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自分が消えていく感覚は、今でも記憶へ焼き付き離れない。

勝てる戦いだった、力の差は歴然だった。
敵もまた相応の力を有し、だが自分に及ぶ強さではなかった。
喰らい付いた先から更に上を行き、圧倒し。

予定調和の勝利を掴む筈の自分を、敵は一瞬で上回った。

蹂躙、ほんの数手前まで己の行いにこそ当て嵌まる二文字は。
敵である少年こそが実現するものと化した。
刃は届かず、手は届かず、突き立てる筈の牙もへし折れ。
結果訪れた己の敗北を、波立たぬ心で受け止め、

――『こんな勝ち方があるかよ!!!』

最後の最後で、思い通りにならぬ展開へため息の一つを零したくなったのも記憶に新しい。

形はどうあれ、勝ったのはあの少年だ。
敵を倒した、仲間を死なせずに済んだ。
喜びこそすれど、悔やむ場面ではないだろうに。
顔を歪め、絞り出すように叫んだ彼は。
全く理解が及ばず、妙に腹立たしく、

されど捨て置く事も出来ず、胸の空洞に正体不明の揺らぎを生じさせる。

負けは負けだ、後悔も怒りもない。
ただ自分よりも、相手が強かっただけのこと。
不動の事実を告げられ、後は消えるのみ。
『死』ではない、消滅した魂が行くべき場所など何処にもない。
恐怖も動揺も抱かず、虚無のままに去る。

ああ、けれど。
零れ落ちるしかなかった胸の中が、いつの間にやら。
満たされたように感じたのも、気のせいではなくて。
勝敗や主への忠義ではなく、少年達へ関心を抱きつつあったのも嘘ではなくて。

終わりの間際に一つ、答えを得られたような。
そんな満足感があった。

だからこそ思う、自分がここにいる意味はなんだろうかと。
ウルキオラ・シファーは、言葉なく問い掛けた。

(漂う霊子の質からして虚圏でも、まして尸魂界でもない)

かといって、現世の空気とも異なる。
爪の一欠片も残さず消えた筈が、今や完全に元通りだ。
超速再生という、十刃の中で突出した力を有するが。
生前最後の闘争では、肉体の修復が追い付かない致命的な傷を負った。
どう足掻いても、あの状況から助かるのは有り得ない。

だが現実問題、ウルキオラは己が肉体で見知らぬ空の舞台へ立っている。
消滅間際に見た、夢現の妄想に非ず。
病的な白さの肌を撫でる冷たい風は、鼻孔を擽る草花の匂いは。
自身が復活を遂げた事を、これ以上なく伝えて来る。

「ベリアル、と言ったか。人間どもの世界では、その名を冠する悪魔がいたな」

下らない見栄を張り、どこぞの聖書から引っ張り出し名乗った。
と言い切れないのは、先の場でただならぬ霊圧を感じ取ったが故。
言動は品性の欠片もないが、持ち得る力は決して油断出来まい。
低く見積もっても、護廷十三隊の隊長クラスなのは間違いない。

正体が分からず、しかし絶大の力の持ち主とくれば。
自分を蘇生させるのも、不可能とは言い切れない。
実際こうして、傷一つない状態で突っ立ってるのだから尚更だ。

「無価値、だったか」

とある宗派においては、ベリアルとは「無価値なるもの」を指すらしい。
正しく今の状況に置かれた自分こそ、ソレが当て嵌まる。
目に映るものを無意味と断じ、目に映らぬものは存在自体しないと切り捨て。
果てに、一人の半端な死神に敗北し、蘇生を受けた。
戦いも、勝利も、死も。
この瞬間に帰結すると言うなら、気まぐれに弄ばれるに過ぎないなら。
全く持って、無価値に他ならず、

