◆
「うわ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!! ゆ、夢じゃなかったあああぁぁぁああッ!!!!」
爆音に近い声が周囲に鳴り渡る。
それを発した主、花海佑芽はがっくりと項垂れて先程の光景を思い浮かべていた。
「こ、殺し合いって……今流行りのAIってやつじゃ…………ない、よね」
目の前で繰り広げられていたのは、非日常の嵐。
驚く間もなく、目を擦る間もなく、非情な現実を突きつけられて、佑芽の頭は混乱一色に染まっていた。
「う゛~~~~だめだ!! なんにも考えられないよぉ!!」
自慢ではないが、花海佑芽は超人ではない。
日々過酷なレッスンを耐え抜き、アイドルの中でも図抜けた身体能力を持ってはいるがそれはそれ。
あくまで普通の人間よりかは優れている程度であり、少なくとも会場で見せたベリアルと少女の戦闘に介入するなど到底できるはずもない。
そんな普通の人間である少女が魑魅魍魎溢れるこの殺し合いに呼ばれる理由など、皆目見当もつかなかった。
「せっかくお姉ちゃんに勝てたのに……う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! こんなのってないよぉぉぉおおおッ!!!!」
頭を抱えて、これでもかというほど叫ぶ。叫びまくる。
周囲に誰がいるかなんてこれっぽっちも考えず、ひたすらに。
そうして叫んでいないと、この現実を受け入れられなかったから。
花海咲季という最大の目標をようやく、本当にようやく乗り越えたと思ったらこれなのだ。
15年も掛けた人生最大のリベンジは、自分の世界を大きく広げてくれて。
それこそ、この空のように果てしない世界を視界に据えて──ここから更に羽ばたいてみせる、と心を燃やした。
そして、寝て起きたらこれだ。
彼女が絶叫するのも理解できるだろう。
「と、とにかく……人を探さないとだよね。あたしと一緒で困ってる子もいるかもしれないし!」
こんな時、花海咲季なら。
きっと状況に億さず、自分のやれるベストを尽くすだろう。
そうして怯えている自分を見たら、きっと叱責してくれる。
私に勝ったのに、そんな顔してるんじゃないわよ──このくらいは言いそうだ。
パチンと両頬を叩き、気合いを入れ直す。
強い意気込みと共に片腕を突き上げて、砲撃の如く宣言した。
「いよぉぉぉしッ!!!! ひと、探すぞぉぉぉおおおッ!!!!」
──と、宣言してからはや20分。
花海佑芽は、窮地に立たされていた。
(や……やばい、やばいッ!!)
結論からいえば、人を見つける事は出来た。
崖際に佇む小屋群、その中の一つに潜みながら佑芽は汗を滲ませる。
(とんでもない現場に遭遇してしまった……!)
開いた窓越しに聞こえて来る男達の声。
片方は青年らしきもので、片方はとんでもなく渋いもの。
佑芽が咄嗟に隠れた理由は、決して恐怖からではない。
聞こえてきた彼らの会話の内容が、あまりにもアレだったからだ。
──……いい身体してんな…………。
──……じろじろ見やがって…………ヤる気か?
──……ヤりてぇ時にヤれッ!!
(え、えぇ!? こんな状況で……!?)
