「…ベリアルの奴……なんで俺に、よりにもよってこれを……!」
グローブをはめた手を握りしめ、もう片手にスポーツドリンクのような液体の入ったペットボトルを持ちながら、バンダナを付けた少年円堂守は絞り出すような声で呟く。
円堂守は筋金入りのサッカーバカである。乗ってしまえば祖父を殺した影山のようにサッカーとまともに向き合えなくなってしまうかも知れないというのと、当人の善性もあり殺し合いに乗る気など欠片もない。
そんな彼に浮かんでいる感情は…何もできなかった自分への怒り、殺し合いなんてものを開き抗おうとした女性を殺した挙句、彼にとって因縁深い支給品を寄越したベリアルへの義憤であった。
『神のアクアが あれば。
世界を救うためなら使っても許されるんじゃないか?』
「……そんなわけないだろ…その、はずだ……!!」
脳裏にリフレインする声を円堂は否定するも、語気は弱く何処か言い聞かせようとするそれである。
端的に言ってしまえば余裕が無く、視界の端に入りまた飛び立った蝶にも気付けずにいた。
(…こんな物に頼って勝っても意味はない。正々堂々と戦って、勝つことに意味がある……そのはず、だ……!)
普段の彼なら迷うことなく生き残るため、殺し合いに抗うために動いていただろう。
だがこの殺し合いに巻き込まれる前…彼は宇宙人を名乗るエイリア学園に母校雷門中を破壊され、仲間たちを怪我による離脱で失い…対抗するために全国を巡るも自称宇宙人達とのサッカーバトルの中で更に離脱者は増え、戦いの終わりも見えない有様。
ついには旅の中数度出会い仲良くなった少年ヒロトが宇宙人達の最上位のチームリーダーグランだったことが判明し、率いるチームとの試合によって幼馴染で良き相談相手であった風丸が重傷を負わされ離脱がほぼ確実な状態へと追い込まれてしまう。
そんな最中から巻き込まれてしまったのもあって…かつて風丸が発した気の迷いが脳裏に浮かび、今度はそれを円堂は否定しきれずにいた。
(……風丸……ヒロト……)
「…クソっ!」
ペットボトルを握り潰さん勢いで掴み、いっそ潰れてしまえとすら思うも出来ないまま…思わず投げつけてしまう。
転がったそれが靴にぶつかる音がし、迷いの渦中に居ながらもドーピングを許容できかねるとはいえ、だからといって何も知らない他者に飲ませるわけにも行かないと我に返った円堂は拾いに行った。
「すみません、落としてしまって…!」
拾い上げた白色基調に黒が少し入ってる程度の、自分より年上だろう少女に声をかける。
(…少なくとも、今の私が荒魂でないことは確かなようですが)
その少し前、刀使の少女である皐月夜見は思考する。
恩人を助け最期を迎えた筈の自分は、本来なら取り込んでいたノロによって荒魂へと変じていてもおかしくない身。故に本当にこうして思考している自分が自分なのかという疑念に駆られていたものの……この殺し合いに巻き込まれるまでの流れを思い返しても、自我の連続性を保てていないなんてことにはなっておらずその疑いは一先ず考慮外とした。
「……よりにもよって、貴女の御刀が私の手元に来るとは」
支給品を確認した所、刀使としての異能を引き出す為の武器である御刀は確かにある。
しかしそれは自らを認めた水神切兼光では無く……かつて一度対峙した刀使衛藤可奈美が持っている筈の千鳥であった。
斬るしかないという状況でも斬らないことを選ぼうとする彼女が振るうべき御刀が、殺しこそせずとも必要なら躊躇無く斬る自分の元にある。
あのベリアルと名乗った卑猥な男は随分な趣味の持ち主なのだろうとしながら、次に夜見の脳裏に浮かぶはこの状況下でどうするかという考え。
(…御刀があるとはいえ…乗ってもきっと、私のような者が勝ち残れるとは思えない)
ノロによる強化があってようやく御刀に認められた身だったのもあり、自分が強くないことを彼女は理解していた。
「……とはいえ、高津学長が巻き込まれていないとも限らないですね。…私に衛藤さんの千鳥を渡すような真似をする以上、巻き込んでいる事もあり得る」
そう考え、一先ず乗るつもりはないとしつつ学長の捜索を最優先とすると指針を夜見は立てた。
「……衛藤さん。貴女のようにはなれませんが……今はどうか…使わせてもらいます」
直接戦ったのこそ一度きりだが、関係としては終始敵対状態であった相手。とはいえ彼女が斬る選択を選ばず暴走状態に陥った自らを助けようとしたが故に、夜見は最期まで恩人に尽くせたとも言える。
それもあってか何とも言えない表情をしながら呟いた後……彼女は何のためらいも無く千鳥を振るい、自らの腕を裂いた。
「…行きなさい。あの方が…高津学長が巻き込まれているかいないか、他の参加者がいるかを探るために」
傷口からは橙色の蝶のようなものが生まれ…飛び立っていく。
取り込んでいるノロを荒魂として、斥候や足止め目的で生成可能なのが非才な刀使・皐月夜見にとっての明確な強みであった。
そして暫し後、戻って来た荒魂が参加者を発見したと知らせた為御刀を介し迅移で加速し向かった結果…今に至る。
(衛藤さんたちくらいの年齢…見た印象よりは、礼儀正しい少年…と言ったところでしょうか?