「…………」

そう考え付いた自分自身の思考へ、僅かな苦さを覚えた。
虚だった頃の己も、藍染惣右介に仕えた己も無価値と言われても。
別段思う事は一つとしてないが。

ようやくナニカを得られた実感があった、最期までもを否定されるのは。
不愉快と、そう思う己がどこかにいて。

「ほぁあああああああああああっ!?危機管理ーっ!!」

鼓膜をつんざく絶叫が聞こえたのは、直後のことだった。




「た、助かりました!ありがとうございます!」

数分後、ぺこぺこと頭を下げる少女。
吉田優子を、ウルキオラは無言で見下ろしていた。

声のする方へ赴いた所、視界に飛び込んだのは珍妙極まる光景。
会場に解き放たれたろう魔物が、一本の大木へ集まり。
枝へ必死にしがみついた優子を、今にも喰わんと迫るという。
非常にコメントへ困る、言い方を選ばなければ馬鹿らしい絵面だった。

どうにか追い払おうと手を振っていたが、魔物達には効果なし。
涙目へ変わるのに時間は掛からず、怯える小動物のよう。
無視しても一切問題なかったが、どんな気まぐれが起きたのか。
或いは単に少女の声が鬱陶しかったからか、理由は本人にも釈然としないまま。
軽く練り固めた霊力を放ち、魔物達はあっという間に爆散。
わざわざ虚閃を撃つまでもない、軽く小突く程度の攻撃とも呼べぬもので片は付いた。

「ま、まさかいきなり追っ掛け回されて、ゴリゴリのバトルが始まるなんて……!まぞくだからって常時ベリーハードは厳しいんですよ!?」
「何の話をしている」

激怒、というよりは。
ぷんすか、と気の抜ける擬音が付くような怒りを見せる。
肌面積が異様に広い恰好で、大通りを歩けば現世の警察に通報されても文句は言えまい。
実に能天気な痴女、とも言い切れなかった。

「虚、ではないな。霊力が矮小過ぎて気付きにくいが」
「ホロー、ってなんですか?まぞくのグローバル版?それより今サラッと矮小って言われた!?」

オーバーリアクションでショックを受ける優子が口にした、まぞく。
虚の名に首を傾げた事から、尸魂界の関係者ではない。
かといって純粋な人間とも言い難い。
今言った通り、優子の霊力の質が小さ過ぎて感知に少々苦労するが。

「……」

虚とは異なる人外の詳細を、深堀しようとは思わない。
偶然見かけただけの小娘と、積極的に関わる理由もない。
喰って霊力の足しにする、と以前の自分なら考えたろうが。
ただの人間よりは小指一本分マシ程度の力しかない、繰り返しとなるが矮小な力を取り込んだとて。
然したる意味があるとも思えなかった。
つまり背を向け何処へ去っても、全く問題無し。

「あ、あの!まだ聞いてなかったのですが、おにいさんはこれからどうするおつもりですか!?」

ビシッと片手を上げ、少々の緊張も宿す声色で尋ねられた。
そういえば、今更ながら野蛮な遊戯におけるスタンスを言ってないのを思い出す。
より具体的に言うと、そもそも何をするかが思い付いてない。

「お前の方こそ何を考えている?」
「へっ?私ですか?」

質問を質問で返すという、失礼極まる相手にも怒る様子はない。
パチクリと瞬きをし、指5本で数える沈黙を挟んだ後。

「勿論!あのベリアルってふしだらな感じの人を止めたいって思います!」

堂々と胸を張って言った。
勢いを付けたのだろう、薄い布一枚で隠した柔い果実がブルンと揺れる。
どこぞの桃色魔法少女が見たら、よこしまぞくと言いそうだがそんな与太話はさておき。
ベリアルを止める、つまり殺し合いには反対の方針。
驚きはない、もし自分に勝った少年達がいれば同じ事を言うだろう。
疑問となるのは、具体的な方法は何かだ。

