――キィィィィン!
――キィィィィン!
黒の剣士と金髪の青薔薇の剣士が切り結ぶ。
勝負は互角。厳密には青薔薇の剣士の方が強さは上回るのだが青薔薇の剣士――ユージオは黒の剣士に対して手加減せざるを得なかった。
「キリト。キミはいったい、どうしたんだい!?」
「あんたが誰かわからないけど、俺には叶えたい願いがあるんだよ!」
ユージオの問いに、黒の剣士――キリトが鬼気迫る表情で答える。
キリトとユージオは親友だ。少なくともユージオにとっては、そうだった。
しかし今のキリトにとっては見知らぬ赤の他人。何故ならキリトは月夜の黒猫団が壊滅した後にこのデスゲームに巻き込まれた。
デスゲームの最中に別のデスゲームに――という摩訶不思議な体験をしているが、これもまた現実(リアル)だ。
そして普段のキリトならば優勝を狙ったりせず、ゲームの攻略を狙っただろう。
しかしタイミングがあまりにも最悪過ぎた。
月夜の黒猫団が全滅したのはキリトの責任だ。
自分がビーターだと明かさなかったがゆえに彼らは死んだ。
そしてあの世界で死ぬということは、現実世界の死と同意義。
つまりサチは――月夜の黒猫団のみんなは――。
ゆえにキリトは狂ったように無茶なプレイングをしてきた。まるで死に場所を求めるように。
そしてキリトはクリスマスイベントのボス、ニコラスをソロで倒してようやく蘇生アイテムを手に入れたが――蘇生アイテムが使えるのは、死んでから10秒以内。つまり、サチを蘇生させることは不可能だった。
本来ならこの後、サチの遺したメッセージでキリトは立ち直るのだが――あろうことか、それを聞く前にデスゲームに呼ばれた。
だからサチや月夜の黒猫団のみんなを生き返らせるためなら、レッドプレイヤーになってでも優勝を目指すことが自身に出来る罪滅ぼしだとキリトは考えた。
本来のキリトならば有り得ないが、この頃のキリトはあまりにも狂っていたのだ。
「俺は――サチを!月夜の黒猫団のみんなを取り戻すんだ……!」
「キリト……。その気持ちは僕にも理解出来ないわけじゃないよ」
ユージオは幼馴染のアリスを取り戻すために修行を積み重ね、強くなった。立派な剣士となった。
だからキリトの気持ちはわからないでもない。きっとサチや月夜の黒猫団はそれだけ大切な存在だったと、察せられるから。
だが――。
「でも、だからといって無関係の人々を殺してまで願いを叶えるのは間違ってる。いや……キミらしくないじゃないか!」
「俺らしい?俺らしさってなんだ?赤の他人のあんたに俺の何がわかる!」
「さっきから何を言ってるんだい?僕とキリトは――」
「赤の他人だ!あんたは俺に親友面してるけど、俺はあんたを知らない!」
「……っ」
キリトの言葉に流石のユージオも顔を歪めた。
ここまでド直球に突き放されると、くるものがある。
それはお互いの時期のすれ違いが原因なのだが、ユージオが知るわけもなく。
そしてキリトを親友だと思っているユージオはキリトに対して全力を出し切れない。……実力差は圧倒的にユージオが上だが、だからこそ全力を出せばキリトを殺しかねない。そうじゃなくても死ぬまでキリトは戦うのをやめないだろう。
逆にキリトはユージオのことを微塵も知らない。
ゆえに何も遠慮することなく攻め立てれる。
普段のキリトなら有り得ないが、サチに対する後悔と執念が彼のアバターを突き動かしていた。
「キリト、本当にどうしたのさ――!今のキミはあまりにもキミらしくないよ」
「仕方ないだろ!サチを――みんなを蘇生させるにはこれしかないんだよ!俺がみんなを殺したんだ!だからその責任は俺が取る!」
「キミに何があったのか、僕にはわからないけど……そのやり方は絶対に間違ってるよ!」
「そんなこと、俺にもわかってる!でも、もうこれしかないんだよ――!」
キリトとて自分のやり方が正しいだなんて思っていない。
ユージオの言葉はどこまでも正論で、言い訳の余地はない。だから言い訳をする気はないし、現実から目を逸らすつもりもない。自分は無関係の人々を襲い、命を奪おうとしている――ああ、正にその通りだ。
しかしだからといって、その方針を変える気はない。ビーターと呼ばれた少年はあまりにも人間臭い感情論に突き動かされて、人道に反したことを歩む。
そんなキリトにユージオは苦い顔をするしかない。
親友が間違った道を歩もうとしてるなら止めるしかないが――これは剣士同士の戦い。これだけの実力差で下手に本気を出せば致命傷を与えたり、欠損させかねない。
まだまだ未熟なキリトと成熟しきったユージオではそれほどまでに差があるのだ。
――キィィィィン!