聞こえてきたフレーズが、佑芽によからぬ妄想をさせる。
血気盛んな殺人鬼と出会うのとはまた違う危機的な状況と言っていい。
というか男同士というのもヤバい。
なにもかもがヤバいが、佑芽からすれば男同士のアレなど禁忌に近い。
止めなくてはいけない。
勇気を振り絞り、佑芽は両手を広げて飛び出した。
「────え、えっちなのはダメですよッ!!!!」
虚しく響く思春期女子の怒号。
悲痛で精一杯な声が崖際に木霊する。
二人分の男の視線が、佑芽へと注がれた。
◆
──どうして俺がこんな目に。
崖下に広がる夜光雲を眺めて、シュタルクは溜め息を吐く。
理不尽な魔法飛び交う世界を生きる戦士として、想定外のことなどないと思っていた。
仮にあったとしても即座に対応するべきなのだろうが、それにしたって突拍子がない。
「俺、なにか悪いことしたかなぁ……」
シュタルクがぼやくのも無理はない。
なにせ旅路の最中、突然ベリアルのショーに招待されたのだ。
しかも一緒にいたはずのフリーレンとフェルンは傍にいない。
舞踏会を思わせるあの会場、座席に拘束されながらも懸命に周囲を確認したが、それらしき人影はなかった。
「殺し合いとか……わけわかんねーって……」
口では戸惑いながらも、シュタルクは戦士。
あの魔王討伐を成し遂げた戦士アイゼンの弟子である。
無惨に爆殺された少女を思い返せば怒りが湧くし、こうして手中に握られた武器が震える。
自前の斧とは似ても似つかない碧色のハンマー。
これを振るわなければならない状況を想像して、シュタルクは思わず泣きそうになった。
「────よォ」
そのせいで集中力が削がれていた。
だからこうして、気配を拾えず後ろを取られる。
「いい面構えじゃねェか」
振り向きざまに武器を構えるシュタルクへ、男は笑う。
天を衝くような赤髪に、シュタルクでさえ見蕩れそうなほどの筋肉。
ニタァ、という音が聞こえてきそうなほど邪悪な笑顔は、鬼という表現がよく似合う。
「……驚いた、アンタいい身体してんな。相当強ぇだろ」
「ハッ、目だけは良いみてェだな。
もっとも、後ろを取られる程度の視野でしかねぇが」
その男は、範馬勇次郎。
その身一つで地上最強の称号をもぎ取った、正真正銘の怪物。
両手をズボンのポケットに入れたまま、前傾姿勢でシュタルクを値踏みする勇次郎。
ゆったりと、時間たっぷり使って観察する動作を前にして当然いい気はしない。
「人のことじろじろ見やがって、俺の身体そんなに変かよ。……一応聞いとくけどさ、やる気か?」
居た堪れなくなったシュタルクが切り出して、勇次郎は鼻を鳴らす。
やれやれと、肩を竦める動作を加えて。
「まるで奴僕だな」
「え?」
いきなりなにを、と。
そんなシュタルクの言葉は、勇次郎の有無を言わさぬ闘気(オーラ)に遮られる。
「殺し合えと言われて殺す。生き残りたいから殺す。願いを叶えたいから殺す。
……そいつらは意思を持たねェ、いわば奴僕になる道を選んだ敗者。
こんな首輪一つに恐れをなして、ハナから負けを認めてンのさ」
トントンと、幹のような頸に巻かれた首輪を叩く勇次郎。
ベリアルの気分一つで爆破されるという事実を、まるで屁とも思っていない。
狂気的とも取れる言動を前にしても、シュタルクは納得が先に出た。
「男なら、闘(や)りてェ時に闘(や)れッ!!」
範馬勇次郎は、縛れない。
ベリアルが如何に強大な存在であろうと、彼を飼い慣らすことはできない。
そんな説得力が、勇次郎にはあった。
「キサマはどうだ、"斧使い"」
シュタルクの瞳孔が開く。
当たり前のことを言うが、今シュタルクが持っているのはハンマーであり斧ではない。
なのに勇次郎は、彼が本来斧を得物としている戦士だと見抜いていたのだ。
「なァ、なんで武器を取る?」
──あのほんの僅かな観察で、そこまで分かるのか。
シュタルクは改めて、自分の見立てが間違っていなかったことを確信する。
「俺は────」
「────え、えっちなのはダメですよッ!!!!」
突如、張り裂けんばかりの大声が介入。
予期せぬ第三者のアンサーへ、シュタルクだけでなく勇次郎までも顔ごとそちらへ向ける。
栗毛色のボブカットが特徴的な少女は、ぎゅっと目を瞑りぷるぷると肩を震わせていた。
「………………えっち?」
首を傾げるシュタルク。
張り詰めていた空気はどこへやら。
忙しなく色を変える雰囲気は、混沌極まりない。
「…………えっ、あれ」
やがて、目を開いた佑芽は想像とまるで異なる光景に絶句する。
明らかに場違いな現場に飛び出してしまった。
ぱちくりと瞬きしたかと思えば、心底愕然とした顔へ変わった。
