チッ、チッ、チッ
時計の針が音を鳴らし時を刻む。
白スーツの男は腕時計にチラと目線をやりつつも、目の前に蹲る修道着の少年へとすぐに視線を戻し、薄く笑いながらじっと見つめる。
まるで何かを見定めるように。
或いは。
愛おしい人を遠くから観察するように。
「あと3分...どうです?解除、できそうですか?」
手首につけられた知恵の輪のようなリングを、ガチャガチャと必死に弄くり回し。
溢れんほどに汗に塗れ。
眼窩に涙すら滲ませながら、少年は想起する。
なぜ、こんなことになったのかをーーー
🕛
「殺し合いなんて、そ、そんな...!」
修道着の少年は、突如巻き込まれた催しにひどく狼狽していた。
少年の名は白念。
妖の住まうまほろば山にて、住民の1人として日々修行を重ねる若き僧である。
なぜ自分がここにいるかはわからない。確か、いつもの通りに師匠であるマガツのもとで修行をして、花嫁の狐ややまちちたち、その他のまほろば山の妖魔たちに色々と声をかけられ、用を済ませた帰り道に、謎の老人に声をかけられ、強さが欲しいかと問われーーー
そこから先のことは特に思い出せないままにこの会場に連れてこられていた。
「こんなの、間違ってます...!」
冷や汗止まらず、震えも止まらず。
しかし、その言葉だけは確かに紡ぐことが出来た。
『人妖和睦』。
両親が妖魔に殺され、しかしその妖魔も両親を白念の親に殺されていて。
その復讐の連鎖の過去を経てから、彼はその悲しみを絶たねばならないと決意し、理想を叶えるために精進している。
その彼が、他者を殺すことを良しとするはずもなかった。
(と、とにかく動かないと...もしかしたらお師匠様ややまちちさん達も連れてこられているかもしれませんし)
白念はゴクリ、と唾を飲み込み、緊張感を抱いたまま歩き始める。森を抜け。川を跨ぎ。やがてたどり着いた平野で、初めての遭遇を果たす。
男だ。
西洋風の衣装に身を包んだ男は、頭上から照らされる月の光を眺めていた。
白念は咄嗟にそばの茂みにしゃがみ込み、身を隠す。
こちらにはまだ気づいていないようで、側にあった大きな岩を背にすると、何事かを考えているのか腕を組み顎に手をやりながら沈黙していた。
(どうする...?)
逃げる
話しかける
(よし...!)
彼がこの殺し合いをどう思っているかはわからないが、このままじっとしていも仕方ない。
白念は意を決して、茂みから姿を現し声をかけた。
「あの、すみません。私は白念と申します。私は殺し合いには賛同していません。お話を伺いたいのですが」
白念の存在に気がついた男は、白念に向けて温和な笑顔で答えた。
「ええ、構いませんよ。白念さんですか。私の名はゾルフ・J・キンブリー。どうぞよろしくお願いします」
これが、白念と男ーーーゾルフ・J・キンブリーの出会い。
🕐
白念は知り合いがいないかを危惧していること、生きて帰りたいことを告げ。
キンブリーはこの殺し合いにおいてどう動くかを考えていたことを明かし。
それを共有したことから情報を照らし合わせていく。
「アメストリスに錬金術、ですか...すみません、私には何が何だか...」
「まあ、そういうこともあるでしょうね。貴方の格好は見るからにシン国の方が近いですから。それに私の方こそなんですが、貴方のいう妖魔という存在は存じ上げませんね。まあこれも国の違いから認知度が違う、という程度の問題でしょう。お気になさらずに」
情報の齟齬はキンブリーが即座に捌いてくれるおかげで、要らぬ混乱を招かず順調に話し合いが進むことに白念はホッと胸を撫で下ろす。
最初に会えた人が冷静でいてくれることは非常に心強いし、なにより精を搾られるようなことがないのが助かる。
いや、気持ちいいのは嫌いではないしむしろ好きなのだが、殺し合いの場でそれをやられては溜まったものではない。
「キンブリーさん。私は殺し合いを止めたいと思っています。どうか協力してくれませんか?」
この異常事態でも、ここまで冷静な人ならば賛同してくれるはず。白念はそんな期待を含めて持ちかけた。
しかしキンブリーは。
「...時に白念さん。軍人や兵士という職業に覚えはありますか?」
「え?名前くらいなら...」
「では軍人及び兵士の仕事はなんだと思いますか?」
返される質問に疑問を抱きながらも、白念はしばし考え込み、やがて答えを口にする。
「国を守ること、ですか?」
「それは理念ですね。そういう意味では正解でしょう。ではその為の仕事は?」
