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「殺し合い……怖いよぉ……。ゴクオーくん、助けて……っ」

小野天子は、滲む涙を拭いながら暗闇を彷徨っていた。
たとえ地獄の王の親友であっても、彼女自身はただの女子小学生だ。自分を縛る首輪の冷たさも、ベリアルという男が放っていた禍々しい色気も、全てが現実離れした恐怖となって彼女の小さな肩にのしかかっていた。

その時、背後の闇から奇妙な呻きが響いた。

「ンンンンー!!ンンンンンンーッ!!」
「ひっ……!? ご、ごめんなさい、命だけはぁ……!」

天子は反射的に蹲り、頭を抱える。だが、待てど暮らせど衝撃は来ない。
恐る恐る振り返った先にいたのは、異様な風貌の男だった。
クモの足のような髪型に、黒い装束。そして何より異様なのは、白目を剥き、下唇を力任せに噛み締めているその表情だ。

「ンンンンンー!!」
(えっ……なに? 何を言ってるの……?)

激しく何かを訴えかけてくる男に対し、天子は困惑が恐怖を上回った。この男には「殺意」がない。ただ、猛烈に話しづらそうなだけだ。

「あ、あの……すみません。下唇を噛んでいるので、何を言っているのか全然……」

刹那、男の目がカッと見開かれた。ガバッと口を開き、血の気が引いたような顔で叫ぶ。

「すまない! ――下唇を噛んだままだった! 俺の名はゲダツ。青海にて銭湯の番頭を務める男だ。この不届きな殺し合いに乗るつもりはない!」

(……下唇を噛んでたことに気づかなかったの!?)
天子は呆然とした。ゴクオーのように人をからかう様子もない。この男、天然……いや、筋金入りの「うっかり屋さん」だ。

「私が殺意なきことを証明しよう。デイパックは貴様にやる。ほら、手も上げよう。丸腰だ、これで信用しろ」

ゲダツはデイパックを放り投げ、降参を示すように両手を上げた。
だが、その右手にはしっかりと、無骨な拳銃が握られている。

「ゲ、ゲダツさん! 手に拳銃を持ってます! 全然丸腰じゃないですっ!」
「なっ……! そうか、持ったままだったか! 済まぬ……む? 小娘、どこへ消えた!? 姿を隠して俺を討つ気か!」
「真ん前です! 目の前にいます! ゲダツさん、白目を剥いてるから前が見えてないだけですよ!」
「はっ! そうだった、うっかりしていた。そこにいたか」

あまりのポンコツぶりに、天子の心から先ほどまでの緊張が霧散していく。

「ところで名前は何というんだ?」
「あ……えっと、 小野天子です!」

「そうか。よろしくな、天子。俺は戦わぬが、降りかかる火の粉は払わねばならん。貴様を連れて歩けばショッキングな光景も見せるだろうが、それは許せ。しかし……おかしい。俺の『心綱(マントラ)』が貴様の存在を捉えられなかったとは。これでは奇襲に対応できん。申し訳ないが、天子も周囲を……ウゥッ……!」

急に饒舌に語りだしたかと思うと、ゲダツの顔が土色に変わっていく。

「ゲ、ゲダツさん!? 顔色が……!」
「ぐ……は……っ、んんん……!」
「息! 息継ぎしてないですよ! 喋るか息するかどっちかにしてーっ!!」

ドサリ、と派手な音を立てて巨体が地面に沈む。
「大変! ゲダツさーーん!!」

深夜の静寂に、少女の悲鳴だけが虚しく響き渡った。

【ゲダツ@ワンピース】
[状態]:健康、気絶
[装備]:デザートイーグル
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:……(気絶中)
[備考] ※心綱(マントラ)が著しく弱体化しています

【小野天子@ウソツキ!ゴクオーくん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:ゲダツさーん!!
2:殺し合い……怖いよぉ
3:ゴクオーくんはいるのかな?

そんな二人を、高台から冷ややかに見下ろす瞳があった。
ユーリィ・L・神城。その正体は神の御前に立つ四大天使の一人、大天使ウリエル。

彼は眼下の光景に深く眉をひそめていた。

(……どういうことだ。天子はあの時、僕の手で『天使』へと至ったはず。なぜ今、あのように無力な人間の姿で、記憶すら失ったかのように怯えている……?)

視線の先にいるのは、小野天子。彼がその良心に惚れ込み、理想の天使に育て上げようと執着した少女だ。本来なら現世の記憶から消え、天上の住人となっているべき彼女が、この泥沼の殺し合いに放り込まれている。その事実が、ユーリィのプライドを逆なでしていた。

(それに……あの隣にいる間抜けな男は何だ。気配だけは一丁前だが、呼吸一つ満足にできずに自滅するとは。あんな奴に、僕の天子の守護を任せろというのか?)

下唇を噛み、白目を剥き、挙句の果てに窒息して倒れたゲダツという男。その醜態に、ユーリィの唇には「ゲス」と揶揄される彼らしい、冷酷な嘲笑が浮かぶ。

だが、彼はすぐに思考を切り替えた。
主催者ベリアルの手の内が見えない以上、ここで自分が降臨して聖なる力を晒すのは得策ではない。

(ふん……。不本意だが、今はあの『うっかり屋』を盾にして様子を見るとしよう。」
「……いいかい天子。君を救うのは、地獄の王(あいつ)じゃない。この僕だ」

誰に聞かせるでもない独白を残し、ユーリィは闇の中にその気配を完全に消した。

【ユーリィ@ウソツキ!ゴクオーくん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:天子の生還、
1:しばらく様子見、あのうっかり屋に天子の盾になってもらう
2:力は出したくないが、天子に危害が及ぶようなことがあればやむを得ない

[備考] ※参戦時期は7巻30話の、天子が天使になったと確信したタイミングです
最終更新:2026年03月06日 23:28