守矢家の事情っ!

体だけで跳ねる奇妙な饅頭が現れてから、一つの季節が過ぎた。
幻想郷に来たばかりの頃の早苗ははたから見てもわかるくらいに落ち込んでいたが、今では心からの笑顔を見る機会が多くなった。
これも、あの饅頭がやって来たからだろうか。確かに喜ばしい事なのだが…!

「最近、早苗が全っ然構ってくれないんだっ!」

「真顔で話があると言われたから聞いた私が馬鹿だったよ」




守矢家の事情っ!



「一体、どうして! なんで早苗はあの饅頭にぞっこんなんだ!」

「ぞっこんとは、また古い言葉を…。うーん、気の許せる相手だからじゃない?」

「何ぃ、それなら早苗は私よりもあの饅頭と居た方が気が楽と言いたいわけか!? 私の方がいっぱい早苗を愛しているのに!!?」

「…その愛とやらが早苗にはうっとおしいんじゃあないの? 神奈子の気持ちも分かるけど、もう少し陰で見守ってあげなよ」

「陰で見守るなど言語道断!!! 
今の時期は早苗にとって最も大切な時だ! 私が積極的に動いて悪い虫を取り除かねば、誰が早苗を守ってあげれると言うのか!!」

「…はあ。こんなに想って貰える人を持って、幸せ者だよ。早苗は」

諏訪子からまるでやりすぎだとでも言うような皮肉のこもった褒め言葉を受け取る。
諏訪子は楽観してるんだ! だから、こうしてのんびりと寝転がっていられる! 
例え物事があっても、最後にはなんとかなるもんだと思ってるんだ! そうじゃない、自分から動かないと!!
…そりゃあ、自分でも早苗を溺愛しすぎというのはわかってはいる。けれど、心配なもんは心配なもんだ。
諏訪子の言う事が最もだというのも理解している。だからといって、このまま何もしないというのは私の性に合わないし、何よりも!

「早苗と、関わりたいっ!」

「わーわっわわかったから! 抱きつくなり顔に唾を飛ばすのはやめてっ!」

「なんだいっ、こっちはスキンシップ不足で心がカラカラになって死にそうなんだ! もっと労ってくれてもいいんじゃない!?」

「うるさい! 神奈子の胸はでかいから、そ、その! 当たるんだよっ! さっさと離れてよね!」

…そう。しばらくの間、早苗と全く話をしていないのだ。
唯一向かい合える食事の時間でさえ、あの饅頭どもが現れるようになってから早苗は上の空になってしまっている始末だ!
当然昼間は概ねどこかに遊びに行ってしまい、話し掛けるどころか姿を見る事すら出来ない!
明るくなったのは良いことだが、ここまで早苗が離れてしまうとは…!

「…神奈子。確かに神社に来たばかりの当初よりかは早苗と関わる機会が減った。けれど、今だって一般の家族くらいに関わってるじゃないか。神奈子が早苗を求めすぎなんだよ、いわゆるエゴじゃないの?」

「だ、だけど! 諏訪子は私たちからどんどん離れていく早苗を見て、寂しく思わないのか!?」

「そ、そりゃあ寂しいけど…」

「だろう!? だったら私は自分の気持ちに正直になるね! 体面なんて、知ったことか! 私は早苗と関わりたい、ただそれだけなんだ!」

「…はあ。こうなった神奈子は手に終えないからなあ」

諏訪子が頭を抱える様に居間の座布団に座りこみ直す。なんだ、まるで私がだだこねている子供の様じゃないか!

「その通りだよ、神奈子。まともな話、神奈子だっていろいろきちんと理解しているだろうし、細かい事は言わないさ。
ただ、虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。いや、これは違うか。ともかく、敵を知ってみろってね!」

軽く心を読まれたが、諏訪子は何やらもぞもぞと動く風呂敷をちゃぶ台の上に置いて、その包みを解いた。
そこには、いつもの通りふてぶてしい表情をして『ゆっくりしていってね!!!』と叫ぶ私の悩みの張本人が現れたではないか!

