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彼女はバケモノにされていた。
人の血を啜り、恐怖を以て支配する女帝(ヴァンパイア)として。
そうあれかしと作り上げられた仮初の人格の暗示を受けて。
今となっては、彼女は恐怖を煽る存在ではなく、一介の人間である。
それでも、罪は消えない。その上で、残り香は消えていないようだった。
少なくとも、異なる世界の『本物』に、そう勘違いされる程度には。

「フンッ!!」

電光石火で放たれるそれは、引き伸ばされた体の一部である。
蝙蝠の皮膜を思わせる程に拡張されたそれは、一種の凶器である。
黒の外套に包まれたそれは、もはや大槌の一撃に等しい。
その男は、吸血鬼である。
見た目初老とも思える白い髭を生やした白髪の男。
しかして彼は高位の吸血鬼。王に仕えし血族の長。

「⋯⋯!」

相対する女性は、慣れた手付きで杖を振るい、光の玉を放つ。
人形を思わせる美しさに、ガラス細工の如く緻密で華奢な身体。
だが、背負った咎は大きく、その代償と言わんばかりに実の妹を失った。
弟だと思ったそれは、姉と妹を狂わせた元凶だった。
それでも、血に染まったこの手から穢れは洗い流せない。
ならばせめてそれから目を背けずにと、彼女は生き続ける。

「その程度の虚仮威しが通用すると思うか?」
「それだけではありません!」

閑話休題。その程度で吸血鬼の猛威が止まることはない。
吸血鬼特有の操血術(ブラッド・ハンドル)でもなく、見たこともない力。
御伽噺の「魔法」と呼ばれるものなのか、と思考を巡らせれば、女性の打った次の一手は竜巻。

「ぬぅ⋯⋯!」

風に揉まれながらも、敢えて巻き込まれて飛ばされる。
不意を突かれたが風に乗って逆らわずに、風の刃を避けながら。
利用し、上空へーー飛ぶ。
「知らない間に人間は科学だけでなく迷信にも手を出したのか」と小さく呟きながら。
吸血鬼が再び放つ黒の波濤が女性を襲う。今度は一撃の重さでは無く手数の多さで押し切ろう。
女性もまた光弾と竜巻を交えて応戦するも、処理しきれない。

「ーーカミラ、伏せてや!」
「ユエルさん!」

吸血鬼にとっての予想外。この女性には仲間がいた。
それは人と言うには異質。獣の耳に獣の尻尾。
カミラと呼ばれた女性が口にした「ユエル」という名があのケモノ少女の名前だろう。


「喰らえや!」

ユエルが舞い踊れば炸裂するは燃え盛る炎。
火鼠の如き地面をひた走り、獲物に目掛けて飛び掛かる。
吸血鬼が広がる皮膜で切り裂こうとするも、炎は消えず逆に燃え移る。

「ーーー!? ふんっ!」

一瞬動揺するも、燃えた一部を地面に叩きつけて無理やり消化。
仮にも身体の一部、肉が焼ける音と焦げた匂いが漂う。
その程度の傷は特に問題はない。

「せやぁっ!」

間髪入れずのユエルの接近。その手に握られた一刀で斬りかかる。
既の所で皮膜で防ぐ。ガキン!と鳴り響く金切り音は皮膜の硬さの現れ。

「硬ったぁ!! ⋯⋯傷ぐらい入ると思ってたんやけど?!」
「その程度か」

ユエルのリアクションを無視して反撃の体制。
硬質化した身体を槍のように四方から延ばす。
激突で金切り音が鳴り響き、刀より火花が散る。

「うぉっとっと!」
「はぁ!」

受け止めた過程でわざと押し出され、後ろに飛ぶ。
入れ替えるようにカミラの放る一回り大きな光弾。
ユエルの行動が死角となり、気づくのが遅れた吸血鬼にそれが直撃。

「⋯⋯なるほどな」

煙が晴れれば、多少顔に傷を負った程度。
分かっていた事だが、これで倒される相手ではない。
ユエルの方もまた神器がない以上火力不足、カミラの方も決定打に欠ける。
吸血鬼としては、問いたいことが出来た。
戦いが始まる前、最初のカミラとユエルとの邂逅にて。
吸血鬼の残り香を漂わせながら吸血鬼ではなく人間だったカミラという女に対して。
グリムの尖兵として生まれ変わり、グリムの目論見のままに動く手駒となった己という吸血鬼、ゾルターンとして。

「⋯⋯問おう。吸血鬼に非ず吸血鬼であった女よ。私の知る人間は己の欲望のままに吸血鬼すら食らう悪鬼だ」

ゾルターンのいた世界における吸血鬼は夜の絶対者ではあったが、それか時が経ち人間の文明が発展するに連れ衰退していった。
不死性や特有の能力はあれど、不死性に目をつけた愚かな人間たちによって、お題目からの戦争で殲滅させられた。
人間側の英雄と称された立場のものですら、それを知らない者すらもいた。

