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現実に理解が追い付き、真っ先に思ったのは。
今や気分次第で生死を左右される、哀れな贄の立場になった恐怖ではなく。
たった一つしかない命の奪い合いを強要する、妖艶な男への怒りでもなく。
自分は為すべき事を果たせなかったのだという、覆せない事実への。
どうしようもない程の、敗北感だった。

「あんだけ大見得切って、このザマかよ……」

ペコが知ったら、何と言うのだろう。
爆弾を用意してくれた凰蓮さんにも、申し訳ない。
考えれば考える程、自分の不甲斐なさにため息を零す気すら失せる。

ザックという名の青年にとって、命懸けの戦いは今に始まったものでもない。
誰が信じられよう。
ほんの数ヵ月前まで、自分の所属するチームが頂点に立つ未来図に夢を見ていただけの。
自尊心と勝利への貪欲さが服を着て歩く、世に吐いて捨てる程いる子供が。
生まれ育った街を守る為、そして世界の存続へ発展した大戦に身を投じるなど。
インベスゲームに夢中になっていた頃の己に言っても、鼻で笑われるのがオチだと。
他ならぬザック自身が、そう思う。

ダンスチーム同士のランキング争いはやがて、水面下で動く巨大企業との戦いに代わり。
異世界より侵略して来た、忌まわしき『森』が齎す進化から沢芽市を。
ひいては地球存亡が懸かるレベルの、大規模な闘争へ発展。
誰かの上に立ち、威張り散らす為ではない。
守りたいと思える者達を守る為に、ザックもまた戦士へと『変身』し戦場に身を投じた一人。
嘗ていがみ合ったチームは手を取り合い、志を同じくし本当の敵へ立ち向かい。

果てに、人類を脅かす絶対的支配者として名乗りを上げたのが。
友であり、頭(リーダー)であり、羨望を抱く男だった。

薄々、予感はしていた。
ユグドラシルのアーマードライダー達を倒し、ヘルヘイムの森に住まうオーバーロード達を倒し。
その後に、駆紋戒斗が戦う相手とは何か。
微塵も考えなかったと言えば、嘘になる。

戒斗は人類を裏切ったと、仲間の一人が言ったのは記憶に新しい。
けれどザックには、最初に会った時から何も変わっていないように見えた。
あの男はいつだって、何かと戦っていた。
それは権力を振りかざす者であり、年長者の責任という建前で自由を奪う大人であり。
都合の良いルールを押し付ける世界そのものだった。

古き世界を壊し、望むままに創世を果たす。
新天地で淘汰される中には、ザックが守りたかった者達もいる。
故にこそザックは王を欺き懐に潜り込み、この手で戒斗を討たんとし、

真に王へ全てを捧げた女の献身で、暗殺は失敗に終わり。
直後の一騎打ちで、完膚なきまでに打ち負かされた。

(絋汰には悪いことしちまったな……)

自分が倒れた以上、戒斗を止められる者はただ一人。
葛葉絋汰を置いて他におらず、なれば余計に自責の念に囚われる。
誰よりも情に熱く、他者の善性を信じる絋汰にとって。
戒斗を討つ事は、多大な痛みを伴うに違いない。
己の失敗のツケを、彼に払わせてしまう。
戦友の心に傷が生まれるのを防げず、申し訳ないと思う。

「で、こんな情けない奴でもお前にとっちゃ手頃な道具ってわけか?」

姿は見えずとも、優雅に足を組んで観賞に勤しんでるだろう男へ届くように。
蒼く澄み渡った空を、睨み付ける。
何故、自分をプレイヤーに選んだのかは知らない。
沢芽市での戦いが、ベリアルの好みと合致したのか。
無作為に選んだに過ぎない、単なる数合わせのつもりか。
理由が何であれ、欠片の光栄さも感じない。

「わざわざ俺を連れて来たってことは、どうするかなんて分かってるだろ?」

あの一騎打ちで、「強くなった」と言われた。
正直に言って、戒斗が言う強者が具体的にどういったものかは分からない。
彼にそう言われるだけの強さが自分にあると、自信だって持てない。
ただ、ベリアルの始めた悪趣味なゲームに賛同し。
従順な犬と化し願いを叶える権利に食いつくのが、強さと程遠いとは分かる。

誰に何を言われようと、殺し合いにおける方針は揺るがない。
優勝ではなく、ベリアルを倒す形でゲームを終わらせる。
殺戮に身を委ね、己の弱さに屈するような男じゃないと信じたが故に。
戒斗もきっと、チーム・バロンのリーダーを託したのだから。

「っ、早速誰か始めちまったか?」

鼓膜を掠める音が、ザックの意識を急激に引き締める。
苦悶に満ちた絶叫は人というより、獣に近い。
誰が何と戦ってるのか、音だけでは判別不可能。
戦う為の力は、失われた筈の力は手元に戻って来た。
ベリアルが齎す恩恵、と考えると良い気分にならないが。