――キィィィィン!
ひたすら金属音が鳴り響く。
幾度となく両者の剣がぶつかり合い、剣戟音が響き渡る。
キリトは鬼気迫る表情で、ユージオは冷や汗を垂れ流しながら対応する。
殺さないように加減をしつつ、相手は仮にもキリトであるがゆえに油断は出来ない状況。
なにより親友と切り結ぶ状況は心労が増す。
両者、鍔迫り合いの末に一度距離を空け――
キリトがヴォーパル・ストライクの体勢に入る。
しかし瞬間――ユージオの視界に入ったのはキリトの背後から迫る手。
その両手はキリトの頭にピタリとくっつき、嫌な予感がしたユージオが走り出す。
だが――
「が゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
――キリトの瞳が真紅に染まる。
「くっくっく……魔人化成功だなぁ」
キリトの背後の魔人――エミールが厭らしい笑みを浮かべる。
魔人化。それは制御不可能な量の魔力を注ぎ込み、負の感情を喚び起こすことで人外の存在――魔人にするというもの。
元々、負の感情が強いキリトにはエミールによるソレが効果抜群で、見事に魔人化してしまった。
しかし明確な目的を持った魔人は自我を失わない。
ゆえにキリトは自我を持ったまま魔人化することになった。
つまり――
「――んなっ!」
キリトは容赦なくエリュシデータを振るい、エミールに攻撃を加える。
彼の目的は優勝することだ。エミールや他の魔人もまたキリトの敵。
エミールは咄嗟に避けることに成功したが、思わず冷や汗をかいた。
そしてユージオがエミールに問いかける
「お前――キリトに何をした!?」
「魔人化してやったんだよ。これで新しい魔人のたんじょ――」
――瞬間、エミールの真正面から魔法がぶつかり即死した。
「何やってんだよ、お前……!」
――怒りの形相でシン=ウォルフォードが到着し、エミールを殺したのだ。
自分が一歩遅れたことで最悪の事態が引き起こり、シンは歯噛みした。
◯
シン=ウォルフォード。周りから“規格外”と呼ばれ続け、遂には魔法の王――という意味で“魔王”や“神の御使い”の二つ名を持つ男。
魔人という国を滅ぼしかねない脅威でも元がただの平民である“平民魔人”ならば雑魚同然に蹴散らせるほどの強さを有し、元軍人の鍛え上げられた魔人でも彼を相手にしたら恋人のシシリーを狙うという戦法でしかまともにやり合えない。それほどまでに圧倒的な強さを誇る“神の御使い”だが、そんな彼でも“しがないMC”を自称する男――ベリアルに対して何も動くことが出来なかった。
一般的に魔法使いは接近戦が苦手だが、シンはむしろ接近戦においても異常な強さを誇る。それは異世界転生後、幼い頃から“剣聖”ミッシェルから色々と教わっていたのが大きい。
だから魔法以外の技術も、フィジカルにも自信がある。というより彼の世界の中では間違いなくトップクラスだろう。だというのに、ただただ演説を聞く以外、何も出来なかった。
身体を動かそうとはした。ジェットブーツでMCに迫り、首を切り落とすだとか。指向性爆発魔法で消し飛ばすだとか。いくらでも殺すための手段なら思い浮かんだ。なんなら、あれだけ悠長に話してる男ならば“溜め”が必要な熱核魔法を使うことも出来ただろう。
シンは知人友人には優しいが、敵に対しては容赦がない性格だ。これまで様々な魔人達と戦ってきた。シュトロームやゼスト、そして彼の部下であるアベルやローレンス。
皆、それぞれが魔人になるべくしたなったともいえる悲惨な過去を持っていたが、それでも容赦はしなかった。必要であれば殺す。人類に害を与える存在ならば容赦はしない。場合によっては“人間だから”という理由で命を奪わなかったこともあるが、それでも相応に痛い目を見てもらった。――もっとも魔人でも逃した、ミリアのような例外もいるが。
