「アンタその髪で医者ァ!?」
「声がデカい」
抜けるような蒼空に、すっとんきょうな声が響く。
大声を遮るもののない開けた場所にいたのは、白衣に身を包んだ男女だった。
いや、それを白衣と読んでも良いものか。
大きい目を更に見開いて言った、明るい髪の色の女と、ヴィジュアル系のようなメイクをしたメガネの男。特に男の方は白衣の半分を黒く染めている。
彼らのどちらもが医者だとは、一見して誰も思わないだろう。
「なに? 医者を殺し合わせるとかそういうの?」
そんなふうにぼやきながら、デイパックに入っていた食糧をさっそく口にする女医の名は、大門未知子。
専門医のライセンスと叩き上げのスキルのみを武器とする、フリーの外科医である。
と言っても、ここは殺し合いのフィールド。当然ながら手術道具などあるはずもなく、名医である彼女であっても、負傷者を前にできることなどたかが知れているのだが。
「ふぁんふぁはふわえふぉーなふぉんなかったの?」
「無い」
口にモノを入れながらゴソゴソとデイパックを漁りながら聞く彼女の言葉をよく聞き取れたものである。そんな男の方もまた医者。その名は艶道。かつて赤毛の天才医と呼ばれた名医である。
彼が大門と出会ったのはほんの数分前のことだが、既に大方の性格は理解しつつあった。この女はオペにしか興味が無いタイプだ。若く見える己より更に年はいっているだろうに、手術に勝る興味も無ければできることもないのだろう。
そんなふうに冷淡に分析するのは、彼女が医師であるからか。そうでなければ。
「ねぇ、これ。麻薬だよね」
説明書は回収したとはいえ、違法薬物を入れた己のデイパックを好きに漁らせはしなかっただろう。
「……そうか。」
「とぼけんじゃないわよ。アンタも外科医でしょ。臭い嗅げば一発でわかったはず。」
なるほど、外科医と言っていたが、麻酔科医の心得もあるタイプか。並の医者ならまず気づかないだろうに、横断的な知識を持っているようだ。
納得しながら、艶道はポケットから手を取り出す。
艶道は大門を試したかったのだ。紙片タイプの薬物、それを一目で見抜けるような医師かを。
自分の腕をいたずらに誇るだけの藪医者など珍しくもなんともない。傲岸不遜な態度の彼女の鼻っ柱を負ってやろうと考えたのだが、あてがはずれた。
「返してもらおうか」
「ダメ。このデザインだと、アンタ、1枚使った?」
「いや、これから使うのさ」
そして手を口へとやり、隠し持った『地獄への回数券』を摂取した。
誤算だった。まさか最初に出会ったのが腕の良い医者とは。自分の気まぐれで武器を奪われ、奪い返すために殺さなくてはならなくなるとは。
だが、そんな誤算には慣れてしまった。
「極道技巧──」
「その目」
「──『黒旋術式(シュトゥルム)』」
次の瞬間、艶道の指先から真空波が放たれる。
不可視の飛ぶメスが大門の心臓を切開する。
破壊の八極道『怪獣医』率いる救済なき医師団の1人、闇医者・艶道。
彼と相対した大門が残したのは、悲鳴の他には血痕だけだった。
「恐怖心……俺の心に……恐怖心……」
ところかわって、1人呟きながら歩く青年がいた。
その名は橘朔也。職業:仮面ライダーである。
いや、だったと言うべきか。
彼が研究員として務めていた研究所は、つい先日研究対象である怪物・アンデッドにより崩壊してしまった。
そして橘の身体も、急遽作られたライダーシステムの不備のせいでボドボドになっている。
身体だけでない、橘の心もまた恐怖に支配され、その心身は日を追うごとに悪化しつつあった。
そんな状態で殺し合いになど巻き込まれれば、もう平静でなどいられない。デイパックを必死に漁って見つけた変身アイテム・ギャレンバックルを握り締めながら、当て所なくさまよう。ときおり口にするのは、研究所であるBOARDの所長である烏丸から言われた、己の心に恐怖心があるという指摘。仮面ライダーという超常の戦士への変身を可能としながらも、不安で押しつぶされそうな彼に、前など見えていなかった。
「う わ あ あ あ あ あ あ あ」
何かに蹴躓き、大げさなほどの声を上げて橘は転倒する。
それでもギャレンバックルは手放さずに受け身をとったのはさすが一流か。
一体なんだと思って辺りを見渡した橘は、しゃがんだまま慌てて後退りした。
人だ。人がいる。白スーツの男が、うずくまっている。
殺し合いの参加者、マーダー。反射的にそう思って、思わず悲鳴を上げかける。その声が出なかったのは。
「やめて……殺さないで……」
男が橘以上に怯えていたからだ。
