うにゅほの見栄 ~ていうかお役所仕事すぎるから仕方が無いの巻~

子供とは、存外見栄っ張りなものだ。だが、それがおかしな方向に転がりだすと、たいへんなことになるのは言うまでも無い。
うにゅほは、そういう類の行動で何度も失敗してきていた。今回もまた、そうである。
 だが、以前と今回の違いは、本当に大事になってしまったという点だ。

うにゅほの見栄 ~ていうかお役所仕事すぎるから仕方が無いの巻~

「ねぇ、うにゅほ」
 よだれをたらしながら居眠りをしている、黒く、長い髪に緑色のリボンをつけたうにゅほこと、ゆっくりうつほを揺すって起こすのは、赤い二房のおさげが目を引くゆっくりのおりんである。
おりんの頭の上についた耳はぴん、と立っており、なにごとかを警戒する様子である。
というのも、ゆっくりけーねが教鞭を執る寺小屋に勉強に来ているはずが、うにゅほは開始10分で静かな寝息を立て始め、15分でよだれをたらし始める始末であったからだ。
まわりは熱心に板書を取っている生徒ばかりで、浮いているという一言が生易しいほどであった。

 ゆすられたうにゅほは顔をしかめた後にかっと目を見開き、得意げな笑顔を作った。ああ、起きた、と安堵したおりんはノートに目を移す。だが。

「眠いよ!おりん!!」

 隣の教室にまで響かんばかりの、うにゅほの大声。
視線がうにゅほに集中するが、そのときには再び寝息を立てていた。
だが、同じく立っていたものがある。きわめて剣呑で、そして、うにゅほにとっては危険なものだ。
具体的には、教師であるけーねの青筋だ。
いや、長い二本の角がそびえ、青みがかっていた銀髪が緑に近くなった時点で、おりんも、他の生徒も恥も外聞も、友情もかなぐり捨てて逃げ出す。そして、そろそろと廊下の窓から教室をのぞいた。
空気はもはや鉛よりも重く、その場に居たらば重金属中毒を起こしそうなものだ。

 だが、うにゅほはそんな空気をさっぱり読まず、たまごおいしい、などと寝言を言っていた。








 そのとき、けーねの何かがぶつりと大きな音をたて、切れた。

「……はじめてだよ、こんなにもわたしをコケにしたおばかさんは」

 引きつった笑顔。どしん、どしんという音をたて、うにゅほの前にけーねは立つ。
その段階になって、ようやく何かを感じたのか、うにゅほは目を開け、脂汗を流し始める。

「……うにゅ?……お、おはようございます!せんせい!」

 それを聞いたけーねは、夜叉のごとき笑みを浮かべる。
笑っているが、いかんせん迫力があり過ぎて困るほどである。ぱっくりと口は割れ、そこからてらてらと光る牙が覘き、またそれ以外の歯列もいずれも鋭い。
牛と言うよりは、はるかに凶悪な獣、鮫を思わせる。

「……ばぁっかもーん!!」

 ごっ、というひどく鈍い頭突きの音が、教室に響いた。
居眠りした生徒は、けーね先生の頭突きを喰らうのだ、ゆえに寝てはならぬ、という不文律が出来上がったのもこの日のことであった。
哀れな犠牲の山羊によって、子供たちはまた一つ、いや二つほどは賢くなったのである。




「いたいよ! おりん!」

 哀れなるかな、ぷっくりと膨れ上がり、まるでもちのようなこぶを作ったうにゅほは泣きながら隣のおりんに訴える。
おりんはというと、呆れ顔をつくっていた。というより、まさか起こしたら大声で叫びだすとは、予知能力者ならぬ彼女にはわかりかねるのであり、もう助け舟の出しようも無かったのである。

というか、出したらうにゅほが勝手に転覆させたというべきか。

「そりゃ、けーねせんせーも怒るよ……なにごともなくじゅぎょうを続けたあの人もあの人だけど」

 おりんにしてみれば、さすってやりたいが、あいにく手は無い。
なめてやっても良いが、彼女の舌は文字通りの猫舌であって、傷口に塩をたっぷり塗りこめるようなものだろう。