「お前は何ゆえ、そうなった」
「あなたは人間を悪鬼だと言うのですね。ーーある吸血鬼を実の弟だと洗脳で思い込まされていた頃の私は、間違いなく悪鬼の類だったはずです」
「⋯⋯ほう」

かつてのカミラ・バトリーという女は、ゾルターンが知る人間よりも邪悪なる存在だった。
本物の吸血鬼に姉妹諸共洗脳され、ナイトメアアイズと呼ばれる組織の首魁、人間を虐げる偽りの吸血鬼を演じさせられた。
殺して虐げて、洗脳されていたとはいえ、やったのは自分自身。
その事実を言い逃れなどできない。

「⋯⋯貴様を操ったヴァンパイアは、よほど性格が悪かったと見える」

ゾルターンから出たその言葉は、本音に近しいもの。
何も知らぬままかつての王への怒りを利用され、その末路がどうなったか。
結末はぼんやりと、覚えてはいた。正気を失った後のことも、多少は。
反吐が出る輩というのは、人間に限らず吸血鬼の中にもいるのだろう。

「⋯⋯ならば、傀儡であった貴様の罪に染まった手は、どう見る?」
「⋯⋯⋯」
「犠牲となった誰かの過去を、記憶のゴミとして何かと理由をつけて取り繕うか?」

押し黙る。カミラそれを知っている。
どれだけ善行を積もうと洗い流せない罪業が。
受け入れる者もいるだろう、生者に出来る事が前に進むことだとしても。
ふと、過去が牙を向くことになる。
ゾルターンが己の言葉で浮かんだのは、やはりかつての王たるファウストの事だろう。
いや、かつて自分を惑わす言葉を投げた前王アイビスのことだろうか。
それでもなお、カミラはその言葉で、その悔しさで顔が歪み、涙が流れていた。



「一応黙っといた方がええかって思たけど、ちょっと横槍入れさせてもらうで?」

その涙を止めるかのように、ユエルの鶴の一言が横槍をいれた。

「ユエルさん。いいんです⋯⋯私は何も⋯⋯」
「⋯⋯何が分かる?」
「まあ、うちもカミラの事とか、おっさんの事とかなんて、あって間もないのによう分からんけど」

単純に苛立ちなのか、「何も知らない癖して好き勝手言うのがちょっと気に障った」というべきか。
本当に過去を悔やんでいない部分があったというのなら。いや、そうだとしても。
それに後悔し、涙する誰かの思いは嘘だとは言えない。

「⋯⋯周りにぎょーさん迷惑かけて、自分のやったことに苦しんで、そういうのをうちは知ってるんや。うちもまあ、そいつに殺されかけたこともあったわ」

歪みと怨念から生じた過去に囚われ、ひねくれた子も。
偽りの記憶から生じた憎悪を振りまく、悲しき子も。
己の罪と罰に苛まれながら、贖う気持ちを忘れないで。
それでも、そんな風に前を向こうとしてる二人を知っているから。

「⋯⋯まあ、ほっとけなかったんやろな」

結局のところ、自分も、自分の大切な友も。
何かとお人好しな団長も。
カミラ・バトリーという存在は、コウやヨウの時と違って無関係どころかほとんど何も知らないけれど。
自分の罪に苦しみながら、それを贖おうと過去から逃げず、それでも前を向こうと頑張るそんな子を、嫌いになれるはずもなかった。

「⋯⋯それになおっさん。あんたは一体何に怒っとるんや? うちはそれがてんで納得がいかへんのや」

そして、半分呆れたかのように。
ゾルターンの中に燻る何かを、言い当てるかのように。

「⋯⋯⋯⋯誰のための八つ当たりや。あんた自身のためか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ゾルターンが、沈黙する。
それは返す言葉がないと言うよりは、考え込んだかのようであった。
不意を突かれた、とかでは無く、思うところがないわけでは、という感傷に浸ったかのような。

「一つ、言っておく」

戦意と殺意が止んだ。
身を翻して、去ろうとする。

「ちょっとまてや、まだうちの話は⋯⋯!」
「私は生き方を変えられる程、器用な男ではない」

止めようとするユエルに対して、吸血鬼はそれだけ告げて、闇の中に姿を消した。



初対面時における、カミラからユエルに対する印象は、自由気まま。
一応は王家の出、とのことらしいがその奔放さというか軽さを前に何となくそうは思えなかった。
それでいて決める所は決めるというか、何となくだが"彼"とは気が合いそう、とも思った。

「無視しろ。とは言わへんけど、気にしすぎんなや。ああいうのは調子乗らせるとしつこいんやで?」
「ありがとう、ございます⋯⋯」
「ええてええて! 短い間かも知れへんけど、仲良くなる分には損はないんや!」

とまあ、ちょっとテンションの高さに気圧されそうになるが、カミラとしてもユエルのそんな態度に毒気が抜けたと言うか。深く悩みすぎるような事はあまりせずに済みそうな部分もある。

