ゆっくり見聞録! 浅草編2っ!

「それにしても、何でまたもんじゃ焼きなの?」

私とさなえは雷門近くにあるもんじゃ焼きのお店『紙ふうせん』さんにお邪魔している。
店の外の様子は洋風で、初めパッと見たときはお土産屋さんかなと思い、まるでもんじゃ焼きのお店だとは思いもよらなかった。
しかし、さなえに言われるがままに中に入ってみると鉄板付きのテーブルがずらりと並んでいて、なるほどここはもんじゃ焼きのお店なんだな~、としごく当然な感想を抱いた。
店内は青で彩られた南仏風(これは実は後でさなえから教えて貰って気が付いたのだけども…)、いわゆる西洋のイメージの壁紙が貼られてあり、イメージしていたコテコテのもんじゃ焼きのお店とは違うものの清潔感に溢れて中々どうしていい店だとも感想を持った。
今は修学旅行の季節だからだろう、店内は学生さんたちの若い声で賑わっている。私にも、あんな時期があったのかな…。
お店に入ったとき店の奥側にあった二人席がたまたま空いたということで、そこに座らせて貰い私とさなえはゆっくり注文を待っていると言うわけだ。

「ゆっ、もんじゃ焼きは結構歴史のある料理なんですよっ!」

さなえが先ほど私が質問した内容に答えるため、口を開いて演説する。

「現代ではどちらかと言えばもんじゃよりお好み焼きの方がイメージが強いのは否めませんが、実は元々お好み焼き自体がもんじゃから派生した料理なんですよっ!
もう少しもんじゃ焼きの歴史を説明するとすれば、その明確な起源は『麩の焼き(ふのやき)』と呼ばれるお菓子にまでさかのぼると言われています。
麩の焼きとは小麦粉の薄い皮にお味噌やお砂糖を塗って巻いたもので、昔の人のお茶会の茶菓子としてかの有名な『千利休』さんが好んで作らせていたそうです!
この麩の焼き、江戸時代末期になると、お味噌の代わりに餡子を巻く『助惣焼き(すけそうやき)』と呼ばれるものが登場して、さらに明治になると東京を中心とした地域で『もんじゃ』が生まれたというわけです!
ちなみに、お好み焼きだけでは無くたこ焼きももんじゃから派生したものなんですよっ!」

さなえが浅草に来る前に事前に調べたのだろう、様々なうんちくを私に教えてくれる。
そのうんちくは実際に興味の持てるもので、私は心の思うままにさなえに相槌を返した。

「へえ、そうなんだ! お好み焼きだけじゃなくてたこ焼きももんじゃが元だなんて、意外だなあ。言い方は悪いけど、てっきりお好み焼きの、その。まあ、鉄板焼きの大体がもんじゃが元ってことなんだね」

「ゆっ! 浅草は一説に『もんじゃ焼き発祥の地』と言われるだけあって、もんじゃ焼きの名店がいくつもあるんです!
『もんじゃまんぼう』さんや『ひょうたん』さん、『染太郎』さんなど様々です!
さらに『ひょうたん』さんに至ってはかの有名なバラエティ番組『どっちの料理ショー』に4回も出演して、実際に勝利を収めているんです! ただ、宴会でしか行けないのがネックですけどね…。
また、『もんじゃころっけ』のようにもんじゃをコロッケやバーガーにした従来のもんじゃ焼きのスタイルを覆すお店も現れているんですよっ!」

「あ、あはは、そうなんだ…」

「ふふふ。はい、そうなんですよ。やっぱりどうしてもお好み焼きの方がイメージ強いですからね、皆勘違いしがちなんですよ。ご注文いただいたミックスと明太子モチです」

「あ、すみません…。どうも~」

店員さんのおばちゃんに話を聞かれていた、と言うよりかは話のキリのいい所まで待っていてくれたみたいで、少し恥ずかしくなりながらもおばちゃんから持ってきていただいたミックスと明太子モチを受け取る。
私はもんじゃ初心者なので、メニューに『初心者の方におすすめ!』と書いてあったミックスを頼むことにしたのだ。さなえは何やら通の様なメニューを頼み、さらにトッピングにチーズも頼んでいる。

「ゆぅ~…。これですよ、おねーさんっ! 口内に広がるピリッとした心地よい辛さに、モチモチっとした食感が絡み合い、さらにチーズが飛び込んでなんとも言えないハーモニーを奏でる…! ゆううっ!」