そしてベリアルは――彼の言動や行っていることを考えるに、明らかに殺すべき対象だ。
彼は“ちょっと殺し合え”と言っていたが、シンにとってそれは“ちょっと”なんていう言葉で済むものじゃない。
前戯だとか達するだとか、下品な言葉を用いて気軽な感じを出しているが、殺し合いなんて気軽に強要するものじゃない。
なにより自分が巻き込まれたということはシシリーやオーグ達――アルティメット・マジシャンズが巻き込まれている可能性は高いだろう。彼らは皆、魔人を倒してきた規格外にして世界の英雄。シンを認知してるということは必然的に彼らを認知しているということであり、それならば呼ばない手はないはずだ。
そもそもいきなりよくわからない場所に連れて来られていた時点で嫌な予感はしていた。おそらく拉致されたのだろうが、拉致してくる時点で危険思想の持ち主だ。
そして――これは一番重要なことだがシン=ウォルフォードが拉致された。これは全世界を揺るがすような事態だし、元々は自覚が薄くて「またオレ何かやっちゃいました?」なんて言ってたが今のシンには自分が規格外だという自覚もある。周りから散々そういう扱いを受けて、流石に自覚した。
だからこそシンが拉致られたというのは、よっぽどのことなのだ。
シンに限らずアルティメット・マジシャンズを拉致出来る者などこの世に滅多に存在しないはず。それこそ、シン以外ならばシュトロームクラスの圧倒的な強さがあれば別だが――彼は世界でもトップクラスの魔人だ。そんな存在が他に居るとは考えたくないし、そのシュトロームすらもシンには及ばない。
それなのにアルティメット・マジシャンズの筆頭であり“神の御使い”と称されるシンが呆気なく、いともたやすく拉致されてしまった。
それはつまり世の中に住まう大抵の者を拉致出来る実力が、ベリアルはあるのだ。そういう考えに至るのが不思議ではないほど、シンは圧倒的な存在なのだから。
そしてシンが身動き取れない間、名前も知らない銀髪の少女がその命を散らせた。
『私の拘束だけ、どうやら甘かったらしいな。』
少女はそう口にしていたが、シンには彼女が何か勘違いしているような気がした。
(オレが何も喋れず、動けなかったせいで……ゴメン。アレは拘束が甘かったわけじゃない。きっと意図的に緩くしてたんだ……。ああやって攻撃を誘うために)
彼女の拘束だけ意図的に緩くして、攻撃を誘う。それこそがベリアルの狙いだとシンは考えた。
シンは少女のことを何も知らない。ゾーイという名すら知らない、謎の少女だ。強いていうなら、正義感が強そうなことは察せられる。だが、それだけだった。
――あの少女が攻撃を加えるまでは。
しかしあの少女の攻撃やそれに対応出来ていたベリアルを見て、二人が実力者だということが理解出来た。
そしてベリアルの言葉から察するに彼女は“星晶獣”という存在で“コスモスの代行者”という地位を持つ者だということがわかる。
そしてあれだけの実力者が首輪で呆気なく殺されたことで、首輪がどれほどの危険性を秘めるのかは――きっとあの場に居た誰もが察しただろう。
(――つまり彼女はベリアルの実力を見せ付けるのと、強者でも首輪で容赦なく死ぬということを示すために利用された可能性が高いな)
そしてシンが着目した点はもう1つ。
ある意味、異世界転生者だからこそスムーズに受け入れられた話だが――。
(聞いたことのない用語にベリアルの“元の世界”っていう言葉から察するに……ここはもしかして異世界なのか?)
