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 夜空は墨を溶かしたような深い黒に沈み、星さえ息を潜めている。
 蒼い風が、低く唸るような音を立てて押し寄せる。
 木々の梢がざわめき、不揃いなリズムで揺れるたび、何かが軋むような金属音が混じる。

 ただの枝の擦れ合いであれば、どれほど良かっただろう。
 湿った土の匂いと共に、腐臭と鉄錆が混ざったような匂いが鋭く鼻腔を刺激する。

「はぁ──っ、はっ……!」

 草原の真ん中を、少年は全力で走っていた。
 露で濡れた草が膝まで跳ね上がり、靴の中までびしょ濡れになるのも構わない。
 鼓動がけたたましく耳奥で鳴り響き、喉が焼けるように熱いのに、足を止められない。

 後ろから聞こえるのは、草を踏み潰す重い足音。
 その音からは、生命を感じられない。
 無機質な金属の音だけが、死神の鎌のごとく忍び寄る。

 少年は振り返らない。
 振り返ったら終わりだと、本能が叫んでいた。

 せめてこの身体でなければ。
 いいやそもそも、博士の発明品さえあれば。
 少年──江戸川コナンは、そんなありもしない空想に思いを馳せる始末であった。

 冷静な思考など、とうにかなぐり捨てた。
 殺し合い開始早々、会話の通じない鎧の怪物相手に、命綱の研究品を取り上げられた小学生が出来ることなどない。
 命を狙われている最中にデイパックを漁るような悠長な真似、手をこまねいて死を待つのも同然。
 だからコナンは、こうして走ることしか出来なかった。

「く、っ──は──ぁ」

 風が耳元で唸り、前髪が顔に張り付いて視界を邪魔する。
 それでも必死に目を細めて前を見る。
 地平線の向こうに、かすかに見える林の影。
 あそこまで、あそこまで行ければ──

「ぐ──っ、あ──!?」

 突然、右足が何かに引っかかった。
 モグラ塚だった。
 身体が前のめりに崩れ、両手をついて転がる。
 草の匂いと土の匂いが、一気に鼻を突く。

 その瞬間、背後で音が止まった。
 這うようにして起き上がり、後ろを見る。
 仄暗い月明かりを反射する銀色の鎧が、まず目に入った。
 鉄の胸当てから、視線を少し上げたことをコナンは直後に後悔する。

 兜がない。
 代わりに、血肉に似た寄生虫がおぞましく蠢いていた。
 生理的嫌悪と疲労が相俟って、鋭い吐き気が漫然と襲いかかる。
 擦りむいた膝から血が出る事も気付かずに、コナンは立ち上がった。

「ふざ──っ、け──!」

 怒りさえ湧き上がる理不尽、不条理。
 過酷な運命を跳ね除けてきた少年は、わけも分からず殺されるのか。
 法や警察組織という後ろ盾を持たない環境では、倫理など枷にしかならないのか。
 “名探偵”工藤新一は、死の間際にそれを突き付けられて終わるのか。

「ふざっ、けんな──!」

 いいや、認めない。
 無力な小学生の身体で、必死の抵抗を試みる。
 傍らの地面を突き刺す刃。燻りを見せない洞察力が、変形した触手によるものだと認識する。
 完全に躱したつもりだったのに、青色の袖が引き裂かれた。
 白いシャツに絵の具を垂らしたように、赤が滲み始める。

 痛みに嘆く暇はない。
 鎧の怪物は、いつの間にかコナンを取り囲んでいた。
 その数は五体。一体相手ならばまだしも、隙を見て逃走する余裕などない。
 幸いなのは、どうやら連携という意識を持ち合わせていないことか。
 迫り来る肉の刃を転がって躱す。同時に、向かい側にいた鎧の足甲が弾け飛んだ。

(同士討ちを狙えば……!)

