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………うぅむ。

本当に本当にほんっとうに信じがたい事ですが、
はっきり言って、これを信じる事は誠に遺憾と言わざるを得ないのですが、信じる他ないようです。

今は非常時。生き残る為にはどんな不条理でも目の前の現実を正しく現実のものだと認識する必要はあるでしょう。

…とは言え、空に浮かぶ島に、ゲームや漫画に出てくるような怪物。
全く、こんなメルヘンやファンタジーが許されるなら、探偵何て廃業してしまいますよ?


───ねぇ………鳴海さん。






────君の願いを叶えると言うおまけつきだ。どうだい? ギンギンになれたか?



その言葉を聞いて。
真っ先に、変えられるのかとそう思った。
分かっている。我ながら馬鹿な考えだと思う。

だが、空に浮かぶ島。会場に満ちる膨大な呪力。
それを感じ取れば、あのベリアルと名乗っていた男の言葉が嘘とも言い切れなかった。


─────"ソレ"はアリだ。


過去にかけられた尋ねた問いに対する返答が頭の中で木霊する。
それと共に、耳障りな拍手も木霊し続ける。
人の役に立つことは気持ちよいと言っていた、死んだ後輩の顔が陽炎の様に纏わりついて離れない。


本当に、あるのか?
世界を変える力が。あるのだろうか。
私が。私の仲間達が腹の底から笑える世界が。
もし、あるのだとしたら。


……私は、







目の前で揺れる三つ編みが、過去を思い出して心がざわめく。


「いやぁ…呪霊というものは正直信じがたいですが、助かりました。夏油さん」
「…別に、お礼を言われるほどの事はしてませんよ。呪霊から非術師を守るのは呪術師の務めですから」


本当にそう思っているのか?という声が消えてくれない。
耳障りな拍手がずうっと耳の奥で鳴り響いている。
そんな雑音を押し殺して、強者としての役割を果たす。
果たす。果たす。果たす果たす果たす果たす果たす果たす果たす果たす果たす果たす……


「いやぁ良かったです。夏油さんのような使えそう…もとい頼りになりそうな方と最初に出会えて助かりました。
何しろ私はか弱い恋に恋する女子高生。こんな殺し合いの場では不安で不安で仕方なかったものですから」
「はは、それにしては……私より落ち着いている様に見えますよ、結崎さん」


■にしては。
そんな微かな呪詛(ホンネ)が、腹の奥で渦巻く。
理性で捻じ伏せ、天内理子と出会うまでの夏を迎えるまでの夏油傑を、得演じ続ける。
これでいい。こうあるべきだ。何度もそんな言葉を反芻して。
ベリアルが放っていたと思わしき大鯰の呪霊から結崎ひよのという女性を助け、手駒を増やした。


「むぅ…そんな心臓に毛が生えた女の様な扱いは心外ですね。
そんなのを許すのは心に決めたあの人だけですから」
「それは失礼。それなら安心できる場所に行く必要があるでしょう。着いて来てください」


表面上は穏やかに。
けれど感情は一切籠っていない声色でそう提案し。
夏油は先んじて歩き出す。
マーダーに襲われにくい場所、人気が無さそうな建物の中にでも案内するために。
けれど、そんな彼の背中に対して。


「────そこで、私を殺すつもりですか?」



結崎ひよのが導き出した答えは、それだった。






否定はできなかった。
既に決めていた訳じゃない。
そう突き付けられるまで、自分の思考が余りに曖昧で。
何が本音なのか、夏油自身にも分からなかった。
だから彼は尋ねた、何故そう思ったのかを。


「気づいていませんか?今の貴女、相当ひどい顔をしてますよ?
酷い上に、絶望に囚われた嫌な目です。自暴自棄になっている様に見受けられます」
「………随分と、自分の観察眼に自信があるようだ。探偵にでもなったらどうです?」
「はい、私は助手ですが、ベストパートナーだと自負しています♡」


やはり否定はせずに。
自嘲する様に、嘲笑うように一笑を漏らして皮肉を吐く。
だがそんな嘲笑を受けても夏油の目前の少女はむしろ誇らしげに笑いかえす。
不可解だった。目の前で呪霊を祓い取り込むのを見せた。
決して非術師では超えられない種としての壁を見せた。
頭の回転が鈍い様に見えないから、目の前の命を握られている。
それは理解しているハズなのに、結崎ひよのという少女は囀ることを止めない。


「……話を戻しますが、この殺し合いに優勝したとして、
あのベリアルと言う方が望みを叶えてくれると、貴方は本当にあの人の言葉を信じているんですか?」
「胡散臭いとは思っているさ。だが…どの道生きて帰るためには乗る方が合理的でしょう?」


本当はどうするか、まだ決めてはいなかったけれど。
それでも思考が既にかなりそちらに寄っていた為、話を合わせて質問に質問で返す。
まるで乗るための建前を必死に探して、並べていくかの様に。
対称的に、結崎ひよのの言葉は決然としていた。