…状況が状況なのもありますし…何処か悩みを抱えているようにも思えます。一先ずどうするつもりなのかを聞いてみましょう)
「貴方の物でしたか。……ああ、私は"元"折神家親衛隊…第三席の皐月夜見です。殺し合いに乗るつもりはないのでご安心を」
ペットボトルを手に取り差し出しつつ、安心させるように声をかける夜見。すると相手は受け取った上で名乗った。
「…ありがとうございます。俺は円堂…円堂守。雷門中のサッカー部キャプテン。乗る気が無いのはあなたと同じで…」
年上と判断し丁寧語を使いながらも話す円堂、しかし自然と声色は暗くなり、目線も神のアクアの方へと向かってしまう。
(年上と判断して気を遣っているのと……抱えているだろう悩み、でしょうか)
「乗ってないんですね。よかった。……こんな状況に巻き込まれて混乱しているだろう時に聞くのも酷とは思いましたが…ひとつ質問を、円堂さん。
先程からそのスポーツ飲料のようなペットボトルに視線が向いていましたが…何か、それについて悩みでも?
それと、丁寧語を無理に使わずとも…喋りやすい方でいいんですよ?」
「…ありがとう、皐月さん…この飲み物は──」
推測をした上で言葉を選んで、夜見は円堂へと問いかけ……これがきっかけとなり彼の世界でのサッカーについて知ることとなるのであった。
円堂さんから話を聞いた所、この飲料は神のアクアという身体能力を強化することがわかりました。…ノロのアンプルのような物だと理解しつつも、ドーピングアイテムが曲がり通るサッカー…??と疑問に思わざるを得ず。
特に詳しい訳では無いですが…一般的なサッカーのそれと乖離している気がしたため更に話を聞いてみることにした結果。
……私たちの常識とはかけ離れた、超次元と言うべきサッカーバトルを彼らが繰り広げていたことは、とりあえず理解できました。
話だけなら正直突拍子も無さすぎて半信半疑でしたが、途中で現れたベリアルの云う所の「魔物」…首輪無き敵対者が放ってきた攻撃を、円堂さんが行使したゴッドハンドなる技で受け止め切った姿を見せられては……魔物を斬り伏せつつ、流石に信じる他にないという判断です。
「…円堂さんの言うエイリア学園…でしたか。自称宇宙人の集団が各地でサッカーバトルを挑み負かした相手の校舎を壊す等の破壊活動を行っていると…」
「ああ…だから俺たちは止めるために、味方を集めるために全国を巡っていたんだ」
「…しかし、私は彼等について何も聞いていない。円堂さんが刀使や荒魂について知らないのと同じようにです。…私が命を落とした後諸々の出来事が起こった…という可能性もありますが」
「えっ」
「この殺し合いに巻き込まれる前、確かに私は命を落とした筈なんです。…恩人を、高津学長を助ける為に」
「…お、おう。……幽霊…じゃないよな、うん」
「ちゃんと触れますから」
等と話しながら考える。刀使は国家公務員。そのような事態が並行して動いていたのなら…親衛隊であった私の耳に届いていてもおかしくないはずだと。
「…私が今持っているこの御刀は、隠世というある種の異世界のような場所から力を引き出す為の物です。おそらく円堂さんの云うエイリア学園が破壊活動を行ってる世界と、私が生前元居た世界…この舞台である空の島々も含めて、これらはおそらく別のそれでしょう」
「別々の…世界……納得は確かにするけど、なんか壮大な話になってきたな」
一先ず情報を共有は出来ましたが、少々話が逸れた気がするので…この辺りで。
「…円堂さんの話に戻らせてもらいますね。この耐えれるかどうかわからないドーピングアイテムを殺し合いの打破に使うべきか否かで、貴方は悩んでいると」
「……ああ。…こんなものを使って殺し合いを止めても、意味はない。でも…使わずにいて、それで誰かを…巻き込まれてるかもしれないみんなを守れなかったらって……それならって考えも浮かんでくるんだ」
あいつが…風丸が今の俺を見たらなんて言うんだろうな。そう自嘲するかのように円堂さんは呟く。
……私としては、努力をどれだけしても…ノロの恩恵があってようやく御刀に認められた身としては……円堂さんの考えは傲慢だと、才能か或いは努力をし続けれる強さがあるからこそ言える甘えたものに思えた。ノロのアンプルというドーピングアイテムのおかげで戦い抜いた私に言いますか?それをとすら浮かびはして。