 もはや、コナンが状況を切り抜けるにはそれしかない。
 高速で降り掛かる触手の斬撃を全て躱し切るという、無謀な前提を潜り抜けるしかない。
 1%にも満たない可能性。もはや悪足掻きとも呼べぬ生への執着。
 けれど江戸川コナンは、決して諦めることをしない。

「っ──ぐ!」

 しかし所詮、夢物語。
 こうして四度も躱せたことが、奇跡なのだ。
 太腿に走る赤い線へ、焼いた鉄を押し付けられたような痛みが自由を奪う。

 胸元から地面へ叩き付けられ、次の行動を封じられる。
 それは即ち、死──いくら念じても、この体勢から身体を動かせる力はもっていない。
 脳裏によぎる幼馴染の姿へ、力無い笑みを浮かべるコナン。

 俺が死んだらあいつ、悲しむだろうな。
 いや、案外怒ってきたりしてな。
 どっちにしても、泣かせるのは嫌だな。

 少年が最後に見たのは、そんな夢。






「──豪炎寺さん!」
「ああ!」


 耳を掠めたのは、幻聴だろうか。
 いいや、違う。見開かれた目は、鎧の群れの隙間からこちらへと伸びる影を捉えた。

 飛来する五つの石礫。
 目視32ヤード以上は離れた場所から放たれた散弾は、正確無比に怪物達の頭部へと到達。
 予期せぬ介入へ、五体の鎧は反射的にそちら側へと振り返る。
 人間の可動域を無視した無茶苦茶な動き。
 触手の中にある濁った黄色い瞳孔が、乱入者達の姿を捉える。

「……子供……?」

 口にしたのは江戸川コナン。
 自慢の眼鏡は落としてしまったが、この距離でも確認出来る。確かな幼さが残る顔立ち。

 数は二人、白髪の少年と茶髪の少年。
 年は中学生ほどか、走り方からして相当鍛え込んでいると見える。
 あの足使いはサッカーだろうか。馴染みがある分、その結論に辿り着くのも早かった。

 ──いや、それよりも。
 この怪物達に突っ込む気か。


「おい、やめ──」

 無謀過ぎる。
 取り囲む鎧達の照準は、すでに少年達へと向いている。
 鎧達の間をすり抜けて自分を助けるつもりなのだろうが、隙間もギリギリだ。
 十中八九捕らえられ、切り刻まれるのがオチ。
 喉元から掠れ出る制止の声も虚しく、茶髪の少年が勢いよく地面を踏み抜いた。


「────そよ風ステップ!」


 常識が覆る。
 巻き起こる突風、頬を撫でる疾風。
 見惚れる程のフットワークと、常軌を逸した切り返しが不可能を可能にした。

 鎧達の隙間を潜り抜け、コナンを抱き抱える茶髪の少年。
 呆気に取られるコナンは、揺れる視界の中で月を覆う人影を見た。
 幻想などではない。片割れの少年が、人間離れした跳躍を披露していたのだ。

「豪炎寺さん、お願いします!」

 頭上から声が掛かる。
 茶髪の少年の呼び掛けを受けて、豪炎寺と呼ばれた少年が力強く応える。
 よく見れば、月影を連れて飛び立ったのは豪炎寺だけではない。
 彼の左足の傍ら。まるで付き従うかのように、コンクリートブロックが優雅に踊っていた。


「爆熱────」


 そこで初めて、コナンは状況を正しく把握する。
 今自分を抱えている少年は、ただ鎧の群れを掻い潜ったわけではない。
 豪炎寺から見て直線上、五体の鎧が一列に並ぶように誘導していたのだ。


「────スクリューッ!!」


 瓦礫の雨霰が降り注ぐ。
 砕け散ったコンクリートブロックの破片は、一粒一粒が焔を纏い絨毯爆撃よろしく鎧達を撃ち抜く。
 尖った破片、丸みを帯びた破片、小さな破片、大きな破片。
 一つとして同じものはないが、敵を討ち滅ぼすという役目は共通している。

 鎧は無残に凹み、直撃を受けた寄生虫は即死。
 重厚な音を立てて地面へ沈む五体の鎧は、宿主を失った為に二度と動くことはない。
 後に残されたのは、華麗な着地を決める白髪の少年のみ。

「……すっ、げ…………」

 自分もそれなりにサッカーには自信がある。
 だからこそ言える。これはサッカーではない、と。
 いわばこれは、“超次元サッカー”。
 あまりに現実離れした光景を前に、コナンはただただ絶句するしかなかった。





「二人ともありがとう、助かった」
「全然大丈夫! キミが無事でよかったよ!」

 草原を抜け、木陰に凭れ掛かりながらコナンは治療を受けていた。
 道具がないために布と水を使った簡易的な止血処置程度だが、冷静さを取り戻すには十分。
 死が眼前に迫っていた危機的状況では、見えなかった景色が見える。
 その最たるものが、命の恩人であるこの少年達の顔。

