とある世界に、一人の可愛らしい灰色の魔女がいました。
魔女はある日、旅の路銀が尽きそうになちお金に困ってしまいました。
そんなある日、大金が手に入る仕事を魔女は請け負うべくある魔女に会いに行きました。
依頼の内容は決して悪いことではありませんでした。何も犯罪に手を貸すようなわけでもなく、非合法な手段でもなければ、
その身を売ったり誰かを傷つけると言った目的でもありません。言うなれば、依頼主の気分を晴らすだけのものになります。
依頼内容は過去を変えること。しかし、彼女の世界では過去を変えてもパラレルワールド……たとえ過去を変えたとしても、
世界線が分岐するだけであり、本来の未来ではその変えた内容は戻ることはありません。だから、気分を晴らすためだけの物です。
気分を晴らすと言っても人を殺すためではなく、人を守るためにするものなので、ためらう理由はありませんでした。
かくして、魔女はその依頼を引き受けることで過去へと向かった魔女達は二人の手によって、
依頼主の友人の死を、そしてそれに伴って起きてしまう友人を殺人鬼に変えないために行動をしました。
「で、地獄を見たってわけだね。」
木のベンチで俯きながら涙を流す少女に、一台の存在が語り掛けます。
少女は精神こそ乱れていましたが、今が殺し合いであるだけは理解しており、
自分の杖がないかの確認のため、最低限支給品を探り自分の杖を手に入れました。
同時に支給品の中にはバイクのようなものがあり、それがまさかの喋る存在だったのです。
彼(?)はエルメス。モトラドと呼ばれる、一台の乗り物にして意思を持ち合わせています。
誰もいないこの場において、唯一彼女の話を聞いてくれる存在となっていたのです。
何故殺し合いに備えて動かず涙を流しているのか。エルメスからは疑問しかありませんでした。
「私、は……何も、できなかった。」
彼女、イレイナは優れた魔女でした。
十五歳にして魔法使いの最高位とされる魔女の称号を手にし、灰色の魔女の名を冠する程度に優れた魔女です。
(とはいえ、この世界において名を冠するからと言って著名な魔女、とかではありません。
別に試験を受けてないだけで彼女よりも優れた魔法使いは他にもいるというぐらいなので)
ですが、彼女の力であってもどうしようもない事態と言うものを目の当たりにしてしまったのです。
過去へ遡り、意味はないけれど未来を変える。
そう思い描いていたものとは、まるで違う結果だったのでした。
過去に戻って依頼主の友人を助けなければ友の家族を殺され、
その結果友歪んでしまい殺人鬼となって処刑される、それが本来の未来です。
しかし、事実はそんな単純なものではなかったのでした。何故なら、友の家族を殺したのはその子自身なのです。
父からは性的な虐待を、その父に目を向けられることに嫉妬した母からも虐待を受けてきて来たからでした。
だから彼女は両親を殺し、同時に少女は殺すことを悦楽としてました。そして依頼主の何かが壊れてしまったのでしょう。
依頼主は友を殺しました。徹底的に、生きてることすらありえないぐらいに、凄惨な殺し方をしてしまいました。
……因みに、現代で彼女を処刑したのは依頼主であるため、彼女は友人と思っていた人物を二度殺したことになります。
もっとも、友にとっては依頼主を友達とは全く思っていなかったようですが。
二人は現代に戻ることはできましたが、依頼主は魔法の代償として友人との記憶を失ってしまいました。
結果は変わることはありませんでした。そして友としての記憶も消え、彼女の過去を変えるための長い年月も無駄になりました。
救いがあるとするならば、友の記憶をなくしたことで、彼女は二度も友と思った存在殺したことを記憶してないことでしょうか。
この頃のイレイナはまだ未熟でもあり、余りにも凄惨な顛末を迎えてしまったのを目の当たりにしたのもある為か、
お金を受け取ることはせず、逃げるように彼女は別れてしまい、一人で俯いていたところを殺し合いに巻き込まれました。
「私、は……」
イレイナは強い魔女です。多くの人が苦戦する敵を一人で倒せるほどの実力を持ちます。
だから、今回もなんとかできる。そういうところがどこかにもあったのかもしれません。
ですが結果は前述のとおり。友は殺人鬼であり、依頼主は友を殺し、誰も救われませんでした。
どちらに対してもなにもできなかったイレイナは、ベリアルの話もあまり聞けずに今に至っています。
辛うじて救いなのは、話し相手としてエルメスがいることは、救いなのかもしれませんが、
「ま、仕方ないんじゃない?」
「……え?」
エルメスの価値観が、イレイナと決して同じと言うわけではないことを除けばですが。
イレイナは比較的ドライな性格です。人や物に執着するタイプの人ではありません。
後ろ髪を引かれるようなことをして、その場に居座ってしまうことをしたくないのもあります。
ですが、彼女は別に冷酷無比ではありません。自己中心な性格と言うのはありますが。
「仕方ない、って……私は───」
「イレイナだっけ。キノ……僕の乗り手にあったことなんだけどね。
ある国で悪事を働いた男が一人いて、その人がこれまでの罪を償おうと改心して、
国から旅立とうとしたんだ。でも、その悪事で恨みを買った人を撃ち殺した女性を見届けたんだよ。目の前で。」
