エイプリルユクリール

 風が吹き、花びらが舞い、春の兆しが現れている今日この頃。
今日は仕事が休みなので何をするでもなく俺は縁側で日光浴をしていた。
「それにしても暇だ」
 このまま寝るのも惜しい気がしてきて、何となく仰向けになって空を見上げる。
空から暖かな日差しが降り注ぎそれが眠気を誘う。
「春ですよ~」
 空には幻想郷においての春の風物詩リリーホワイトが優雅に飛び回っている。
……いや、よく見てみるとあれは体付きのゆっくりリリーだ。
 年中ゆっくりと付き合っている俺だから一目で分かったのだが本物のリリーと
体付きゆっくりリリーは顔を見るまでまるで区別がつかない。その上同じ声で同じことしか言わない。
違う点と言えば弾幕を張るか張らないか、俺たち人間にとってはゆっくりの方が有り難い物である。
「ちなみに明日は木曜日DEATHよ~!」
 それにゆっくりの方が語彙が多いというのはどうなんだろうか。
ゆっくりでさえこんなのではもう本物の存在意義がないではないか。
 そう思ってただゆっくりと空を見ている。暇だ。
こんなに暇だと空から天使が落ちてきたり箱からメイドロボが出てきたり
鏡から人形が出てきたりしてゴスロリやメイドのライバルと戦ったりするという事が
あって欲しいなぁとこの幻想郷でもあり得ない幻想、いや妄想に囚われる。
 そんな事だから君は三十路越えで童貞なのだ。そう言い捨てるように友人が言っていたのを思い出す。
 おとこはなきたくなった。
「春ですよ~」
 流石にこの陽気に照らされながら眠気を耐え続けることも難しくなってきたので
ゆっくりリリーの声を子守歌代わりにしようとして俺は目を瞑った。
空しいことは寝て忘れよう。
「今にも堕ちてきそうな春の空DEATHよ~!」
 そう思った矢先にゆっくりリリーが空から降ってきた。
こんな出会いいらないよ。んもう。

