※ テーマは「克服」「挑戦」ですが、一応性的な表現と設定があります
++++++++++++++++++
抑えきれない性というものはある
彼女の一番古い記憶は、母親の叱責であった。
自分でも持て余している悪癖に、本気で正面から咎めてくれた母。将来を本気で心配してくれた母。
泣きじゃくる彼女を頭の上に乗せて、母親は打って変わって優しい声で聞いてくれたものだ
「どうしてちびちゃんはがまんができないの?」
「できないよおおお!!!」
「やったら怒られるってわかってるでしょ?」
「でも、がまんできないんだよ!!!がまんしてたらゆっくりできないよお!!!」
「がまん、できるはずだよ・・・・・・」
頭から下ろし、母親は真剣に彼女を見詰めた。真摯な視線に、思わず目を逸らしてしまう。
「がまんできなかったら、他の皆がゆっくりできなくなるんだよ?周りをゆっくりできない子は、やっぱりゆっくり
できないよ?」
「でも・・・・・・・・・」
「大丈夫。きっと我慢できるようになるよ!!!お母さんのこどもだもん!!!」
―――考えてみれば、あの頃が一番幸せだったのだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
彼女は母親とのあの会話を思い出し、胸の内で何度も反芻した。
改めてその重要さが解る
もう仕事前だというのに、部屋の隅で涙目になりながら彼女は呟いた
「あいつは、悪魔だよ・・・・・・・」
「そ、そんなに酷い子がいるんですか!!?」
西日暮里の託赤ちゃんゆっくり所にて――――日勤で赤ちゃん達を預かるゆっくりと人間の保育士2人は、ガタガタと震えながら、子ども
達の到着を待っている。
ちなみに、人間の方が後輩。
「――――『あれ』は、凄いよ・・・・・!!!もう、太刀打ちできないよ!!!」
「私、ここに来る前の実習で何度か悪い子は見ましたけど・・・・・・ひょっとして、てゐちゃんとかですか?確かに意地悪は多いけど・・・・」
「そ、そんなことだったら苦労はいらないよ・・・・・いたずらとか、そういう問題じゃないんだよ・・・・」
そうこうしている内に、早扉からは10人近くの赤ちゃんゆっくり達がピョンピョンと元気よく入り込んでいた。
「「「ゆっくちちていってね!!!ゆっくちちていってね!!!」」」
「は、はい!お早う~」
見たところ、種類もれいむ・まりさを中心に、少し珍しいかなことやまめがいるくらいで、どこにでもいる赤ちゃん達だった。見た目もこれといって
変哲は無い。一応、成り立てでもプロとして、後輩は常人には難しい、個々の見分けもついた。
新顔が珍しいのか、いつもの玩具やカーペットにも興味を示さず、赤ちゃん達はころころと転がるように後輩の足元に移動し、それぞれしげしげ
と見上げている。
「「「ゆっきゅりちちぇいっちぇにぇ!!!」」」
「こんにちは~!! 今日から、ここで働く事になりました~。よろしくね!!!」
「ゆゆ~」
「にゃんでゃきゃ、びゃきゃちょうにゃびゃびゃあでゃにぇ~ (あまり頭の良くない女性の様ですね・・・)」
「みきゃきぇにゃいへんにゃやちゅがいりゅとおもっちゃら、ちんがおだったんだねにぇ (見かけない方がいるとは思ったんですが、新人さんでしたか)」
「どょうしぇ、みきもちだりもわきゃらにゃいいなきゃものにきまっちぇるわ!!! (まだ中々ここの事には慣れていないでしょうね)」
「きょきょでのぼしゅぎゃだれにゃのきゃ、しょにちきゃらちっかりたたききょんでやらなきゃいけないにぇ!!! (序列というものがある事を解ってもらいましょう)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
次第に問題児が増えてきているし、そんな子達も積極的に受けいれているとは聞いていたが・・・・・・・
「中々骨の折れそうな赤ちゃん達だわ・・・・・」
「にゃにきゃいっちぇりゅにぇ (何か言ってますよ)」
「おお、きょわい きょわい (おお、こわいこわい)」
悪い子というのはどこにでもいるものだ。
早速教育者として奮い立つ新人だったが・・・・・・
「この子達はまだ、よくいる悪がきの範疇ですよ?そんな『悪魔』なんて子は・・・・・」
「ま、まだ来ていないんだよ・・・・・・」
「そんなに震えてないで、他の子の相手もしてほしいんですが・・・・・・・」
「あ、あいつを見てると・・・・・・」
「????」