「ベリアルを支配者の椅子から引き摺り下ろし、締め殺す気か?」
「ち、違いますよ!えっと、なるべくなら戦わないで解決出来れば良いかなぁって。あ、あと!殺すとかは絶対に駄目です!」

予想と大きく異なる答えが返って来た。
いや、呑気を絵に描いた態度を思えばある意味納得か。
これまで表情を微塵も変えなかったウルキオラだが、小さくため息を零す。
戦いはなるべく避けたい、殺しはしたくない。
確固たる決意ではなく、ガキの我儘を聞かされたような気分だ。

「な、なんですかその目は?物凄いかわいそうな娘を見る目になってませんか!?」
「自覚は出来るだけ、多少はマシな馬鹿だったか」
「な、なにおう!喧嘩なら買うぞおらーっ!」

淡々と皮肉を返され、優子はご立腹。
本人的には精一杯威圧してるつもりだが、ハムスターが怒ってる程度の迫力しかない。
どことなく緩い空気が流れるも、ウルキオラの声は冷水を浴びせるのに等しい。

「お前の話をまともに聞き入れる男なら、最初からこんな遊戯を初めていない。そんな男が集めた者達だ、他者を蹴落とし殺めるのに躊躇を抱く方が少ないだろう」
「そ、それでも頑張って話せば……」
「使い捨てるのに丁度良い馬鹿が来たと、そう思う輩なら話に耳を傾けるだろうな」

大多数を一ヶ所に閉じ込め、命の奪い合いを強要し。
挙句首輪で縛り付け、逆らった場合の見せしめも用意。
善性の欠片も見当たらない男が、小娘の言葉一つで思い留まるか否か。
何とも馬鹿げた問いだ、どうやったら後者以外の答えを出せる。
当然ながら、集められた連中も相応しい人間が大半だろう。
そういった者達からすれば優子は良くてカモ、悪くて塵同然。
死にたくないし殺したくもないから、どこかに隠れてると。
怯えながら言う方が遥かに理解出来る。

「断言してもいい、お前のやり方は無意味だ。一度も手を汚さずに事を治める未来など、ある筈がない」

言ってしまえば、戦う前から負けてるのと同じ。
犠牲者が生まれ、説得など到底不可能な男に主導権を握られた時点で。
優子の決意は意味がなく、何らかの意味が生まれもしない。
苛立ちや嘲笑は抱かず、無知な子供へ乾いた声が現実を叩き付ける。
怒声を放たれたのでなくとも、普通であったら。
言い返せずに、黙り込むのが関の山。

「……でも」

けれど優子は、ぶつけられた否定を噛み締め。
尚もウルキオラから目を逸らさず、自分自身の言葉を紡いでみせた。

「でも、私は誰かを殺すとか、傷付ける方法はやりたくないんです」
「お前自身が殺される状況に陥っても、その戯言を相手が聞き入れると思うのか?」
「うぐ……そりゃ私だって、死ぬのは恐いですよ」

だけど、と。
その瞳はウルキオラへ向けていながらも、ここにはいない誰かを見ているようで。

「私が誰かを殺したらきっと、凄く悲しむ人達がいるんです。私のせいで、皆がずっと笑えなくなるなら……やっぱり私は、殺したくなんてないです」

初めて会った時からずっと、笑わなかった宿敵。
自分の力が足りず、今でも弱いまぞくなせいで。
胸に宿った、彼女の姉のコアを返せてあげられない。
町を守って欲しいと託されたけど、本当に自分で良いのかと今も思う時がある。

けれど、こんな弱いまぞくへ彼女は笑顔を見せてくれた。
いつかもっと強いまぞくになって、彼女にもっと笑って欲しいから。
自分のせいで、彼女から笑顔を奪い去るなんて絶対にしたくない。
力が強いとは到底言えず、打開策をわんこそばみたいに思い付ける頭脳もないけど。
頑張ろうと決めた自分自身を裏切る真似は、お断りだ。

