森の静寂を乱すのは、湿った咀嚼音だ。
グチャリ、という肉を断つ音と、クチャクチャと臓物を咀嚼する音。
かつてその手で「わくわくするもの」を生み出していたはずの爪は、今やNPCのベビーパンサーを引き裂き、その血肉を貪るためにのみ使われていた。
丸々とした愛らしい瞳の周囲には、べったりと返り血がこびりついている。
その巨体を包むのは、泥と返り血で汚れ、ボロボロになった「5」の字が書かれた服。
彼の名はゴロリ。
かつて「ワクワクさん」と呼ばれた男と共に、創意工夫の喜びを説いていた熊。しかし、相棒と別れてから13年という歳月は、あまりに長すぎた。人間との繋がりを断たれた彼は、緩やかに、しかし確実に「ゴロリ」という個を失い、ただの飢えた穴持たずの獣へと先祖返りしてしまったのだ。
「……ウゥ、……グルル……」
ベビーパンサーの亡骸をあらかた平らげると、彼は更なる飢えを癒すべく、傍らに落ちていた支給品のデイパックに鼻先を突っ込んだ。
バリッ、ガリッ。
精密機器であるはずのスマホを、ただの「硬い物体」として噛み砕く。
半日分の食料を袋ごと飲み込み、その他の支給品も、それが何であるかを理解する前に胃袋へと収めていく。
だが、最後に残った「それ」を口に運ぼうとした瞬間。
ゴロリの顎が、ピタリと止まった。
デイパックの底から転がり出たのは、鮮やかな色合いの、見覚えのある形状をした『赤い帽子』
20年近くの間、隣で常に「何か」を作っていた相棒が、肌身離さず被っていたあの帽子だ。
「…………」
ゴロリの喉から漏れていた獣の唸りが消える。
血に汚れた鼻先で、そっとその帽子を突く。
なぜ、それを食べなかったのか。
満腹だったからか。食べ物ではないと本能が告げたからか。
あるいは、噛み砕く音の代わりに、脳裏に「ゴロリ、今日はこれを作るよ!」という快活な声が響いたからか。
それを探る術は、もう今の彼には残されていない。
ただ、野生に落ちた熊は、そっと優しくその帽子を口に咥えた。
「――グル……ア、……」
言葉にならない声が、森の闇に溶けていく。
かつての国民的キャラクターは、胸の奥底に「13年前の残滓」を抱えたまま、四足歩行で深い茂みへと消えていった。
その口に、昔の相棒の面影をしっかりと咥えて。
【ゴロリ@つくってあそぼ】
[状態]:健康、満腹
[装備]:ワクワクさんの帽子@つくってあそぼ
[道具]:なし
[思考]:グルル……
1:ガルル……
※本能に沿った行動をします、彼が元通りになるかどうかは後の書き手さんにお任せします
※支給品は帽子を除いて全て食べました
NPC紹介
ベビーパンサー@ドラゴンクエスト
小さな豹の形をした獣型魔物、鋭い牙を持っている
最終更新:2026年02月28日 19:15