異世界という存在を知ってるからこそ、そういう疑問が浮かび上がる。というか別の世界なんて言葉が出た時点でほぼ確定だろう。
そしてシンにとって、致命的な要素――それは“バランス調整”だ。
これによって弱体化している可能性は非常に高いだろう。たとえここが異世界であろうとも、シン=ウォルフォードを何の弱体化もなく放り込むなんてよっぽどインフレした世界じゃなければバランスブレイカーにも程がある。
(とりあえず付与魔法は……たぶん“バランス調整”で禁止されてるんだろうな……。そうしなきゃわざわざ支給品なんてものを用意する必要がないし)
シンは試しにスマホに向けて付与魔法を使おうとするが、やはり発動出来ない。どうやら発動自体が禁止されてると悟る。
まあこれについてはジェットブーツがただのブーツになってると気付いた時から、そんな気はしてた。きっと自分が身に付けている衣類の付与魔法は消えているのだろう。なんならアクセサリーも剥奪されてるし、わかりやすい。
それにシンが付与魔法を使えたらあればどんな物だって凄まじい能力を持つ。それこそアルティメット・マジシャンズの戦闘服が良い例だ。魔法と物理に対応した圧倒的な防御や自動治癒、その他諸々の性能を持つあの制服にアルティメット・マジシャンズは何度も救われた。
(他の魔法もだいたいそんな感じなんだろうなぁ)
シンは付与魔法以外にも様々な魔法を有している。そしてそれらを“規格外”に扱える存在だ。他の魔法も制限されてると考えるのが妥当である。
そして魔力量も異様に高いので、それも制限されている可能性もある。
(接近戦も鍛えておいて良かった。ミッシェルさんには感謝しないとな。でも魔法が制限されてるとトニーやクリスねーちゃん、ミランダはともかく、他のみんなやジークにーちゃんが心配だ……)
試しに、幾つか魔法を使ってみる。
身体強化は成功。物理障壁、魔法障壁も成功。当然、普通に魔法を撃つことも出来た。……ただ、身体強化や物理障壁、魔法障壁……他にも色々な魔法が制限で弱体化されている可能性も考慮しておく。浮遊魔法も成功。……治癒魔法は対象がいないから試すことが出来ない。
指向性爆発魔法や熱核魔法は善良な参加者を巻き込む可能性があるので論外だ。特に熱核魔法は……使えるとしても被害を考えると、出来る限り控えるべきだろう。空中に放つならばまだしも、地上で放つのはあまりにも他人に対するリスクが高い。よっぽどの状況じゃなければまず使うべきじゃないだろう。
……そんな感じで魔法を試していき、自分に課せられた制限を探る。しかし流石のシンでも制限を完璧に把握することは出来なかった。
(とりあえずこの首輪を外す必要がありそうだな。魔法由来なら俺でも研究して外せそうだし、異世界なら何かの魔法を使ってる可能性が高いと思うけど……ベリアルの“メカニック”という言葉からして機械関係の技術の可能性……それとも複合してる場合もあるか?色々と試行錯誤する必要はありそうだ)
ベリアルに挑むには、首輪の解除は必須だ。
シンは慢心しない。自分の命はこの首輪――即ちベリアルに握られてると自覚している。ならばこそ、解除する必要がある。ここで迷わずベリアルを倒すという選択肢を選べるのも、彼が様々な修羅場を潜ってきたからだろう。
また魔法由来でなくとも、シンは様々な発明をしてきた。ゆえに首輪を解析出来る自信もあるというわけだ。
