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ゴッ ゴッ

拳を振るう。

打ちつけ、音を鳴らす。

拳を振るう。

打ちつけ、音を鳴らす。

繰り返されるその行為は、サンドバッグ・トレーニング。
殺し合いという、油断一つで首が飛ぶ魔境には不釣り合いの光景がそこにある。

筋骨隆々。上半身に掘り込まれたタトゥーと編み込まれたドレッド・ヘアーを見て一般人(カタギ)と認識する馬鹿はいない。
拳を振るう男の名はアギーラ・池上。
格闘大会『闘神』の誇る指折りのファイターである。

(ベリアル。神や正義に刃向かい悪徳を栄とする悪魔)

ゴッ ゴッ

拳を打ちつけながら、アギーラの脳裏に過ぎるのは、先のセレモニーの惨劇。
ベリアルを名乗る美丈夫か、自分たちを含む大勢の人間を拘束し、奴隷のように首輪を嵌め込み、殺し合いという野蛮劇を開催すると宣い。
そして、一人の勇気ある少女を爆殺した。

ああ、なるほど。確かにその名を関するように悪魔じみた所業だろう。

(ーーー笑わせるなッ!)

ゴッ パァン、と鈍い音と共に粉塵が舞い上がる。
サンドバッグが割れ、切り離された下部がこれまた鈍い音を立て床へと落ちる。

(なにがベリアルだ。お前のやっていることは神への反逆に程遠いーーー神の模倣だ。格の違いに頭を垂れて媚びへつらっているだけだ)

アギーラは落ちた残骸には目もくれず、残る部位に向けて拳を振い続ける。

(神は乗り越えられない試練を与えないという。おまえのやっていることは試練(ソレ)だ。悪魔の名を冠しながら、試練を与えて悦に浸っている。悪魔ならば、もっと甘言を振り撒き巧みに堕落させてみせろッ!)

未だに拳を振い続けるアギーラだが、その足元に砂が塗れることはない。変わらず、己のフット・ワークを維持して拳を振い続けている。
なぜ...?
単純な話だ。
彼の殴っているモノは砂の詰まった皮袋ではない。
石柱。
その文字に一切の偽りもない、正真正銘の本物だ。

如何なるプロボクサーであろうが、この勢いで石柱を殴り続ければ、瞬く間に骨はひしゃげ無様な肉塊を晒すだろう。

だが、アギーラの手は普通じゃない。

生まれつき与えられた特殊な手。
原因不明。突然変異の皮膚病により、常人よりも遥かに分厚く硬いサイのような皮膚と に、骨は変形し、爪に至るまでドス黒く変色し強くなり。
火で炙ろうともハンマーで殴られようともビクともしない頑丈さを有するデビル・ハンドは石柱をも粉砕する、まさに鉄塊。

(ただ見た目だけで疎まれ、迫害され、心を許した女にすら拒まれたこと。神に縋ろうとも叶わなかった普通(ねがい)が、お前にあるのか?ないだろう。だから臆面もなく神の猿真似に興じられる)

『アギーラ...あなたのことは嫌いじゃない。でも、その手が無理』

デビル・ハンドはただの便利な手ではない。

その醜い形状から、周囲から蔑まれ、唾棄され、忌み嫌われてきた悍ましき両手。

どれだけの鍛錬や努力を積んでも乗り越えられない神からの試練に、幼き頃から打ちのめされてきた憎悪の暴力(あかし)。

「ふーッ」

血の一滴も出ない拳を止め、深く息を吐く。
試合前のウォーミングアップは終わりだ。
アギーラはタオルで汗を拭き、荷物をまとめ、石柱の残骸だらけのジムを後にする。

(ベリアル。お前が神の遊戯に興じるならーーー見せてやるよ。本当の悪魔ってやつを)


例え戦場が変わろうとも、アギーラの神への挑戦は終わらない。

「悪魔の裏切り者は、デビル・ハンドでぐちゃぐちゃにしてやる」

神を崇拝したイエス・キリストにすら非道なる試練を与えたもう傲慢な神に媚びず、崇めず、冒涜し挑発する。


神よ、俺に罰を与えてみろと。

デビル・ハンドはそのための両手。
神に挑むことで強くなる、悪魔の証明だ。


【アギーラ・池上@TOUGH 2章】
[状態]:健康、ベリアルへの嫌悪
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:ベリアルをデビル・ハンドでボコボコにする。
1:売られた喧嘩は買ってやるが、こっちから好んでの殺生はしない。
2:脱出のためにまずは首輪を外したい。
最終更新:2026年02月22日 00:46