「春ですよ~」
「何で落ちてきたんだよ、羽根でももげたか?」
 確認してみても羽根はいつものようにフサフサであり一枚も抜け落ちる様子もない。
それどころか毛並みは最高。純白の羽根がまるで天使を想像させる。
「じゃあ何で落ちてきたんだろうか」
「春ですから~」
 理由になってない。春だから落ちてくるんじゃなくて、落ちてくるから春になるのだろうが。
何がとは言わないが。
「頭が春ですよ~」
 駄目だ、話にならない。俺はどうしようもなく呆れかえりそのまま横になる。
普通のゆっくりならまだ意思疎通が出来るのだがゆっくりリリーはオリジナルの時点で
会話が出来ないという困ったゆっくりである。先ほども言ったようにオリジナルよりかは語彙があるが
意思疎通できるほどではない。
「春ですよ」
 しかしこのゆっくりリリーは俺に何か伝えようとして降りてきたのかもしれない。
だがその言葉の真意は何なのか、今の俺には分からない。
「そうだ」
 俺はふと思い当たり家の中に入って倉庫の中からマスク状の物を取り出す。
これはにとり製ゆっくり翻訳機!30歳の夏何とも言えないような悲しみにうちひがれ、
何となく衝動買いしてしまった高性能翻訳機である!
これさえあればゆっくりが発する言葉の真意をしっかりと把握することが出来るのだ!
「確かリリーホワイトの声も翻訳出来るんだったな」
 ま、一応ゆっくりだよなと思い俺はそのマスクを付ける。
見た目的にはそうダサくないデザインだが人前で装着するのには少しだけ抵抗がある。
でもこれでゆっくりリリーの声が翻訳されるはずだ。
俺はゆっくりリリーの言葉に耳を傾ける。
『おに~さん、おに~さん』
……こんな30歳童貞をお兄さんと呼んでくれるのか。矢張り俺にはゆっくりしかないのか。
『早く返答するんDEATHよ~この頭が春な30歳童貞~』
「…………はいはい、くそぅ」
 とうとう涙が出てきたが人前で涙を見せるのもみっともない。俺はマスクの調子を直す振りをして
涙を拭いた。
「で、一体お前は何しにここへ来たんだ?」
『……………実は伝えたいことがあるんですよ~』
「伝えたいこと?」
 そうですよ~というと今までふよふよと浮き続けていたゆっくりリリーは真摯な表情になって
床に足を付けて男と向き合った。
『実は……リリーは天使なのDEATHよ~』
……………………天使?確かに白い翼は天使を想像させるが本物のリリーは妖精で
目の前にいるのはそれを模しただけに過ぎないゆっくりだ。いくら何でも本物よりも
地位が高くなるなんて言ったらゆっくりとその他の生物のバランスが崩れてしまう。
 俺がその事を言及するとリリーは特に詰まることなく言葉を発しその声がマスクによって翻訳される。
『純粋な天使って訳じゃないんですよ~』
「どういう事なんだ?」
『リリーは天使界から世界を魔界から救うように力を与えられたのですよ~』
「…………天使界?魔界?」
 魔界というとあの神綺様が創った世界だろうか。と言うか天使界って何なんだろうか。
「全く状況が読み込めないのだが………」
『無理もないですよ~幻想の遥か越えた世界DEATHから~』
 俺が天使について頭を捻らせても何にもならない。この頭が知り合いの古本屋だったなら
まだ持ち前の知識量と判断力でゆっくりの言動全てを理解できるかもしれない。
『どうやら魔界から悪魔がこの幻想郷にやって来たらしいDEATHよ~
 でも天使は人間界に降りて戦うことが出来ないからこうしてリリーに力を与えてくれたんですよ~』
「……………つまり……これは良くある……」
『そうですよ~私は緩慢天使ユクリールに変身することが出来るのですよ~!!』
 緩慢天使ユクリールっだってええええええええええ!!!!!!!!!!
とMM○並にオーバーに反応してみる。
 しかし何故そんなご大層なご身分の方がこんな30歳童貞の所へ来るのだろう。
自分のキャラ的にはモブか良くて敵に利用される程度だと思う。
『………貴方はゆっくりのことが大好きですよね~?』
「……あ、ああ」
 俺はそう頷いたが本当はただもてない悔しさの捌け口にしているだけかもしれない。
それに何か天使を目の前にしてると罪悪感がより一層強まってくる。
『それでいいんですよ~それだけが理由なんですよ~』
「そんな理由で……俺を?」
『はい~』
 嬉しくて涙が出そうだがそれを隠すように俺はマスクの場所を調整した。
いくら嬉しくても悲しくても涙を見せるのは大人としてみっともないのだ。
…………ちょっと待て。
「理由になってませんよ、それ」
『……そうDEATHね~』
 リリーは何故か頭を傾げながらまたふよふよ浮き始めた。心なしか落ち着いてない。
『思い出しましたですよ~そういえばユクリールになるにはユクーレと言う物が必要なのですよ~
 それがなければリリーは変身することが出来ないのですよ~』
「ユクーレ?それと俺の何の関係が……」
『…………』
 俺がその事を聞くとリリーの口は突然閉ざされる。そして心なしかリリーの頬が
ほんのり春色に染まったように見えた。
「おーい…………」
『それは……DEATHね……』
 その時玄関の方から扉を叩く音が聞こえた。俺はリリーの話の続きを聞きたかったが
流石に来訪者を待たせる性分ではないのでリリーを待たせて玄関へ行こうとした。
だがリリーは玄関へと向けている足にしっかりとしがみついていた。
「あ~あ~話なら後で聞いてあげるから」
『違うんですよ~もしかしたら悪魔がもうそこまで~』