「『ショウドウ』が抑えられなくなるんだよ・・・・・・・・・」
そこまでいくと、この先輩自身にも問題があるような気がするが、そんな衝動を書き立てるようなモンスターが、これからやってくるのかと思うと、目の前
で暴言を吐き続けながら、ぷにぷにと体当たりを繰り返し続ける赤ちゃん達が可愛く思える。
ややあって、廊下をぽてぽてと小さな固体が飛び跳ねる音が聞こえる
「―――う、うわあああああああああああ!!! あいつがきたああああああ!!!」
「っ!!? 足音だけで解るのですか!!?」
一体どんな悪ゆっくりかと構えていると――――
「ゆっくちちていってにぇ!!!」
これまた珍しい、ありすの赤ちゃんだった。
確かに、最近ありす自体はこの辺で見かけないが――――
しかし、目を見張るべきは―――――
「ゆっ!!! あたらちいせんしぇいだにぇ!!! ゆっくちちていっちぇね!!!」
ぴょんぴょんと元気よく後輩の足元まで来ると、デコが床につくぐらい丁寧にお辞儀。
他の赤ちゃん達にも元気よく ゆぅゆぅ と挨拶すると、皆親しげにすりすりを始めるのだった。
「こ、これは・・・・・・・・・・・・・・・」
後輩はわなわなと震え始めた。
先輩は既に目を瞑って見ない振りすらしている
「ゆっ?しぇんしぇいたち、どうちたの?」
「いや・・・・・何というかその・・・・・・・・・・・」
大きさは、ソフトボール大の赤ちゃん達の中に混じって、一番普通におしゃべりできる割には一回り小さく、本当に両手の平で隠せる程の大きさ。
年の割には、やや下膨れ気味の体かも知れないが――――その大きく丸い、愛くるしい目、本当に柔らかそうな質感、優しく幸せを一心に受けて
育っているかのように笑っている口元、暖かそうな頬――――
「せ、先輩・・・・・・・・・・!!!」
「う、うわああああああああああああああ!!!」
「この子、めちゃくちゃかわいいいいいいいいいいいいい!!!」
ありすの赤ちゃん自体はたくさん見てきたが――――育った環境が余程恵まれていたのか、愛情を余程家族から注がれているのか――――また、
周りに同じありすの赤ちゃんがいないこともあって――――そのモンスターは、人知を超えた怪物、という意味すら当てはまるほど、可愛かった。
赤ちゃんの区別もうまくつかない人間でも、少し普通の赤ちゃんとは異なった可愛さを持っている事に気がついただろう。
本当に幸せそうに他の赤ちゃん達とじゃれあっている様子を見ていると、胸が温かくなると同時、それが何だかむらむらしたものさえこみ上げてくる。
ガタガタと震える後輩に気付き、本当に疑問に思ったのか、困った風に軽く眉毛を寄せ、赤ちゃんありすは首をかしげるように傾いてきいてきた
「だいじょうぶ?どうしてこわいこわいちてるの?」
「いや・・・・・・・何というか・・・・」
「ゆっくちできにゃいの?どうちたの?」
本当に心配してくれているのか。
他の赤ちゃん達も加わる
「ゆっ、ちょんにゃむみょうちょうにゃちんじんはほっちぇおいちぇ、いっちょにあちょぼうにぇ!!! (不慣れな新人さんですし、そっとしておいて、一緒に遊び
ましょうよ)」
「しゃっきかりゃガタガタふりゅえちゃり、さけんでゃり、うるしゃいおばしゃんだにぇ~ (先程からうろたえてばかり、騒がしい方ですこと)」
「ゆぅ~しんぱいだよ!!」
追撃
どうやら本当にこちらに気を使っているらしい。
外見の愛らしさに加え、こんな心配りももっているとは・・・・・
「せ、先輩、この子可愛すぎる・・・・・・・・・・!!!」
「う、うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと、他の子と同様に扱える自信ないですよ!!? これはちょっと異常・・・・」
他の赤ちゃん達に引きずられ、遊んでいるとコロリと心配等吹き飛んだようだが、また気がついてはこちらをしたから見上げている。
これは、たまらない
「かわいいなあ・・・・・・・ 赤ちゃん達の可愛さにも鬱陶しさにも、もう慣れたと思ってたのに・・・・」
これは、躾も難しそうだ。
元々かなりの良い子らしいが、他のやさぐれた赤ちゃん達と一緒に、どの様に付き合っていくか確かに不安になる
「はー、こういう意味だったんですね!!!先輩。確かに可愛すぎて怖いくらいです・・・・・」
「うん・・・・そうだよ・・・・・・」
「やばいね・・・・・食べちゃいたいって表現がよく解る・・・・」
「うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとうだよ・・・・・・・・・・・・食べちゃいたいよ・・・・・・・・・・・・・・・」
「―――――先輩?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いわああ・・・・・・・・・・・・・・・・」
先輩は、もう泣いても震えてもいなかった。
しっかりと赤ちゃん達の方を向いている。
しかし、その目は閉じられ、頬は上気し、軽く飛び出した舌からはよだれが・・・・・・
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
「せ、先輩!!?」
「う、うわあ!? ち、ちがうよ!!!そういうおかしな『そこまでよ!!!』的な意味じゃなくて、単純にかわいいから、そういう・・・・・・」
「先輩・・・・・・・・・・・」
「決して邪な心じゃないから!!! 健全に、可愛い存在を愛しあい・・・・・いや、教育したいっていう・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちがうんです!!!信じてください!!!」
じたばたともがく彼女を、赤ちゃん達が面白がっている
「むきゃきゃきゃー!!!」
「ちぇんちぇいおもちろーい!!!」
「ちぇんちぇい、いっちょにあちょんでー!!!」
隅にいたのに気がついたのか、赤ちゃん達は一斉に彼女に向かって飛び跳ねていった。
恐怖し、悶え、取り乱しはするものの、流石は教育者
ポンポンと飛び込んできては頬摺りをする赤ちゃん達を、苦笑しつつ皆受け入れている。悪がきばかりではあるが、やはり愛されている先生
なのだろう。皆楽しそうだ。
「ちぇんちぇーい!!!」
「くすぐったいよ!!!そろそろおこしてね!!!」
「しぇんしぇい?」
戯れていた先輩に、横から移動した赤ちゃんありすが、同じくすりすりを始めた。
「んほおおーーー!!!」
「うわっ!!!先輩!!?」
「しぇんしぇい しゅきー!!!」
「だ、誰か止めてええええええええええええええええ!!?」
上体を起した彼女は、顔を真っ赤にして赤ちゃんありすに向かい―――――
「先輩、そこまでです!!!」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
誰にでも依存してしまうものはある。
アルコールだったり、趣味だったり、人間(ゆっくり)関係だったり、後は、3大欲求のいずれかだったり。
「元々あの種のゆっくりはそうした欲求が強いらしくてねえ・・・・」
「食い意地のはった子が多いから、食欲ばかり強い存在って見る人もいるけど、ゆっくりにも色々いてね」
当の先輩のいない控え室で、他の保育士さん達に教えられ、後輩は改めてゆっくりとの付き合い方の深さを思い知らされた。赤ちゃん達を導くはずの
仕事だったが、やはりそれだけには収まらない――――知ったつもりで知らなかったゆっくりの実態を初日から知る事になった。
「まあ、あの赤ちゃんありすは確かに可愛いわな」
「本当にねー。まあ、あの先生と結局同族なんだからいいじゃないか、って気もするけどねえ」
「そういう言い方は無いじゃないですか!!!」
そこまでいくと、種族間の差別にも等しい。
先輩は勤務後、落ち込んで、別館の休憩室に行ったままだったはずだ。時間はもう深夜にさしかかり、終電も危なかったが、とにかく向かってみる
「先輩・・・・・・・」
「がまん、できなかったよ・・・・・・・・・・」
実際に赤ちゃんありすに被害は無かったのだが・・・・・・
「お母さんとの約束、守れなかったよ」
「約束?」
「昔から、がまんが中々できなかったよ。お母さん、いつかこうなるんじゃないかって心配してたんだよ。それが本当になってしまったよ・・・・」
「だったら、もう一度克服しましょうよ・・・」
涙でべとべとになった顔を上げる。
先輩として恥ずかしかったが、彼女はもう少し弱音を吐いてしまった
「自分の種のせいだ、っていうのはやっぱりよくないよね!!?」
「う~ん・・・・・・まあ、人間でも、言い訳に『男だし』『女だし』、とか、『〇〇人だからしょうがないよ』って言っちゃうと軽蔑されますねえ・・・・」
「ゆっくりも同じだよ!!!」
「でも、先輩この仕事5年間も続けてきたんでしょ?」
