どこまでも蒼い空に浮かぶ島のほとり。
一歩踏み出せば、無限の青に飲み込まれて行くであろう場所に。
そこに、1人の少年が立っていた。
「殺し合い、か………」
ぽつり、と呟きを漏らす。
少年は、ここが分水嶺であると認識していた。
もし殺し合いを厭うなら、ここから一歩踏み出せばそれですべて終わる。
背負っていた重たい荷物全て放り捨てて、自由になれる。
でも、
────エレン、マフラーを巻いてくれてありがとう。
少年──エレン・イェーガーにはどうしても、その選択はできなかった。
ゆっくりと、名残惜しそうに眼の前に広がる無限の蒼穹を目に焼き付けて。
無言で、一歩踏み出せば終われる地点から離れていく。
────全ては、潰えた。
始祖の巨人の予知で垣間見た通り。
未来は望む望まないに関係なく、エレンが選んだ選択の通り進んでいくはずだった。
始祖の巨人の力を手中に収め、地ならしを発動し。
壁外人類の八割を犠牲に、エレンの故郷であるパラディ島に安寧をもたらす筈だった。
仲間であるミカサやアルミン、ジャンやコニー、ライナー、アニ。
彼等エルディア人がまっとうな人生を歩めるだけの時間を作る事ができる筈だったのだ。
それなのに、エレンは今ここにいる。
首輪を嵌められて、殺し合いを強いられている。
「………戦え………」
渇き切った呟きが漏れる。
始祖の巨人と言う切り札を喪った今、パラディ島に世界連合軍を退けるだけの力はない。
既にパラディ島は世界連合軍が押し寄せている、そんな時に始祖の巨人の不在が意味するのは。
エレンがこの殺し合いを終わらせて変える事ができたとしても───
もう、その頃にはパラディ島は血の海に沈んでいるだろう。
「戦え………」
ミカサも、アルミンも犠牲になっている。
土壇場で自分がいなくなった困惑と絶望の中、世界という強大な力にすり潰されている。
到底間に合わない。
彼等は、進撃の巨人と言う怪物から世界を救う英雄になる筈だったのに。
だから、この殺し合いを打破してただ帰るだけでは、今のエレンに意味はない。
そんな結末……納得できない。
「戦え………!」
もし、巨人を駆逐し、壁の外を探検する事に憧れていたエレンであったなら。
自由を奪い、殺し合いを強いるベリアルの甘言なぞ決して乗る事は無かっただろう。
兵士として、狩人の様にベリアルの首筋に牙を突き立てたかもしれない。
だが、今のエレンにはひとえに背負っている命が多すぎた。
たかだかこの島に招かれた百人足らずと、パラディ島と壁外を含めた世界の全人類。
そんなの、比較にすらならないだろう。
「戦え」
エレンが内に秘めた、始祖の巨人の力。
それはこの島においても健在だと、座標から伝わって来る。
少なくとも、有機生命の祖から齎される巨人化による再生能力の恩恵は消えていない。
超大型巨人などへの変身は難しいだろうが、顕現時の爆発能力も恐らく使える。
完全に始祖の巨人の力を引き出せてはいないため、無尽蔵の巨人の力を行使するのは難しいだろう。
となれば、選択肢は一つ。マーレに潜入した時の様に、機が熟すまでは表立って暴れる事はしない。
要所で巨人の力を行使し、超大型巨人顕現時の爆発で纏めて吹き飛ばす。それが一番合理的だろう。
───きっと、この島も同じなんだろうな。
鼻もちならないクソ野郎もいる。
けれど、こんな名も知れぬ島で理不尽に命を奪われていい筈がない。
超大型巨人誕生時の爆発に飲み込まれて死ぬなんて最期、迎えてはいけない。
そう思わせるような、そんな、いい奴だってきっといるはずだ。
それでもエレンは進み続けなければならない。進撃し続けなければならない。
ここで躊躇うような覚悟では、人類の八割を殺す地ならしなんて不可能だからだ。
「ごめん……」
ふと、脳裏に一人の少女が浮かび上がる。
ベリアルにこの島に送られる前、薄れていく意識の中目にした金髪の少女。
始めてみる筈なのに、彼女の事を知っている気がした。
彼女と、この無限に広がる空の中に浮かぶ島々を冒険した記憶さえあった気がする。
巨人の正体が何であるか知らず、無邪気に壁の外に憧れていたあの頃に。
「ごめんな……」
でもその記憶は、エレンが歩みを止める選択をするには余りにも不確かで。
今のエレンにとって価値はあるけれど、きっと意味はない。
名も朧な少女と、ミカサやアルミンの命では。
天秤に乗せるまでもなく何方を選ぶか何て決まっている。憧憬はあるけれど、それでも。
それでも自分が進むべき道は、まだ誰も見た事もない蒼い空に浮かぶ未踏の島何かじゃなくて……
血に染まった、もう探検していない島何てどこにもない。どこまでも続く空虚な地平に他ならないからだ。
だからエレンは一筋の涙を流して、ほんの僅かな間だけ謝罪の言葉を述べて。
雁字搦めの責任と背負った命という首輪を嵌めて、それでも自由を夢見て進む。進み続ける。
───この島にいる奴を全員殺せば。
───俺達は、自由になれるのか?
生れた時から、ずっと目の前にあった壁。
そんな壁とは無縁の筈の、虚空に浮かぶ島にいる筈なのに。
その蒼を見た者は、この世で一番の自由を手に入れた者である筈なのに。
かつて見た海の向こう側と変わらない。
少年にとってどこまでも………この空は窮屈だった。
【エレン・イェーガー@進撃の巨人】
[状態]:健康、始祖の巨人、進撃の巨人。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]どんな手段を使っても、パラディ島に帰還する。
1:ステルスマーダー、巨人の力を過信しない。
2:戦え。戦え。
[備考]
※参戦時期は30巻、座標で始祖の巨人の力を手にした直後より参戦です。
※始祖の巨人の力により九つの巨人の力を扱えますが、サイズは小さくなっているかもしれません。
※超大型巨人のみ変身できませんが、顕現時の爆発と巨人化による再生能力は行使できます。
最終更新:2026年03月23日 09:38