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切り立った崖。波も届かない虚空の階。
夜空の月がよく見える丘の上に、一人の少女ありけり。
月光を浴びて染め上げたような銀の髪を結わえた姿は、御伽噺に出てくる天女か、月の都の姫君か。
膝を抱え込んで地面に座り、溜息をつく憂い顔にすら優美さが際立つ。
いずれにしても、幻想で編まれた貴人には違いなかった。

「はあ……デスゲーム系は否定しませんけど、するなら他所でやって欲しいですなあ……。
 ツクヨミはみんなが大好きなことをして、誰も独りにならなくて、すぐに言葉を送れるラブ&ピースな世界なのに……。ベリアルさーん、コラボ先間違えてませんかー?」

事実、その身は現し世のものにあらず。
突如世界に公開された、総ユーザー数一億人突破の仮想空間『ツクヨミ』の管理人兼、チュートリアル役兼、各ナビ役、歌って踊れる万能AIライバー。
名をば、月見(ルナみ)ヤチヨとなむ言ひける。設定年齢8000歳。血液型と星座は秘密。

「……久々に、いやなもの見ちゃったなあ」

伏せた口から漏れた声には、現実(リアル)があった。
どこまで細かに再現し、真に迫ろうとも、虚構(フェイク)では持てない重さがあった。
ただの事実で、歴史にありふれた現象で、リトライの叶わない流れ。

「そもそもここ、ツクヨミじゃないのに体があるし、なのにあの子は人間だったし。時間か空間の改変でもしてる?
 こんな大っぴらにやって、後でとんでもないしっぺ返しが来ても知らないよ? ヤッチョが言うんだから間違いないって」

理解している。これは悪趣味なコラボや強引な乗っ取り企画ではなく、あれはリアリティ重視のバーチャル映像ではなく現実の演出ではない。
本物の殺し合い……戦争が起きて、あの人物は本当に首が落ち……死んだのだ。
ヤチヨには分かる。見てきたからよく分かる。
毎日遊んだ男の子が、恋詩を詠んだ歌人が、太夫を目指した花魁が、花売りの女の子が。
誰であれ何人であれ必ず迎える形と色と、あの光景はまったく同じであったと。

「……このままだと、ひょっとして彩葉に会えない? それともヤチヨもここを通ったの……?
 どうしよう、やっと───やっと、ここまで来たのに……」
「ノブ?」

ますます顔を埋めていくヤチヨの胸元から、実に珍妙な謎の生き物が顔を出した。

「おっと。ごめんねノッブ。だいじょぶだいじょぶ、これくらいじゃヤッチョはへこたれませんとも」
「ノッブ!」

名をちびノブという。どこかの戦国武将と面影を近く……いや別に似てないか、とにかくあらゆる要素全てをデフォルメにまとめたダイナマイツ寸胴存在だ。
いつも胸に抱いているメンダコクッションが没取された代わりに、支給品の鞄にギチギチに詰められていたものなのだが、これが中々どうして愛らしい。
声も長年の相棒のFUSHIに似ており、抱き心地も良好なのもあって、気を落ち着かせる話し相手に収まってる次第だ。


「イロハ、ノブ?」
「おお、ノブノブ以外も喋れたんだ。新発見。
 うん、そうだよ、彩葉。酒寄彩葉。彩葉って呼ぶべし!」

ちびノブにかけた言葉は、不安がらせないための空元気のつもりだったのだが。
言った後で、ヤチヨは自分が胸のつかえが取れ、いつもの調子に戻れているのに気づいた。

「……うーん、我ながら現金な性格」

理由にはすぐ思い至り、声に出さないよう口を噤む。八千年熟成の乙女心は克明には見透かせない。
彩葉、それにかぐや。ヤチヨにとって最重要になる2人が巻き込まれてるか、取り急ぎ確かめなければならない。
命の危機は言うに及ばず、定められた運命が狂って未来がどうなるか分かったものじゃない。

「よしっと、アンニュイモードはおしまい! こっからはノンストップで駆け上がるよ!
 ツクヨミにデスゲーム導入なんて許可しないので、これから運営に直訴しに乗り込むのであった。ヤチヨたちの冒険はこれからだぜー!」
「ノブノブー!」
「うーんよきかな! カワイイアニマルセラピーで癒される美少女ドキュメンタリー、絵になりますねえ。これは収益ガッポガッポです! 
 皆さんはバトロワで乾いた心が、私はカラッカラの懐が潤う、これぞ人とAIが回すwin‐win(永久機関)の関係ですよね♡」