「こ、これは! ゆっくりじゃないか!」

「いやあ、別に風呂敷に包む必要はなかったんだけどさ。さっき縁側で早苗と一緒にお昼寝してたみたいだから拝借して来ちゃった☆」

諏訪子があどけない表情をして変なポーズをとっているが、いい歳をして馬鹿げた真似をするのはどうかと思うぞ。
私はちゃぶ台の上を注目する。すると、こいつも視線に気が付いた様で『ゆっ、折角お昼寝してたのに起きちゃったよ! 責任とってよね!』と少々怒り気味のプリプリした表情で話し掛けてきた。
ちょっと可愛いな、悔しいがそれは認めざるを得ない。
それにしても、おねーさんかあ。いつぶりの響きだろう、ぞくぞくして来ちゃった。

「二人ともそんな怪奇そうな目で見ないでよ、後悔しているんだから。ともかく、今日一日そいつと関わってみれば? ひょっとしたら早苗の感じているそいつの魅力に気付くかもよ」

「ゆっ! れーむはいつでも魅力的だよ! メロメロなんだよ~!」

おお、こいつもさっきの諏訪子の行動に疑問を持ったのか。こいつとは仲良くなれそうだ。
それにしても、こいつの魅力か。可愛いのは確かだが、すぐに飽きてしまうのでは?
それとも、純真な早苗の事だから飽きだなんてとんでもないと自分の心を誤魔化してまでこいつと関わっているのだろうか?
ううむ、謎だ。

「ゆう? おねーさん、難しそうな顔してるね! もっとゆっくりしていきなよ!」

するとちゃぶ台の上に乗ったこいつがぴょんと跳ねて、私の足元ですりすりと体を擦りつけている。慰めているつもりだろうか、しかし心がほっこりと暖かくなったのもまた事実。
私はこいつを抱き上げ、名前を聞いてみることにした。

「お前。名前はなんだ?」

「ゆっ、れーむはれーむだよ! いつもおねーさんの事を見ていて知っている癖に、おねーさん。ばかなの?」

同じ単語が入っていて少し理解しにくいが、内容をゆっくり理解したと共にこいつが私を見下しているかの様にふんと鼻息を立てて目を細め胸を反らせた態度に腹が立ったので、頭にげんこつを入れておいた。
こいつは床にでろんと傾き、ぷるぷる震えつつ元の張りのある丸に戻りながら『おお恐い恐い…、ごめんなさい』と振り上げた拳が怖かったのか謝罪の言葉を口にした。
可愛い。

「ちょ、か、神奈子! あんた何も言わずそいつを一層抱き上げて頬と頬をすりすりしてるけど、何事!?」

「…はっ! 無意識の内にスリスリしてしまった、これが『蝕』か…?」

「あんたは何を言っているの」

「ゆぅ~! すりすり気持ちよかったよ、もうおしまいなの?」

こいつ、いや。失礼だな。
れーむが残念そうな、物足りなそうな目をしながら私に上目遣いを使ってきて、『もう一回…、ね?』とおねだりをしてきた。
私の心が真正面から揺さぶられたものの、私は自分の体面を維持するのとこれは早苗もメロメロになるわなという事実を認めたくない為にもう駄目だと答えた。
すると、れーむが『それじゃあ仕方ないね。実力行使だよっ!』と高らかに叫び、なんと私の肩に乗ってきて私の頬に軽くキスをしたではないか!
もじもじとうろたえる私に、れーむはこう言ってきた。

「ゆふっ、ゆっくりした証だよ!」

もうだめだ。いただきます。

「か、神奈子! あんたすりすりどころかそいつの頬はむはむしてる! 完っ全に虜だよそんな幸せそうに目を細めないでちょっとそんなとても私の口からでは言えないような事までねえ神奈子おおおおおおッッッ!!!?」





「うーん…、プリン~」

「ゆっ、工事現場の様にうるさいのに幸せそうな寝顔で寝られるおねーさんがは大物なんだぜ。
今日も、幻想郷は平和だったんだぜ!」


  • かなこしゃま~www -- 万年初心者 (2009-05-26 19:09:36)
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最終更新:2009年05月26日 19:09