セリュー・ユビキタスは激怒していた。
必ずや、自分や無辜の民を拉致し殺し合いを強い”悪”であるベリアルを抹殺する。
そして、悪に染まっていない弱き人々を保護し帝都に帰還する。
その意志の元、目覚めて早々行動していた。
「ちぃいッ!コロを没収するだけじゃ飽き足らず、直ぐ近くに危険種を放っているなんて……!」
ぶぶぶぶ、ぶぶぶぶ。
耳障りな羽音が耳朶を打つ。巨大な毛の生えた四肢や複眼が、生理的な嫌悪を誘う。
セリューが開始早々出会ったのは、帝国領では危険種と呼ばれる怪物だった。
それも竜や猛獣の様な種類ではなく、見るだけで全身が総毛だつ、巨大な蠅の危険種。
自身の帝具であるコロを没収され、ほぼ丸腰でセリューは妖虫と対峙せざる得ない。
実に彼女にとって、厄介な状況だと言えるだろう。
「───だがッ!!!」
世辞にも芳しいと言えない状況の中、セリューの瞳に燃える戦意は全く衰えない。
女性ならその姿を目前で見るだけで竦みそうになる蠅の危険種を前にしても。
彼女は真っすぐ敵を見据え、拳を握り臆することなく疾走を開始する。
「私の正義の前には、牙も爪も無い危険種一匹、ただの虫ケラ!!」
意気軒高。己を鼓舞しながらの吶喊。
地面を浅く陥没させる勢いで踏みしめ、バカの様に大きな蠅の複眼に拳を叩き込む。
ぶぶぶぶ、ぶぶぶぶ。耳障りな音は消えない。
その羽音は俄かにセリューを苛立たせ、同時にそれを上回る使命感を与える。
「我が師オーガから教わった拳で───貴様は殴殺刑だぁあああああああッ!!!」
絶叫と共に始まる拳の弾幕。
二つきりの拳から生み出される数十のラッシュ。
それは一発も外れる事無く蠅のボディに吸い込まれ───黒色の体液をまき散らす。
複眼を叩き割り、耳障りな羽をへし折り、触角をへし折りただひたすらに衝動を叩きつけて。
蠅の体液を浴びて不快感を抱いても何ら不思議ではない状況で、セリューは笑みを浮かべた。
悪ではないが、所詮はベリアルの尖兵。それを打ちのめすことにこれ以上ない充足を感じる。
そんな使命を果たす幸福感に包まれながら、歪んだ笑みを浮かべてセリューは危険種にトドメの一撃を叩き込んだ。
「だぁああああああああああああああッ!!!!」
最後の一発が突き刺さると蠅の危険種は吹き飛ばされ、ぴくぴくと痙攣して。
なおもセリューに向かって気色の悪い毛が生えた前脚を伸ばしてくる。
それはまるで縋るよう、助けを求めている様子だったが───セリューは容赦なくそれを踏み潰した。
「気色が悪い」
蠅を踏み躙ったあと、亡骸にそう吐き捨てて。
満足感と共に、守るべき無辜の民を救うために次の行動に移ろうとする。
その時だった。蠅の頭部と胴体に当たる部分の間に、光る物を発見したのは。
それには見覚えがあった。憎きベリアルが説明していた物だ。
参加者の命を握る、首輪だ。
「────え?」
危険種が、参加者として参加させられていたのか。
そう彼女が都合のいい結論に至るよりも早く、異変が起きる。
蠅の亡骸がぶるりと震え、虫から別のモノへと変わっていく。
その光景から、目が離せない。立ち去る事も出来ず、セリューは立ちすくんで。
そして、見届けてしまう。
「たす……けでぇ…………」
蠅の亡骸が、変貌する。
全身を打ちのめされ、首の骨が折れた少女の姿へと。
少女はよろよろと先ほどの蠅の様にセリューへと向けて手を伸ばし…そして、ぱたりと事切れた。
その所作から敵意何て、微塵も感じられなかった。
まるで突然蠅に変えられてしまったかのような、ただの子供にしか見えなくて。
慌てて跪き脈を測るが、止まっていた。
「え、え?ええ?じゃあ、つまり────」
私は、無辜の民を誤って殺してしまったのか?