というより、うにゅほのコブにはけーねが塗った軟膏がついているので、舐めたくない、というのがおりんの本音であった。
存外、ミもフタも無い理由があるものである。

「わたし悪いことしてないよ! おりん!」

「してるよ! ていうかなんで居眠りしてるんだよ! あたいでもあのせんせーの前で居眠りできないよ!」

「むむむ……」

「なにがむむむだ」

 なんというべきか、うにゅほは相変わらずである。もっとも、そういうところが見ていられないのだそうで、おりんは面倒見ばかりがよくなる始末であった。

「ち、ちくしょう……! こんなはずじゃ!」

「うにゅほ……管制塔にごばくされそうなせりふは、止めた方が……」

 ていうか起きてろよ、ばかなの? しにたいの? とごもっともな台詞をおりんは吐く。

「ばかっていうな! ばかって言ったほうがばかなんだぞ!」

「……12×12は?」

 ええっと、としばらくうにゅほは考え込み、頭の上からしゅうしゅうと湯気が立ち始める。
顔をしかめ、頬を染め、目の端に涙をためながら必死に考え込み、わかった!という表情を作ったころには、10分ほど経っていた。

答えは無論144であるのだが、うにゅほの回答はおりんの斜め上を行っていた。

「135!」

「偶数どうしをかけたのに、どうやったら奇数になるのかいってみろよ、この鳥頭……」

 さりげなくおりんは毒を吐く。本当にどこをどうまかり間違ってこの二人がコンビを組んでいるのかいまひとつわからない。




 校庭のすみっこで、なぜか両親の職業はなにか、という話題になる。うにゅほとおりんも参加していたが、うにゅほが得意げな顔でしれっととんでもないことを言い出した。

「社長!」

 物凄く良い笑顔である。隣でおさげの毛先を弄んでいたおりんは、いや、いくらなんでもそれは無いだろう、と突っ込みを入れそうになった。
だが、それより先に、何か証明するものを持って来い。と言われてしまい、途端にうにゅほはおろおろし始める。そりゃあ嘘なんだから証明の仕様もない。
みんながああだこうだといっている間に、泣きそうな顔のうにゅほがおりんのおさげを引っ張って、裏に連れて行く。

「どーしたの、うにゅほ」

「う、うにゅうううう……」

 いわく、どうごまかしたものか、というわけであった。
あきれ返った声で、素直に嘘でした、って言えば良いじゃないか、とおりんは返したかったが、そういう答えを期待した風ではない。

「……うーん、きぎょーしてみるとか」

「できるわけないよ!」

 そりゃあそうだろう。資本金のしの字も無いんだから。ということがわかる年でもなく、おりんはわかる単語をとりあえず言ってみる。
無論、子供に良い知恵が出るわけも無いので、このときはこれだけで終わった。
だが、なぜうにゅほの無駄な行動力と、無邪気さそのままに大暴れする性向を理解したおりんが止めなかったことによって、たいへんなことが起こることを、彼女も、そしてうにゅほ本人も知る由も無かった。




『Fu○k you!』

 わざわざメールでこんなこと送ってくるなよ、とうにゅほは言ってやりたいが、よっぽど負けたのが悔しいらしい。
そりゃあ1on1の対戦モードで、5分間ボッコボコにやられ続ければそりゃあ誰でもそうなろうというものだ。
とはいえ、さんざん付き合ったのに回線引っこ抜かれてて引き分けにされた挙句にこれなので、いかにも面白くない。
にっと少し笑いながら、メールをタイプする。

「『haha! nice joke』……っと」

 少し後にボイスメールが送信されてきたが、無視してさっさとゲーム機の電源を落とし、宿題に取り掛かる。
けーね先生の逆鱗に触れたのが原因か、普段よりも多いそれをささっと片付けないと、調べ物も出来ない。
というより、ゲームをやっている暇があれば、調べものを先にしろ、という話であるが。

そもそもどうやってゲームをやっているんだ、という部分もあるのだが、その辺りは残念ながら不明瞭である。
もとより、何らかの実験をしてみても、実験設備そのものを壊して憚ることの無いナマモノである。

 二時間後、ヒイヒイ言いながら何とか宿題を終え、ニュースサイトを巡回していると、とある事件が目に入る。
某運送会社がらみで、いろいろトラブルを起こしていたということはよく知られていたが、それを知る由も無い。
だがしかし、そのトラブルの内容こそが、きらきらと目を輝かせるうにゅほにとっては重要だった。

「これなら行けるかもしれない……!」

 彼女は基本的に智慧の回るほうではない。だが、実行力だけはすさまじかった。それが事をより複雑にするのだが。




「しゃちょう!」

 ぼーだー商事というのは、基本的にゆっくりによって運営される企業である。
本社は某エネルギー系企業と同じ建築家がデザインしており、斜めの板を複数の支柱で支える、という独特の構造をしていた。
それこそがこの会社の力の象徴であり、また『姉○設計』などと揶揄される原因でもあった。
そして、急成長したがゆえに、企業体としての土台はそれほど強くないのだ。敵も多い。組織自体も『○歯設計』なんだな、と皮肉られてもいた。

