島の断崖絶壁。一歩踏み外せば底知れぬ闇が広がるその縁を、奇妙な人影がカクカクと移動していた。
黒のスーツに、関節が外れているかのようなパントマイムの動き。そして何より異様なのは、その頭部が巨大なビデオカメラそのものであるという点だ。
彼の通称は映画泥棒(カメラ男)。
断じてNPCでもなければ、誰かの悪趣味な着ぐるみでもない。生まれついてのこの頭部を持つ、れっきとした(?)人間である。
頭部のレンズが、眼下の闇を捉え、内蔵ストレージに記録していく。
彼の目的は優勝ではない。この前代未聞の「異世界バトルロワイヤル」を盗み撮りし、元の世界に帰還した後、動画サイトに違法アップロードすることだ。
広告収入は莫大なものになるだろう。そのためには、こんなところで死ぬわけにはいかない。
その時。レンズの視界の端に、見覚えがありすぎる赤色の回転灯の光が映り込んだ。
「……!」
道の向こうから現れたのは、頭部がパトランプになっている男――宿敵、パトランプ男だ。
映画館で盗撮を試みるたび、どこからともなく現れて自分を取り押さえる天敵。まさか、こんな場所まで追ってくるとは。
映画泥棒は、カクリ、と首(カメラ)を傾げると、コマ送りのような不気味な動きで加速した。
パトランプ男も気付く。赤い光を激しく回転させ、警告音のような唸り声を上げながら、支給品の拳銃をぎこちなく構えた。
バン!
発砲。
だが、映画泥棒は止まらない。銃口が火を噴く瞬間、まるで重力を無視したかのように上半身を直角に反らし、銃弾を回避したのだ。
無理もない。パトランプ男の仕事は盗撮犯の確保であり、銃撃戦など想定していない。その構えは素人そのものだった。
一瞬で懐に入り込む。パントマイムで鍛え上げられた強靭な足腰から、鋭い膝蹴りがパトランプ男のみぞおちに突き刺さった。
赤色灯の回転が一瞬止まる。追う側から追われる側への急な変化に、対応できていない。
大きく蹲った宿敵を見下ろし、映画泥棒はレンズを光らせた。ここが、最高の撮影ポイント(シャッターチャンス)だ。
彼は流れるような動作で、パトランプ男の巨大な頭部目掛けて、美しいフォームのハイキックを繰り出した。
ガアアンッ!!
硬質な音が響き、パトランプ男の体が大きく後ろによろける。
――その先には、もう地面はなかった。
パトランプ男の体が、島の縁から虚空へと投げ出される。
重力に従い、赤い光が闇の中へ落ちていく。映画泥棒は崖際まで駆け寄り、その様子をズーム機能で克明に記録し続けた。
そして。
落下した赤い光が、闇の中で一際強い閃光となって弾けた。
ドォォォン……!
『禁止エリア侵入』による、首輪の爆破だ。
爆風が崖上のスーツの裾を揺らす。映画泥棒は、宿敵が爆散した闇に向かって、挑発的に腕をぐるぐると回し、腰をカクカクと振る奇妙なダンスを踊ってみせた。
満足げに再生リストを確認すると、彼は次の被写体を求めて、再びカクカクと歩き出した。
【映画泥棒@NO MORE 映画泥棒】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]:殺し合いを記録し、生還した後それを違法アップロードをする
1:視聴回数が撮れそうな戦いを探す
2:安全第一を心掛け、安全な場所から撮影をする
3:視聴回数を取るためにも勝機がありそうな相手なら自ら手を下す
【パトランプ男@NO MORE 映画泥棒 死亡】
※パトランプ男の支給品は島の外へ落下しました。
最終更新:2026年02月28日 19:57