それもこんな、4、5歳ほどの少女を。
呆然と己の両手を見る。思考が硬直する。
己の失敗に対して、どのように責任を取ればよいか、直ぐには分からなかった。
それでも彼女はあと数分あれば精神を復帰させられただろう。
襲い掛かって来た少女は悪であり、自分の成し遂げた選択はやはり正義だったのだと手前勝手な逃避を成すか。
生み出してしまった犠牲は無駄にしない、必ずベリアルを倒すと正当化するか……
何方かは分からないが、何方かの選択に落ち着いたであろうことは確かだ。
しかし現実はそうはならなかった。
「君は………」
セリューが思考の空白から復帰するよりも早く、背後からの声に反射的に振り返る。
その時、彼女は確かに。
見られたと、そう思った。
「あぁ………何てことだ…………」
現れたのは、黒いスーツと、短い白髪が印象的な若い男性だった。
彼は目の当たりにした惨劇に、思わずと言った様相で顔を覆う。
その所作からセリューに対する敵意は感じられず、悪であるようにも見えなかった。
「あっ……ち、違うんです、これは────」
まるで殺人現場を見られた殺人犯のように。
セリューはわたわたと慌てて弁明しようとする。
これは事故だった。まさか人が蠅に変えられているなんて気づかなかった。
そう言った類の弁明をしようとして、その前に手で制止される。
「いや、いいんだ……私も大まかなことは察している。
何が起きたか、私の推測を説明したいから取り合えずこの場を離れよう。着いて来てくれ」
「は、はぁ……」
狼狽えるセリューを宥め、ついてくるよう促す男性。
無防備に背中を晒して、やはり彼が悪であるようには見えない。
それに、今しがた起きた不条理について何か知っている様子だ。
聞き出さない手はない。どんな手段を使ったとしても。
心中でそう決めるとこくりと男性の誘導に頷き、後へと続いた。
────男は、シガラキと名乗った。
◆
男とセリューが去った、十分ほどあと。
びくり、と。
セリューに殺されたはずの少女の遺体が震える。
その直後の事だった、蠅から少女に姿を変えた時と同じように。
少女の遺体だった物が、変貌を遂げ始めたのは。
「ふーッ、ちょっと回りくどいけど、こういう趣向もまぁありかな」
幼い4、5歳ほどの少女の姿から、銀髪の青年の姿へと変身を遂げ。
継ぎはぎ顔を悪意に歪めて───"特級呪霊"真人は元の姿へと舞い戻った。
大きく伸びをしてから、先ほど自分が実行した企みとその経緯を想起する。
───君の個性は素晴らしい。その悪意も一流のヴィラン足りえる。
───だが、資質だけでは駄目だ。その使い方では君の力を十分活かせていない、
殺し合いに招かれてから、初めて出会った人間。
呪いである自分の先生を気取った、死柄木を名乗る男。
一目見ただけで分かった。この男は、あの呪いの王両面宿儺と近似の存在であると。
紛れもなく、自分を祓いうる力の持ち主だと。自分の手本となる存在だと。
そして、宿儺と同じくその精神性は人と言うより呪いに近い突然変異。
面白いと、そう思った。
考えながらびしゃびしゃと、改造人間の何体かをにじり潰して作った地の利を振りまく。
こうしておけば、もしあの女がここに戻って来てたとしても、遺体はベリアルの言う魔獣に食べられたと考えるだろう。
「さて、どうなるかね、あの女」
面白いと言えば、あの正義正義やかましい女も面白かった。
自分の暴力性を正義という虚飾で包んで悦に浸っている自己陶酔者。
あの女で遊ぶ。そう決めたからこそ真人は死柄木の提案に乗ったのだった。
自らの術式である無為転変を使い、蠅の姿へと化け。
拳の滅多打ちを受けたタイミングで、再び無為転変を発動。今度は少女の姿へと変わった。
魂の形を見れば分かる。あの女は本気で自分が無辜の民だと信じていた。
ここまでは死柄木の目論見通りと言った所だろう。
「…だけど、気を付ける必要があるな。無為転変の呪力効率がかなり変わってるみたいだ」
自分や支給された改造人間に術式を使う分には問題ないが。
他者に術式を使う場合、完全に改造人間にするには普段の数倍近い呪力量が必要となるだろう。
領域を発動すれば別だろうが、そもそも領域の発動事態呪力が莫大にかかる。
目途が立つまでは七三術師と初めて戦った時の様に不完全な無為転変で必殺と行かずともガード不可の攻撃として扱うか。