…一方、彼の正々堂々と勝たなければ意味が無いという考えには何処か『彼女』を……もういない、もしかしたら私のように蘇らされてるかも知れないかつての同僚の幼き少女の事も思い浮かばされて。……貴女なら、きっと彼を全面的に肯定してたんでしょうか。燕さん。
「……これは私の個人的な考えですが。…わざわざドーピングアイテムを貴方への支給品にした辺り…ベリアルは貴方を試したいのかも知れません。
この極限状態の中でなお、正々堂々と勝ちたいという考えを貫けるか否かを……何処かで見下ろしているのかと。
それに……貴方の話からして、その風丸さんという方は…仮に円堂さんがドーピングに走ったとして、理解は示しつつもそうして欲しくはなかったと言うでしょう…と」
飲んだことによる強化と、耐えれなかった場合のリスクを考えると…私自身としてはどちらとも言えないですが。とも…そう告げた。
この殺し合いの場で、足手まといと化してしまった相手の介護をするような善人では…私は決してなく。だからと言って…無理強いしたいとも…どうにも思えなかったので。
「……そっか。…そうだよな。……よし、決めた!俺はこんなものに頼らない!」
少し考えた後、両手で自分の頬を叩いた上で円堂さんはそう、真っ直ぐにこちらを見なから言う。
「…──そう、ですか。…ではもうひとつ問いましょう。円堂さん。もし…この場に貴方の言うヒロトさん…或いはグランさんが居た場合、どうしたいですか?」
話によると、殺し合いに巻き込まれる前自分達をボコボコのボロ雑巾にしたチームジェネシスのリーダーだったという少年。円堂さんにとってのもうひとつの迷いについて、問うことにしてみます。
「……俺は…」
「…これは私の経験上の話ですが。…未練というものは……そう簡単には断ち切れない物です。…どうか円堂さんは、悔いることの無い選択を」
……私は高津学長のため、かつての仲間と袂を分かった。それを間違いだとは思わないし、後悔もない。
『もう、戻れないのですね……!!』
…瞳に涙を浮かべた彼女の顔が浮かぶ。……未練があるかどうかで言えば……皆と共に在れたことは、共に過ごせたことは決して、悪くはないと……一度終わった身だからか、そう素直に思える私も居た。
だからでしょうか?……目前の彼には、同じような思いはして欲しくない…となったのは。
「……ありがとう!皐月さん。俺…ヒロトが巻き込まれてたら…話をして、それでどうにもならないなら…ぶつかり合うよ。できれば…サッカーで!」
……──そう、迷いをすっかり振り切った様子で円堂さんは言って……その笑みが、お日様のように見えました。……眩しくて、でも…悪くないと思う自分もいる。
「…迷いを振り切れたようで、なによりです。
一先ずこれは…私が持っておくことにしますね、円堂さん」
「え?でも…いいのか?」
「少なくとも貴方よりは人より遠い存在なので……このように」
「ちょっ…皐月さ、なにやって!?」
「身体に取り込んだノロを荒魂に変換しています。…痛みなら大丈夫ですよ、慣れていますし少なくとも貴方の云う禁断の技2種よりはよっぽどマシでしょうから」
「…お、おう……」
…刀使が存在しない以上おそらく引っかかるであろう銃刀法違反の問題を除けば、超次元サッカーでの必殺技でも通用しそうだと思ったのですが。少しだけ釈然としない気持ちを浮かべつつ……とりあえずは円堂さんと同行。高津学長が巻き込まれてないか探しつつ他の知り合いも探すという方針で纏まりました。
…最初に発見できた他参加者が自分より年下そうな少年だった時はどうなるかと思いましたが、ある程度は戦いも出来そうなのは心強い。とはいえ…巻き込まれていたとしてもそうでないにしても、抗うには戦力がまだまだ必要になるでしょう。……先は長い、ですね。
(…さっき千鳥って…御刀?で手首を斬った時の皐月さん…何のためらいも無かったな。慣れているってのは本当だろうけど……)
一方円堂はというと、流石にこの状況で自分やチームメイトならともかくそうでない、話からしてドーピングの類のお陰で戦えてただろう夜見に神のアクアを捨てろとまでは言えなかったとはいえ…改めて決意を固め迷いを振り切りつつ、彼女のどこか危うい所に気付いていた。
(……高津学長って人の為ならきっと、皐月さんは……ならその時は、俺が止めなくちゃな!)
