流し雛かえりびな

ゆっくりSS 流し雛かえりびな



 ここは幻想郷。外界にて幻想となったもの+αが流れ着く幻想の世界。
三月三日と言えばひな祭りだが、幻想郷でのひな祭りは少し変わっていた。
いや、つい最近になって変わったのだ。

 あるとき現れた不思議な生命体のようなもの、ゆっくり。
幻想郷の有名な人妖をかたどった不思議な饅頭は、ひな祭りさえも変えてしまったのだ。
幻想郷のひな祭りには後夜祭が存在する。
今回紹介するのは、ゆっくりの活躍によって追加されたひな祭りの後夜祭の様子だ。



「それじゃあ、いってらっしゃい」

「ゆっくりいってくるわ」

 三月三日も終わろうとしている刻限、とある川はたいまつの明かりに包まれる。
そこには多数の人と小さな船、そしてそれにのるゆっくりがいた。
そのゆっくりの名は『ゆっくりひな』厄神のような顔をしたゆっくりだ。

「去年一年、ありがとな」

「来年もよろしくな」

「ありがとー!」

 川べりに集まった人々は口々に船の上のゆっくりひなに語りかける。
ゆっくりひなには近くの人の厄を吸い取る力を持つ。
それはそれぞれでは微々たるものの、一年という時が積もれば結構な量になる。
そのため、川の下流に流して本当の厄神へと返すのだ。



「去年もいろいろあったわねー」

「うちはあんまり仕事なかったわよ? サボりかと思われちゃいそう」

「仕事は少ないに越したことはないわね」

「二重の意味でねー」

「それにしても、私達は明日からが一年の始まりよね」

「正月よりもよっぽど区切りっぽいわね」

「本当にね」

「本当ね」


 人々が作った船に乗り、川を下るゆっくりひな達。
それぞれが思い思いに去年の思い出についておしゃべりしている。
仕事、すなわち厄が多かった家の話、取るに足らない日常の話。
話の種は尽きそうもないが、そんな時間も終わりを告げる。
下流に着いたのだ。

「いよっ一年ぶり! 一年仕事頑張ったかい?」

「当たり前じゃない」

 川の下流でひな達を待ち構えていたのは河童達だ。
彼らは船ごとひな達を運び、厄神である鍵山雛の元へと運ぶのだ。
こうして人間と河童達の一年分の厄を吸収したひな達は厄神の元へと運ばれる。



「みんな、お帰りなさい。しっかり仕事はしたの?」

「したに決まってるじゃない。少ないほうがいいけど」

「それはそうね。それじゃ、厄を流すわよ」



 くるくる。くるくる、と。
鍵山雛は回る。人間と河童の小さな厄を吸い取るために。
ゆっくりひな達が一年かけて集めた厄を、吸い取るために。
ちょっとした、座敷童が授けてくれる幸運とベクトルこそ違うものの、
丁度同じぐらいの量の厄を。それらが積もり積もって大きくなった厄を。
集める。
集める。
そして、川に流す。

 このときばかりはどんな妖怪もこの川に近づかない。
厄神様が流した厄をこの身に受け取ることがないように。

 くる、くる、と。鍵山雛の回転が止まる。
全ての厄は流れた。ひな達の体はまっさらになった。

「さ、今年一年、また頑張りましょうか」

 里では人が待っている。宴会の準備を進めている。
厄神様への感謝、ひな達への感謝、仲介役を務める河童への感謝の宴だ。
河童が再びひな達を持って、宴会場まで歩いてく。
ゆっくりと歩く雛の後ろについて。

 ひな達は待っている。宴会を。そして、再び家族と会えるときを。
家族との新たなる一年を。



「おーい! 厄神様たちが来たぞー!」

 厄神様とちいさなちいさな厄神様たちの一年は、ここから始まる。
にぎやかな宴会と共に。



END

周囲の厄をその身に吸収する(オリジナルと違い放出できない)
そんな設定のせいでイマイチ出番が無いゆっくりひな。
本当は死に際に雛にその厄を流してもらうSSだったけど悲しい話なので却下。
そして流し雛のごとく年に一回、厄をため込んだ分流してもらえばいいじゃないと思い、
さっそく今まで書いた文に加筆修正じゃーい……と思ったら……。
加筆修正するまでも無く間違えて削除していました。いつ削除したんだ。
だからひな祭りに間に合わなかった、という言い訳を。
というわけでひな祭り企画じゃなくてスレ移転祝いに。



スレ移転おめでとうございます。





  • ゆっくり働いていってね!!! -- 名無しさん (2011-05-19 16:04:01)
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最終更新:2011年05月19日 16:04