「我慢の連続だったよ・・・・・子供が好きだから、それを仕事にしようとしたのが間違いだったんだよ・・・・・・」
母親に支えられて幼年期を過ぎ、小社会に出る頃になっても、彼女の種族ゆえの悪癖は中々収まらなかった。
何度か致命的に箍が外れたことがあり、学び舎を去る事になったり、進路に行き詰ったりした。
痛い目を見て、改めて我慢することを覚えざるを得なかった自分を、彼女は恥じた。
「碌な事がなかったよ・・・・・・・」
依存症を治そうという自助グループにも加入した。酒やTENGAがどうしても手放せないすいかやゆうぎもいたし、自分と同種もたくさんいた。皆で
社会復帰を誓い合い、克服を目指したが、最後の方まで残ってしまったのは自分だった。
もう一人、どうしても朝起きれないてるよふがいたのだが・・・・・あの後はどうなったのだろうか?他人事ではない。
「辛かったよ。何とかそうした事を元から考えないようにして生活するようしたよ。それで、自分でも克服できたと思ったから、今の仕事について、5年
続けたよ・・・・・・」
あの、天使の様な赤ちゃんがやってくるまでは・・・・・
「反則だよおおおお・・・・ あれは可愛すぎだよおおおおおおおおお」
「そうですね、確かに可愛いですけど・・・・・・・・・・」
昔は可愛いゆっくりを見れば、見境無しだった。保育士となって赤ちゃんと付き合い始め、邪な本能が消えた訳ではなかったが、可愛いものを見て
も、確かに我慢はできるようになっていった。
克服できないことはない、と、自分に自信もついた。
しかし、ある朝
―――あの赤ちゃんと出会った
可愛かった。
顔やら何やらから火が出た
見た目は天使だ。心もそんな感じだ。
彼女にとっては、悪魔以外の何者でもない。
いっそ、本当にそう思って憎んでしまえば楽になれると思い、今朝は口に出して「悪魔」と称した
しかし、保育氏としての誇りやら――――あの愛くるしさ、そして、やはり本能がそう捉えることを許さなかったのだろう。なるべく遊ぶ時も、距離を置い
て接していたが、今日、初めて肌と肌が接触してしまった
限界だった。
「もう、この仕事やめるよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん~~、こんな事言うのもなんですけど」
「克服」というのは人間にも他人事ではない。
「先輩は、今まで我慢に我慢を重ねてきたんですけど――――我慢の仕方って2通りありますよね?お酒を例えるなら、1つ目は『お酒なんてこの世に
存在しない』って思い込むやり方と、『あるものとして受け入れる』ってやり方」
「そうだね!!」
「最初の方は、お酒の無い国か、お酒とは無縁な山奥にでも住み着くとかの方法になりますけど、2番目の方は、より辛いですけど、マスターできれば
完全ですよね!!!」
「そだね!!!」
「いまの先輩は、元アルコール中毒者が、酒屋さんで働いているようなものですよ!!! それ自体凄まじい事ですけど、完全に断ったはずのお酒について、
また更なる高級な美酒が目の前に置かれているんです」
「ん~」
「その美酒に、まったく触ることなく商売はできませんよね? 今の先輩は、そのお酒が置かれた棚を必死に見ないようにしてる状態。でも、現実にその
お酒はお店に置かれているし、買いに来る人もいる。だから、それに関わってみるんですよ!!! 勿論飲んじゃいけませんが!!」
例えは悪いが、確かにあのありすは至上の美酒。
この例えは、昔一緒に自助グループで会ったゆーぎにぴったり当てはまる。
「に、匂いだけ嗅いでもいいかな・・・・・・?」
「そこまでです」
「だよね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、後輩からの思わぬアドバイスで、朝に思い返していた母親からの一言がまた胸に舞い戻った。
―――大丈夫。きっと我慢できるようになるよ!!!お母さんのこどもだもん!!!――――
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
運がいいのか悪いのか――――
ありすの家族は、どうにも不規則な仕事らしく、日勤で預かることもあれば、一晩預かることもあった。
この託赤ちゃんゆっくり所も、保育士の人数が増えたこともあり、普段日勤の彼女は、次の週に夜勤となった。
そう―――一晩、赤ちゃんありすを預かるのである。
修羅の夜!!!!