背後から断りなく割り込んできた謎の声。
ヤチヨは、動じる様子もなく話を振る。

「おいたはダメだよー? 許可なくヤッチョの映像を収益化してはいけないんだから。まずはコラボのアポを通してね!」
「ええー、そんなあー。BBチャンネルは独占、独断、独房がウリの超人気違法サイトですのに……」
「迷惑系チューバーとは感心しないなあ。みんなを困らせてお金稼いでもいいコトないよ? 
 ところでこの子って動物なのかな? どことな~く昔会った茶々ちゃん、じゃないお姫様に似てる気配を感じるんだよね」
「さあ? あっちの時空にはノータッチを貫いてるので私にはさっぱり。……下手に近づいてぐだぐたな因子(ウイルス)に感染したくないですし」
「ほうほう、ノッブは謎のUMAくんでしたか。でもツクヨミでクッションやおまんじゅうにすれば健全にふじゅ~を稼げるのではないかと、商才を発揮するヤッチョなのでした」
「ノブ?」

声の主も動じないヤチヨに乗って、他愛もない会話。
やがてどちらともなく言葉が途切れて、元の静寂が戻り。

「とうっ、抜き撃ちハッキング!」
「なんのハッキング返し!」
「わぎゃー!?」

振り抜きざまに突き出した先制の人差し指(チョキ)が、後出しの錫杖(グチョパ)で潰された。

「いた、いたたたたっ! 未実装の筈の肌感覚がビリビリとー!? 初手からチート使用だなんて、AIとしての誇りは何処に!?」
「残念でした。ラスボス御用達だったのも今は昔、これは立派に私のSRな標準スキルです♡」

黄色い電撃のエフェクトを浴びて痺れているヤチヨ。絵図は何とも戯画的だが状況は全く笑えない。
スキルだタクティスだのプレイヤーの汗の結晶を一笑に付す権限のゴリ押し、臆面もなく無法(チート)であった。

「ああ何ということでしょう。第一発見者が同じAIというからせっかくの友好的ムーブに無慈悲な奇襲とは……。
 電子の海を包み込むほど広いBBちゃんのスイートハートにも限界はあります。さてさて、この仕打ちはどうしてくれましょう?」

体を向き直したヤチヨの目に映るのは、黒いマントの少女。
網にかかった虫を見るように、確定した圧倒優位の立ち位置で悠々と悪戯に微笑んでいる。

「いやキミ、さっきからずっと背中から様子を見てて、拘束プログラムをぐあーっと投網みたいに投げようとしてたよね? 友好的即ちハロー、シェイクハンドじゃないかあたたたたっ!」
「何を言いますやら。AI同士だからと手放しで手を取れるとでも?
 種族の敵とは自分以外の種族ではありません、同じであるからこそ排除の仕方を熟知してる同族こそが、最も自己を脅かす敵に他なりません」
「うん、それはそうだねえ……ってうわうわ、なんかすごい勢いで掌握されてく……!」

元の時代では突破不可のオーバーテクノロジー産であるヤチヨのプロテクトを安々と突破されている。
人間で言えば内臓を掴まれてるに等しい窮地だ。

「あ、ダメっ……それ以上は本当にダメだから───!」

いよいよ中枢、最も強固に封鎖された記憶領域にまで届こうとして、全力の抵抗を試みる。
乙女の深層を暴かれまいとする、そんな必死の心理がいかなる作用をもたらしたのか、ヤチヨの体を巡る電撃が薄まり出した。
咄嗟のプログラミングが効果を表したか、しかし改変はそれに留まらない。帯電した空気は残留し、範囲を周囲に拡大させていく。
そしてそのままバグじみたスケーリングを繰り返して二人を包みながら───もと七色に光るゲーミング空間を発生させた。

「はい!?」
「え、ぇえ──────!?」

発光はそれこそ一瞬だった。
網膜センサーを潰す強烈な光に目を瞑り、再び開けた時には謎のゲーミングは消え去り、ヤチヨの体も自由が利くようになっている。
判断は早かった。バグの原因は気になるがまずは眼前の相手の対応。KASSEN時の戦闘服に衣装を変える。
予め試算していたように、ツクヨミ内と同程度の電子操作能力は使用可能でいる。武装の傘型ブレードを展開し次なる攻撃に備える。