「それに、全部わかっとる上で受け止めとめとるんやろ?」

そして、時折見せるこういう真面目な部分もある。
清濁全てを見た上で、今のカミラ・バトリーを、出会って間もない自分を信頼してくれる。
こういう所が王家の末裔たる所以であるのだろうか。
カミラは分かっている。暗示による洗脳だったとはいえ、自分が何をしたのかを。
それを気にしないでくれるもの、知った上で受け入れてくれるのが周りには多かったけれど。
何処かにそんな自分に納得がいかない誰かもいるだろう。

「ーーはい。分かってます。だからこそ、こんな所で終わるわけには行きません」
「それでええ。こんなとこで死んだらアカンって思っとるんやったらそれでええんや」

それでも、この命の終着点はここじゃない。
誰かの旅がまだ続くように、私の贖罪の旅もこんな所で終わらせてはいけない。
生者が死者に送るべきは執着ではなく、けして忘れず胸に留め思う心。
消えぬ過去を背負いながらも、それでも寄り添ってくれる誰かがいるから。

「ほな、いこか。まあ、一旦休んどいたほうがええか?」
「大丈夫ですユエルさん、これでも荒事は人並みには慣れています」

それが在る限り、カミラ・バトリーは生き続ける。
生きて、その先に何が起ころうとも。


【カミラ・バトリー@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:健康
[装備]:さばきの杖@ドラゴンクエストⅢ(HD-2D版)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:生きて、皆のもとへ帰る。こんな所で死ぬわけにはいかない
1:ユエルさん、何だか狼牙さんと気が合いそう。決める所はちゃんと決める所も
2:他の世界の吸血鬼⋯⋯
[備考]
※参戦時期は久那妓ルート、特別イベント4番達成後

【ユエル@グランブルーファンタジー】
[状態]:健康
[装備]:越前康継@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:この趣味の悪い殺し合い止めるんに、さっさとあのベリアルとか言うんぶっ飛ばせばええんやろ?
1:短い間かもやけど、仲良くやれるとええな、カミラ
2:団長にソシエやコウたちは無事やろか⋯⋯
3:なんやあの吸血鬼、無駄に苛ついてるみたいやったけど
[備考]
※参戦時期は最低でも「荒るる旻天、帛裂く調べ」経験済み



誰のための八つ当たりか。何も否定できなかった。
例えそれがグリムの支配によって根付いたものだったとしても。
己の中に芽生えた八つ当たりに似た憎悪は、間違いなくソルターンたる己の感情だったから。

グリムに縋ってでも、ヴァンパイアの再興を願った。
ファウストも再興の願いは同じだったはず。
なのに王妃イデアが生きていると、それによる再興の可能性を模索していた。
手段は違えど、願いは同じだったはずだ。
だが、結局縋る相手を間違えた。ファウストは己の同胞のみを信じた。
自分は得体のしれない何かに縋ってでも。

「⋯⋯ああ。そうだ、そうだとも。ただの八つ当たりだった。偽の感情に振り回されたただの八つ当たりだった」

自分は、ファウストのように長くは待てなかったのだろう。
無理をしてでも自分を曲げる生き方など、自分には到底無理ではあった。
セス、カーミラ、リックスの同じ一族の同胞も。
どういう形であれ自らの意思を貫いたのだろうか。
今思えば、ファウストはあくまで「グリムに蘇らせられたガワ」であろう我らを、慚愧と不退転の思いで切り捨てたのだろう。
そんなファウストの覚悟をーー自分は納得できなかった。ただそれだけのこと。

「納得できないだけ、か」

だったら、もう開き直ったほうが楽だ。
アイビスが吸血鬼の再興を目指していたことは、今はまだ信じることにした。
もはやグリムの協力者で、死者たる自分たちと違いあの戦いから逃れ生者のままであった事はもう不問としよう。
そして我らが王(ファウスト)が、真っ当なやり方で吸血鬼の再興を目指していたことを認めよう。
ーーその上で。

「私は、私のやり方で悲願を達成させてもらおう」

ベリアルとやらが何処まで出来るのか定かではない。
だが、元よりグリムに縋った時点で、手段を選ばない事に迷いはない。
例え王への不義となろうと、例え王殺しを成すこととなったとしても。

「ーー私もまた、諦めきれぬのだ」

自分に足りなかったもの、欠けていた『生』は補完された。
ならばあとは、征くのみだ。

【ゾルターン@銀狼ブラッドボーン】
[状態]:火傷(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:アイビスやファウストとは違うやり方で吸血鬼の再興を成す。
1:悲願のためなら、王殺しも辞さない。
2:あの人間から吸血鬼と似た何かを感じたのは何故だ⋯⋯?
3:グリムとは縁を切る。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※身体は生前時の吸血鬼としてのものに戻っています。


『支給品紹介』
【さばきの杖@ドラゴンクエストⅢ(HD-2D版)】
カミラ・バトリーに支給。道具として使用することでバキの効果が発動する。

【越前康継@刀使ノ巫女】
ユエルに支給。古波蔵エレンが所有する御刀。
最終更新:2026年02月28日 19:25