勿論、予防策として、他の保育士達も夜勤を勤めるが、これが本人にとっても、この託赤ちゃんゆっくり所にとっても、決戦の日と言える。
夕方、寝付けなかったようで、緊張しきって隈を作った彼女を、力強く、職員一同励ました。
本当なら、とっくに退職になってもおかしくは無い。
しかし、それ以外ならばゆっくりの保育士として優秀だった彼女は最後のチャンスを与えられた。
これで何かが起きそうだったら、全力で周りに止めてもらい、自身も退職するつもりでいた。
本当に賭けであり、決戦の日だった。
「これで我慢できれば、もうこの先も大丈夫だよ!!!」
「頑張るんだぜ!!!」
「思い出すなあ・・・・・」
一番の古株である、どこか情緒不安定な人間の男性職員がつぶやく。
「僕が、ここをやめるか続けるかを決めたのも、夜勤の日だったよ・・・・・ れみりゃの子が、れいむちゃんを齧っちゃって大騒ぎだった翌日だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「君は、もう5年いるから体験してるよね? だけど、その時先輩から言われた事を君にも言うよ。毎年クリスマスにホットケーキパーティーやるだろ?」
「うん」
「あれ、今年もやるし、あとババロアも追加する事になったから―――――いい子にしてた赤ちゃん達の、『ちあわちぇ~!!!』を見るまで、やめちゃ駄目だよ!!」
「わ、解ったよ!!! 頑張る!!!」
まずは―――周りが見守る中、鼻息も荒く、やってきた赤ちゃんありすの、隣に座って、彼女は食事を食べた
「おいちいね!!!」
「そ、そうだね・・・・・」
「う~んんん!!! ちちちちあわちぇ~!!!」
少しお行儀は悪いが、口いっぱいにご飯を頬張りながら、心から食事を楽しんでいる赤ちゃんありすにとんでもない衝動を覚えつつ、彼女は自分の食事を
かっこみつつ、必死でマグマを抑えた。
その後、色々と
ゲームをしたり、スキンシップという事で「たかいたかい」もした
その間、彼女は延々と、「とある人間の男性に胴つきのゆかりんが約260分に及ぶ、兎に角卑猥な行為の予告を耳元で囁き続ける」絵を思い出していた。
行為は同じでも、全く食指をそそらないものを思い浮かべることで、何とか乗り切ろうとした。
流石に、お風呂にいれるのは断った。
こちらを少し潤んだ目で見つつ、「いっちょにはいれないにょ?」と言われた辺りで、本当に箍が外れかけたが、何とか持ち直した。
夜、絵本を横で読んで寝かしつける事に成功した頃は、心身ともに疲れ果てていたが、その疲れが却って自制に繋がった。
赤ちゃん達が皆寝静まった頃―――控え室で休んでいると
事件は起こった。
赤ちゃんの一人がひきつけを起し―――職員の一人が病院へ同行し、続いて一緒に起きて泣き始めた赤ちゃん達の対応に追われている中、何人かの赤ちゃ
んが部屋から抜け出してしまった。
勿論、外に出る事はできないが、都内最大の託赤ちゃんゆっくり所である。
その中に、あの赤ちゃんありすもいた。
人間の職員達は、皆対応に奔走し、ゆっくりの職員が中心となって、抜け出した赤ちゃん達の捜索に当たった。
彼女も捜索を志願したが、万が一、赤ちゃんありすと人目の無い所で出くわしたら恐ろしいので、とりあえず後輩とともに、赤ちゃん達の寝室で待機することとなった。
騒ぎに感づき、目を覚まして泣き出す赤ちゃんは後を絶たなかった。
「ごめんなさい。ちょっと失礼しますね」
何人かの赤ちゃんを両腕に抱え、後輩は一度寝室を出て行った。
机の上の、大小の籠。
ふかふかの布の上、大きさに合わせた赤ちゃん達がすやすやと寝息を立てている。彼女は一つ一つを覗いていった。
「ゆうううう・・・・・・・・・・こんなに可愛いのに・・・・」
本当に、どうしてこんな事になってしまったのか。
それでも、この建物の中をさまよっているかもしれない、赤ちゃんありすの事を考えると、欲よりも寂しさと心配が募る――――
しかし
「しぇんしぇい、どうちたの?」
振り返ると―――――悪魔がいた
外に行ったと思っていたら、どこか籠の隅にでも隠れてしまっていたのか?