「えっと、人を守ること、ですか?」
「ソレは警察の領分です。個人の意思で国民を守る者がいるのは否定しませんが、どの軍人にも共通する仕事は『戦うこと』ですよ」
端的に言うと、と人差し指を立て、言い聞かせるように言葉を紡いでいく。
「国のトップがこの国を欲しいと命じた。だから『戦う』。
この民族が気に入らないから駆逐しろと命じた。だから『戦う』。
私の家族や身内が逃げる時間が欲しいと命じた。だから『戦う』。
当然、そこには自分と他者の生死が携わり、切っても切れない関係性です。相手が余命幾許もない病人であろうが、博愛を謳う聖人君子であろうが、到底敵わぬ一騎当千の怪物だろうが、命令があれば戦い殺す。常に死と隣り合わせにある、軍人とはそういう職業です。言葉を選ばなければ、軍の狗ですね」
「は、はぁ...」
「そんな職業に私は好んで就いています。そして、この殺し合いも肯定して円滑に進めて差し上げようとも思っていますが、さて貴方はどう対処しますか?」
白念の背中に怖気が走る。
ここまで淡々と「自分には殺人の経験がある」という事実と軍人という職業について突きつけられるのはあまりにも予想外であった。
先ほどまでは頼れる大人に見えていた眼前の男が、背中に凶器を隠している危険人物にすら見えてくる。
けれど。
白念とて、全ての人間が無償で手を取り合えると信じられるほど無垢ではない。
今は仲良くしてくれている妖魔たちとて、最初は白念を認めていなかった者も一人や二人ではなかった。
勝敗が決しても自分を認めず、分かりあう道なんてものはないと示した人もいる。
だから。
「...話し合いましょう」
「ほう?それはまたなぜですか?」
「例えどんな人であれ殺したくないからです」
「なるほど。では話し合いをするとして、あなたが求める結果は?」
「あなたが誰かを殺すのを見過ごすことはできません。だから、誰も殺さないでください」
「あなたの目が届かないところででもですか?」
「届かないところででもです」
白念がそう言い切ると、静寂が訪れる。
沈黙の僅かな時間が重々しく感じる。
ただキンブリーは白念をジィと見つめ、白念はそれに固唾を飲んで耐えている。
まるで蛇に睨まれたカエルのような、まとわりつく視線が白念の鼓動をより大きく鳴らしていく。
その構図がどれほど続いただろうか。
やがて、キンブリーの口元がふっと緩み空気が弛緩していく。
「なるほど。それが貴方の答えですか」
ぽん、と両手を合わせ、温和な微笑みと共に差し出される左手に、白念はふぅ、と思わず息を吐き、握手を返す。
途端、バチィ、と派手な音と共に小さな光が迸る。
突然の発光に白念は思わず目を瞑り、その正体を確認する。
すると己の手首に、いつのまにか絡み合ったリングの連ねられた腕輪が巻かれていた。
「これは...?」
「ちょっとしたテストですよ。ところで私は『紅蓮の錬金術師』という字名が着く程度には爆破物の取り扱いには自信がありましてね。例えば」
パン、と両の掌を合わせて地面に触れる。すると、地面が隆起し、ひび割れるとほぼ同時、激しい音を伴い爆発した。
「っ...!」
「とまあ、こんな具合です。ただ爆発させるのではなく、時限式の爆弾なども作れますよ」
「へぇ、時限式の爆...弾...」
言いかけて止まる。
いま、キンブリーはなんと言った?
爆弾を「作れる」と言った。
そしていま、自分につけられた腕輪を作ったのはーーー
キンブリーの口の端がニィ、と釣り上がるのと同時。
白念の背筋が凍りつくような悪寒に襲われる。
「そのリングを解ければソレを止めることが出来ます。そうすれば貴方に協力して差し上げましょう」
「なっ」
「誰も殺さずに殺し合いを止めるというなら、これくらいはこなしていただかなければねえ」
「ふっ、ふざけないでください!早く外してくださいよ!!」
「いいんですか?それなら私はあなたの先ほどの言葉に価値はないと見做し、予定通り、あなたを爆破して殺し合いに乗りますが...」
「う、うぅ...」
白念は戸惑いと後悔に顔を歪める。
どうしてこんなことになったのだろう。
自分はただ誰も犠牲にしたくないと言っただけなのに。
だが、そう嘆いている間にタイムリミットは着々と近づいている。
選ばなければならない。
この腕輪の解除に臨んでキンブリーを仲間に引き入れるか、この場は諦めてキンブリーに泣きつき解除してもらうよう頼み込むか。
(私は...)