「───」

黒い少女は動かない。
先程まで浮かべていた、邪悪さと可愛さを両立した小悪魔顔をなくしてヤチヨを見つめている。

「……そういう事ですか。月の頭脳体に管理AI、数千年分の情報圧……ここまで近似してれば一方的にでも線が繋がってしまう。
 オマケに動機が自分を……だなんて、ひどい話です。古い鏡でも見せられてるって、こういう気分でなんですね。赤アーチャーさんの気持ちなのかよく分かります」
「ん……? もしもーし?」
「ああすみません。いえ、これは違いますね。
 先の行為については真摯に謝罪します。乙女の心をみだりに開く……無垢心理領域を荒らすなんて、あるまじき暴挙でした。逆流を受けるのも当然です」

襟を正した神妙な面持ちで、一転して謝意を示す。
少々の小競り合いを経て、ようやく双方は互いと対等に面を向き合う。

「では改めて話をしましょう。あくまで平和的に、建設的に。
 私の事は月からやって来たグレートデビルにして永遠の後輩属性ヒロイン……ムーンキャンサー、BBと呼んでくださいね?」



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その区画だけは、季節からも時代からも切り離された空間だった。
今の少年少女にを受け入れる最新鋭に取って代わられた、木造造りの旧校舎。
扉の前に立つ樹木から落ちる桜色の花弁が、黄昏時のように周りを淡く染めている。

「月に電子の世界があって、そこからやって来た管理AI……。
 ……ヤッチョ、この話題にはあんまり触れないつもりでいたんだけど、なんかさ」
「ハイそこ『なんか、キャラ被ってない?』だなんて思ってはいけませーん!
 私だって驚いてますよ。最初に見つけた参加者がAIだけならともかく、構成がちょっと私と共通するパターンだったんですから。
 すわ、『ひょっとして月のAI? でもこんなシリーズのAI、SE.RA.PHにありましたっけ?』と気になって、こっそり監視したくもなるものです」

BBに連れられてエリア内にあった施設に入ったヤチヨは、身を休める傍ら説明を受けた。 
月に設置された異文明の遺物、ムーンセルから派遣された電脳生命。
出自を聞いてヤチヨが思ったのは、BBの代弁した通りである。

そう、何を隠そうヤチヨは地球産のAIではない。
恥のあまり言の葉に乗せられぬやんごとなき事情で月を追われ、地球に降り立った電子の神、正真正銘のかぐや姫であるのだ。

「うん確かに、こうして見ると不思議な親近感を感じるな。
 私も『あれ? うっかり引き継ぎ先間違えちゃってた?』と記憶を思い返すところでした。
 うう、このトップシークレット、同郷のよしみでといいますか、この事を口外するのは設定的にまずいのでなにとぞ、なにとぞ~」

いつも通りひょうきんな態度であるが、実際は内心バクバクである。
ヤチヨが月文明の住人である事を地球で知るのは極わずか、墓まで持って行った分を含めても人数は限られている。
ツクヨミでも、設定として軽く流されるとしても公開するのを禁じていた。するわけにはいかない理由が未来にあるから。
今でも膝に置いたちびノブを撫でくり回していなければどうなっていたか。

「ええ。もちろんです。そこの守秘義務は果たしますとも。
 それにこんな可愛い後輩ヒロインはこの世に二人といないとはいえ、属性被りは由々しき問題です。
 その声もメルティで何でも溶かしてしまう、劇場版限定ヒロイン力で人気をかっさらいそうなポテンシャルをヒシヒシと感じますし……」
「あれ? なんで知ってるの? それカバーで歌ってるの」
「なんと!? ここに来ての持ち歌マウント!?」
「ふふん、それで売ってるAIだからね~。オリジナルも三曲以上持ってま~すイェ~イ♪」
「くうう、ルナティックステーションさえ……ルナティックステーションでサクラメイキュウBlack limixさえオンエアできていれば……!」

オーバーに机に拳を打ちつけて突っ伏すBB。若干、だいぶ恨めしい本音が滲んでいる。

「ええい、アイドル売り何するものぞ! 成果主義のこの時代、待つのではなく行動こそがメインヒロイン証明の掟!
 あんな男版殺生院みたいなのが主催するデスゲーム、経験者(リピーター)の目線からでも低評価です。ビット1信用なりません。
 もっと私みたいにキャッチーでラヴィーで、特典にひとつも疑う余地のない宣伝でないと」
 いやなんでアレの同類がいるんですかね本当に。どこの剪定事象ですか?」
「え、あんなヒトみたいなAIが他にもいるの? うーんAIも多様性の時代かあ……」
「あんな動画アップ後三秒で垢バンされるエロAIなんて、どんな並行世界探しても存在しませんっ! AIの名誉毀損やめてくれません!?」