(それにしてもベリアル、か。前世では悪魔や堕天使と呼ばれていた存在だけど――もしも“しがないMC”を自称していたベリアルが本当に悪魔や堕天使の類なら魔人――それこそシュトロームすら超越してる可能性がある。……オレでも苦戦を強いられるだろうな)
今までシンが戦ってきた相手は、あくまで魔人。人を辞めた凄まじい存在ではあるが――悪魔や堕天使は前世の記憶通りならばおそらくそれ以上に格上の存在だ。
たとえ“神の御使い”たるシンでもまともにやり合えるという確証はなく、苦戦を強いられる可能性が高いと考える。
そもそも何も知らないうちにこんな場所に連れて来られ、演説の時に身動き一つ取れなかった時点で――ある意味、シンは敗北しているようなものだ。
どういう魔法やカラクリなのかわからないが、ベリアルと戦う時に突如として動きを封じられたら何も出来ない。アルティメット・マジシャンの制服に付与された魔法が消え去っている今なら尚更だ。
兎にも角にも、ベリアルは自分やシュトローム以上の実力者だと考える。
シンの異世界ではシンこそが最強だったが、また別の異世界ならばそれ以上の実力者が居るのもおかしくない。
そんな事実をシンは素直に受け入れる。
しかしだからといって優勝狙いになる気はない。首輪を外し、他の参加者と協力してベリアルを倒す。
幸いシンは自力で首輪を外せる可能性もある。であれば、実験用の首輪が必要か。
とりあえず目的を決めて歩き出していたら――幾度となく剣戟音が鳴り響いてるのが聞こえた。
そこへ向かえば、二人の魔人が見えた。見た目も、魔力の質も、明らかに魔人のソレだ。
しかもその二人と対峙している剣士と魔人のやり取りを聞くに、黒の剣士は魔人化されたらしい。
(くそっ、オレがもっと早く着いてれば……!)
シンはそんな事実に歯噛みしつつ、エミールを瞬殺した。
エミールくらいの魔人ならば瞬殺するのも容易い。
問題は――残る魔人。キリトの方だ
◯
シンの一撃でエミールは瞬殺されたがキリトは恐れることなくユージオに向かう。
魔法使いは後回しでまずは前衛の剣士から、ということなのだろう。
それに何も事情を知らずに色々と言ってくるユージオが魔人化したキリトには非常にムカついた。これはモロに魔人化の影響だ。
しかしそんなキリトが斬撃を繰り出す前に、シンは踏み込みキリトの腹を思いっきり蹴った。
「が、はっ――!」
たかだか蹴り。されども魔人と戦い、接近戦も異様に強いシンの蹴りだ。その威力は常人のソレを遥かに上回る。それにシンには幸い、ジェットブーツが本人支給されていた。ゆえにその威力は災害級のモンスターに大ダメージを与える程のもの。
キリトは魔人化する前からただでさえアバター状態で高いスペックだが、軽装で持ち前の反応速度を得意とするため耐久力は低い。魔人化して耐久性が増したのが幸いしたが、それでもシンのジェットブーツによる蹴りを受けたキリトは、腹部にダメージを受けてよろける。
その瞬間を見逃すシンではなく、右手に握ったカゲミツG4でキリトの首を跳ねようとして――。
「オレは、まだ死ねない!サチのために!!」
キリトの瞳が金色になり、奇跡的にシンの一撃を防いだ。
そこから更にキリトは剣を振るうが、シンがジェットブーツで大幅に下がる。
(なんだ、今の……?明らかに動きが良くなった……?)