「例え貴方の目からは非合理に映ったとしても、私は立ち向かう事は無駄ではないと信じます」


貴方は、立ち向かうことが怖いんですか?それとも、もう立ち向かいたくありませんか?
自分の力を信じる事ができませんか?
矢継ぎ早に紡がれるひよのの問いかけ。
それを聞いていると、無性に心がささくれ立った。
初対面の癖に分かった様な言葉を吐く女に、抑えていた感情がむき出しになり。
お前が術師(わたしたち)を否定するなという、そう言った感情を籠めた叫びを放つ。


「……………立ち向かって来ましたよ。私は、私達は」


呪術師はいつだって命を賭けて非術師を守る為に戦ってきた。
その事実だけは、誰にも否定させない。
そして、命を賭けて戦って……死んでいく。
終わりのないマラソンゲーム。目の前の闇はどれほど照らした所でただの闇だ。
呪霊を取り込む日々の中で、ずっと人の心の弱さと醜さを突き付けられて食傷だった。
そしてそれは、例え自分の力を信じて立ち向かったとしても覆る物じゃない。
気づけば、そんな話を夏油は巨大な訴える様に、癇癪を起した子供の様にひよのへ吐き出していた。
何故見ず知らずの女性にそんな話をしようと思ったのかは夏油自身にも分からなかったが。


「そうですね、人は醜く弱いです。でも、私は」


そんな覆らない運命に立ち向かった人を知っています。
未来の無い身体で、たった独りの孤独の闇の中で諦めずに戦う人を知っています。
そう語るひよのの瞳は一ゆらの焔を宿しているかのようで。
揺れる夏油とは対照的に、決して誰にも奪えない物を携えてこの地に立っていた。


「その人は絶望の暗闇の中で一人、私達に希望を見せるために俯かず立ち向かっているんです。
だから私も諦めません。あの人が覆した運命を、あの人の覚悟を信じて戦います」


見つめる眼差しに嘘も迷いもなく。
真っすぐに対峙する結崎ひよのの瞳を、夏油傑は見れなかった。
語られる言葉はただ耳障りで、後ろめたくて。
だから彼は、最悪の選択を成そうとする。




「…………そうですか。それは実に立派だ。
ですが…残念ながら貴方の戦いは此処で終わる」


敗けたゲームの盤をひっくり返そうとする子供のように。
夏油が結崎ひよのの言葉に選んだ解答はそれだった。
貴方に恨みはないが、ここで死んでもらう。
そんなありきたりな殺害予告を耳にして。
なおも結崎ひよのは揺るがない。底の見えない、不敵な笑みを崩さない。
夏油が次の行動をとるより先んじて、告げる。


「えぇ、だから勝負をしましょう」


揺らがない自己肯定を伴った言葉。
それは今の夏油にもっとも足りない物で。
だからだろうか、その選択をするなら耳を貸すべきでは無いと理解していても。
誘蛾灯に誘われる虫のように、意識を引き寄せられてしまう。


「私が勝てば、私に協力してください。
ベリアルさんが何か超常の──願いを叶える力を持っているなら、それを手に入れるために」
「……そんな事が本当にできると、貴方は思っているのか?」
「奇跡は与えられるものではなく、辿り着くものですよ?」


まぁ、私の場合彼にその願いを祈るのは果たしていいものかという思いも同時にありますが。
それでも一度お願いを聞いている権利を残しているので、それはそれ、これはこれ。
人は現実の世界にしか生きられなくても、夢を見ずに生きるのが全てだとは思いたくありませんから。
そんな、何の話をしているのか分からない言葉を一しきりはいて。
再び結崎ひよのは夏油傑をじっと見つめてくる。選択を促してくる。
そんな彼女に対して、夏油はフッと先ほど向けた嘲笑とは明確に違う微笑みを返すと。


「……いいさ。受けますよ、その勝負」


腰だめに構える。
彼は、ひよのの提案に乗る事にした。
元々提案がなくとも襲うつもりではあったのだが。
今は、目の前の少女に対してある種の予感を感じていたからだ。
非術師。呪術も使えぬ弱者である筈の彼女であるが。
少なくとも、この人は勝算の無い無謀な勝負はしない。
その見立ての元、呪霊を呼び出そうとする。


「………ッ!?」


だが、呪霊を呼び出すことは叶わなかった。
否、それどころか呪力を練る事すら叶わない。
突如として去来した不可解な感覚に、数秒呆気に取られる。
その隙を、結崎ひよのは見逃さなかった。


「油断大敵ですよ、夏油傑さん?」


夏油に向けて駆け出したひよのの手には拳銃が握られていた。
不味い、と瞬間的に思い至り、夏油もまたひよのに向けて駆け出す。
どうやって術式と呪力を使用不能にしたのかは分からない。
恐らくはベリアルから譲渡された支給品だろう。
だが、どちらにせよ問題はない。呪霊操術や呪力による強化がなくとも。
くぐって来た修羅場の数が違う。例え体術だけでも対格差だけで十分圧倒でき───、




「は?」


どさりと、夏油の足元に何か抗いがたい衝撃が走り。
その影響で足がもつれて、どさりと後頭部から見事な着地を見せてしまう。
幸いな事に対した痛みはなかったが、しかし。
かちゃりと額に銃口を突き付けられて。呪力を練れない身体で銃弾を受ければ死ぬ。
つまり一合だけで決着はついた、あっさりと。