迷走し道を踏み外しかねなかった自分を落ち着かせ踏み留まらせてくれたからこそ、もしもの時は今度は自分が…そう胸中で決める円堂であった。
恩人の為なら身を投げ打てる少女とサッカーや仲間の為なら身を投げ出すのも厭わない少年。行く末やいかに。
【円堂守@イナズマイレブン】
[状態]:健康、決意
[装備]:かたみのグローブ@イナズマイレブン
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:正々堂々と殺し合いを止める
0:皐月さんと一緒に行動。止めずに済むなら、それが一番なんだけどな…。
1:ヒロトが居たら話し合って、聞いてもらえないならぶつかり合う!
2:鬼道達が巻き込まれてないか心配、居るなら合流したい。
3:…もし風丸や豪炎寺達も巻き込まれていたら…探さなくちゃな。
4:ベリアル。あの支給品がお前からの挑戦状なら…俺は負けない!
[備考]
※ゲーム順序です。参戦時期はエイリア編にて風丸が病院送りにされ手術中な頃からです。
※夜見から彼女と自分、主催者達がそれぞれ別の世界の存在だという推察を聞かされました。またその過程で「刀使ノ巫女」についての用語などを知りました。
【皐月夜見@刀使ノ巫女】
[状態]:健康
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、神のアクア@イナズマイレブン、不明支給品×2
[思考]:高津学長が巻き込まれてたら即時合流、殺し合いには……乗ったところで優勝は私には無理でしょう。
0:円堂さん……どうか、あなたは。
1:とりあえず円堂さんと共に彼の知己や乗っていない同行者を探す。…流石に私の方は学長以外は……タギツヒメ様以外は乗らないでしょうけど。
2:神のアクア……本当にいざという時以外は頼りたくはないですね。
3:…円堂さん達の世界のサッカーは完全に次元が違います。超次元サッカーとしか言えないのでは…と。
4:…衛藤さん、今は──貴女の御刀を。
[備考]
※参戦時期は死亡後からです。
※自分と円堂、主催者達がそれぞれ別の世界の存在だという推察をしました。またその過程で「イナズマイレブン」についての用語などを知りました。ただし円堂の参戦時期の都合2のゲーム順序かつ陽花戸中でのVSジェネシス戦までしか知れてません。
【支給品説明】
…円堂守に当人支給。円堂の祖父である円堂大介の文字通り形見(死亡偽装してたから実際は違うが)なグローブ。これにより円堂はマジン・ザ・ハンドを習得するきっかけを得ている。
…円堂守に支給。元々軍事用目的で作られてた薬を使ったドーピングアイテム。世宇子中の面々がキメてた奴。適合しないと中毒症状で苦しむ羽目になる。
ゲーム版無印だとこれが水道水に混ぜ込まれた結果稲妻町が中毒症状で苦しむ人たちだらけになった。
神のアクアが あれば。
…皐月夜見に支給。原作主人公である衛藤可奈美の御刀。
刀使は御刀により力を隠世から引き出し異能を行使する。
当人を認めた御刀以外を振るうと本来出せる程の力は出せないというデバフがかかる。このロワでは刀使ではなくても女性なら御刀があれば本来の力こそ引き出せないが写シや迅移等を行使することは可能となっている。
最終更新:2026年03月22日 11:02