キリトの変化に流石のシンも驚きを隠せない。
あまりにも予想外の反撃。先程までとは違う、異様な反応速度。
その理由をシンは知るはずもない。
――心意。
キリトが此度の殺し合いに巻き込まれなかった本来の正史で数々の強敵を倒してきた心の在り方であり、強さだ。
それを今回は負の感情により呼び起こした。もっとも今回が初めての未熟さゆえ、ほんの僅かな時間だが。
そしてユージオもまた青薔薇の剣を構えつつ、口を開く。
「……助けてくれてありがとう。でも彼は……キリトは別に悪人じゃないんだ……」
「……わかってる。でも意識を持つ魔人――っていうことは何か危うい思想を持ってる可能性があるんだ」
「優勝を狙ってるとは言ってたね。僕の知るキリトはそんなことしないはずだけど……」
「優勝。それがあいつの目的か……」
そこに漬け込まれて魔人化させられたんだろうな、とシンは察する。そして優勝狙いなら、意識を持つ魔人であることにも納得がいく。
魔人化したキリトの猛攻をカゲミツG4で対処しながら、シンは口を開いた。
「キミはこの魔人――キリトの友達なのか?」
「そうだね、キリトは僕の親友だよ」
「じゃあ――少しだけ、目を瞑ってくれないか?」
「……それは無理かな。キミはキリトを――僕の英雄を殺すつもりなんだろう?」
「……魔人になった人間はそうするしかない。残念だけど……キリトにはここで死んでもらうしかないんだ」
ミリアのような魔人ならともかく、優勝狙いを目的に掲げた魔人は間違いなく殺戮を繰り返す。
だからそれを止めるには、ここで殺すしかない。
ユージオの顔が曇るのを見つめながら、間に合わなかった罪悪感に苛まれながら。シンは残酷な真実を告げるしかなかった。
「……他に何か方法はないのかい?」
「……ゴメン。優勝狙いな上に魔人化した以上――もう説得とか、そういうのが通じる段階じゃないんだ」
キリトのエリュシデータをカゲミツG4で弾き、距離を取る。
シンとしては接近戦でも勝てる相手だが……キリトの親友が見てる前で、首を切断するというのは流石に抵抗感がある。
別にそういう割り切りも出来るが、ユージオから反感を買って無駄に敵を増やしたくない。それにユージオのメンタルに悪影響を与えるのも良くないと思う。
だから一瞬で消し飛ばそうとシンが魔法を放とうとした時――
「転移!」
――キリトは姿を消した。
第六感による危機察知により転移結晶を用いて逃げたのだ。
転移結晶はソードアート・オンラインに無数に存在する道具。ゆえに複数人に支給されている可能性もあるのである。
「逃げられたか……」
「キリト……。キミは、いったい……」
シンが悔しそうに歯噛みし、ユージオはキリトの行動を未だに認めたくないのか、困惑を隠せない。
その後、二人は情報交換をした。
なおキリトがどこかへ転移したことは、その言葉からなんとなく二人とも理解している。
シンは首輪解除の必要性や異世界説などを惜しみなく情報提供する。無論、魔人についての知識や魔人の行ってきたことについても、だ。
同情の余地がある者だって居るが、それでも基本的に殺すしかない。キリトのように負の感情に呑まれて優勝を狙っているなら特に、と。
「あの魔人がキリトを魔人化させなかったら違った運命だってあったはずだけど……もう遅いんだ。オレが間に合わなかったから……ゴメン」
「謝る必要はないさ。別にシンは何も悪くないんだから……」
そんなやり取りの後、ユージオも様々な情報を提供する。今回は主にキリトについて色々と話した。彼は親友であり、英雄だと。そんな彼が優勝を狙うなんて理解出来ないとも吐露した。
「……もしかしたら色々な世界が存在するように、ベリアルは任意の時間軸から参加者を連れてきたのか?」
「……たしかにベリアルはすごい技術を持ってると思うけどそんなことが出来るのかい?」
「……ゴメン、そこまではオレもわかんねぇ。でもキリトが誰か大切な人を失ったタイミングから呼び出されて、その時はまだユージオのことを知らなければ……色々と納得のいく状況だと思ってさ」