挑戦する
頼み込む
「や、やります」
ここでキンブリーに縋りつき腕輪を外してもらったところで自分を爆破すると言っているのだから、選択肢は一つしかないのも同然。
白念は未だ己から噴き出る冷や汗を堪えつつ、そう答えーーーそして現在の光景へと繋がるのだった。
🕒
(だ、だめだ、全然わからない...!)
タイムリミットが近づいてくるにつれて思考は乱れ、手は震え。
迫る死の時間は、本当にこれは解けるものなのか、と問いただす余裕すら与えてくれない。
ただ、早くなんとかしないとと慌ただしくガチャガチャと鳴らす音に伴い、焦燥と共に集中力も疎かになり、視界は緊張のせいか歪み、何度も何度も同じ行程を繰り返しているだけにすら思えてくる。
そんな白念と時計と交互にを見やりながら、キンブリーは白念にそっと告げる。
「...リング以外にもそれを解除する方法を教えましょう。私を殺すことです」
ドクン、と白念の鼓動が打ち鳴らされる。
「所詮は私の作ったモノですからね。私が死ねばおそらく解除されるでしょう」
狙われるのは自分だというのに、キンブリーは淡々と告げる。
私を殺せばお前は助かるぞ、と。
悪魔が乙女に誘惑の囁きをかわすように。
優しい声音が、白念の鼓膜にするりと侵入を許す。
(わ、私が彼を殺せば...!?)
思わぬ助け舟に白念は呼吸が荒くなるのを実感する。
ハッキリ言って、このヒントもなにもないパズルを続けたところで解除できる見込みは無い。
それに対して今の状況はどうだ。
キンブリーはいま、完全に油断している。
距離も一歩踏み出せば届くほどに近い。
凶器の類は無いが、それでも彼には拳がある。
それだけで殺せるかーーー可能である。
白念は見た目は華奢で、女子のような中性的な顔立ちをしているが、鍛錬により練り上げてきた拳はその気になれば岩を砕くこともできる。
もしもこれを殺意を持って人間相手に何度も浴びせれば、容易く命を刈り取ることができる。
(私は死にたくない...まだ、やらなくちゃいけないことは、たくさん...!)
ドクン、と更に鼓動が跳ねる。
そう。まだやることはたくさんある。
早く帰ってマガツの夕食を用意しなくちゃいけない。
花狐との家事もまだ済ませていない。
ここで死んだら山のみんなを守れなくなってしまう。
理由は数えても数えきれないほどあるが。
真に彼に巣食うのは恐怖。
宿敵・大明海との最後の根比べの結末である奈落への落下、その際に味わった純粋なる死への恐怖。
あの時は仲間たちが総手で助けてくれたが、その仲間たちは、いまここにいない。
自分を守れるのは自分しかいない。
(私が)
呼吸は更に乱れ。頭の中は真っ白になっていく。
(キンブリーさんを)
時計の針は現実を突きつける。もう時間はないぞ。あと1分もしないうちに爆弾は作動する。
ぐにゃりと視界が歪む中、彼が選んだのは
殺す
殺さない
殺す
殺さない
「お願いです!殺さないでください!」
土下座。地に脚をつけ、掌と額を地に擦り付ける降伏の証。あまりにも惨めな敗北宣言だ。
キンブリーはそんな惨めな姿に目を細め、ふぅ、とこれ見よがしに溜息を吐く。
「別に構いませんが...先ほども言いましたよね。ここで諦めるなら、あなたの覚悟はその程度だったと見做すと。それとも自分の命と引き換えに他の人間は諦めますか?まあそれもいいでしょう。信念も自分の命あってのものですからね。では私は予定通りに」
「い、嫌です」
ゲームの肯定を宣言しようとしたその口がぽかんと開く。
同時に、時計を眺めることもなくキンブリーはただ白念を眺めていた。
「こ、ここで私が死んでも他の人を殺すのはやめてください。助けてあげてください!どうか私だけで...で、でもやっぱり私も助けてください」
それはあまりにも情けない姿だった。
キンブリーの持論を否定しつつも、自分は死にたくないし誰も犠牲にしたくないとも言う。
あまりにも我儘。しかもそれを確固たる姿勢で言い放つのではなく。
声も身体も無様に震え、表情は窺えずともその顔は恐怖に染まりあがり涙や鼻水、冷や汗が漏れ出ているのが容易に察せる。
潔さ清潔さ、高潔さとは無縁のその滑稽極まりない醜態。
「なるほど。それがあなたの信念ですか」
キンブリーがそう言葉をかけるのと同時ーーーカチリ、と秒針が止まった。
『ポッポ~』
白念の耳に届いたのは派手な爆発音ではなく。
羽ばたく蝶さえ脅かせないほどに間の抜けた鳴き声だった。
「え...?」
ぴよんぴよんと腕輪から顔を覗かせるブリキの鳩に白念は呆気に取られる。
「おや。私は一言もそれが爆弾とは言っていませんよ?」
くっく、と朗らかな声音で笑うキンブリーに、真っ白だった白念の頭の中に徐々に熱が戻っていく。
