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後悔などもれなく覆水盆に返らずとは言うもの。
割り切ろうともいつか何処かで思い返してしまうのである。
気付いた頃には手遅れだったということもある。
醜態を晒し、価値を示す名誉に縋りつき、仕えていた相手に切り捨てられ、唯一無二の忠臣を失った。
それでも、それでもと頑張った結末がこれなのか。
これは応報だ。巡った悪逆がこういう形で応報の因果を齎した。
人生のツケとは最も辛い時にやってくる。それこそ今の高津雪那という女の末路であった。

「私にはそれしかなかった。自分の価値を証明し、役立たずじゃないことを示したかった」
「⋯⋯⋯」

そんな彼女が、眼の前に居る誰かに八つ当たりするかのように、ぼそぼそと。
まるで独り言を呟くかのように語りかけている光景。
実際の所、高津雪那にとってどうしてこうなったのかなんて分かるはずもない。
ノロに呑まれようとした結果なのか、知らずの内に隠世に迷い込んだのだろうか。
だが少なくともこの突拍子な現象と現実が、そんなこと程度で収まるとは思えなかった。
これでもかつては刀使として戦線に立っていた身。
衰え巫女としての力は行使できずとも、自分の身を守るぐらいは。

「認めてほしかった。たったそれだけの事なのに」

それでも、「生き残る」という選択肢が靄がかかったように浮かばなかったのは。
自分を最後まで「主」として認め、忠誠を誓ってくれた彼女の最後が鮮明に思い出してしまうから。
どれだけ貶そうと、蔑もうと。最初の憧憬を忘れず付き従ってくれた彼女に何を報えただろうか。
あのねぎらいの言葉で彼女は救われたというのなら。
それだけしか、彼女の忠誠に報えなかったというのなら。

「最初から、私が欲しかったものがすぐ隣にあったはずなのに」

結局、自分は間違え続けて、取りこぼし続けた人生だったのだろう。
不良品が選別され、捨てられるように終わるべきだった。

「こんな事になるなら、私はあの時死んでいればよかったのに」
「口を開けば、己の醜さを言い訳にして吐き出してるだけではないか」

耳を傾けていた相手から、真っ直ぐな罵倒が飛んだ。

「⋯⋯⋯⋯ええ、そうね。」
「仮にも人を動かす立場の人間がそのザマか。クソにも劣るな」

高津雪那は相手を知らない。白い軍服調の衣服に身を包んだ、見るからに強気な女性。
だがその言葉の強さには、多くの人間を指揮するという立場にいたが故の重みがあった。


「貴様はクソ以前の問題だ。クソの中に塗れて抜け出せない、抜け出すことを恐れる臆病者だ」

否定など出来なかった。結局自分は自分の感情に目を向けることが怖かったかもしれない。
彼女の優しさに目を向けることを、彼女の心を触れることに余計な恐怖を抱いていたのかも知れない。
見捨てられる恐怖から彼女にすがっていたのかも知れない。
皐月夜見という刀使の心を、知ろうとしなかったから。
何も、反論できるはずがなかった。

「⋯⋯だがな。失った悲しみや後悔を愚痴で吐くことぐらい、当たり前のことだ」
「⋯⋯え」

不意を打たれたかのような、うって変わったような、優しげな言葉に高津雪那は放心した。
少なくともこの彼女は自分よりも『人を指揮する者』としては格上であると。
その強さも、心のあり方も。自分なんかよりも、と
そんな彼女から出た柔らかい言葉に、呆気にとられるように

「割り切ろうとしても、割り切れないんだから⋯⋯な。」

彼女の目に映るのは、かつての後悔か。
たかが一人、されと一人。彼女にとっての誰かに当てはまること。
おそらく彼女の本質がこれなのだろう。
先程の厳しさを籠もった言葉は、優しさの裏返しなのだろうか。

「死した忠義に報いるならば、生き残ることだけまずは考えろ。その上で間違った道じゃない、悔いのない選択をしろ」
「⋯⋯それは」

強い口調が戻って来る。
だがその言い方はまるで諭すような、励ますようなものだった。

「ーー死者が出来るのは遺すことだけだ。お前は遺されたものまで捨てるのか」

突きつけられた言葉。それに怯える自分はもういなかった。
巫女としては手伝えなくても、刀を振るうぐらいなら出来る。
夜見があそこまでやって、生き延びさせてくれた命だということを自覚する。
最後まで寄り添い、一人ぼっちじゃなくてこれた彼女に。
自分なんかに生きてほしいと思った彼女に報いるならば。
仮に命を落とすこととなったとしても。

「⋯⋯⋯⋯、ない」
「なんだ? 言ってみろ」
「⋯⋯それだけは、捨てたくない。例え罵られようと、たった一つあった確かのものだけは。皐月夜見の、思いだけは」

彼女から受け取った思いだけは、捨てたくなかったから。
そう、高津雪那は立ち上がって啖呵を切った。



啖呵の後の沈黙。大した時間が流れて無くとも永劫とも思えた。
その覚悟を見定めるように、女性の鋭い視線が高津雪那を据える。
少しだけ静かになって、女性の口がほんの少しだけ緩む。
そして、デイバッグから何かを取り出した。