駆け出し、音の発生源に近付く。
物陰からそっと様子を窺い、視界に飛び込んだ光景は。
案の定、戦闘中の参加者。
インベスとも違う複数体の異形相手に、拳を振るうは少女。
年の頃は10代半ばか後半、呉島光実と同じくらいか。
華奢な肢体に纏った桃色の衣装は、どう見てもアーマードライダーと別物。
スマホを片手に雑談へ花を咲かせる、女子高生の一般的イメージを覆す程に。
拳を叩き込むフォームは鋭く、ザックをして見事と言う他ない。

彼女が何者なのか、当然だが気にならずにはいられない。
見た所、特に苦戦してる様子もないが数が数だ。
加勢すればもっと手早く片付けられるし、少女一人の奮闘を見物というのも情けない。
仮に少女が殺し合いに賛同の立場であったら、それはそれで放置出来ない。

『クルミ!』

錠前を一回転し起動、聞き慣れた音声が流れる。
問題無く動き内心で安堵するも、顔には出さない。
こちらへ気付いた少女が驚いているが、申し訳ないと思いつつ説明は後。
空間を繋ぐ門、『クラック』がジッパーを開くように頭上へ出現。
錠前が告げたのと同じ名の、巨大な果実が急降下。

「変身!」

『クルミアームズ!ミスターナックルマン!』

黒のインナースーツの上に、果実が展開し装甲へ変化。
割れたクルミを模したパーツに加え、最も目を引くのは左右の拳。
頭部以上のサイズを誇る、格闘戦ユニットを打ち鳴らし戦意を示す。
アーマードライダー・ナックルへの変身は無事に完了。
駆け出すや手前の魔物を鉄拳が叩き、背後にいた数体を巻き込み殴り飛ばす。

「あなたは……」
「お互い話すことはあるだろうけど、まずはこいつらを片付けてからにしようぜ」

驚きと警戒の混じった視線を向けるも、ザックの返答に文句を付ける気はないのか。
小さく頷き、背後から近づいた異形に裏拳を見舞う。
殴打音と汚らしい悲鳴が響き、5分と掛からず殲滅されたのは言うまでもない。




「ごめんなさい、やっぱり知らない」

場所を近場の民家に移し、居間のテーブルを挟んだ反対側の席で。
眉を八の字にした千代田桃の言葉に、ザックは困り顔で頬を掻いた。

敵意はなく、殺し合いに乗る気もない。
魔物の殲滅後にスタンスを明かし、争う理由がないと分かった以上。
取り敢えず腰を下ろし話をしようと、民家にやって来たまではいい。
しかし情報開示を始め、早くも両者の間で食い違いが起きた。

アーマードライダー、ユグドラシルコーポレーション。
フェムシンムのレデュエが行った、電波ジャックによる宣戦布告。
並びに、全世界のクラック一斉解放。
沢芽市の外部で起きた大事件を、あろうことか桃は全く記憶にないと言う。
まさかと思い、知る限りの内容を詳細に話すも答えは同じ。

あえて惚ける意味はなく、ましてザックの印象ではそういった揶揄いに興じる性格ではないように思える。
かといって桃が何故知らないのかは、見当も付かない。
よもや、ベリアルにピンポイントで記憶を弄られたのでもあるまいに。

「……うん、でも嘘を言ってるんじゃないとは分かるよ」

想像力が豊かな青年の空想と、普通だったら断言しているが。
アーマードライダーなる戦士に関しては、自分の目で見たばかり。
第一、壮大な作り話をしてもメリットらしいメリットは皆無。
殺し合いという切迫した状況で、妄想に夢中なプレイヤーは腫物扱いが関の山。
そのような扱いを自ら望む程、能天気な男ではないだろう。

「私から見ても、昨日今日戦い始めた人の動きじゃなかったし。拳を打ち込むフォーム、綺麗に決まってた」
「そ、そうか?俺からすれば、千代田の構えのが良かったと思うけどよ」

殴る体勢の称賛など、到底女子高生に向ける類ではないが。
当の桃に嫌がる素振りはなく、心なしか得意気になったような気がする。
真顔なので分かりにくいが。

(魔法少女、だったか?イメージと大分違うな……)

名前だけ聞けば、女児が好むアニメーションが思い浮かぶ。
今でこそ学校指定の制服にカーディガンという、至って普通の装いでも、
先程のピンク色のコスチュームこそ、由緒正しい魔法少女の姿。
しかし戦闘スタイルがステゴロで、やけに様になってるとくれば。
一般的なイメージ映像は、当てにならなかった。