「お、驚かせないでくださいよ!!」
「これは失礼。ただ私は嘘は言っていませんよ。それが爆弾でないことも」
未だにへたり込んでいる白念に右手を差し伸べ、微笑みかける。
「これがテストであることも。僅かな期間でしょうが、よろしくお願いしますね、白念」
⭐︎
ゾルフ・J・キンブリーは殺人者である。
彼にとっての殺人とは仕事であり記録であり、理念の一部である。
己の爆弾で如何に人を殺せたか。死の際に如何な表情や断末魔をあげたか。ソレを堪能し味わい快楽を得ることが彼にとっての殺人の意義である。
しかし、彼はソレを世界においての異端であるという事実を理解し肯定している。
異端であるのは自分。故に、他の者が自分と違ったところで否定はしない。例えそれが敵対するものであってもだ。
彼が他者に重視するのは信念である。
例えば、軍属にありながら、自らが処罰を受けるのを覚悟の上で、殲滅よりも人命救助を優先したり。
例えば、医師の矜持に従い、戦火の中でも人種に関係なく治療を施したり。
例えば、大罪の名を冠する人造人間がその名に恥じぬ振る舞いを貫徹したり。
例えば、如何なる境地であっても誰も殺さないと腹を括りそれを実行したり。
その一貫した信念や振る舞いを、彼は魂の美学として敬意を払っている。
では白念の姿は彼の目にどう映ったか。
己の死に恐怖し、命を握る相手に土下座までして、しかもソレを誇るのではなく、堂々と立ち振る舞うのではなく。ただ、絶望しながら自分に縋ってきた。
十人に聞けば十人が見苦しい、情けないと答えるだろう。
しかし、キンブリーにとっては違う。
これまで彼が敬意を払ってきた確固たる信念に基づく者たちはこのような醜態を晒さなかったが、彼からはまた別の美を見出していた。
どれほどの醜態を晒しても、恥辱に塗れても。彼の意志に反して折れてくれない信念。
未だ見たことのない美学の形に、彼は興味を持った。
(最初はベリアルの目論見通りに動いてやろうかとも思いましたが)
キンブリーにとって殺人は甘受するものである。もしも白念が命惜しさに自分を殺しにかかっていれば、さっさと殺してゲームを存分に満喫していただろう。
だが、白念が信念を見せつけたが故に、優先順位は変わった。
(この殺し合いという世界の
ルールにおいて、不殺という異端がどこまで生き残れるかを見てみたい)
もしもベリアルが直接「この殺し合いで暴れ回ってくれ」と依頼していたなら喜んで引き受けていた。
しかし、ベリアルはただキンブリーをこの世界に放り込んだだけ。どうしろとも命じていない。
対して、白念は自分と協力して殺し合いを止めてくれと依頼した。
その報酬の前払いとして、先の信念を見せつけてくれた。
等価交換の原則に従えば、依頼を先に成立させたのは白念だ。
それが、キンブリーという殺人者が白念に手を貸そうと決めた理由。
「あ、あの...私、解除に間に合わなかったんですけど、いいんですか?」
「ええ。解除できたら手を貸すとは言いましたが、できなかったら手を貸さないとも言っていませんので」
右手をとりながら立ち上がる白念にキンブリーは柔和な笑みを浮かべると、白念は深く息を吐き安堵する。
「こう見えて仕事熱心でしてね。引き受けた以上はあなたがくれた報酬分はちゃんと働きますよ。それに...」
だが忘れてはならない。
キンブリーは白念に敬意を払えど、共感はしていないことを。
「楽しい仕事だけでは腕が鈍ります。たまには困難な仕事というのもやってみるべきでしょう」
もしも白念という依頼者がいなくなれば、ゾルフ・J・キンブリーという爆弾は、その本質に従い、一切合切を無視して容赦なくこの会場に火を撒き散らすだろう。
【白念@三枚のおふだ鼎 コドクの妖己】
[状態]:精神的疲労(大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止めたい。誰も殺したくない。自分も死にたくない
1.キンブリーさんが協力してくれてよかった...でもあれは意地悪がすぎますよ...
2.仲間がいれば合流したい。
3.助けを求める人を集める
※参戦時期はコドクの妲己、OP開始前
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師(漫画版)】
[状態]:健康、白念への興味
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:白念の信念がどこまでいけるか観察する
1.白念が死ぬまでは協力する。死んだらゲームに乗る。
2.白念が諦めるまでは白念は殺さないつもり
※参戦時期は不明
最終更新:2026年03月17日 13:34