「あ、あれぇぇ!? なんか、……なんか想像と違うッ!?」
「…………え~……っと、なにこれ?」
驚きたいのはシュタルクの方だった。
勝手に乱入してきたかと思えば勝手に驚いて、心なしか勝手に裏切られた感を出している。
こんな傍若無人ぶり、あの範馬勇次郎が許すだろうか。
「…………」
ああダメだ、やっぱり何を考えてるか分からない。
シュタルクはまともに会話が出来そうなのが自分しかいないことを悟り、しぶしぶ声をかける。
「あのー……」
「は、はい!?」
「キミ、ちょっと離れてた方がいいかも……」
「いやっ、……それはそれで気まずいからいやですよ! なにしに来たんだって感じじゃないですか!」
「なにその理屈、こわ……」
花海佑芽からしたらここは譲れない。
勘違いだと理解したところで、あんな意気揚々と出てきてしまったため後に引けないのだ。
ガックリと項垂れていたシュタルクは、注がれる猛禽類のような視線に顔をあげる。
「質問に答えな」
範馬勇次郎の声に圧がかかる。
重力そのものがねじ曲がったかのような錯覚が、シュタルクの身体を強張らせた。
ついでに言うと佑芽も、ぴしりと姿勢を正している。
「…………分からない。……けど、人を殺したくはないなぁ……」
そうしてシュタルクは、正直に答える。
変に取り繕ったところで、勇次郎には通用しないと確信していたから。
実際、彼が武器を握るのは殺し合うためではなく身を守るためだ。本能的と言っていい。
フリーレンのように経験豊富な人種ならまだしも、何が何だか分からないまま方針を定めるような真似は出来ない。
「エフッ、エフッ、エフッ……!」
勇次郎は笑う。
瞳孔をかっ開き、肩を震わせて。
心底おかしいとばかりに嘲笑する様に、シュタルクは眉を顰めた。
「死にたくねェじゃなくて、殺したくねェときたもんだ。自分は絶対に死なねェとでも?」
「え、いや……そういうわけじゃないけど」
「オマエが最初に想像したのは、自分が死ぬ姿じゃねェ。その武器を使って人を殺す自分の姿だろう。
そして、心じゃそんな瞬間来なけりゃイイと思ってる……違うかい?」
言い返せない。
心の内を見抜かれている。
シュタルクは臆病だ、それもとびきりの。
けれど、己の腕に自信がないわけではない。
大魔法使いであるフリーレンとフェルンからお墨付きを頂いているのだから、強くなくては困る。
「オマエ、死ぬぜ」
だから、その一言がやけに響く。
勇次郎という強者から告げられて、初めて自分が殺される姿を想像した。
「死にたくないけど殺したくない。そんな傲慢は寿命を縮めるだけだ、早急に捨てろ」
「……それができりゃ苦労しないっての」
「だから漫然と武器を手にし、戦士を装うってか?
だったら武器を捨てて、怯える側に回った方が利口だぜ」
言わせておけば、と怒れたらどれだけ良かったか。
この台詞を吐くのが偉そうな貴族であれば、唾飛ぶ勢いで言い返していただろう。
だが、これを言っているのはよりにもよって地上最強。
その身から放たれる威圧感が、シュタルクから反論という防衛手段を奪う。
「…………? ……??」
一人取り残される佑芽。
頭の上にハテナを浮かべながら、二人のやり取りをぼうっと眺める。
よくはわからないが、雰囲気が良くないことを察して口を噤んだ。
「なんなんだよおっさん、俺が嫌いなのか?」
「忠告してやってんのさ。武器を取る以上、半端な覚悟で臨むンじゃねェ」
「だから、そう簡単に割り切れねぇんだって!」
シュタルクの悲痛な嘆きを聞いて、勇次郎は顎を撫でる。
大袈裟に、少し考えるような素振りを見せて。
「そうかい」
その仕草に、悪寒が走る。
シュタルクの第六感が鼓動を早めさせ、なにかの前兆を示した。
「なら、そこの女を殺す──って言ったら?」
ほんの一瞬、勇次郎の視線が佑芽を射抜く。
突如矛先を向けられた少女が反応するよりも先に、地面が爆ぜた。
崖を崩す勢いで踏み込んだシュタルクは、一息もかからずに勇次郎へ肉薄。
地面スレスレの振り上げは勇次郎が半歩退いたことで不発に終わるも、シュタルクに動揺はない。
この空振りは、次なる一撃への布石なのだから。
「閃天────」
「遅ェ」
師匠直伝の一撃必殺。
大槌を頭上へ振りかぶり、それを放とうとしたシュタルクの顎を、強烈な左フックが撃ち抜いた。
揺さぶられた脳味噌は意思に反して身体を沈めさせる。
ガクリと膝から崩れ落ちながら、闇に狭まる視界の中でシュタルクが捉えたのは、どこか満足気な勇次郎の顔だった。
◆
「……うーん…………」
「き、気絶してる……!」
ぐったりと倒れ込むシュタルクへ、佑芽が恐る恐る近寄る。