それとも遍殺即霊体で戦うか、支給品である渋谷で作ったと思わしき改造人間の物量で攻めるのが現実的な線だと真人は判断した。
「ま、狡猾に行こうか。呪いらしく、人間らしく。復活してからも変わらずに」
呪霊は息をする様に人を殺す。
それはこの蒼空に浮かぶ台地でも変わらない。
本能に従い殺していく。ただし今度は少し趣向を変えてみよう。
選択を誤りゲームオーバーとなったゲームでコンティニューした際、選ぶ選択肢を変える様に。
あの死柄木の提案に乗ったのもその一環だった。
───連絡手段は渡しておくから、別行動でも、同行するのでも構わない。
───私に任せなさい。君の力の効果的な使い方を教えてあげよう。
呪いである自分の先生を気取っていた男。
甲斐甲斐しいようで、その実全てを見下している魂の男。
だが、彼は気づいているのだろうか。真人はほくそ笑みながらそう思う。
何故なら、超越者を気取っていても、彼の魂の本質は真人にとって────、
「復讐を旨としてた宿儺と同じだ。俺の目にはアンタの本質も月並みな人間に思えたよ、"先生"」
【真人@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~3
[思考・状況]呪いらしく、人間らしく狡猾に
1:先生と連携して動くか…それとも一人で気ままにやるか、どうするかな。
2:呪いの本能に従って殺す。
※原作16巻。死亡後より参戦です。
※他者対象の無為転変の消費呪力が大幅に増しています。ただし、呪力の消費量に目をつぶれば普段の威力の無為転変が発動可能です。
※自己対象や他者対象でも七海との初回交戦の時の様な不完全な無為転変であれば普段の燃費に近い無為転変を発動できます。
◆
「見せしめ……!?」
「あぁ、悲惨な物だったよ。反抗の意志を口にした途端、彼女は怪物に変えられてしまった。
名を教えて貰う暇すらなかったよ……恐らくは我々の様な反逆者に対する警告だろう」
「ベリアルめ………!外道な真似を………!」
憎しみに歪むセリュー・ユビキタスの顔を見て思う。
あぁ、やはり。
彼女の本質はヒーローなどではない。
むしろ我々敵(ヴィラン)のそれだ。
確信と共に、私は心中でほくそ笑んだ。
「幸いな事に、私達は怪物に変えられずに済んだ。
ベリアルにとっても、あくまで殺し合いが見たいのだろう。だから暫くは見逃される公算が高い。
だが───この情報は余り広めるべきじゃない」
「な……何故ですか?」
セリューは理解できないという顔でこちらを見つめてくる。
見立て通りの愚かさ。自分の見たい物以外は目に入らないタイプだ。
実に都合がよい。
「理由は三つ、無暗に広めて君の言う無辜の民がパニックになる事を防ぐこと。
現時点で相手は此方を即罰する事ができる以上、何とかする目途が立つまで伝えるのは賢い選択とは言えない」
まぁ、内情は怪物に変える処罰など此方がでっちあげたもの。
どれほど反抗の言葉を口にした所で怪物になど変えられない。
とは言え、反抗を封じる措置としては『あってもおかしくない』そう思わせるには充分だ。
そしてその処置の不在を断言できるのはベリアルのみ。参加者であれば誰にもそんな事はありえないと証明できない。
「二つ目は君と私を守るための措置。何しろ、私も君もこの殺し合いに否定的だからね。
加えてこの罰(ペナルティ)を知っている以上、口封じにいつ怪物に姿を変えられてもおかしくはない
────理性も尊厳そして何より君の言う"正義"も奪われた、醜い蟲に」
「………っ」
勇ましかったセリューの顔が僅かに硬直する。
きっと想像したのだろう。自分が殺した少女の様に、虫へと変えられた己の姿を。
ただ首輪を爆破されて殺されるだけなら、この少女は覚悟のうえでベリアルに反抗するだろう。
だからこそ、命のみならず正義をも喪うという言葉は覿面だった。
今、前進しか知らない彼女の精神が俄かに後退した。
扉は開かれたのだ。
「最後に───私はこの殺し合いに、ベリアルと繋がる内通者がいると考えている」
「内通者………!?」
「監視体制はあちらもそれなりに用意しているだろう。
だがしかし、それでも遠くからカメラやマイク越しに窺うだけでは取りこぼしがあるかもしれない。だから会場に通じた者を紛れ込ませておく」