さなえが幸悦の表情をして体をよじらせている。そこまで美味しいものなのか、『明太子モチ』と言うメニューは…!
しかし、さなえは一向に経ってももんじゃを焼く素振りを見せない。鉄板も既に熱くなっているし、とりあえずさなえのもんじゃを焼く姿を参考に私も焼いてみようと考えていたのだけど、どうしたのだろうか。

「ゆうう、その、さなえは手が無いから実際に焼いた経験が無いんですよ…」

かわいいなあお前は、もう! さなえを向かい側の席から私の膝元に持ってきてぐりぐりとさなえを撫で回していたその時だった。

「お客様。焼き方がわからないようであれば、私と一緒に焼きませんか?」

「あ、はい! お願いします!」

渡りに船とはこの事で、私たちの様子を見かねたのだろう店員さんが手取り足取り教えてくれる事になった。
私はさなえを元の席に戻し、二人で店員さんの説明を仰ぐ。

「では、とりあえずこちらのミックスで焼いて行きますね。まず、生ものがある場合は先に焼いてしまいます。ミックスの場合はえびとベーコン、イカが入っていますのでそれらを焼いていきましょう」

店員さんが慣れた手つきでカップボールからえびとベーコン、そしてイカを鉄板に置いてゆき焼いていく。

「は、はあ…。この焼く理由と言うのは、他の具材や生地と一緒に焼くと熱が通りにくく生になっちゃうからですか?」

「そうですね。一応、他にも理由はありますが概ねそう思ってもらって構いません。生ものが少し焼けてきたらボールから生地を出さないようにキャベツを焼いて炒めます。これも、キャベツは生ものよりかは熱の伝わりが早いけれど生地と一緒に焼くと食べる頃はまだ芯が硬くなるからです」

店員さんは焼いていたえびとベーコン、イカを端に寄せると生地を出さないよう丁重にキャベツを鉄板の真ん中にかき出して広げていった。
そこそこキャベツが鉄板の上に広がると、店員さんはへらを器用に使って生もの具材をキャベツの上に乗せ、かき混ぜていった。

「ゆうっ、しばらく炒めてたらキャベツさんがしんなりして来ました! えびさんもベーコンさんもそこそこ熱が伝わった様ですし、もうそろそろでしょうか?」

「そうですね、そろそろ生地を焼いていきましょう。しかし、そのまま出しても生地は軟らかいのでべちゃあと広がっちゃいます。そこで、今炒めているこのキャベツたちで土手を作ってあげるのです!」

店員さんは語尾を強調して、何やらキャベツを囲いドーナツ状の土手を作っていく。そして、店員さんはボールを手に持ってボールの中に入っている生地の半分くらいをドーナツ状の土手になっている具材の中に入れていった。

「ゆっ! いっぺんに生地を入れてしまうと、土手が崩れてしまうのですよねっ!」

「あらあら、お嬢ちゃんは物知りね。その通り、土手が崩れて大惨事になってしまうから、生地を入れる時は慎重に二回に分けて入れるのです」

「ゆう~…♪」

さなえは自分が持っている知識が間違っているものでは無く嬉しかったのだろう、顔を綻ばせて喜んでいる。
店員さんも残り半分の生地を土手の中に入れ、少し待って生地にとろみがついて全体をかき混ぜている。作業も終盤に差し掛かっているのだろう。

「とろみがつけば鉄板全体に広がるだなんて事は無いですから念入りに混ぜあって、薄く伸ばせば…、完成です! これが浅草もんじゃのミックスです!」

店員さんがへらを置き、一旦一歩後ろに下がる。目の前にはパチパチと音を立てながら美味しそうに広がっているもんじゃ焼きの姿が!
ウスターソースの匂いでしょう、香ばしく食欲を刺激してそそるソースの匂いがなんともたまりません、ああ! いただきま~す!!!

「ちょっとまった、お客様! お客様には、これからお嬢ちゃんの明太子モチを焼いて貰います!」

「そうですよ、おねーさんっ! さなえ一人だけ待たせるだなんて、酷いですよっ!」

「…あり?」

ふっくりと頬を膨らませて『明太子!』と迫ってくるさなえ。
隣には店員さんが居て、何やらへらとカップボールを持たされて…、あれ?