「ところで千代田はこれからどうするんだ?もし知ってる奴も巻き込まれてりゃ……って、分かんねぇか」
「あ、やっぱり名簿見れないのは私だけじゃないんだ」

自分達の所持品とは違う、参加者共通のデバイスを操作しても名簿は見れない。
肝心な情報を伝えずにどうするのかと、それぞれ顔を顰めたものだ。
沢芽市のビートライダーズや、桃の友人の魔法少女。
彼ら彼女らも参加していれば心強さはあるも、巻き込まれてないのに越したことはない。
名簿さえ見れれば、手っ取り早く確認可能だというのに。

「……もしいるなら、急いで見付けたい娘がいる」

もしもベリアルが、自分と関わりの深い者も参加者に選んだ場合。
思い浮かぶのは、緩やかだけどどこか乾いた日常に変化を齎した一人の少女。
危なっかしく、まぞくらしからぬぽんこつさが多大にある。
それでいて、誰よりも優しく頑張り屋なあの娘。

「本当だったら、こんな場所にはいないのが一番良いんだけどさ……」

ここは自分が守りたいと思えた、あの娘が笑顔になれる街角じゃない。
殺人というタブーを平然と犯し、欲望の赴くままに命を踏み躙るのが許された地獄。
人とまぞくの日常が繰り広げられる、賑やかで微笑ましい多魔市とは正反対。

彼女がこの先、辛い現実に直面するのを考えなかったとは言わない。
光の一族と闇の一族の関係は、多魔市にあるのが全てじゃあないと知る時が来て。
苦痛に苛まれる日が、永遠に来ないとどうして断言出来ようか。

だけど、いずれ困難が降り掛かるのを避けられないとしても。
殺し合いなんぞに、巻き込まれて欲しくない。
蔓延する悪意で、彼女の優しさが壊れる事態は望んでない。

「……分かった!となりゃあ、無難に人が集まり易い街とかから探してみるか?」
「…………えっ?」

言われた意味を理解するのに数秒掛かり、疑問符を付けた一言が零れた。
スマホを取り出し、地図を開こうと操作するザックを見つめ更に数秒。
手伝う気だとようやく気付き、感謝より先に疑問が出る。

「良いの?無理に付き合わなくても、あなたの知り合いを探したって……」
「そりゃ会えれば心強いけどよ、そんな柔な奴らじゃねぇ。多分向こうも、同じこと考えてるだろうしな」

楽観的に考えたのではなく、ザックなりの信頼が合流を焦らせない。
沢芽市を共に守った仲間達は、そう簡単にくたばる程弱くはなく。
何より、殺し合いに乗るような馬鹿をやらかしはしない。

(それに、そんな顔見ちまったら益々放って置けねぇって)

会いたいと願う者のことを話す時の桃の顔は、本人は気付いてないかもしれないが。
大事な存在が傷付き、喪わないかとの不安に駆られるような。
曇らせた表情となったのを、見過ごすザックではない。

インベスに市民が襲われ、オーバーロードとの激戦で多大な被害が生まれ。
喪失に苦しむ人々が現れる未来を、現実にさせたくないから。
守りたいものを守る為なら、犠牲を超えて戦う価値があると。
戒斗に言い放った言葉を、偽りにする気はないから。

「そういう訳で、俺の方は大丈夫だ。水臭いのは抜きで、千代田を手伝わせてくれよ」

変に飾らない、ストレートな善意を前に。
ほんの僅かに視線を泳がせ、ややあってコクリと頷き。
「ありがとうございます」と礼を口にした桃へ、ザックも笑みで応えた。


【ザック@仮面ライダー鎧武】
[状態]:健康
[装備]:量産型戦極ドライバー+クルミロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考:ベリアルを倒し殺し合いを止める。
1:千代田と行動。
2:仲間達や、戒斗がいるのかも確かめたい。
[備考]
※参戦時期は45話で戒斗に敗北後。

【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:健康
[装備]:フレッシュピーチの変身アイテム一式@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考]:殺し合いには乗らない
1:ザックさんと行動
2:自分の知る参加者、特にシャミ子がいないか心配。
[備考]
※参戦時期は夏休み以降のどこか。

『支給品解説』

【量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武】
戦極凌馬が開発した変身ツール、その完成版。
本人認証(イニシャライズ)機能がなく、誰でも使用可能。

【クルミロックシード@仮面ライダー鎧武】
上記の戦極ドライバーとセットで支給。
ナンバーはL.S.-02、ランクはC+。
戦極ドライバーと組み合わせることで、アーマードライダーナックルに変身可能。

【フレッシュピーチの変身アイテム一式@まちカドまぞく】
桃が魔法少女であるフレッシュピーチに変身する為のアイテム。
変身用ステッキとコンパクトのセットで支給。
最終更新:2026年03月21日 20:28