「『とめるくん』も『転ばし屋』も眉唾物でしたが…しっかり役に立ってくれました。
……で、これらの支給品を使ったとは言え、勝ちは勝ちと言いたい所ですが、如何です?」


額に押し付けた銃口を誇示しながら、にっこりと笑いかけてくるひよの。
彼女の笑顔を目にして、全く、とんだ女狐に目をつけられたものだと思わずにはいられなかった。
所詮非術師。そう思ったのが自分の敗因だと結論付けて。
そうして一度嘆息したあと、先ほどより穏やかにひよのに問いかける。
二つ、尋ねてもよいかと。


「……どうして、貴方から見て嫌な瞳をしていた私を協力者にしようと?」
「それはほら、色々言いましたけど………」


でも最初に出会った時、私がお化けに襲われそうになっていた時、助けてくれましたよね?
そうひよのは応え、言葉を続ける。


「それに、本当に自暴自棄になっているなら私の言葉なんて無視してさっさと殺せばいいですし。
此方の言葉に多少なりと耳を貸してくれた以上、賭けてみてもいいかな、と。

───今はそうは思えなくとも、それでも普通の人を守ろうとしていた貴方も確かにいたんでしょう?」
「その賭けに負けて、死ぬことになったとしても…貴方は後悔しなかったのか」
「そりゃあ後悔したんじゃないですか?私は別に聖人君子と言う訳でもないので、
ただ……私が信じた人の様に、最後まで『結崎ひよの』として微笑んでいようと決めてはいましたけど、ね」


人差し指を顎に当てて、少しの思案の後ひよのは夏油へとそう述べて。
今度はひよのの方から再び夏油に問いかける。結局、協力するのかしないのかと、銃口は突きつけたまま。
その様を見て、あぁなるほど確かに結崎ひよのという人間は聖人君子などではない。
むしろ逆、やはり女狐の類である女性の様だ。だがしかし………


「分かった。勝負は勝負だ。貴方が生きている内は、貴方に協力する。
ただその代わり、もう一つだけ教えて欲しい────」


貴方は一体、何者なんだ?
それが夏油が結崎ひよのとの邂逅で抱いた、最も大きな疑問だった。
そんな彼の疑念に対して、『女』はくすりと微笑み。
顎に当てていた人差し指を悪戯っぽく唇の前に当て、どこか誇らしげに。
役割を終えた筈の彼女は、今再び結崎ひよのの名と共に盤上に上がる。


───それは、企業秘密です♡




【結崎ひよの@スパイラル~推理の絆~】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:基本支給品一式、転ばし屋@ドラえもん、とめるくん@うえきの法則(日中まで使用不能)
[思考・状況]
基本方針:生還し、鳴海さんの選択を見届ける。
1.結崎ひよのとして動く。となると殺し合いするわけには行きませんよねぇ?
2.夏油さんは…ま、適度にお尻を叩いてあげますか。
※原作15巻76話終了後より参戦です。

【夏油傑@呪術廻戦】
[状態]:後頭部に鈍い痛み、自暴自棄(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:もう少しだけ呪術師として生きるか。それとも…
1.勝負に負けた以上、結崎ひよのに協力する。
2.もし本当に、世界を変える力があるのなら…
※原作9刊玉折-弐-旧■■村任務参加直前より参戦です。
※会場で何体か呪霊をストックしています。具体的な手持ちは後続の書き手にお任せします。


【転ばし屋@ドラえもん】
卵型の人形。サングラスに黒いソフト帽・黒背広の人物(暗殺者)を模した小型ロボット。
背中に硬貨を入れる穴があり、10円を入れターゲットを指名すると確実に相手を襲い、
拳銃状の武器で何らかの力を使って(発射されると「ダギュン」と音がする)3回転倒させる。
小さいながら怪力で頑丈。100円入れるとキャンセルが可能で狙われた側からもキャンセルできる。
依頼人ではなく、別の人間が名前を言ってもその名前の人物がターゲットと誤認する。

【とめるくん】
腕時計のように携帯して使用する、神様専用アイテム。
このアイテム使用中は、神器を含むすべての『能力』を使用することができなくなる。
この効果は何らかの異能を用いる支給品にも影響が及ぶ。
また使用者の姿を立体映像として大きく映し出す、映写機の機能も兼ねている。
(アノンが一度、この方法で四次選考開始の放送を行った)
『うえきの法則』原作中では神候補の小林に貸し出すシーンがあるので、神器ではなく通常アイテムらしい。
本ロワでは制限の効果により、能力停止を一度使用すると8時間は使用できない(映写機の機能については別)。
また、1回の使用制限時間は5分。

【ベレッタM92@現実】
イタリアのベレッタ社が製造したハンドガン。装弾数は15+1発で、9mmパラベラム弾を使用する。
撃った時の反動が少なく、十分に訓練された兵士でなくとも扱うことが出来ると世界中の公用機関で採用されている。
最終更新:2026年03月21日 09:59