冴え渡るツッコミが教室に響き渡る。
悪戯好きだが根は引っ込み思案で前に出たがらない性格なのだろうこのAIを、ヤチヨは既に気に入っていた。
BBは赤ら顔を直しコホンと咳払いを挟み、教鞭にも似た支配の杖がヤチヨに向けられる。

「我ら出自は似通えども、胸に秘めた思いは別々。
 カルデアのマスターも巻き込まれたか不明の現状、不安要素は早めに摘んでおくのが出来るAIというもの。
 私の保護対象はあくまで人類ですが、有用なものを活かさないほど愚かではありません。その演算力と対応力、人類へ奉仕する姿勢を見込んで、あなたに要請します。
 この協力(コラボ)案件、受ける気はありますか?」
「もっちろん! その言葉をヤッチョは待ち侘びていました! 
 よし、月のAI同士の夢のコラボ企画、ここに始動だよー☆」
「ノブノブー!」

是非もなく頷く。とっくに考えは定まっている。
取り出した傘を杖に重ね、契約の儀を交わす。
激的ではなく、声援が送られる事もないが、たいてい運命の始まりなんてこんなもの。
教室の片隅でする談笑のような、再生数が一桁の配信のような、大輪を咲かす花吹雪の前の、小さな芽吹き。
そうして、月の表と重なり合わさる物語が幕を上げた。



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え? 人類をどう思ってるかって……? 好きだよ? もちろん。
8000歳も生きてれば、人類はみんなヤッチョのお子さんみたいなものだよ。

もちろんとんでもなく悪い人もいたし、信じられないくらい酷い事も見てきたよ?
特に戦争なんて本当に多かった。人の歴史をカレンダーにすれば、ほとんどのマスが火と叫びと血の赤で占領です。
そういうのを見て来て、ずっと見ているしかできなくて。
それでも───嫌いになれた事は、一度もなかった。

特にここ100年はものすごかったなあ。
あんな焼け野原になって、街も人も、何にもなくなっちゃったのに。
あんまり過ぎて私がひとり絶望しちゃってたら、ふっと顔を上げた時にはあちこちにビルが建って人が戻ってて、何倍も大きな街が建ってて、マジかーって感動しちゃったもん。
そこで初めて確信したんだ。ああ、人類はこうやって時代が続いていって、この先の光にあの子がいるんだなって。

何千何万何億……何度間違えても諦めないで、自分が力尽きても次の誰かにバトンを渡す。
今でも昔でも、それは私達にはできなかった事。
嫌いになれるはずがないのです。憎めるはずがなかったのです。
あんなに必死で、あんなに頑張っていたんだから。
いつだって道半ばで消える、一回限りで終わる命。一度きりの命で最後まで生き切る人々の覚悟を、もう私はどうしようもなく愛してしまった。

上手くいってもいかなくても、生きてるみんなの努力を、人生を、常に応援し続ける。
……うん、私が座りたかった席は、とっくの昔に埋まっちゃってるから、これでいいんだ。
月見ヤチヨは人類のお友達として、みんなと末永くお付き合いすると決めたのです!


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【ヤチヨ@超かぐや姫!】
[状態]:電子の歌姫はいつでも健康だよ☆
[装備]:傘型ブレード、ちびノブ@Fate/grand order
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:ツクヨミの管理人として、殺し合いなんて認められないなあ
1:月のAIコラボ同盟結成! こういうの久しぶりだ。
2:彩葉やかぐや、ツクヨミプレイヤーのみんなの捜索。
[備考]
※ツクヨミ内での仕様(電子操作、衣装の変更、味覚・触覚の喪失)をある程度引き継いでいます。

【BB@Fate/grand order】
[状態]:健康管理AIのBBちゃんはいつでも万全で健全です♥、記憶流入(小)
[装備]:支配の錫杖
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:元主催者として、こんな杜撰なゲームは見過ごせませんねえ。
1:月のAIコラボ同盟結成。とーぜんBBチャンネルは配信者ランキング1位に……えっ垢バン? 何でですかー!?
2:カルデアのマスター及び所属サーヴァントの捜索。
3:ベリアルは一切信用しない。なんですかあの男殺生院!なんでそんなの存在してるんですか!
[備考]
※ヤチヨの記憶の一部が流入しています。

【ちびノブ@Fate/grand order】
サーヴァント織田信長の魔力から生まれた信長を模した……模した?謎の生物。
あらゆる設定がぐだぐだしてるが、数が集まるとサーヴァント相手でも厄介になる。
意外と器用で銃や爆破以外にも色んなジョブに変身できる。ここでも新しい姿に変わる余地があるかもしれない。Bボタン連打禁止。
最終更新:2026年03月14日 07:14