そして、ここからが重要な事だと前置きし。
一拍を置いて、話の中で最も重要な部分を紡ぐ。
カメラやマイクなど、話の枝葉部分で理解不能と言う顔をしていた少女にも理解できるように。
「あの少女が蠅に姿を変えられていた時───いや、少女が反抗する意思を口にしていた時。
私と彼女の事をずっと見ていた人物がいる。恐らくは友好的であるはずの我々と接触しようともせずに」
「シガラキさんは……その人物がベリアルと繋がった"悪"だと?」
「そうとは限らない。だが、その可能性も考慮しておいてほしい。あの少女の分まで───君が正義を果たすつもりなら」
断言はしない。ただそうかもしれない。そう思わせるだけで十分だ。
楔を、打ち込む。不安を抱かせ。
不信の種をまき、口封じをして、外部からの客観的な意見を断つ。
犯した失敗に言及して視野を狭め、最後に彼女の使命感を擽る。
そうしてから、仕上げに入る。
「安心しなさい。君は正義を果たそうとしたんだ。その過程で犠牲になったモノはあれど、君は悪くない。
だが、どうしても君が名も知れぬ少女の死に責任を感じるのなら───私を信じて、力を貸して欲しい」
私の、愉しみのために。
私が、魔王となるために。
「シガラキさん……!」
情を孕んだ瞳で、セリューが私を見つめてくる。
どうやら、目論見は成功したらしい。
まぁ所詮趣味。上手くいかなかったらいかなかったらで、それは構わなかったのだが。
どうせなら、あの真人という青年の他に───組む徒党は多い方がいい。
敵(ヴィラン)はいつだって仲間と共に理想に燃えるのだから。
叶うなら、この地でも敵(ヴィラン)の連合を組織できれば、ヒーローとの勝負もきっと見栄えがする。
「分かりました!私は貴方の真摯な言葉を信じます!帝都の法の番人イェーガーズの名にかけて、貴方をお守りします!」
ベリアル、君の支給してくれたガイアファウンデーションとやらは役に立ったよ。
仮初とは言え昔の姿に…オールマイトに不覚を取る前の姿に戻ることができて。
愚かな娘を口車に乗せるのも実にスムーズに進んだ。
私が優勝した際にはゆっくりと語り合おう。そして君の全てを僕に与えてくれ。
All for oneの言葉の元に。
「────そして絶対正義の名のもとに!ベリアルとベリアルに与する"悪"を共に殲滅しましょう!!」
あぁ、やはりこの娘の本質は憎悪と愚鈍と悪に対する悪意だ。
断言してもいい、彼女は、敵(ヴィラン)であり、悪だ。
形容するなら、その一文字で事足りる。
【セリュー・ユピキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康、動揺(中)
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~3
[思考]:悪を裁き、民を守る
1:シガラキさんを守ります!
2:ベリアルとベリアルに与する内通者は正義の名のもとに殲滅する。
※原作三巻以降、改造手術を受けてからの参戦です。
【オール・フォー・ワン(死柄木全)@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康、
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~3
[思考]:優勝し、魔王となる。
1:敵(ヴィラン)は敵(ヴィラン)らしく
2:セリューで遊ぶ。
3:敵連合を作りたい。真人やセリューが候補。
※原作11巻、オールマイトに敗北した直後より参戦です。
※能力の収奪については個性以外の能力は奪えないか、戦闘不能になるまで弱らせた相手の物しか奪えません。
※その他の制限については後続の書き手にお任せします。
『支給品紹介』
【変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!】
化粧品型の帝具。
大きさや性別、種別などは問わない為、隠密活動に非常に役立つ。
しかし、制限により変身できるのは本ロワで出会った参加者となる。(過去の自分の顔などは例外)
その代わり、説明書に変身できる者の名前が浮かび上がり記載される。
最終更新:2026年03月22日 09:26