「それはたしかに、そうだね……」
シンの言葉通りなら、キリトの言動も色々と納得がいく。ユージオだけキリトを認知して、キリトはユージオを認知せず更に最悪なタイミングで参加させられたとするなら悪趣味極まりないが――なにせベリアルはこんな殺し合いを行う者だ。あの状況にそぐわぬふざけた言動といい、殺し合いを遊びとすら思っているかもしれない。ゆえにユージオはシンの考察を信じ、頷いた。
「それで……キリトを元に戻す方法は……」
「……残念だけど、かなり難しい。優勝を狙ってるという目的と魔人化が合致して、最悪な状況になってる。……きっとキリトは今後も意識を持った魔人として人々を襲うと思う」
「……それなら……僕はどうしたらいいのかな……」
ユージオの口からボソリと溢れた弱音に、シンは何も言わない。
何故ならきっと彼が思い浮かべているのは――
「ねぇ、キリト。僕はどうしたらいいと思う……?」
そんな言葉は、すぐさまに虚空に消える。
しばらく沈黙が続き……ユージオは自分の心に整理をつけようとしていた。
「……シン。次にキリトと戦う時は、僕だけで戦わせてほしい」
「……お前とキリトは親友だもんな。いいよ、それをユージオが望むならオレは何もしない。……あまりにも危なそうなら、手出しするけどな」
「うん。……ありがとう、シン」
自分の意を汲み取ってくれたシンに、ユージオは感謝した。
「それでユージオはこの殺し合い、どうすんの?」
「僕もシンと同じさ。この殺し合いに抗い続けて、ベリアルを倒すよ」
「わかった。……よろしくな、ユージオ」
「ああ。よろしく、シン」
シンとユージオは握手を交わし、殺し合いの打倒を誓った。
◯
「はぁ、はぁ……。なんだ、あいつ……」
転移結晶でワープしたキリトは冷や汗を垂らしていた。
何故かこちらに手加減してくるユージオはまだいい。色々とむかつくが、まだマシだ。
だがその後にやってきたシン。規格外たる彼の存在はキリトの生命を脅かせた。
別に、今更死ぬのは怖くない。
サチ達は自分が殺したのだ。それなのに自分だけ怖い、などと言うつもりはない。
だが優勝するまで、死ぬわけにいかない。願いを叶えるまで――サチ達を蘇生するまで、キリトは生き続けなければならないのだ。
「あいつらが何者かわからないけど……それでも俺は優勝するしかないんだ。サチのために……みんなのために……」
相手が規格外だろうが、親友を自称する剣士だろうが関係ない。
大切な仲間のために魔人となれども、人々を殺す。……その在り方は奇しくもアベル達シュトローム直属の部下と似ていた。
今のキリトは魔人だ。
ただでさえビーターとして、剣士として優れた強さを有するキリトが魔人となった。
シンはあまりにも強すぎて一方的に敗走したが、それは単純にシンが規格外過ぎただけ。今のキリトは魔人になった結果、通常時より差を埋められるだろう。
それにシンは規格外だが、殺し合いに反対する側ならば弱者を保護する可能性がある。そこが彼ら二人の明確な弱点になるだろうとキリトは考えた。……こんな考えに至ってしまったのも魔人化したゆえである。
……そんな魔人キリトでもユージオやアリスと共にアドミニストレーターと戦った時のような強さを現段階で発揮出来ないのは、なんとも皮肉なものだが。
「俺は絶対に優勝するから。だからそれまで待っててくれよ、サチ!」
キリトの言葉が虚空に響き渡った
【エミール@賢者の孫(漫画版) 死亡】
【シン=ウォルフォード@賢者の孫(漫画版)】
[状態]:健康
[装備]:ジェットブーツ@賢者の孫(漫画版)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン(アニメ版)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1
[思考]:首輪を解析しながら仲間を集めた後、ベリアルを倒す
1:ここは異世界だろうな。キリトとユージオみたいに異なる時間軸から参加者を拉致してる可能性もある……?