 社長は長い金髪と、独特の不気味さを兼ね備えたゆっくりゆかりんであり、
大慌てで飛び込んできたのは、体を持った秘書のゆっくりらんだ。ばたばたと腕をふり、大慌てしている。

「どうしたのよ。何? 本社がとうかいでもしたの?」

「してたら今頃『しょーじょしゅー』でえらいことになってるとおも……おっと」

 ぴくり、とゆかりんの眉が動く。とりあえずスキマコースね、たっぷり『きょーいく』してあげるわ、と考える。
だが、この慌てようからいって、今はそれどころでは無さそうだ。

「ちぇんが怪我したとか、そーいうぱたーんなの?」

「ちがいますよ。というかわたしを一体なんだとおもってるんですか」

親馬鹿

 お前は一体何を言っているんだ。というか、それ以外の何なのだ、自覚しろ、自覚を。
と言いたくてたまらない、といった具合にゆかりんは両の手を上下させながら軽やかに踊る。
動きの鮮やかさはともかくとしても、なんともいえない脱力の踊りだ。だが、当人は力をためているのだと言う。

 らんは正直、見ている側の怒りを溜める役にしか立たないのではないだろうか、と思っている。
実際、忍耐心と忠誠心にあふれる彼女ですら右の手を握り、力いっぱいほほに叩きつけたくてたまらない。
 そんならんの心情を知ってか知らずか、さらに勢いを増し始めるが、ぴたりと踊りをやめ、真顔になる。

「……で、ほんとーに何があったの?」

「どつきますよ。……そ、それがですね……」

 あら、このお茶おいしいわ。などと言いながらゆかりんは紅茶を口に含む。余裕綽々というアピールであるが、かえって不都合であった。

「会社の登記がいれかわってて、しゃちょーがうにゅほとかいう名前になってます!!!」

ブーッという音ともに、霧状になった紅茶がらんに浴びせかけられる。
大事な話を聞く前には口にものを含んではいけない、という鉄則を守らなかったが故の、過ちであった。ある種の鉄則は守っていたのだが。

「……だれだ」

「……は?」

 ていうか噴出すんじゃねーよきったねーな、などとらんは悪態をついていたが、ゆかりんの頬がぴくぴく痙攣しているのを見て、認識を改めた。
これは、まずい。

「どこのクソ役人が『しょるい』をうけつけたッ! えッ?!」

「しりませンよッ! そンなことッ! だいたい書式がととのってりゃ受け取るのが役人でしょッ!」

 詰め寄り、がくがくとらんを前後にゆするゆかりん。
ひとしきり振り回して満足したのか、電話をとり、とあるところに連絡をつけた。開口一番、言ってはならない一言を平気な顔をして口にした。

「ていうか何のために『けんきん』してるとおもってる」

「もうちょっとオブラートに包めよ……」

 らんをツッコミとともにスキマの中に放り込み、ゆかりんは『話』をつけた。顔じゅうに青筋を立てながら。




 うにゅほは、いつもどおりに寺小屋に一番乗りしようとした。だが、そこに普段見慣れない子がいる事に気付く。
一番乗りじゃないのか……などと舌打ちしつつ、お気に入りの雨合羽を袋にしまい、笑顔で話しかける。

「おはよう! いいてんきだね!」

「みょん?!……雨、ふってるだろ……?」

「ただの決まりもんくだろ……?」

 ああ、こいつとは相性がわるいな、とうにゅほは悟る。どうやら、相手もそのようだ。ぎりぎりと歯の根をきしませながら、お互いにらみ合う。

「ところで……『うにゅほ』ってやつ、しらない?」

「何を隠そう、わたしこそが『うにゅほ』です!」

 どこから上ったのかわからない太陽を背にし、うにゅほは喜色満面という様子で反り返る。
相手はほうほう、と言いながら半霊に刀を持ってこさせる。そう、彼女はゆっくりようむである。

「すごいね! ほんもの?」

「おいのちちょうだい!」

 のほほん、としていたうにゅほは飛び退り、刀を避ける。
どうやって振っているのかはさておいて、なるほど切れ味は良さそうである。少なくとも、うにゅほを真っ二つにするほどには。

