その場所は、悪臭に満ちていた。
原因は、その場に存在するNPCだ。
腐った死体。その名の通り、すでに腐敗した死体が蘇ってしまったアンデッドモンスターである。
今、3体の腐った死体が一人の参加者を取り囲んでいる。
桃色の髪をポニーテールに束ねたその女性の名は、シグナム。
「闇の書」と呼ばれる魔導書によって生み出された防衛プログラム、「ヴォルケンリッター」の一人である。
「ろくに自我もない死霊か……。
罪悪感を抱かなくてすむ分、試し斬りの相手としてはもってこいだな」
一般人なら嫌悪感を抱かずにはいられない容貌と匂いにも、シグナムは動じない。
淡々とつぶやき、動き出す。
振るわれるのは、奇妙に曲がりくねった刀身を持つ剣。
その刃が次々と腐った死体を切り裂き、ただの腐肉に変えていく。
結果、1分と少しで、戦いとも呼べぬ一方的な蹂躙は終了した。
「なるほど、大口を叩くだけのことはある。
切れ味は紛れもなく一級品だな」
「褒めてくれるのはいいけど、なんでよりによってゾンビ系相手に試すのよ!
ああ、汚い! くさい! 最悪だわ!」
シグナムしかいないはずのその場に、二人目の声が響く。
声を発しているのは、シグナムが持っている剣そのもの。
厳密に言うならば、その柄に存在する狼の顔をかたどった装飾だ。
「ああ、もう! 絶好の獲物が目の前にいるのに体を奪えないってだけで、頭にくるのに!
なんでこんな扱いまでされなきゃいけないのよ!」
ヒステリックにわめく剣の名は、「魔妖剣のテンペスト」。
己の意思を持つ魔界の武器の集団、「ベルクス」の一振りである。
ベルクスは意思こそ宿っているが、あくまで武器であるため自力で動くことはできない。
そのため、見込みのある人間に取り憑いて自分を使わせるのだ。
使い手が武器を選ぶのではなく、武器が使い手を選ぶのである。
とはいえ、取り憑くのは簡単ではない。
自らの体で大きなダメージを負わせた上で、自分に対応した獣の仮面をかぶせる必要がある。
この仮面が、本体の意思を受け取るアンテナの役割を果たすのだ。
そして仮面は、このバトルロワイアルにおいて支給されていない。
すなわち、ベルクスであろうと使い手の体を乗っ取るのは不可能。
テンペストに許される自発的な行動は、ただ言葉を発するのみである。
「あまりわめくな、煩わしい。
島の端から投げ捨ててやってもいいんだぞ」
「はったりはやめなさいな。あんたにあたし以外の剣が支給されてないことはわかってるのよ。
唯一の武器を捨てるなんてこと、できるわけないでしょうに」
「今はな」
「何ですって?」
「他にも、刀剣を支給されている参加者はいるだろう。
それが私のところに巡ってくる可能性は、十分にあるということだ」
「くっ……!」
カタカタと体を震わせつつも、テンペストは言葉を紡ぐことをやめた。
その反応に満足しつつ、シグナムは脳内で思考を巡らせる。
(そもそもこいつは、剣として優秀でもデバイスではない。
戦法がどうしても制限されることになる。
やはりレヴァンティンがほしいが……。都合よく支給品に含まれているとは限らないからな)
己の本来の得物に思いをはせるシグナム。
だがそれが、都合よく自分の手に戻ってくる可能性が低いことも理解している。
(レヴァンティンはなく、ヴィータたちとの連絡もつかない……。
状況はかなり悪いな。
だがそれでも、私は生き残らなければならん。
主はやてのために……)
シグナムの行動原理。それは闇の書の主となった少女・はやてへの忠誠以外にない。
魔法と縁のない少女だったはやては、自身の意思とは無関係に闇の書とつながってしまったことにより、命の危険にさらされている。
彼女を救うには、大量の魔力を集めて闇の書を完成させるしかない。
そのために彼女と仲間たちは、罪なき魔導師を襲って魔力を奪う外道と化した。
騎士の誇りを捨ててでも、自分たちを家族と呼んでくれた主を救うために。
その決意は、この場でも揺らいではいない。
(この場でいくら魔導師を倒したところで、闇の書がなければ蒐集はできん……。
一刻も早く、こんなところから脱出しなければ。
最悪の場合は、他の参加者を皆殺しにしてでも……)
シグナムは、無言で唇をかみしめる。
そんな使い手の様子を、テンペストも無言で見つめていた。
自らの顔を動かすこともできないベルクス故に、彼女が何を思っているかは他者からは判別できない。
彼女たちの間に生まれるのは絆か、敵意か。
未来のわからぬ戦場を、2体の人ならざるものが進んでいく。
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:健康
[装備]:魔妖剣のテンペスト@ドラゴンクエストダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2(刀剣類なし)
[思考]:生還する。そのための手段は問わない。
1:できればデバイスも入手したい
[備考]
※参戦時期は第2話終了時点
「支給品解説」
【魔妖剣のテンペスト@ドラゴンクエストダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王】
魔界の名工・ベルク一族によって生み出された、意思を持つ武器の一つ。
レイピアのように細い刀身を持ち、その刀身を自在に変形させる能力を持つ。
本来なら使い手の体を乗っ取って自分の意のままに動かすが、このロワにおいては乗っ取りは不可能。
自発的にできるのは、しゃべることだけである。
「NPC解説」
【腐った死体@ドラゴンクエストシリーズ】
腐敗した死体が、悪霊の力により動き出したモンスター。
個体によっては生前の人格や記憶を保持しているものも存在するが、ここに配置されているのは自我もなく生者を襲う個体のみである。
最終更新:2026年02月28日 19:27