「そ、そんな所にいたんだね・・・・・・・ゆっくりもうおねむさんしようねえ・・・・・」
「しぇんしぇい、こわいよおおお!!!」
騒ぎに気付いたのだろう――――赤ちゃんは、全力で彼女へ向かい――――顔を埋めた
不意打ちだった。
視界が思わず真っ赤になったが、母親の言葉と、事前に職員から投げかけてもらった言葉が思い浮かぶ
「だ、だめっ!!!」
思わず、弾き飛ばしていた。
赤ちゃんありすは、ころころと転がり、近くの籠にぶつかって更に一回転し、ぷよぷよと元に戻った。
「ゆ、ゆええええええええええええええ・・・・・・」
他の赤ちゃんも起きてはまずいと、口を軽く塞ぎ―――目を瞑って赤ちゃんありすを見ないように心がける。
自分は最低のゆっくりだと、心の中で、赤ちゃんの様に大泣きした。
「ごめんね、お願いだからもう寝てね?それから、こっち見ないで・・・・・・・お願いだから・・・・」
「どおちて?どおちてそんなこというの?」
「お願いだよ・・・・!!!」
「しぇんしぇい、いっつもありしゅとあそんでくれないにぇ!!! きょうはごはんもたべてくれたし、いっしょにあしょんでくれたからたのしかったよ!!!」
本当に聞き分けのいい子だ。
もう、大声を上げることも無く泣き止んでいる。
「しぇんしぇいは、ありしゅのこときらいなの?」
大好きです。
一目惚れでした。
心から、どうにかしたいくらい、大好きです。
「ありしゅはしぇんしぇいのこと、しゅきなのに・・・・・・・・・・・・」
彼女は泣きながら目を瞑り続けた。
だから――――
頬にキスをされたことに気がつかなかった。
もう、我慢できなかった。
そのまま、体をスライドさせ――――その小さい花の様な口を、自身の唇へとあてがってしまった。
「うみゃああああああああ・・・・」
時間にしてどれくらいそうしたか解らないが、苦痛とも取れる赤ちゃんアリスの声で、彼女は目を覚ました。
咄嗟に顔を背け、無言でその場を離れた。
ガタガタと震えが止まらない。
もう、全てが――――――自分の人生も、この職場の人達さえも滅茶苦茶にしてしまったことを悟った。
叫びこそせず、ただ、声を絞って、ゆっくりらしかぬ咽び泣きを繰り返した
「しぇんしぇい、どうちたの!!!? ありしゅ、なにかわるいこだった!!? ごめんにぇ!!?ごめんにぇ!!?」
背中に、赤ちゃんありすが執拗にすりすりをして振り向かせようとしている。
もう、欲求は起きなかったが、とんでもない絶望が彼女を支配し、振りかえるどころではなかった。
「ゆううううううう!!! 赤ちゃんは何も悪くないよおおおおおおおおおお!!!悪い子は先生だよおおおおおお!!!」
「どうちて? しぇんしぇいなにもわるくないでしょおお?」
「だって・・・・・・赤ちゃんに・・・・・・」
どう説明するべきか
「とにかく、先生のした事は犯罪なんだよ・・・・・・」
「『はんじゃい』?」
「先生はおまわりさんに連れて行かれちゃうんだよ・・・・・・・」
「―――キスしちゃったから?」
「そうだよ!!!」
これなら解りやすかろう―――と思っていたら――――
柔らかいものが、また、唇を塞いだ
「う、うわあああああああああああ!!?」
「だいじょうぶだよ!!! しぇんしぇいなきゃないで!!!」
もう完全に泣き止んだ赤ちゃんありすが、にっこりと笑ってこちらを見上げていた。