「これは⋯⋯!」
「私が扱うよりも貴様が扱うほうがマシに使えると思ってな。喜べ、お前はクソ以下から少し大きいウジ虫程度に生まれ変わった」

水神切兼光。皐月夜見の御刀が渡される。
どうしてこれがあったのか、こんな形で彼女の形見と再開できるとは思わなかったとか。
色んな思いがぐるぐると頭に駆け巡ってまとまらないけれど。

「⋯⋯それに、お前と会いたがっていたようにも思えてな。この出会いは、偶然ではないかもしれんな」

その言葉のように、自分と彼女が出会ったのは偶然とは思えなかった。
まるで導かれるように出会いがあり、夜見の形見が手渡された。

「⋯⋯⋯⋯そう、ね」

抱きしめて、涙を流す。
どこまでも、自分に忠してくれるあの娘に。
形見だけになっても助けてくれるあの娘に。
どこまでも、自分に寄り添ってくれる皐月夜見に。
その思いを今度こそ取りこぼさないと、誓った。



価値を示すために功績を求めた末路。
それを自業自得であろうと大切なもの失ったものに対してなにか思ったのか。
ベアトリクスが道を間違えたらこうなっていたかも知れない⋯⋯と思ったがベアトリクスと比べるのは彼女の方に失礼だと。
イルザという女にとっては、高津雪那はどこぞの癇癪玉のIFとも思えてしまった。
あちらと違うのは、復讐のためか自己価値のためかぐらい。

(存在自体がクソの掃き溜めの如く醜い男め、ここまでやるか)

ベリアルという男の脅威度を、イルザは正しく認識していた。
何を考えているのか、どのような企みを行おうとしているのかはこの際関係ない。
だた確かなのは、団長の騎空団の仲間を殺したクソの極み、というだけのこと。
団長のことだから、余程のことが無ければ大丈夫、という信頼もある。
もしやつと再開できたなら、今までの無礼と世界の危機を引き起こした返礼として弾丸のフルコースをたらふく喰らわしてやると決意しながら。

(⋯⋯もはや一切の容赦はしないぞ。もしや、あいつらも巻き込まれているのか?)

ゼタやバサラガ、ベアトリクスにユーステス、そしてカシウス。
同じく巻き込まれたかどうかの可否は判断できない。
もしいるならば団長同様最優先の捜索対象ということになる。

(不確定な事は今はいい。⋯⋯それよりも)

この彼女、まだイルザは名前を知らない、高津雪那という女。
腑抜けた態度をとっていたから叱責してやろうかと思っていたが、思ったより彼女の身の上話に耳を傾けてしまった。
自分の価値に執着し、その悪因の果てに既に手に入っていた大切なものを失った。

(⋯⋯私がかつての彼女みたいなウジ虫だったとしても、救われた恩があるなら付いてきてくれたのだろうか)

レクターたち含めた、死んでしまった部下たちのことを思ってしまう。
まだヒヨッコの新兵たちであったが、出来ることなら失いたくなかった大切な教え子たち。



(⋯⋯いや、あいつらなら。私がクソ虫に落ちぶれたなら迷わず正気に戻してくれるだろうな)

変な杞憂を想ってしまった自分に少し笑いながらも、覚悟を決めた高津雪那の顔を見る。
腹を括ったならそう簡単には死なないだろう。
自分に付いてくるにしろ、独自に行動するにしろ、叱責した甲斐はある。

(それと、支給品の選出は良くも悪くも平等ということか⋯⋯)

どうして高津雪那に水神切兼光を渡したか。
それはただ「導かれるように」だけではない。
自分にとってこの手に馴染む武器があったのだから。

(⋯⋯この銃、なかなか悪くないな)

イルザの懐に収められている銃の名はエボニー&アイボリー。
神をも恐れぬデビルハンターが保有せし二丁拳銃である


【高津雪那@刀使ノ巫女】
[状態]:健康
[装備]:水神切兼光@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:生き残る。たとえいつか命尽きるかとしても、せめて彼女の忠義に恥じないように
1:⋯⋯水神切兼光。夜見、あなたって子は
[備考]
※参戦時期は夜見と心中しようとした直後


【イルザ@グランブルーファンタジー】
[状態]:健康
[装備]:エボニー&アイボリー@デビルメイクライシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:このクソ以下のふざけた殺し合いを壊し、ベリアルの目論見を潰す
1:元凶(ベリアル)には出会い次第鉛玉のプレゼントをしてやる
2:彼女(高津雪那)はこの様子なら大丈夫か
3:団長や組織の仲間たちと早急の合流
[備考]
※最低でも参戦時期はイベントストーリー「Second_Advent」及び浴衣SSRフェイトエピソード経験済み以降です

『支給品紹介』
【水神切兼光@刀使ノ巫女】
イルザに支給、現在は高津雪那が保有。皐月夜見の御刀。
主無き今でも、その思いと共に大切な彼女の元へ託された。

【エボニー&アイボリー@デビルメイクライシリーズ】
イルザに支給。デビルハンター・ダンテが所有する、「黒鍵」「白鍵」を意味する大型の自作二丁拳銃。
黒いエボニーは遠距離の単発狙撃に優れ、白いアイボリーは高い連射能力を誇る。
※残弾のストックその他諸々に関しては後続の書き手にお任せします
最終更新:2026年02月23日 20:13