「弱くても……私にしかできないことを投げ出すのは、嫌なんです」
「……」

言い切った優子を見つめるウルキオラが、一言も発さないのは。
呆れが大きく、声を出すのも億劫だからか。
間違ってはいない。
何度聞いても、ガキの戯言以上の何物でもない。
理想と現実の区別も付かず、突き進んだ末に。
大きな間違いだったと思い知り、遅過ぎた後悔に苛まれる。
夢見がちな子供が痛い目を見る、結局はそれだけの話に過ぎない。

「…………」

それなのに、容易く切り捨てられないのは何故か。
この少女は、自分の知る人間達とは違う。
この少女は黒崎一護ではなく、井上織姫でもない。
誰に言われずとも分かっている、分かっているのに。

――『……こわくないよ』

胸を引き裂いても、中には視えない。
頭蓋を砕いても、中には視ない。
目に見えないなら、最初から存在しないのが当然なのに。
人間達が容易く口にするソレを、最期に知った今となっては。

自分以外の為に、自分以外の誰かの笑顔を護らんとする優子のソレもまた。
心在るが故にだと、嘗ての己が聞けば一蹴するものをふと思い、

「熱くなっているようだが、具体的な方針は決めてあるのか」
「うーん、とりあえずは他の巻き込まれてる人を探したいなぁって。もしかしたら、私の知ってる人がいるかもですし」
「そうか」

短く答え、それっきり口を閉じ微動だにしない。
こうなると優子の方が困惑し、視線を泳がせ始めた。
埒の明かない状況へ苛立ち、と言うにはやはり温度を感じさせずに口を開く。

「行先は自分で決めろ、それくらいの頭はあるだろう」
「んなっ!?おにいさん妙に辛辣じゃありませんか?……え?一緒に来てくれるんですか!?」

予想外だと、表情がそう伝えて来る。
実の所、優子としても同行してくれるなら有難い部分は大いにあったが。
まさか頼むまでもなく、相手がその気になってくれるとは思わなかった。

内心の驚愕を態度から察しつつ、ウルキオラ自身も同意する。
自分がやる事に、本当に意味があるのかなど分からない。
優子へ言った無意味の三文字は、そのまま己へ返って来るだけかもしれない。
一度滅んで、脳髄に障害が発生したのかと自分自身へ腑に落ちないのも否定し切れなかった。

だがそれでも、人間達が口にする心を知る機会が得られるかもしれないなら。
優子が自分をどこまで曲げずにいられるかを、この目で見ることで。
心というものへ、近付けるかもしれないなら。

「お前のような馬鹿でも、多少は俺の役に立つ可能性がある。そう思っただけだ」

再び生を受けた事は、無価値などではないのかもしれないと。
馬鹿呼ばわりに怒るまぞくを見やりながら、ほんの少しだけ埋まった胸の奥で独り言ちた。


【吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]:健康、危機管理フォームに変身中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合いとかしたくないです!なるべく傷付けない方法で止めたい
1:おにいさん(ウルキオラ)と一緒にいます。そういえばまだ名前聞いてません!
2:桃達もいるんでしょうか?
[備考]
※参戦時期は少なくとも原作43丁目以降。

【ウルキオラ・シファー@BLEACH】
[状態]:健康
[装備]:ウルキオラの斬魄刀@BLEACH
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:もう一度『心』を感じ、理解したい
1:この女(シャミ子)に付き合ってみる
[備考]
※参戦時期は消滅後。


【ウルキオラの斬魄刀@BLEACH】
支給品ではなく、ウルキオラが破面化の際に虚としての力の核を刀剣状に封印したもの。
謂わば魂魄の欠片であり、その為没収は免れた。
死神の斬魄刀とは根本的に作りが異なり、魂魄の浄化などは基本的に不可能。
単純な武器としての使用以外に、破面が刀剣解放(レスレクシオン)を行う際に必須の鍵となる。
最終更新:2026年02月01日 19:14