私はさとり

『私はさとり』


私はさとり。ゆっくりさとり。

今日もひとりで餌場を探す。

私は他人の心が読める。私は他人の心が見える。

あれはいつの事だったかしら?群れにいたこともあったわね。

『ゆー…あのさとりって子、気味が悪いね』
『心が読まれてるなんて、ぞっとしないね!』
『わかるよー。気分よくないんだよー』

私は群れを出てったわ。

あれはいつの事だったかしら?人間さんに、飼われてたこともあったわね。

『心が読める?平気平気、これからよろしく!』
『…やっぱり、考えてること筒抜けってのは落ち着かないな』
『………………………やめときゃよかった…』

私は家を出てったわ。

私はさとり。ゆっくりさとり。

私は他人の心が読める。それを口に出してしまう。それが私の性だもの。

私はさとり。ゆっくりさとり。

嫌われ者の ゆっくりさとり。

今日もひとりで餌場を探す。

人気の無い道 こそこそ進む。

一家揃ったゆっくり見ても 人間さんと一緒の見ても

寂しくないわ。悲しくないわ。

だって 私はひとりがいい。
誰かといたって傷つけるだけ。傷つくだけ。
だから 私はひとりがいい。
誰かを傷つけるより 勝手に傷ついてしまうより
ひとりの方が ずっと幸せ。

「やべっ」

ひらひらひら。私の前に何かが落ちる。
これ何かしら?なんだったかしら?
ああそうだ 思い出したわ。
人間さんの 大事なもの。そうたしか キャッシュカードとかいったわね。
そう、ならば 必然的に

「お、なんだお前。ゆっくりか」

目の前に 視界の中に 入ってくるのは人間さん。

「あんまり見ない種類だな。お前ひとりか?」

私はさとり。ゆっくりさとり。
私は他人の心が読める。私は他人の心が見える。
ほら見える

『けっこーかわいーなー』
『つーか、結構好みだな』
『ひとりなら、連れて帰っても怒られないかな?断られたらショックだけど…』

「『誘うだけ誘ってみるか。男は度胸、なんでも試してみるものさ』…ですか」
「うおっ!?なんでわかった?」

この人は 私の能力を知らないようね。たまにいるわ そういう人も。

「私はさとり。ゆっくりさとり。他人の心が読めるのです」
「へー…」

そうですか。

『いい事聞いた』

そうですか。
そうですよね。知らずに飼って 不快な思いをするよりは。
ここで知って そして解って 別れた方が幸せですよ。

『さとりって名前なんだ』

そっちですか。後半聞いてました?

「まぁいいや。おじょーちゃん、ウチ来るかい?」
「…よく解ってないようなので、もう一度言っておきます。
私は他人の心が読めます。そしてそれを口に出します。
それは私の性なのです。他人を不快にするだけなのです」
「おっと、会話の成立しないアホがひとり登場~。
質問文に対して答えになってない返答するとテスト0点なの知ってたか?」
「ゆっくりにテストはありません」
「…とにかく俺はそーいうことを聞いてるんじゃあない。お前が来たいか来たくないかだ」

たまにいるわ こういう人も。時々いるわ こういう人も。
気にしないふり する人も。
気にしないよう 努める人も。
でも無理よ。
最短三日 最長一月。
それで心は疲れてく。それで心は折れていく。
無理、無駄よ。
ずっと一緒に居れやしない。この人だって 私を拒む。
でも今は とっても寒くて辛い冬。
一時とはいえ 置いてもらうのも悪くはないわ。

「…いいわ、行くわ。警告はしましたよ?」
「おっけおっけ。そんじゃま行くか」

その人は 私をひょいと拾い上げる。
久しぶりの 他者との接触。
久しぶりの 他人の温もり。
懐かしいそれが 暖かくって
いつか離れていくそれが どうしようもなく悲しくなって
ほんのちょっとだけ 泣きそうになった。





目を覚ます。
高い天井と壁のある 人間さんの住むお部屋。
私を拾ったお兄さんは 台所で朝ごはんの準備をしていた。

「おー、おはよう」
『おっぱい!』

噴いた。

「…朝っぱらからなに考えてるんですか」
「健全な男の子の朝はそーいうもんだ。別に四六時中そんな事考えてるわけじゃあないぞ。断じて」

そういうものか。その場はそれで納得したが

「んじゃー会社行ってくるから。飯はまぁ、適当にやっといて」
『おっぱい!』
「解りました。あといい加減おっぱいから離れてください」

「ただいまー。ケーキ買ってきちゃったぜ」
『エロスな本とどっちにしようか迷ったけど』
「…いいんですよ、本選んでも」

「晴れのち雨か…洗濯物どうしようかな。お前さん、洗濯物取り込めるかい?」
『透け水着!そういうのもあるのか…』
「ちょっと難しいですね。それとたまにはエロい事以外も考えてください」