「俺、松風天馬! こっちが豪炎寺修也さん、あの超有名サッカープレイヤーだよ!」
「へ?」

 茶髪の少年、天馬は笑顔で人を巻き込んだ自己紹介をする。
 大層な肩書きを引き連れた豪炎寺修也という名前に、聞き覚えなど微塵もない。
 ジュニアサッカー界でも有名な人物はある程度把握している。それなのに心当たり一切がないなんてありえるだろうか。

「松風……忘れたのか?」
「え? ……あ」

 思考を重ねるコナンをよそに、豪炎寺の呆れたような視線が天馬を射抜く。
 そうだった、とでも言いたげに後頭部に片手を添える天馬。

「そうだった。俺たち、違う世界線から来たかもしれないんだった」

 聞き捨てならない台詞が聞こえた気がする。
 訝しげに眉を顰めながら、コナンは思わず聞き返した。

「違う世界線?」
「そうなんだよ、信じられないかもしれないけど……実はね」
「待て、松風」

 詳細を綴ろうとする天馬を、豪炎寺の冷淡な声が遮る。
 どうしたんですか、という天馬の返事も待たずに豪炎寺はコナンへ目線を送り、憚るように抑えた声を出す。

「見たところこいつは小学生だ、詳しく話すべきなのか?」
「あー……たしかに、そういえばそう? なのかな?
 ごめん! やっぱりなんでもないよ、アハハ……」

 その態度を見て、コナンは改めてこの身体の不便さを思い知らされた。
 コナンは工藤新一としての正体を明かすべきか否か、ずっと決めあぐねていた。
 下手に言いふらせば、もしこの殺し合いに黒の組織が関係していた場合間抜けもいいところである。
 そうでなくとも、蘭や小五郎などの身内が呼ばれていた場合真実が漏れる可能性がある。


「大丈夫だ、詳しくは言えねぇけど……俺はただの小学生じゃない」

 そうして、絞り出したのはそんな苦しい言葉。
 信憑性もない、自ら隠し事があると暴露しているような行為。
 命の恩人相手に随分な態度を取っているという自覚はあるが、今はこうするしかない。

 天馬も豪炎寺も、暫く押し黙る。
 互いに目配せをした後に、天馬が大きく頷いた。

「わかった! 信じるよ!」
「……助かるぜ。俺は江戸川コナン、多分な」
「多分?」
「名簿には違う名前で記載される場合があるんだ。
 それが判明したら仕方ないけど、分からない以上本名はまだ明かせない」

 首を傾げる天馬へ助け舟を出すように、豪炎寺が合点のいった表情を浮かべた。

「偽名を使わないといけないなんて、確かに普通の小学生じゃないな」
「まぁ、そういうこと」
「偽名……あ! たしかに!」

 ぽん、と手を叩いて納得する天馬。

「偽名かぁ……未来の豪炎寺さんと一緒ですね!」
「だから……あんまりその話は……」
「あ、そうでした……!」

 そうしてまた、失言。
 咎める豪炎寺も、いい加減松風天馬という人間が分かってきたのか、浮かべる顔色は諦めに近い。
 そして相手はあの江戸川コナン。失言を見逃すような真似はしない。

「未来とか世界線とか、楽しそうな話してんじゃねーか」

 含みのある言い方で、天馬を牽制する。
 分かりやすく狼狽える天馬は、やがて観念したように唇を開いた。

「俺はさ、色んな時空を旅してたんだ。
 タイムジャンプっていうのかな、本当だよ!
 織田信長にも会ったことあるし、絵本の世界にも行ったことあるんだ!」

 いきなり何を言い出すかと思えば、天馬が吐き出したのは正気を疑う言葉。
 思わず肩を落としかけて、コナンは豪炎寺へ助けを乞うような視線を向ける。

「豪炎寺さんも、俺の知ってる世界より十年前の姿なんだ。ね、豪炎寺さん!」
「…………そうらしいな」

 しかし、その豪炎寺はとっくに彼の熱意に負けていたらしい。
 それもそのはず。天馬が語る十年後の世界は、出鱈目にしては明瞭過ぎた。

「まだ話自体は半信半疑だが、こいつは嘘をつくようには思えないからな」
「なんだそりゃ……」

 なによりも天馬が嘘を語っているようには見えず、豪炎寺はダメ元で彼の言葉を信じることにしたのだ。
 痛みを覚え始めて頭を抱えるコナンをよそに、天馬は首尾よく説明を続けてゆく。