男の名前が虹村凶作、だというのは移動しながら自己紹介をする中で知った。先の橘の声で危険人物が近づいてくる可能性があるので足早にその場を離れたのだ。
白スーツにヒョウ柄のシャツと、明らかに堅気でない格好だが、それにツッコむような真似はしない。その怯え方が演技でないことは、橘には身に沁みてわかっているからだ。
「ハァ……ハァ……まだ逃げるんですか……」
「ええ……もっと……もっと距離を取らなければ……!」
ひたすら足を止めない虹村に従って歩きながら、橘は内心で驚いていた。2人のペースはかなり早いものだが、その間休み無く歩き続けている。ギャレンとして戦うべく訓練を受けている橘よりもなお疲れなく歩く虹村に、当初は怯えからのものだと思っていた橘は考えを改めた。
橘自身も経験があるのでよくわかるが、恐怖に駆られた人間というものはときに考えられないような力を発揮することがある。たとえば夜道で怪物と戦い、通りすがりの道路清掃車にしがみついて逃げたはいいものの、恐怖から手を離せず明け方になるまでしがみついたままだったように。最初はそれと同じだと思ったのだ。
だが、虹村の動きは違った。明らかに洗練されている。スーツにブーツという姿でありながら、まるで舗装道路のように道なき道を歩いている。単なる筋力などでは理由がつかない。相当歩き慣れているのが伺えた。
「ハァ……ハァ……早いですね。何か、経験が……?」
「…………南方に行っていました」
「ナンポー……?」
ナンポー、という言葉が南方と結びつかない橘を責めることはできないだろう。お互いを平成に生きる者だと考える橘だが、虹村は戦争を経験した身だ。
「今のは、悲鳴?」
そんな2人の耳に届いたのは、絹を割くような叫び声。その意味はすぐに察せられる。殺し合いだ。誰かが誰かを殺そうとしている。
「橘さん!?」
気がつけば、橘は虹村の前を歩いていた。そのまま声のする方へと向かおうとして、虹村の声ではたと我に返る。
「俺は……」
「橘さん! 逃げましょう! そんな手じゃ無理だ!」
手。そう言われて自分の手を見る。
震えていた。ブルブルと、まるで痙攣するかのように震えていた。武者震いなどでは断じてない。身体を内側から圧解させるような、純然たる恐怖。それが橘を、橘が持つギャレンバックルを震わせる。
恐い。戦うことが、命を奪い合うことが。アンデッドという不死の怪物とも違う人間との殺し合いが。
(……そうだ、俺以外にも参加者はきっとたくさんいる。俺は……戦えない……俺は……)
『頼む……俺の代わりに戦ってくれ、ギャレンとして! お前ならできる』
(俺は……!)
橘の震えは止まらない。
だが迷いは無くなった。
躊躇う瞬間その闇に飲まれると言わんばかりに。
即座にギャレンバックルを構えると、変身のためのオリハルコンエレメントが展開される。
「変身!」
「橘さん!」
「『Turn up』」
橘は疑うより信じてみる。
先輩や仲間が認めてくれた自分の可能性を。
心の中の嵐はますます勢いを強くしても。
オリハルコンエレメントへと飛び込み、その身をギャレンへと変えた。
「うああああっ!!」
そして突貫する。目標は捉えている。モノトーンが印象的な白衣の男!
「! 『黒旋術式(シュトゥルム)』!」
「バリアか!?」
大門から何かを──それが『地獄への回数券』だとはわからないが──奪い、トドメを刺そうと腕を振りかぶる艶道の足先へと威嚇射撃をしたはずが、艶道の周囲の何かに阻まれ爆ぜる。それをすぐさまバリアと考えた橘は、しかし相手が生身ということもあり銃撃をやめて格闘戦を挑む。
「『黒旋術式・壱ノ型(シュトゥルム・ディ・エアステ)』」
「うわっ!?」
目にも止まらぬスピードで艶道がその指先を振るうと、ギャレンの装甲に火花が散り、弾き飛ばされる。まるで近づくことなどできない。
やむを得ず銃を手に取るが。
「『黒旋術式・弐ノ型(シュトゥルム・ディ・ツヴァイテ)』」
「またバリアか!」
弾丸が不可視の何かに弾かれていく。それでも橘は足を止めない。走りながら銃撃を続けて艶道をその場に留めると、向かうのは倒れる大門のところ。
「無駄なことを……」
「大丈夫ですか! 傷が……治ってる!?」
「ほう、『地獄への回数券』を使ったか。どうでもいいが……」
お姫様だっこで抱え上げながら橘は驚愕した。心臓が見えるほどの傷が刻まれている。そしてそれがありえないスピードで塞がっていく。
これぞ『地獄への回数券』の効果。その超再生能力は、致命傷ですらも瞬時に治していく。
(コイツもこの女も、アンデッドなのか!?)