何度か揺さぶったりつついたりしてみるが、起きる様子はない。
(……あれ、そういえばさっきなんか殺気を向けられたような……)
というよりも、シュタルクに気を取られていたが冷静に考えたら危機的状況ではないのか。
気のせいであってほしいが、先ほど殺されるとかなんとか聞こえたような。
おずおずと勇次郎へ視線を向けて、ギラついた瞳とかち合った。
「嬢ちゃん」
「はッ、はいッ!!?」
「そいつを診てやンな。駄賃として護衛にでもつかせてやりゃあいい。
その方がそいつもやる気を出すだろうよ」
「えっ、ヤる気ッ!!?!? ……あ、いやッ、わかりました!」
地上最強から放たれた言葉は、佑芽の予想していたものとまるで違った。
思わず素っ頓狂な裏返った声を上げてしまうが、勇次郎は構わず背を向けた。
てっきり本当に殺されるのかと思うくらいの気迫だったのに、今はすっかり鳴りを潜めている。
「あ、あのっ!!」
だから、佑芽は思わず声をかけた。
「これから、またさっきみたいに人と……えーっと、バトルするんですか?」
言い方に迷った。
人を殺すのか、なんて直接聞いて肯定されたら怖すぎるから。
それにしたってもう少し聞き方があったかもだが、佑芽の引き出しには限界がある。
「安心しな、嬢ちゃん」
そんな佑芽の意を汲んだのか、はたまた気まぐれか。
勇次郎は数拍間を置いて立ち止まり、振り返らないまま答える。
「ベリアルの野郎の言いなりになるつもりなんざねェ」
それだけ。
たったそれだけを残して、勇次郎は立ち去る。
遠ざかる鬼の背中をぼうっと眺めて、佑芽はぽつりと口を開いた。
「か、かっこいい…………」
【シュタルク@葬送のフリーレン】
[状態]:気絶中
[装備]:ハイボルテック@モンスターハンターワイルズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。
0:気絶中
1:話の分かるやつに接触したい。
[備考]
※少なくともソリテール討伐後からの参戦です。
【花海佑芽@学園アイドルマスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:皆で協力してバトルロワイヤルを終わらせる!!
1:この人(シュタルク)が起きるまで面倒を見る。
2:お姉ちゃん達も呼ばれてたり……しないよね?
[備考]
※初星コミュ4章7話、花海咲季達に勝利した後からの参戦です。
◆
佑芽とシュタルクの元から離れた後、勇次郎は頬が裂けんばかりに笑う。
それは面白おかしさから来る笑いではなく、抑え切れようのない憤怒から来る笑いだった。
「ハッハッハッハッハッ!! アァ~~ッハッハッハッ!!」
膝をバンバンと叩き、涙が出るほど笑う。
気がおかしくなったのかと思われかねないが、とうに勇次郎は狂っているので問題ない。
本当に問題なのは、そんな狂っている勇次郎を"飼いならせる"と見誤ったベリアルにある。
範馬勇次郎はかつて、暴虐の限りを尽くしてきた。
暇潰しに格闘家の命を奪い、息子を半殺しにし、妻まで屠った。
けれど、それは昔の話。
現在の範馬勇次郎は、率直に言うと丸くなっていた。
暴力と悪行を極めた先には、何もなかったから。
悲劇的なまでの空虚しか得られず、頂上から眺める光景じゃ満たされなかったから。
だから、勇次郎は違う山を登ることにした。
地上最強の座を息子に受け渡し、"父親"としての山を登り始めたのだ。
子供からサインをねだられれば応えてやるし、転びそうになった老人もその手で支える。
力の劣る者へ、長所を誉めて助言を与える立場にもなった。
かつて敬意を払っていたマホメド・アライのように、平穏に寄り添う道を選んだ。
そんな勇次郎だからこそ、怒るのだ。
輪郭に付き纏う空間が歪むほどに。
怒髪がゆらりと揺れ動くほどに。
ひとしきり笑ったあと、まさしく鬼の貌を浮かべて宣言する。
「────ぶち殺してやるよ、ベリアル」
【範馬勇次郎@刃牙らへん】
[状態]:健康、ベリアルへの怒り(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:ベリアルを殺す。
1:ベリアルを殺す算段が整うまでは、適当に楽しませてもらう。
2:ベリアルの言う"強力な力"を持つ参加者に興味。
[備考]
※ジャックとの食事後からの参戦です。
【支給品紹介】
【ハイボルテック@モンスターハンターワイルズ】
シュタルクの支給品。
海竜ラギアクルスの素材で作られたハンマー。
渦巻いた形が特徴的で、作中でも最強格の雷属性と攻撃力を兼ね備える。
最終更新:2026年02月22日 00:52