「ええっと……は、話せばわかる!」

「もんどうむよう!」

 おおう、あぶないあぶない。というかどう見ても真剣です、本当にありがとうございます、などというギャグを飛ばす暇すらない

「ひきょうもの!」

「ひきょう?マイコー! 『あいつがひきょうをするからボクチンかてません』か?」

「だれだよ、マイコーって……」

「世界さいきょーの大統領だってゆゆこさまが言ってた!」

 ああ、机がバラバラだ、この物理エンジンはリアルだなあ、などとFPS症候群患者のようなことをのたまいそうになるが、
さすがのうにゅほも、堪忍袋の緒が切れそうになる。というか、転げまわったせいで鼻が痛い。

 そのとき、背中からなにか棒状のものが飛び出し、落ちた。そこには、放射能標識が刻まれていた。

「おとなしくしろっ!」

 そうみょんがいらいらしながら言うと、うにゅほはぴたり、と止まり、得意げな顔を作ってこう言う。妙に体中が熱いのを、彼女は意識した。

「なむあみだぶつ!」

「みょおぉぉぉぉん?!」

 一瞬ようむは硬直するが、にやりと笑って刀を握りなおす。どうやら言い方が不味かったようで、この妖夢には効かない。
うにゅほはアテがはずれ、慌て始めた。それゆえか、体中からしゅうしゅうと湯気まで立っている。

「……あ、あれ?」

「ふふふふふ……おいのちちょうだい!」

 その瞬間、おはよう、などと言いながらけーねが現れる。
だが、教室の光景を見て、思わずこういった。髪が逆巻いているように見えるのは、決して錯覚ではない。

「……これはひどい」

「せんせい!助けて! からだがあついよ!」

「おのれ、もろともに……!」

 そのとき、うにゅほから青い光が発されていた。うにゅほの体から落ちたものは、制御棒だったのである。つまり、この光はチェレンコフ放射のようなものだ。

「……すごく……あおいです……」

「みょ、みょん?!」

 うにゅほから光が漏れ出す。その顔は、もはやヘブン状態のそれに近い。

「へぶん状態!」

 爆音とともに、きのこ雲が立ち上がる。
寺小屋は吹き飛び、爆心地には、ほとんどアフロに近い髪型のけーねにようむ。そして恐ろしく元気なうにゅほが残された。

「……うにゅほ」

淡々としたけーねの声。それを聞いて、嬉しそうな様子のうにゅほが振り返る。

「せんせい、すごい頭だね!」

 ゴッという鈍い音。ブチ切れたけーねの頭突きであった。



「ようむはしっぱいしたのね」

 ゆかりんは泡の出るお酒を口に含みながら、隣に座っているゆっくりゆゆこに文句を言う。
ゆゆこの方はと言うと、出されたから揚げを美味しそうにほお張っていた。
から揚げはさっくりと揚がっており、歯応えと、肉の繊維からにじみ出る肉汁の旨みがここちよい。ゆゆこはご満悦である。

「だいじょーぶよぉ、次の刺客も一応よーいしてるわー」

 ふわふわと笑いながら、ゆゆこはから揚げをもう一つ口に運ぶ。一瞬、口の端が歪んだのをゆかりんは見逃さなかった。


続かない。





あとがき

Q:爆発オチですか?
A:YES

……元ネタは、S川急便が昔あるおっさんに登記を書き換えられた、という事件です。
まあ、書式が整ってりゃ受け取らないわけにはいかない、お役所の悲しいところですね。
とりあえずバラしとくと、ぼーだー商事のビルの元ネタはAC4で登場するレイレナード社の本社です。
初めてやったときにはエキセントリックすぎてお茶噴きました。

……それにしても、単なるドタバタギャグのつもりが、何でこんなことになったんだ。

ゆっくりと動物の人



  • ACや大統領ネタが散りばめられていて嬉しかった、あなたとは楽しく話せそうだ
    それ以前に授業中に堂々と眠れるうにゅほが可愛いのなんの! -- ありすアリスの人 (2009-04-04 10:12:11)
  • うにゅほマジ可愛いw
    -- 名無しさん (2009-04-13 15:26:00)
  • ありすアリスの人 さん>
    あれです、たまたま初代箱を発掘して、大統領をやった後の馬鹿みたいに高いテンションで書いた結果がこれです。
    うにゅほは……なんというか、もともとキャラとしてかわいらしいですから、それにずいぶん助けられた気もします。

    名無しさん (2009-04-13 15:26:00)>
    同意見なんだぜ……!w -- ゆっくりと動物の人 (2009-04-14 01:05:13)
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最終更新:2009年04月14日 01:05