混乱しながらも、橘はもと来た方へと気絶した大門を抱えて駆け出した。それを艶道は、追わない。既に『地獄への回数券』は回収した。自分が使った分と大門が使った分、合わせて2枚使ってしまったが、まだ枚数はある。
「この地獄で医者にできることなどない。せいぜい己の無力を噛み締めろ」
吐き捨てるように言うと、艶道は逆方向へと歩き出した。できればもう二度と会いたくないと思いながら。
「ゴホッ! ゴホッ! あー、生きてる?」
「この女は……?」
「わからない……」
「心臓が見えているが……いや、き、傷が、治っていく!?」
「へー、あの説明文本当だったんだ……」
咳き込む拍子に口から紙片を吐き出しながら会話が可能になった大門。そんな大門を複雑な顔で見る橘。
恐怖からその場を動けずにいた虹村は、困惑と共に2人を迎えた。
心臓に達するほどの傷が治っていく女に、変な鎧を瞬時に身に着けた男。どちらも虹村の想像の範囲を超えている。思わずヒロポンを知らないうちにキメているのではないかと我が目を疑ったほどだ。
「あ! アタシのバッグは?」
「……これか?」
「そうそうってちっがーう! これアイツのじゃん!」
デイパックを取り違えたらしいが、そんなことは虹村の頭には入ってこない。彼の目が向いたのは、大門がカバンをひっくり返した際に見えた、支給品の説明文だ。
(『地獄への回数券』…… 薬か? これが、彼女の傷を治した?)
ボクシングで30戦無敗を誇る虹村は、わずかな時間だけ見えた説明文を見逃さなかった。ハッと気づき、先ほど大門が吐き出した紙片をさり気なく探す。彼女が橘と何やら話している間に、地面に落ちたそれを見つけて、虹村は躊躇無く口に含んだ。
(──ああ……いい……そうそう、いい感じ、これこれ、いや、フフフ、これは、これはすさまじい……!)
そして理解した。
『これ』が己の知る中でもの最高の薬物だと。
「……橘さん、まずは場所を変えましょう。ここではそちらの方も落ち着けないでしょうから……」
「ええ……」
「……なんかアンタキャラ変わった?」
「フフフ……こんな状況ですから。さあ、着いてきて」
麻薬が与えてくれる勇気に背中押されて、虹村は別人のように意気揚々と歩き出す。
鍛えられた筋肉と合わせて、その背中には自身が満ちているように見えるだろう。なにせ彼は戦後の動乱期、地下で行われていたボクシングで圧倒的な強さを見せつけた男。
従軍中の経験からヒロポンに依存するようになった彼は、その狂的なファイトスタイルを持って全試合KOを成し遂げた。
人は彼をこう呼ぶ。
狂実験の虹村、と。
【大門未知子@Doctor-X】
[状態]:ダメージ(小)、『地獄への回数券』使用中
[装備]:なし
[道具]:艶道の基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:殺し合い? するわけないでしょ。
0:まさか本当に治るとはね……あれ? クスリは?
[備考]
※参戦時期は割と後の方のシーズンです。
【艶道@忍者と極道】
[状態]:『地獄への回数券』使用中
[装備]:『地獄への回数券』(2枚使用済み)
[道具]:大門未知子の基本支給品一式、不明支給品×3
[思考]:殺し合いか……オレには関係ない。
0:どうでもいい。
1:治療を求める者には治療を、救いを求めるものには死(すくい)を。
2:大門未知子……救えない生命にどう向き合う?
[備考]
※参戦時期は割と後の方のシーズンです。
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:肉体ダメージ(小)
[装備]:ギャレンバックル&◇123568のラウズカード@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:恐怖心……俺の心に……恐怖心……
0:虹村さんと共に女性(大門)を保護する。
1:小夜子達知り合いが巻き込まれていれば、その時は合流したい。
2:この女もあの男(艶道)も、アンデッドなのか!?
[備考]
※参戦時期は第7話「囚われた2号」にて変身解除後気絶した所からです。
※大門と艶道をそれぞれアンデッドだと考えています。
【虹村凶作@ドリトライ】
[状態]:『地獄への回数券』使用中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×3
[思考]:無理だ……戦えないよ……『アレ』がないと……だが……あったぞ……『麻薬』が!
0:生き残る。
[備考]
※支給品に薬物のたぐいはありません。
【支給品説明】
- ギャレンバックル&◇123568のラウズカード@仮面ライダー剣
橘朔也に当人支給。仮面ライダーギャレンに変身可能なツールとセットとして支給されたラウズカード達。
1はチェンジにより変身に行使し、2はバレットで弾丸強化、3はアッパーでアッパーカット増強、5はドロップで蹴り下ろす際に足先の重量を増やしてキックの破壊力増強、6はファイアで炎付与、8は暗視能力を高める効果がある
艶道に当人支給。使うことで超身体能力と超再生能力を得られる麻薬。10枚綴り。
最終更新:2026年02月24日 18:17