄々気が付いていたんだどぉ…」

おねーちゃんの言葉の最後が尻つぼみになっていてよく聞こえませんでしたが、おねーちゃんの言うことはもっともです。
謝りに行こう。
おねーさんに、見捨てられる前に。


「おねーさん…」

ふと、洗濯機が止まるまで暇なため居間でテレビを見ながらゆっくりしている私に、ふらんとれみりゃが不安そうな表情を浮かべて話しかけてきました。
帰って来てたんだ。私は謝りにきたのかな、と頭の片隅で考えながらその様な様子の二人にどうしたの、と訪ねてみました。
すると二人は、

「おねーさん、れみぃたち、居ない方がいい?」

と、とても悲しそうな瞳をして言いました。

「…そんな、悲しくなる事を言わないでください。どうしてそう思ったのですか?」

私は、言葉を詰まらせている二人を私の両肩にもたれかけさせて、抱き締めます。

「だって、だって…」

「大丈夫、私はあなたたちを追い出したりしませんよ」

私の言葉に安心したのか、今まで暗くぎこちなかった二人は『う゛え゛え゛え゛!゛!゛』と大声を出しながら泣き、そのまま私の体にうずくまるように抱きついてきました。
私は二人を受け入れ、頭を撫でてやります。

「お゛ね゛ー゛さ゛ん゛、こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛い゛!゛!゛ い゛つ゛ま゛て゛も゛一゛緒゛に゛い゛て゛ね゛え゛え゛!゛!゛」

「大丈夫ですよ、そんな大声をださなくても。一緒に、いましょうね」

本当は出すつもり無かったけど、おやつのプリン出してあげようかな。
うずくまる二人のゆっくりに、抱き締めながら優しく頬を撫でてあげました。

…ちなみに、何で二人が急に『居ないほうがいい?』だなんて言い出したかを問い詰めてみたら、どうやら昨日見たドラマに影響されたのだとか。
そのドラマの内容は典型的な不幸物で、ゆっくりが主人公だったがために不安に思ったのでしょうね。
全く、とことんおバカさんなんだから! 私があなたたちを見捨てるなんて、例え永久にプリンを食べられなくなる義務を押し付けられたとしても未来永劫ありえません!
…そんな、おバカさんたちだからこそ、もっと愛でたくなる。二人をぎゅっと抱き締めて、幸せというものを再確認できたような気がしました。


  • 『誰?』

「うー! おねーさんは、一体誰なんだいっ!」

洗濯物をベランダに干している私に、ふらんが話しかけてきました。一体、どういうことでしょう。

「どうしたのですか、ふらん? ブランデーでも飲んじゃって酔っ払ったのですか?」

「うー、そうじゃないよ! ふらんはおねーさんの事何一つ知らないから気になったんだ! 緑色の髪の毛だし、変なの!」

「…うーん、変ですか。まあ、他の人にこんな独特の色合いをした髪を持つ人なんて、いないですもんね。でも、私自身はこの髪の毛をステータスだと思っているんですよ?」

私は、苦笑いしながら答えます。

「うぅぅ、ごめんね! 悪口で言ったつもりは無いんだ! おねーさんの事、知りたいな!」

「…ふふ、そうですか。そういえばふらん達に名前を教えていませんでしたっけ。私は―…」

私は洗濯物を降ろし、ふらんを優しく抱えながら答えます。


おわり



おまけ



「うー♪ うー♪」

「だど、だどぉ♪」

「…」

私は家でゴロゴロしながらテレビを見てゆっくりしていたのですが、気が付いたら目の前に可愛いおちびちゃんたちが遊びに来ていたみたいです。
一人は体がついていて、ぶきっちょなダンスを踊っています。
…なんだ、こいつらは!!!

「ゆっ、どうしたのおねーさん! そんな情熱的な目線をれみぃに当てて…。惚れちゃった?」

「惚れるか! 何なんですかお前たちはいきなり人の部屋に来て、泥棒ですか!?」

「ゆう、おねーさんったら酷い事言って、ツンデレねぇ~」


何を言っても手玉に取られるだけの様な気がしたので、素直に引き下がってこいつらを観察する事にしました。
遠目からみるこいつらはどこか浮足立っていて、なんだか可愛いです。

「うー? おねーさん、そんなにれみぃの事ばっか見てどうしたんだどぉ?」

「うー、おねーちゃんばっかずるい! ふらんもみてよ!」

しまった、感付かれたかと思いすぐさま視線を反らします。
それにしても『ふらんも見て』、かあ。可愛いなあ!

「うー? おねーさん今度はそっぽ向いて、どおしたんだどぉ? 大丈夫だどぉ?」

するとこいつらはいつの間にか私に近付いてきていて、上目遣いをしながら私の顔を覗きこんでいるでは無いですか!
うわあ、可愛い、可愛すぎるっ!
ちょっと威力が強すぎますよ!

「うー、おねーさん、元気出すんだどぉ…」

ふと、二人いる内の体が付いている方が不安そうに表情を曇らせながら私に近付いてきて、真ん丸で小さな手をピタリと私の頬に当ててスリスリしてくれました。
私の中の大切な物がガラガラと音を立てて崩れていく様な気がしました。

「うおお、もう我慢できません! 食ーべちゃうぞー!!!」

「ぎゃおー♪ 食ーべられちゃうぞー♪」

「うっうー♪」

end



天狗のメモにあったネタを使わせてもらいました。さっぱり関係なくてすみません。
ありがとうございました。

  • なんて可愛さだ -- 名無しさん (2009-04-17 00:29:47)
  • なんだこの萌え殺しSSは・・・
    思わずニヤニヤしてしまったぜ・・・ -- 名無しさん (2010-04-09 14:15:20)
  • れみぃとふらんかわええええ! -- 名無しさん (2010-04-09 14:15:56)
  • たまらん・・・ -- 名無しさん (2010-12-01 15:29:05)
  • 緑髪ってことは早苗さん? -- とにかくゆっくり飼いたい (2012-06-09 13:57:20)
  • ふらん超キャワワ♡ -- 名無しさん (2013-02-15 16:45:27)
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最終更新:2013年02月15日 16:45