2:ユージオと組む。キリトの相手はユージオに任せるけど、危険になったら加勢する
3:魔人が増え続けると厄介だな……
4:首輪解除する方法を探る
[備考]
※制限により付与魔法は使えず、制服などに付与された魔法も消失。ジェットブーツなどは支給品として支給されることになります。これは本人も自覚してます
※参戦時期はシュトローム討伐後~シンとシシリー結婚前
※制限は後続の書き手さんにお任せします
【ユージオ@ソードアート・オンライン(アニメ版)】
[状態]:健康
[装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン(アニメ版)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:ベリアルを倒してこの殺し合いを終わらせる
1:シンに同行する。シンが首輪を解析する手伝いもしたいけど、難しいかな
2:次にキリトと遭遇したら、その時は僕が……ッ!
3:キリト……
[備考]
※参戦時期は死亡後です
【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版)】
[状態]:腹部にダメージ、疲労(小)、魔人化
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン(アニメ版)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1
[思考]:優勝してサチ達を蘇生する
1:あの金髪の剣士(ユージオ)はなんで俺のことを知ってるんだ?
2:次にあの規格外(シン)に遭遇したら足手纏いが居た場合、そいつを狙いつつ追い詰める
3:誰が相手でも殺す。もうそれしかないんだ……!
[備考]
※参戦時期は1期の第3話、赤鼻のトナカイの途中。サチ死亡後
※魔人化によりステータスが大幅に上昇しています。魔法が使えるようになったかどうかは後続のが書き手さんにお任せします
※魔人化した影響で治癒魔法は効きませんがポーションなど回復アイテムで回復出来るようです
※魔人化した影響で性格が以前より邪悪な面もあります
【カゲミツG4@ソードアート・オンライン(アニメ版)】
シン=ウォルフォードに支給。GGOでは数少ない近接格闘武器、光剣(フォトンソード)の1つ。
柄の中の媒質から光を発し、刃を形成する。
名前のアルファベットは刀身の長さ、数字は色を表している。
全体的に隙の無い作りで扱いやすい。
ソードの中では最も軽量で、各能力のバランスが良い。
【ジェットブーツ@賢者の孫(漫画版)】
接地面に『空気噴射』を付与されたブーツ。高速で移動できたり、一時的に空中を移動することも可能。
後にアールスハイド騎士団で採用され、高機動の歩兵部隊として戦力の向上に繋がった。
量産された性質上、複数人に支給されてる可能性もある
【青薔薇の剣@ソードアート・オンライン(アニメ版)】
北の守護竜に認められた者にのみ与えられる竜騎士専用神器。
元になっているのは北の果ての山脈の永久氷塊と青い薔薇。刀身は半ば透き通っており、切り口を「凍結」させる性質を持つ。
武装完全支配術では任意の対象を氷の棘と青薔薇の蔓で拘束・凍結させる。記憶解放術では凍結させた対象から咲かせた青薔薇を通して天命を吸収、空間リソースとして周囲に放出する。ゲーム的な表現では相手の動きを完全に封じ込めた上で命尽きるまでHPを吸い取られ続けるようなものである。
【エリュシデータ@ソードアート・オンライン(アニメ版)】
黒一色に染められた長剣であり、欠けた歯車と十字架が重なったような独特なデザインの鍔と、所々に煌めく白の縁が特徴的。銘の意味は『解明者(Elucidator)』。
入手以降はキリトのメインウエポンとして、二刀流スキル使用時は『ダークリパルサー』と共に活躍し、SAOクリアのその時までキリトと共に在った。
入手直後は攻略組のトッププレイヤーであるキリトでもロクに扱えないほどの要求値を誇る代物だったため、しばらくストレージの肥やしになっていたという裏話があるが、今回は要求値が設定されておらず誰でも使用出来る
最終更新:2026年02月28日 19:18