悪魔だなんて、例えでも言えない、天使そのものだった。
「あ、あのその・・・・・・・・・・・・・・・」
「いってることよくわからないけど・・・・・・・・・・・・・・ありしゅはしぇんしぇいのこと、だいすきだよ!!!」
「でもね、それはいけないことなんだよ?先生と、子供とがキスしたり、すりすりしたり・・・・・その・・・・すっきりーをやるのは、絶対にいけないんだよ…」
赤ちゃんありすは、少し首を傾げて考えてから、両頬を赤らめて言った。
「じゃ、じゃあ、ありしゅはしぇんしぇいのおよめさんになるにぇ!!!」
「ゆっ!!?」
「しぇんしぇいのおよめさんになれば、なんでもできるし、いつもいっしょにいられるよ!!!」
「いやでも。早すぎるよ・・・・・・・」
「じゃあ、ありしゅがおおきくなるまでまっててね!!! このあとがっこうにいって、おしごともみつけて、りっぱなとかいはになったら、およめさんにしてね!!!」
もう我慢ができなかった。
それは、今までの欲求ではない
「ごめんね、ごめんね・・・・・・・・」
大泣きしながら、彼女は赤ちゃんありすを抱きしめた。
もう、何の欲も沸かなかった。が、罪悪感がひたすら全身を駆け巡った。
気持ち良さそうに、胸の中ですりすりを繰り返す赤ちゃんありすと、いつまでも一緒にいたかったが、そうもいくまい
「でも・・・・・・先生なんかといっしょにいるべきじゃないよ?ありすちゃんにはありすちゃんのゆん生があるんだよ!!!」
「ゆう・・・・・・・でも、しぇんしぇいのおよめさんにはなりちゃいよ?」
「そ、それまで先生我慢できる自信が無いよ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ぎゃまん?」
もう一度首をかしげてから、何かを思いついたらしく、赤ちゃんは揚々と言った。
「おねえちゃんがいってちゃよ!!! なにかがまんするとき、『こだし』にするといいって!!!」
「こ・・・だし・・・・・・・?」
「あのね、ありしゅ、おかちをたべちゅぎ、っていつもおこられるの。だから、これからおかちはたべちゃだめ、っていわれたんだけど、がまんできなかったの」
「うんうん」
「それでにぇ、おかちをじゅっとたべにゃいままはかわいそう、っておねえちゃんがいってくれて、いちにち、『ちろるちょこ』いっこだけならたべていい、っていわれたんだよ!!!」
(チロルチョコ一個で我慢・・・・・?この赤ちゃんの大きさだと、それでもかなり多いよ・・・・?前はどれだけ食べてたの?)
「しょれでね!!!おかげでずいぶんやせたんだよ!!!もう、まえみたいに、おかちばっかりたべなくてもがまんできるようになったんだよ!!!」
確かに、やや丸っこい体系ではあったが・・・・・・
前まで太ってた頃の写真を今度見せてあげる、と約束してもらった。
しかし、良い事を聞いた。
「『小出し』・・・・・・・・・・・・・・・・・」
現実逃避するのでもなく、真っ向からぶつかるのでもなく、ただ、全てではなく、『小出し』
「中々いいアイデアだね!!!」
「でしょ?」
「ゆううう・・・・・・・解ったよ!!!先生も頑張ってみるよ!!! それでね、ずっと、まってるから。先生、もっと我慢できるいい先生になるから・・・・・」
―――いつか、お嫁になってね!!!
