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〜その昔、向こう見ずな穴掘りがいた。
〜己の信じた道を突き進む、愚直な穴掘りがいた。
〜見つめる先は、暗がりの底に眠る金銀財宝。
〜金も、力も、居場所さえない。だが、燃えるような野心と、夢を見る心だけは誰にも負けなかった。
〜無理を通し、道理を蹴っ飛ばし。
〜彼はただひたすらに土埃を穿ち続けた。

〜その、土埃を吸い込んで、穴掘りは──あまりにもあっけなく死んだ。


………
……




 病院の片隅、静まり返った車庫。
そこには、急患を告げる喧騒も、『命』を繋ぐサイレンの音もない。


「……十倍返しにするって、言ったじゃない……」


 彼女の名前はヨーコ。
大グレン団が誇る無比のスナイパーである。
燃えるような紅い長髪に、男たちの視線を釘付けにする大胆な装束。
まるで戦場に咲く毒花とのヨーコだが、──今は、その猛々しさもまるでない。
彼女はただ一人、暗がりに蹲り、己の『回想』へと自答を続けていた。


「……それなのに、どういうつもりよ……。私の心に……十倍の穴を開けて……」


涙涸れし網膜を覆うは、『あいつ』との日々──。
──まだ人々が地底に閉ざされていた、あの時代。

故郷を蹂躙する鉄の獣《ガンメン》。
それに、たった一本のドリルで挑んだ『男』が、かつていた。
退かず。媚びず。代わりに吠え続ける。
常に天を突き破る先頭を走り続けた、あの『漢』。


「……バカ。──『カミナ』……」


 ヨーコが代弁とばかりに今口にした──その『漢』のことである。
いつしか彼女は、戦友ではなく、ひとりの女として彼を見ていた。
「天を突破しろッ!」と叫ぶその背に、抗えぬ『引力』を感じながら。
だが、それも今や──力のなくした過去の一部である。
なにせ、その漢は、螺旋王の刺客との激闘の果て──命を燃やし尽くしたのだから。


つまりは、カミナの葬儀──その最中の出来事となる。
──堕天使の手によって、この『バトル・ロワイヤル』の地へと引き摺り出されたのは。
もっとも、恋人を失った喪失感に支配されたヨーコにとって、未知の脅威などノイズに過ぎないのだが。


「…………夢なら、覚めてよ……。もう……」


ゆえに、彼女はまだ気づいていない。
この混沌とした戦場に、──否。まさに今、この救急車車庫の澱んだ空気の中に。
死んだはずの『漢』に似た、灼ける魂の気配が混じっていることを──。


「…………誰か、私を──」

「噓つきは『ドロボウ』の始まり……とは、よく言いますがね」

「…………えっ?」


不意に、乾いた理知的な声が落ちる。


「なら、私は常々思う。……対義語として、正直者が戴く称号とは何なのかと。……ありませんよね? ことわざ辞典をどれほど捲ろうとも、未だに」

「…………え?」

「ですが、つい先日。ようやく見つけてしまったんですよ、その解を。──」

「――『正直者は馬鹿を見る』。……実に救いがない」

「……誰? あなた……」


「……正直にお答えしますね。私は貴方の寄りかかってる──その『救急車』に用がありまして」

「……え、救急車……?」

「また三度、正直に。いいですか、実は私──、」



「──あと二秒ほどで死亡するんです」



♪テンテテンテテンテテン
 ♪テレン、テンテン


【スペランカー@スペランカー先生 死亡確認】
【本日の死因】:テレポートの衝撃による内臓損傷

【残機】:残り──x50


………
……




 血は血でしか贖えない。
──となると、あまりに突飛かつ無価値な『死』に、ヨーコは少しでも報われたというのか。
『重すぎる死』と『軽すぎる死』。
シーソーバランスの狂う存在であるスペランカーに、彼女は本能的にツッコミへと逃避していた。


「……あ、おはよう。で、あっちの方はどうだったわけ?」

「ええ。相も変わらず、花畑は手入れが行き届いていました」

「常連か!」

「ええ。行きつけでして、天国は……。……それで、貴方の『お探し』の御仁についてですが。……残念ながら、芳しい情報は得られず」

「………………っ……。……そっか。うん……」

「……しかし、手ぶらで帰るのも私の沽券に関わる。冥途からの土産話をお聞きください」

「……土産話?(“からの”?)」

「ええ。意外なものです。──」


「──斯の悪名高きトーマス・エジソン。彼もまた、天国の住人でして……─」

「カミナ探し、絶対一秒もしてないでしょ?! はい『握手の刑』!!」

「あ」


♪テンテテンテテンテテン
 ♪テレン、テンテン


【スペランカー@スペランカー先生 死亡確認】
【本日の死因】:ヨーコの指紋の密度に脳がショート

【残機】:残り──x41


「……おはよ、先生」

「その“おはよう”、倫理観どうかと思いませんか?」


 当然の問いである。
死が眼前に迫った際、人は人格面が大きく変形すると言われるが。
──もはや、サイコパスに片足を突っ込んでいるヨーコ。
──そして、ちっとも哀れではない被害者・スペランカー先生。
二人は今、救急車車内──……ではなく、どこか懐かしさの漂う河川敷に並んで座っていた。