「さあ、やってみてください! 大丈夫です、順番は私が言っていきますよ。まずは生ものから炒めてください」

「は、はいっ!」

思わず緊張した声色になってしまい、それが影響したのか体まで緊張してしまい思うように動かないヘラを持つ右手を駆使して一旦出来たもんじゃを端に寄せて、左手に持つボールから生ものの桜えび、イカ、メインである『明太子』を鉄板の上に降ろして行き、炒めていく。

「焼いている間にキャベツを取り出して準備をして置きましょう。生ものがそこそこ焼けてきたので、生ものを一旦端に寄せてもうそろそろキャベツを炒めていきましょうか」

「はいいっ!」

少々混乱しながらも生ものをへらで端に寄せて、言われた通り事前に出していたキャベツを鉄板の真ん中に広げ炒めていき、生ものをへらで掬ってキャベツの上に置いて混ぜていく。

「タネ、あ。生地を混ぜて置き、具材でドーナツ状の土手を作っていきましょう。その中に、目安としては半分より心持ち少なめで生地を入れていきましょう」

「は、早い~」

「おねーさん、落ち着いて!」

あたふたしつつ、慌てずゆっくりと作業することを頭の片隅に入れてキャベツを多く含む具材を上手く囲い土手を作ろうとするが…。これがまた、難しい!
私が異様にぶきっちょなだけかはわからないが、何でか土手を作ろうとするとキャベツがパラパラとこぼれてしまい固められずにいる。
まずい、このままじゃ生地を入れるタイミングが…!

「あ、お客様! ヘラ二ついっぺんに押さえつけても、うまくいきませんよ! へらの一つは支えに使うのがコツになります」

アドバイスの結果簡単に作れました。ごめんなさい。
ともかく、少々いびつな形になっているが作れた土手の中に生地を半分流し込み、時間を経たせてもう一度残りの半分を流し込む。
いい具合にとろみが付いてきたので、ババッと全体を良くかき混ぜて薄く平らに伸ばしていく。…完成だ!

「ゆうっ! やりましたね、おねーさん!」

「上手ですよ、お客様。最後に、トッピングがある場合は完成したタイミングで乗せていきます」

店員さんがチーズの入ったお皿を手に取りチーズをもんじゃの上に塗していく。チーズ自体はあらかじめタネにも仕込んであったのだが、どうやらこのチーズは上に乗せるものらしい。
ともかく、完成だあ!

「じゃあ、私はこれで。もんじゃを楽しんでいってくださいね」

「「はいっ、ありがとうございました!」」

私とさなえは声を合わせて挨拶を告げ、待ちに待ったもんじゃを一口サイズに切り分けてパクリと口の中に入れる。
うーん、お好み焼きに似つかずの食感といえばそうだけど、もんじゃにはもんじゃ特有のもっちり感があって、さらにそこからキャベツのシャクシャク感やイカの歯ごたえに、香ばしいウスターソースが口の中に存分に絡み合って…。おいしい!

「おいしいね、さなえ!」

私は笑顔でさなえに呼びかける。すると、

「ヘヴン状態!!!」

…さなえは既に至福の境地に辿り着いているみたいだった。
ガタガタと椅子ごと体を揺らしていて、何かあったんじゃないかとも勘繰ってしまう。

「ゆうっ、美味しいです! 先ほども言った通りちょうどいい具合の明太子のピリ辛感とチーズがマッチして…! そうだ、さなえのもんじゃとおねーさんのもんじゃ、一口交換しません?」

「いいね、それ!」

私とさなえは早速もんじゃをそれぞれのお皿に乗せて、交換しあう。
さなえの明太子モチとはいかほどのものか! 一口食べてみると…、! うまい!

