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二人の女が、舞っていた。
否、女達は舞ってなどいない。
殺し合っているのだ。
だが、二人の戦闘スタイルが、余りにも芸術的である為に、舞っている様に見えるだけだった。
セーラー服を着た長い黒髪の少女────舞踏鳥(プリマ)。
純白のバレエ衣装に身を包む美女────アンナ・パブロワ。
二人の女は、技巧そのものというべき動きで旋回し、回転運動の勢いを乗せた蹴撃をぶつけ合う。
タンパク質とカルシウムで構成された人体同士がぶつかったとは到底思え無い音が、立て続けに六度聞こえ。アンナと舞踏鳥は、同時に5m後方に跳んで距離を取る。

「アンナ・パブロワ…。これが………」

バレエを志した者として、舞踏鳥はアンナ・パブロワの名は知っている。歴史に刻まれた、その実績も。近代バレエの最高傑作と謳われた、その舞踏(バレエ)も。
だからこそ、最初は信じなかった。告げられた名前を許せなかった。
当の昔に死んだアンナ・パブロワが、居るわけが無いのだから。
道を断たれ、外道に堕ち、もはや嘗て抱いた夢を思う事すら許されぬ身であっても。
志した道への残滓に突き動かされるかの様に、舞踏鳥はアンナ・パブロワへと襲い掛かった。
最初の激突で、理解出来た。
二度寝の激突で、確信した。
眼前の女は、“本物”のアンナ・パブロワだと。
地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)をキメた己の身体能力に、当然の様に追随出来る────凌駕できるのは、真物のアンナ・パブロワでなければ有り得ない。
灰と化した夢の残骸が、再び熱を帯びた。
未だ、これだけの熱が己の心に在ったのかと驚きながら、舞踏鳥は舞う。
嘗て己が目指した夢の極峰。その高さを確かめる様に、その高さに挑む様に。
舞踏鳥は、天を飛ぶ。

短く息を吐く。
呼吸は整えた。
筋肉は整った。
関節は解れた。
心臓は力強く。
巡る血は熱く。

現在の己は過去最上にして最高のコンディションだと確信に至る。
意志が身体の隅々にまで行き渡り、全身の状態全てが知覚できる。

これならば────勝てる。

舞踏鳥は駆け出す。
目指した夢の極峰(アンナ・パブロワ)へと。
焦がれた夢。目指した夢。断たれた夢へと、もう一度手を伸ばすかの様に。
アンナ・パブロワに勝利する。そんな不純斑は捨て去って、
生死勝敗を度外視し、目指した夢へと全力を。

“極道技巧(ごくどうスキル)“夢幻燦顕視(むげんさんけんし)。

演目。“白鳥の湖”。

麻薬による身体強化と神域に至った演技力。
この二つの相乗が産み出す舞の神技。
乱れ飛ぶ白鳥に視界を覆われ、アンナ・パロロワの動きが止まる。
棒立ちで隙を晒すアンナの腹へ、舞踏鳥の蹴りが突き刺さる。
一蹴りで10mも飛ばされて、それでも優美に着地を決めたアンナへと、舞踏鳥は追撃を掛ける。

演目。“くるみ割り人形”。

アンナの周囲が巨大な子供部屋へと変わり、成人サイズの剣を持った無数の人形が、アンナへと襲い掛かる。
振り下ろされる乱刃を悉く回避し、人形を蹴り砕くが、人形に紛れて近づいて来た舞踏鳥の回し蹴りがアンナの頭部をに直撃した。
乱れながらも両の足で着地したアンナへと、舞踏鳥は跳躍。旋回し、生じた運動エネルギーを乗せた蹴撃を、連続してアンナへと浴びせた。
繰り出した蹴りは悉くアンナへと直撃し、アンナの全身に傷を付けていく。
形勢は舞踏鳥へと傾いた。このまま途切れる事無く攻勢を続ければ、アンナは死に、舞踏鳥は勝利する。
なのに───だからこそ、舞踏鳥の表情は悲愴だった。
こんな事で超えてしまって良いのか?
麻薬(ヤクのキメた程度で超えられる程度というのか。己が目指した夢の頂は。
そんな事は許せない。そんな事は認められ無い。
こんな程度で超えさせてくれるなと。こんな程度で手の届かぬ高みに在ってくれと。
割れた子供達(グラスチルドレン)の三狂(トップスリー)舞踏鳥(プリマ)としてでは無く。
偉藤幽華(いとう ゆか)という、主役(プリマ)を目指した少女が絶叫する。

だからこそだろう。
夢(アンナ・パブロワ)が動いたのは。

“魔女技巧(ウィッチクラフト)”夢幻燦顕視(むげんさんけんし)。

舞踏鳥は見た。何処までも何処までも続く花畑と、舞い飛ぶ色とりどりの無数の花弁を。

「花の…ワルツ……」

道を極めると書いて“極道”。極道技巧(ごくどうスキル)とは、道を極めた果てに在る、人智を超えた絶技。
ならば当然というべきだろう。
舞踏鳥の目指した夢の頂に立つアンナ・パブロワが、舞踏鳥の極道技巧(ごくどうスキル)を使用えるのは。

驚愕に見開かれた舞踏鳥の眼が、理解と憧憬に満たされ。

────精一杯踊ったもの。後悔なんて、していない。

何処か穏やかな微笑を浮かべて、舞踏鳥の頭部は胴を離れ、宙を舞った。

舞踏鳥@忍者と極道 死亡】


「有難う」

舞踏鳥の穏やかな死顔へと、アンナ・パロロワは謝意を手向ける。

「貴女のお陰で、私の踊りはまた一つ、高みへと到った」

あの日見た舞踏(バレエ)。だれが踊り、どんな演目だったか、全く覚えていないものの。
その後の生涯を決定する程に心が打ち震えた。
あの日以来。只々無心にぶ(バレエ)を続けて来た。
そして、舞踏鳥との一戦で、あの感動にまた一歩近づけたと。
戦いという舞台で、己の舞踏(バレエ)は更なる高みに至れる。
あの日見た光景に、至れるかも知れない。
尽きせぬ向上欲に突き動かされ、アンナ・パロロワは、新たな舞台(戦い)を求めて歩き出した。


【アンナ・パブロワ@魔女大戦 32人の異才の魔女は殺し合う】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(小)
[装備]: 魔装 プリマ・バレリーナ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:舞踏(バレエ)をより高みに導いてくれる相手を探す

※厳詠春と戦う前からの参戦です
最終更新:2026年03月22日 21:47