エルメスの言葉に口を閉じざるを得ませんでした。
目の前で、人を殺すところを黙認してしまうのかと。
ドライな面が強いイレイナでも、言葉を詰まらせてしまいます。
「別に止めることもできたし、なんなら彼女を撃ち殺してもよかった。
でもしなかった。女の人は『何故何もしなかったの?』って聞いたんだ。
そしたらキノは言ったんだよ。『僕は神様ではありませんから』ってね。」
エルメスの言うことは、裁く権利はキノにはないと言うことでした。
場所は国の外なので、殺そうと殺されようと誰も罪に問われることもありません。
だからキノと言う人は通報も、私刑もすることもなかったのです。
「ですが、それとこれは話が違うじゃありませんか!」
イレイナはなんとかできたかもしれなかったことであり、
キノと言う旅人は何もしなかった。話の前提が全然違います。
「確かにねー。でもこれはそこが肝じゃない。イレイナも強いけど、
だからと言って君が神様みたいになんでもかんでも変えれるわけじゃないでしょ?」
返そうとするところに、エルメスの言葉に更に詰まらせます。
強い魔女であるのはそうですが、万能の魔女と言うわけではありません。
できないことも多くあります。ピンチに陥ったりすることも何度もありました。
良くも悪くも、彼女は十代半ばのうら若い少女でしかない未熟さが残っているのです。
加えて、今までイレイナは全ての人を救うと言った考えは持っていません。
不幸になるだろうな、そう分かっていたとしてもその人に干渉しなかったこともあります。
ゆえに猶更返す言葉が彼女にはありません。否定の言葉は、彼女の今までの在り方の否定にも繋がるがゆえに。
「今の自分ではどうすることもできなかった。
そう割り切って行動するのが一番いいと思うよ、少なくとも今は。」
「それでも……!!」
何かあったんじゃないのか。
もっと救われる結末はあったのではないか。
たられば、みたいな可能性を反芻してしまわずにはいられません。
あれだけ凄惨な光景を見てしまった手前、そう思うのも無理はないでしょう。
彼女はまだ人の生き死にに対してそう慣れているものではないのですから。
「ま、そういって何とかできるほど話は楽じゃないのも知ってるよ。
キノにもちょっとだけ、無茶なことを言ったことがあるの覚えてるし。」
精々声色以外でしかわかりませんが、
どこか懐かしむような感じでエルメスは呟きます。
詳しくは語りません。話せば長くなるのだとイレイナも察しました。
「でもイレイナ。どうあっても君には僕を操作してもらわないと困るんだ。
僕はモトラド。走るのが生きがいみたいなもので、動いてもらわないと困る。
できればキノに返してほしいけど、いるかどうかも分からないから保留として。
いやなら、せめて誰か乗ってくれる人に譲渡してくれたりするだけでもいいから。」
エルメスの言うことはもっともでした。
走る為に生き甲斐である存在が走れない。
誰に乗られることもないまま終わることなど、
言うなれば旅に出ず閉塞した世界で生きるのと同じです。
エルメスは、そういうモトラドと出会ったこともありました。
「……そう、ですよね。殺し合いな以上、
何もしないでいれば後で不利になります。エルメス、さんでいいんでしょうか?」
「エルメスでいいよー。」
「乗り方、教えてもらえますか?」
もっともらしい理由づけで何とか鼓舞しながら、イレイナは語り掛けます。
魔法の杖はあれど箒はないため、そのままでは飛ぶことができないので貴重な移動手段でした。
「うん、そうでなくちゃね。イレイナも旅人みたいだし、
よかったら運転してる間、いろんな場所の話を聞かせてよ。
OS同数になることだし、話は聞いておきたいからねー。」
「運転中に話す暇があればいいんですが……後、呉越同舟でしょうか?」
「そうそれ。」
精神的な意味か、初めてのモトラド故の不安と言う意味か。
どちらにせよ、すぐに話すことはできそうにないことはなんとなく察してました。
殺し合いの街中を駆ける、一台のモトラドに乗る一人の少女の姿がありました。
とても乗りこなしてるとはいいがたい、安全運転よりも遅いであろう速度で駆ける、
美しくも、儚げな表情で駆け抜ける魔女の姿は誰でしょう。
……そう、私です。
【イレイナ@魔女の旅々(アニメ版)】
[状態]:憔悴、精神疲労(大)
[装備]:イレイナの杖@魔女の旅々、エルメス@キノの旅
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない、けど……
1:私、は……
2:可能ならキノって人を探す。
[備考]
※参戦時期は原作が曖昧ですが、
少なくともアニメ版における9話でベンチに座る辺りです
【イレイナの杖@魔女の旅々】
イレイナに支給。イレイナがいつも使ってる杖。
特筆すべきことはないが、杖がないとイレイナは魔法が使えない。
【エルメス@キノの旅】
イレイナに支給。モトラドと呼ばれる現代でバイクに似た乗り物(キノの旅の世界のバイクとは空を飛ぶ)
キノと共に旅を続ける存在で、原理不明の視覚、聴覚、痛覚などを持つ、意志を持った機械
機械ゆえに博識だが諺などを(わざとだが)間違える、価値観が結構ドライなところも多い
キノが使っていたゴーグルがおまけで付属
最終更新:2026年02月03日 22:27