「もんじゃらしいと言えばもんじゃらしい、出来立てのパンみたいにモッチモチしていて尚且ふわふわ、その様な食感から想像出来ないピリッとした辛さにチーズの甘みが中和して、美味しい! 美味しいぞぉ!」

「お、おねーさんっ! そんな、立ち上がってまで叫ばないで下さいっ!」

「…はっ!」

どうやら私は無意識の内にさなえの言う通り立ち上がって叫んでいたらしく、周りの学生さん達からは指を指されて笑われている。
体がぼうっとほてり、顔が赤面していくのがわかる。私はうつ向きながら、静かに立った席を整えてもう一度座り直した。

「もうっ、おねーさんったら! さっきのおばちゃんにまで、笑われているではありませんか!」

「め、面目無い。返す言葉もありません…」

私はしゅんっとうなだれながらさなえに謝りの言葉を口にする。
さなえは『んもうっ』とまだ口をへの形にしているものの大方機嫌を直してくれたみたいで、私達は楽しく喋りながらペロリともんじゃ焼きを平らげてしまった。
うーん、最初見た限りは多かった様に見えたんだけどなあ…。ついつい美味しくて一口、また一口と手を伸ばした結果がこれだった。
今日は色々なものを食べたし、これは久々にダイエットに励まないとまずいかなあ…。

「…まあ、後で考えればいっか。ごちそうさまでした! お腹一杯食べたから、しばらく動けないよ~…」

「ゆっ、ごちそうさまでした! しかし、おねーさんっ! もんじゃはこれで終わりでは無いのですよ!」

「んー…? どういう事、さなえ?」

「ゆっふっふ、ずばり! 『おこげ』ですよっ、おねーさん!」

さなえが眉を強め自信たっぷりに私に告げる。心なしか瞳は輝いていて、体全体から何かエネルギッシュなものが放出されている様に見える。
…なるほど。家族でレストランに行けば食後にパフェが出てくる様に、もんじゃの後にも『デザート』があるという事か。
本質を理解した私は鉄板の上にパリパリと焼かれているおこげを小さなへらでカツカツっとまとめて取り、それぞれさなえと私のお皿に乗せる。
途中で割れる事無く綺麗にはがれて気持ちが良い。私はかぶりつく様に一口もんじゃおこげを口にする。…これも、うまい!

「もっと渋くて苦いものかと思っていたけど、おこげ特有の独特の苦味と生地に使ったウスターソースがほどよく絡み合っていて美味しいね!」

「ゆっ! 舌に残るザラザラ感も、たまりませんよねっ! ただ、さなえは明太子モチを食べてお腹がいっぱいなので、こってりしたものがあまり喉を通らないのですが…」

「あはは、私も。味は美味しいと感じるんだけどね、満足しちゃったかな。それじゃあ、一回外に出よっか! 店員さん、おあいそお願いします!」

私はいささかずっしりしているさなえを胸に抱えて、会計を済ませ再び人混みの多い雷門前にへと外に出た。



私とさなえは太陽のぽかぽかした日差しに当たりながら帰りの電車に揺られ、ゆっくりしている。
ああ、食べて少し経った後だから、眠くて動くのがおっくうになるなあ…。
隣の座席には同じくさなえも眠たそうにまぶたをうつらうつらさせながらゆっくりしている。私は、今日の休日を一緒に過ごした友達にお礼の言葉を告げる。

「ありがとうね、さなえ。懐が寒くなっちゃったことは否めないけど、有意義な休日を過ごせたよ」

「ゆっ! おねーさんが楽しめたなら、さなえは嬉しいですっ!」

「…さなえ。あなたはまた、どこかへ行ってしまうの?」

「ゆっ? どうして、そんな事を?」

「…だって。不安、なんですもの」

「…大丈夫ですよ、おねーさん。さなえは、どこにへも行きませんよ」

「…さ、さなえっ!」「東京の名物を食べ周り終わるまではっ!」

「…え?」

電車のガタンゴトンといった、揺られる音のみが車内にこだまする。
私はさなえを抱き付こうとした形のまま止まり、さなえが私に振り返ってこう叫んだ。

『東京の美味しいものを、食い倒れと行こうでは無いですか!!!』

咲夜メモ

  • 浅草もんじゃ
様々な種類のお店があり、その店によって『ヘルシーなもんじゃ』『もんじゃころっけ』など変り種や特色がある。
浅草は月島に次ぐもんじゃ発展地域なので、競争が激しい。そのため、どのお店でも美味しいもんじゃが食べられる(!)
おこげは桜えびが多いほど美味しく、取れやすい。
おすすめは明太子モチだけれど、もんじゃが初めてという人はミックスが無難で美味しいかも。
ちなみに、本来ならお店の人に『もんじゃせんべい』なるものを作って貰えるはずなのだけれど、私たちは今回それを全く失念していた。
次回、機会があったら絶対に食べてみたい、もんじゃせんべい!

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最終更新:2009年03月19日 16:40