水面で微睡む満月。夜を縫う虫の声。
草原を撫でる夜風に、先生の足元で静かに頭を垂れる一輪の花。
ヨーコはジャージ姿(──「バカみたいな恰好で見てられない」と着せられた)ゆえ、その光景はある種、女生徒と一教師の『青春』と言えようものである。

──ただ。
この静謐な平穏に至るまで、どれほどの『青春イベント』が行われたかは、残機の減り数を見るに説明のまでもない。
死人に口なし。
先生の傍らに咲く花は、クチナシなのである。

「……ヨーコさん、ジャージがどうかしましたか?」

「いや、ジャージじゃなくてさぁ〜……。──」

「──さっきの『脱いだ際の寒暖差で死亡』ってなに?! 今19℃なんだけどっ! 春先の一番過ごしやすい気温なんだけどおおおおっ!!」

「あなたはまだ若い。年を取ればいずれ分かることですよ……」

「いやヒートショックでお陀仏老人のそれとは違うのよっ!!」


また奇しくも、クチナシは咲いたかと思えば、すぐに首を落とす花である。
──ただ、スペランカー先生の担当科目はあいにく生物/科学ではない。
花云々の話はさておき、彼は彼らしく、この戦場という名の教室で、ヨーコへ『命の授業』を授けるのだった。


「……ヨーコさん。『死』について、貴方はどう考えますか」

「え……。…………怖い、こと……かな。二度と、会えなくなること」

「そうですか。……私には、貴方がある意味で恐ろしい」

「授業の結論はやっ! ていうか、結論それなの!?」

「コラコラ、急かさないでください。人生は百年時代。死に急ぐことはないのですよ」

「……」


女生徒・ヨーコは何か言いたげな様子だったが、スペランカー先生は構わず、夜の空気を指先で切って続けた。


「『死』そのものはね、決して怖くないんですよ」

「……え?」

「……そりゃあ刺殺なり圧殺なり、そこに至るまでの過程における『痛み』は恐ろしいですがね。ただ、大抵の人は、案外あっさりとしているものなのです。──」


「──そんなの、言われなくてもわかる。──」

「──だというのに、多くの人が死を恐れ、忌み嫌う。──」

「──それは何故か。──」


「──……ヨーコさん。今から言うこと、よくノートに記しなさい」

「…………死なない?」

「ノートとペンで何故死ぬのです。いいですか?──」


 タッタタタ(────エアチョークの乾いた音)

   タッ!──(────エア黒板を叩く衝撃)


「人間は、『未知』が怖いから」

「……未知……?」

 『死んだらどうなるか』──。
その言葉に続けて、先生は以下の持論を語って見せた。

“『死んだらどうなるか』を知らないからこそ、人は怯える。”
“ならば、自分はどうだ。”
“何度も、それこそ掃いて捨てるほどにあの世の土を踏みしめてきた。”
“私にとって死とは、勝手知ったる隣人のようなもの”──と。

先生は黒板もない空間に向き直り、最期に結論を述べる。
それは、空想のエアチャイムが、授業の区切りを告げた瞬間だった。


♪テンテテンテテンテテン
 ♪テレン、テンテン

【残機】:残り──x40


「────たくさん死に、たくさん知ったこの教師と。……どうか生徒役として、この世界の理を学びませんか? ヨーコさん」

「…………。──」


「──……生徒役じゃなくて、これじゃほぼ養護教諭よ。改めてよろしく、先生!」

「フッ。死ですよ? もはや保健室で収まる騒ぎではない……」



 差し出された手に、彼女の手が重なる。
固く交わされる握手。
ヨーコの手のひらに伝わる体温は、かつてカミナが見せたあの沸騰するような熱血とは比べ物にならない――冷ややかなものであった。
だが、そんなことは今の彼女には関係ない。


これは、二人はまだ知らずしての話であるが、

──キスは死の前触れである女子──《と》──その前触れの段階で死ぬ男──。
──のちに、教師となるその生徒──《と》──現職・教師──。
そして、
────未知を切り拓く漢の魂──《と》──未知を知りすぎた魂────。

運命の二人とは、必ずしも赤い糸で導かれるものではないのである。


「超電導キャンパルライフル……せいぜい楽しませてもらうわよ! 先生!」

「……ぇぇ」


螺旋のように複雑怪奇で、虚弱の皮を被りながら道理を押し殺す『授業』が、
今、幕を上げる───。





……
…………


最後に、一度振り返ろう。
固く交わされる──『握手』である。


♪テンテテンテテンテテン
 ♪テレン、テンテン


【スペランカー@スペランカー先生 死亡確認】
【本日の死因】:ヨーコの指紋の密度に脳がショート

【残機】:残り──x39

【ヨーコ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、ジャージ姿
[装備]:超電導ライフル@グレンラガン
[道具]:不明支給品×2
[思考]:
1:『シモン』の名を口にしないことを決意。先生が死んじゃうから。
2:Q:はい質問! ねえ先生、なんでヘルメットだけなのよ? 防御したいならもっと全身ガチガチに固めなさいよ。↓

【スペランカー@スペランカー先生】
[状態]:『健康』(※ここ重要)。残機x39
[装備]:マシンガン@スペランカー
[道具]:ダイナマイト、照明弾@スペランカー
[思考]:
1:迷える子羊たちを集め、この世の真理たる『命の授業』を執り行う。
2:A:……ヨーコさん、貴女は分かっていない。装備=死なんですよ。重さで。↑
最終更新:2026年02月17日 01:24