2人は固く誓い合った。
ありすが大きくなって――――先生がちゃんと我慢できるようになったら――――その時は―――――――
まだ、口には早い、と彼女は赤ちゃんありすの頬に口付けをした。
「ゆう、くしゅぐったいよ!!!」
「続きはまた大人になってからね!!!」
2人はクスクスと笑いあい―――赤ちゃんはいつもの籠の中の寝床に転がり込み、直ぐにすやすやと可愛い寝息を立て始めた。
どんな夢を見ているのだろう
―――さて
後輩はまだ帰ってこない。
他の職員も、どこかへ行ったきりだ。
「『小出し』ねえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おもむろに、籠の中を覗きこんだ、その時。
,.--., -─-- 、.,_( ):
.._____.. ________ : ,.i( ) rェェェ ` <:
:/ ヽr" "ヽ :./ |,r-r-| ':.,
:ノ r ============r _,./__,,. -‐ ''"´ ̄ ̄`"'' .、`ヽ':,
:( r"v''ヽ ,. ''"´ /´ / ;' ! ;`ヽ,ヽ、:
:/ \/ i '.、 .;' ', i ´ハ_ _ハ ノ メ !,!ヽ,.ヽ: そこまでよ
:∠ .// 人 `Y i Vレ'7 ,.!/ V ! ハ ハノ., ',ノ':
:ノノ // r ノ/ ノイノレ' _ノ i=ハ( ), 、( ) ハ.ノi i:
:( ( ( i ノ rr=-,:::::::r=;`.>' iX|'" ,rェェェ、 "ノ!レノ :
:ノ ヽヽノ ( "ノ( ∠._ ノ |=ヽ、 |,r-r-| ノ!iレ:
:) ヽ人 ノ,ゝ ⌒ 'ー=ョ ,.ヘ,) | |>,`ニニ´_,.,イ| |:
:ノノヽ ( \ >,、 _____, ,.イノ / | |-^ _ , ' .ヽ | |:.\ グリグリ グリッ/
「お、お母さん!!?」
「何、良い話にしようとしてるの? 馬鹿なの? HENTAIなの? 児童ポルノって言葉しってるの?」
「いや、これは・・・・・・・・私は純粋に可愛い存在と愛し合いたいと・・・・・・・・・」
「そういうネタは自重しろって、いってるでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
「勝手に理由つけて美化するんじゃないの!!!」
――――後輩は戻ってきた時――――先輩のすわこが、どういう血の繋がりか、さとりらしき母親に、ずるずると引きずられて行くのを目にした。
止められなかった。
+++++++++++++++++++++
3年後、ぱちぇさんのMUGEN道場で修業を積んだすわこ先輩は、完全に煩悩を捨て切っていたが、既にありすは卒園していた。
学校を覗いてみたら、何故かリバウンドしてしまったらしく、丸々と肥えていたが、それでも愛情は代わることはなく、また道場へ煩悩を捨てに行くしかなかった。
これは、ありすが大学院を卒業するまで続いたという
了
―――――――――― (更に蛇足)
「せんせい、いなくなっちゃったねー」
「おもしろかったのに、つまらないねー」
「まりさせんせい、おもしろくないもんねー」
「おねえちゃんたち・・・・」
「ゆっ?どうしたの?ありすちゃん?」
「どうちて、ちゃんとおちゃべりできゆのに、せんせいたちには、わざとヘンなこというにょ?」
「それはね・・・・・・・・・・・・・・・」
「「「「わかってていってるんだよ!!!」」」」」
「ゆ、ゆうううう!!!?」
「にゃんでゃきゃ、みゃじめにじきゃんでゃけかきぇてぇかいちゃわりには、しもねちゃでおわりゅにゃんてぇさいちぇいだにぇ~~!!!」
「もっちょおもちりょきゅちたり、ニーズをちゃぎゅるようにちなきゃだみぇだよねえええ!!!」
「な、なにをいっちぇるかわかりゃないんよ!!!」
「わからないけど、なんかカワイイでしょ?」
「そうおもってるのは本人だけだよ!!!」
- 赤ちゃんおもろいw -- 名無しさん (2009-03-28 06:24:00)
- さいしょに じどうぽるのちゅうい ってかいたらいいよ!よいこはまねしないでね!! -- 名無しさん (2009-07-12 16:03:55)
最終更新:2009年07月12日 16:03