「………」
『幼女っていいよなぁ』
「このロリコンめ!」

嘘だった。
お兄さんは 変態だった。
黙っていれば普通だけど 頭の中は 常に桃色パラダイス。
というかこの人 なんなのかしら?
というかこの人 バカなのかしら?

だってもう 冬は終わって春なのに。
あの時からもう 三月は経ってるはずなのに。

私を拒む気配がない。私を嫌がる素振りがない。
心が読める私のことを。心が見える私のことを。
『それがどうした』
まるでそうとでも言うように。(実際何度か言っていた)




私は家を出て行った。
だってもう、春だもの。冬はとっくに過ぎたもの。
このままあそこに居続けたって。
いつかは同じ。結局同じ。
人間さんは傷ついて。そして私も傷ついて。
だったらそっと 別れよう。幸せなまま 別れよう。




…ゆっくりって、花粉症に罹ったかしら?




自然に涙が出てきたわ。自然に洟も出てきたわ。




もう、嫌ね。




これから春が 憂鬱になるわ。花粉の季節が 嫌いになるわ。




そうよ。これは花粉症よ。




本当に…嫌…






「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁとぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

聞こえてきたのは あの人の声。
後ろから迫る あの人の叫び。

「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

蹴っ飛ばされた。
フライングドライブシュートだった。

ぐるんぐるんと回りながら、意識とともに落ちていく中、私の瞳に入ったものは

さっきまで私がいた場所を走り抜けるトラックと そのトラックを避けながら

『危ないところだったぜ。さっさと帰って今日買ったえろげでも嗜むのぜ』

やっぱりエロい事を考えているお兄さんだった。



「蹴っ飛ばしちゃってゴメンヌ。でもまぁ命は助かったから許して」
「…大丈夫です。ありがとうございました」

目が覚めたとき、私はお兄さんに抱えられていた。
あの時と同じように。
…ただ、お兄さんの意識の6割くらいは荷物のほう(えろげ)に向けられていたけど。

「…お兄さん」
「あーあー。この件につきましては、当方としましては謝罪も賠償もいたしません」
「いや、そうじゃなくて…



…これからも、あなたの所に居てもいいですか?」

答えはすぐに帰ってきた。

『今更なに言ってんの?ばかなの?』
「…ばかじゃないです。どっちかというとお兄さんの方がばかです」
「なんだと」

私はさとり。ゆっくりさとり。

私は他人の心が読める。私は他人の心が見える。

そんな私と暮らしてるのは

『まずはロリキャラを攻略だな』

バカでエロスでロリコンで。

どうしようもなく変態で。

こんな私と暮らしていける こんな私と一緒に居れる。

だいぶ変わったお兄さん。

―おしまい―



  • この変態め! だがそこがいい -- 名無しさん (2009-03-03 00:55:32)
  • 変態紳士とは正にこの事だなw だがソレが良い -- 名無しさん (2009-03-03 01:06:56)
  • HENTAIよりも高貴な魂を持つ変態!それがまさにこの人に違いねぇ! -- 名無しさん (2009-03-03 05:04:53)
  • 幸福の形は人それぞれ。それはゆっくりとて例外ではありません。 -- 名無しさん (2009-03-25 10:53:36)
  • 何なんだよ、変態の皮を被ったこの紳士は?! いや、逆か…… -- 名無しさん (2009-03-25 23:41:16)
  • いいよーわかるよー,変態って本当は優しいんだよー -- 名無しさん (2009-03-27 20:22:13)
  • バカな…変態という名の紳士だと… -- 名無しさん (2009-08-27 20:02:49)
  • イイハナシダナー -- 名無しさん (2010-03-15 01:33:48)
  • 変態という名の紳士を見て、心が洗われたような気分だ! -- ソフトM&ハードS (2010-07-27 23:31:13)
  • 変態とはこうあるべき! -- ポルナレフ (2014-11-15 23:56:59)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年11月15日 23:56