「悪魔……?もしかして魔界から来たという……」
 そうなのですよ~と言ってリリーは俺の行く道をふさぐ。仕方ないので俺は
リリーの話を聞く事にした。
『今からその客人を見てくるのですよ~少し待ってて下さいです~』
 そう言ってリリーはふよふよ浮きながら玄関の方へと飛んでいく。ノックの音がけたたましく
響き続ける中俺は素直にあぐらを掻く。そうしているとリリーはゆっくり特有の太々しい顔を
しながらも焦った様子を見せながら戻ってきた。
『来、来たのですよ~悪魔の手先DEATHよ~』
『すみません、この家の人はいらっしゃらないでしょうか』
 玄関の外から聞こえてきたのはかの紅魔館の完璧で瀟洒なメイド、十六夜咲夜の声であった。
何故彼女がこんな所へ?と頭が混乱したがふと俺は思い当たってマスクを外す。
「ゆゆ、このいえのひとはいらっしゃらないのでしょうか。こまりましたわ」
 なるほどゆっくりさくやか。それにノックが出来るとなるとどうやら体付きのようだ。
「春ですよ~春なのですよ~」
 外したままではリリーと会話が出来ない。俺はまたマスクを付ける。
『とうとう来たのですよ~嗅ぎつかれたのですよ~』
「一体何だってんだ。あれは最近れみりゃと共にうちに良く来るゆっくりさくやじゃないのか?」
『それそうなのですよ~でも……あれはいままでのさくやじゃないのですよ~』
「…………もしかして魔界とか悪魔に?」
『………そう、すでに悪魔「オゼ・ウ」に操られているのDEATHよ~
 そして悪のエネルギーで魔界従者ミスティさくやになっているのですよ~』
 なんてこった………いつの間に俺の周りにも魔界の影響が現れていたなんて……
『いるんでしょう……中に』
 その咲夜さんボイスが聞こえると扉の開く音が聞こえた。鍵掛けてなかったことを思い出し
俺は不安と恐怖に襲われた。
ぺたん、ぺたんと近づく音が俺を余計に恐怖の底へとたたき落としていく。
『…………リリーが戦うのですよ~』
「で、でも」
『そのために天使になったのですよ~…………今からユクーレの摂取の仕方を教えるですよ~』
 リリーはふよふよと俺の顔の横に近づきマスクを通してその方法とやらを語った。
「………………そ、それは……」
『し、仕方ないことですよ~早く変身しないと……』
 そう、恥ずかしがっている暇などないのだ。すぐそこにミスティさくやが迫っているのだ!
「分かった………そ、それじゃ行くぞ……」
 ある程度の覚悟をして俺はゆっくりリリーと顔を近づける。
これは仕方のないことなのだ。この幻想郷を魔界から守るため……
「一体お二方は何をなさってるのでしょうか」
「う、うああああああ!!!」
 突然ミスティさくやが俺たちのすぐ隣に現れたのでつい後ずさってしまった。
「……そうそう、おぜうさまがいつもお世話になっていると言ってこれを、それでは」
 そう言ってミスティさくやは二つ饅頭がのっている皿を俺の横に行き
そのまま危害を加えることもなくさっさと踵を返し帰ってしまった。
「…………………ミスティ……さくや……」
『……ぷぷぷ、頭が春なのですよ~』
 ほんの考えること64秒、ここに来てようやく事の真意が理解できた。
「お、お前ええええ騙したんかぁぁぁぁ?」
『今日は四月一日ですよ~!』
 そうか、今日はエイプリルフールか。嘘をつくのはてゐだけだと思っていたから失念していた。
それを見抜けず騙された俺。情けなくて涙が出る。もう隠す気にもならない。
『その場その場でついた嘘なのDEATHよ~これで騙される方は相当春ですよ~』
 言葉が出ない。俺は今後ゆっくり以下と言われ永遠に恥を掻くのだな。
『ホントはユクーレを採ると言ってほっぺをすりすりしたかっただけなのですよ~
 出来なかったけど見てて愉快だったから良いですよ~』
「まったく、お前みたいなゆっくりが嘘をつくなんて思いもよらなかったよ」
『嘘はてゐの専売特許じゃないですよ~それに春と言ったら私ですよ~』
 怒る気持ちもすっかり失せて俺はそのまま座敷に横になる。
どうも俺はゆっくりには弱いなとふと思った。
「まぁいいや、一緒にさくやが持ってきた饅頭でも食べような」
『おまんじゅうですよ~』
 そうして俺はマスクを脱いでゆっくりリリーと一緒にその饅頭を頬張る。
春の味、そして暖かな陽気が全てを癒してくれるようだった。

 ただ失念していた。今日がエイプリルフールであることを



四月一日午前十時十三分頃、突如人間の里のとある一軒家から火柱が二本上がるのが目撃されました。
証言者によると「カレーーーーーーーーーーーーーー!!!!」と言う謎の奇声も上がったという報告もあり
カレーという単語から八雲紫と何か関係があるのではないかと調査を進めております。



 おわり




  • コアなネタで御免なさいなんだぜ。できれば未成年はググらないで欲しいんだぜ。
    しかしゆっくりリリーって奴はどうも動かしづらい。元が元だからか……
    一応とある魔法使いの誕生と同じ30歳童貞です。ぱちゅりーは知り合いの本屋にあげました。


鬱なす(仮)の人

  • ロゴスのリーダーのことかー
    性格悪いけど可愛いなこのリリー -- 名無しさん (2009-04-02 19:58:22)
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最終更新:2009年04月02日 19:58