「色んな空間をタイムジャンプしちゃったから、その影響が出たのかもしれない。
 島を浮かべられるなんて技術、遠い未来か別の世界としか考えられないし……。
 とにかく! 俺達の住む時間や世界とは違う場所っていうのは間違いないと思う!」

 力強く拳を握りながら宣言する天馬。
 ああ確かに、これで嘘をついているなら相当な役者なのだろう。
 人を見る目に優れているコナンだからこそ、余計にそう確信させられる。

「そんなの突然言われてもな…………いや、」

 現実主義の脳を冷やかすように、コナンの疑問は尽きない。
 天馬の話を非現実的と下すのならば、確かにその他にも見過ごせない点が多すぎる。

 そもそもどうやって首輪を付けた。どうやってこの場所へ連れてきた。
 あの鎧に寄生していた怪物は? というより、豪炎寺や天馬が見せた人間離れした動きは?
 そのどれもが、異世界というピースを嵌めることで解決する。

「……とりあえず、信じるしかねーな」

 おそらく、豪炎寺も同じように納得させられたのだろう。
 やけに輝く天馬の瞳へ、コナンは鷹のように鋭い目線を返す。

「けど、まだ全部納得したわけじゃねえ」
「え?」
「そもそもこの殺し合いの目的が読めない。
 異世界の住人だったとして、なんで俺達を呼んだ?
 まだまだ疑問だらけだし、なによりあいつは目の前で人を殺してる」

 そう、ベリアルは少女を殺している。
 首輪の爆弾を起動させ、民衆を動揺させるための見せしめとして。
 命を踏みにじる行為へ、コナンが怒りを感じない訳がない。


「この事件を解決して、ベリアルを逮捕する。それが俺の目的だ」


 拳を握り、力強く宣言するコナン。
 小学生とは思えない鬼気迫る様相。ああ確かに、この子供は只者ではないのだろう。
 彼の強固たる意思を感じ取った豪炎寺は軽く微笑む。

「そうだな、俺も手伝おう」
「もちろん俺も手伝うよ! こんなの、サッカーだけじゃない……世界中が泣いてるよ!」

 そして、天馬もそれに続く。
 これほど頼りになる中学生がいるだろうか、とコナンは思わず笑った。

「決まりだな、よろしく頼むぜ二人とも」

 天馬、豪炎寺は力強く応える。
 その瞳に嘘はなく、どこか少年探偵団の面々を思い出した。

(にしても──)

 改めて、コナンは辺りを見渡す。
 空高く浮かぶ孤島など、笑ってしまいそうな光景だが、コナンの記憶の奥底をなにかが掠めた。

(空飛ぶ島……なんか、既視感あんだよな……)

 もちろん、実際に足をつけた訳ではない。
 しかし彼は確かにこの光景を見た事がある。
 もっともコナンはその体験を、阿笠博士の発明した“VRゲーム”の中での出来事と記憶しているのだが。
 思い出すも思い出さないも、果たして手がかりになるかどうかも分からない。

 けれど確かなことがある。



 真実は、いつも一つ。






【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:全身に裂傷(処置済み)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:この事件を解決する。
1:まずは手がかりを探す。
2:正体を明かすべきか……?

[備考]
※グラブルのコラボイベントは経験していますが、VRゲームの中の出来事だと思っています。
 記憶が朧げですが、関係者と出会う事で詳しく思い出すかもしれません。

【豪炎寺修也@イナズマイレブン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:コナン達に協力する。
2:円堂達がいるなら合流したい。

[備考]
※FFI優勝後~卒業式までの間から参戦です。
※天馬からイナズマイレブンGOの世界の話を聞きました。

【松風天馬@イナズマイレブンGO クロノストーン】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:コナン達に協力する。
2:豪炎寺さんがいるということは、他にも知り合いが?

[備考]
※ラグナロク直前からの参戦です。
※ベリアルを違う世界線の存在だと認識しています。
最終更新:2026年03月19日 01:55