正式タイトル
『恥知らずのパープル・ヘイズ〜Rock n' Roll Fever!!〜』
潮騒の調べと共に、塩辛い匂いが夜風に乗って漂う。
天空には、無慈悲に輝く真っ白な満月。
波間に砕ける銀の光は、ここが『凄惨な殺戮の舞台』であることを忘れさせるほどに、心安らぐ静謐なスポットだった。
そんな砂浜にて一人。桃色の髪をなびかせる少女が立ち尽くしている。
彼女の名は、結束バンドのギター担当──後藤ひとり。
彼女が何故、このような絶望の最前線に立たされているのか。
それは、殺し合──、
「あ、あ、あの……も、もういいです。じ、自分で説明しますから……」
…………。
それは、殺し合──、
「あ、あ、ちょっと……。わ、私がその……か、語り手する……っていうか……その……」
………………。
それは、殺し合いによって集められた哀れな被害──、
「な、なぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!──」
「──おかしい!!! 状況が1ミリも理解できないよぉ!!!──」
「──そもそも、私みたいな人間がこの場にいること自体が間違いだよ!!!!」
「──ただでさえ知らない人が大勢いる空間なんて、私にとってはデスゲームみたいなものなのに!!!!──」
「──本物の殺し合いなんて聞いてないよぉぉ!!!!!──」
「──虹夏ちゃん……喜多ちゃん……リョウさん……誰もいない!!──」
「──知り合いゼロ!!!」「生存率もゼロ!!!」「自己肯定感もゼロ!!!」「出そう、●ロ!!!!……ウプッ。」
「──……と、ともかく詰みだよ詰み!! 罪?! 私なにかしちゃいましたかぁ!!?」
「──…………つまり結論ね。そ、それってつまり……!!!」
────開始10秒で『あ、すいません……』って言いながら刺される未来しか見えないじゃん〜〜〜〜……。
ナンデ、私ガ、バトロワ参戦デスカァァーアアアア…………。
◆
ザァ──、
ザァ──……
「手でパン食べる人見ると、『バヤシかっ!』ってツッコんじゃうな〜〜……。ハハハハ〜…………」
……ハッ!
なんで今!? 今それ!?
現実逃避の精度が高すぎるよ私!!
こんな非常事態でまで、どうでもいい妄想にダイブするのやめて!?
戻ってきて後藤ひとり!! 今ここ! 命の危機!!
と、とにかく隠れなきゃ!
人目がつかなくて、陰気で、フナムシが家族会議しながらお弁当広げてそうな、落ち着く岩陰にぃ〜〜!
……あ、あった!あそこに速攻退避!
セーフ〜〜……。
「……いや、セーフじゃないよぉ……。──」
「──ハァ…………」
ため息が嫌いだった……。幸せが一つ逃げるらしいから。
そうなると多分、私が今まで『呼吸』だと思ってたものはため息なのかもしれない……。
お母さん、ごめんなさい。お腹の中でため息ばっかしてて……。
[──ぼっち ため池記念日]
……というか、これ、あれだね。
普段から人に会いたくないとは思ってるけど、今日ほど切実にそう思う日はないよ……もう……。
陽キャならね、たとえ殺人鬼に遭遇しても「あ、ちょっと待ってくださいよ。話し合いましょう?」とか言ってワンチャン生き残れるかもしれないよ。
でも私は無理。
ムムム無理。
絶対無理。
命乞いしようとして噛んで、相手が「え……?」って気まずくなって、
その沈黙に耐えられなくなって、結果、刺される未来しか見えない……。
インドアを極めすぎて、対人スキルを一切育成しなかった自分を人生で一番、恨んでるよ〜……。
ザァ──、
ザァ──……
「とりあえず、支給品かなあ……。はぁ……」
……波の音と完全に同期しながら、バッグ確認開始。
あと、ついでにこれでため息百二十回目。
もう次からは「はぁ」のあとに「すぅ」って付け足して、無理やり呼吸扱いにしよ……。
「……あ。あ、開けるよ。開けちゃうよ……。爆発したりしないよね……?──」
「──…………えいっ!」
ザァ──……
「……………………えぇ……」
……突然ですが、ここで問題です。
クイズ・ボッチザミリオネア!
この絶望の福袋に入っていた、私の支給品品々は、次のうちどれでしょう〜?
A:『CD』
B:『ギターのミニチュア』
C:『ダンボ―ル(別名:親友/防空壕)』
D:『誰かのサイン(別名:承認欲求足ふきマット)』
──ヒント。
……支給品見た時の、私の無言っぷりから、ご推察ください。
──ライフライン。
……テレフォン希望です。
相手は主催者の運営。
今なら人生最大のコミュ力を発揮して、泣き叫ぶ自信があります。
──最大ヒント。
……全部。
つまりは答えです。
ファイナルアンサー?
「……つまりは……ドロップアウトです……」
……はい、正解は『A・B・C・D』全部入りセットでした〜。
続かない、そんなんじゃダメじゃないでした〜〜〜……。
──…………イケなさすぎる太陽だよもう……。太陽出てないけど……。
この殺し合い、スポンサーは夢グループなのかな。
ただでさえ私は虚弱フナムシだというのに、この遊び心はなに……?
ロック……ロック過ぎるよ……。
設定からして私を物理じゃなくて精神から削りにきてるよぉ……。
___
←天国| ボッチ・ザ・オワタ
 ̄|| ̄ ┗(6д9 )┓三
|| ┏┗ 三
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ティウン
ティウン
ティウン……
「……配られたカードで勝負するしかない……ってことかぁ…………」
……うん。名言。スヌーピーがたしか言ってた。
でも私の人生という名のポーカー、配られた時からずっと『ブタ』なんだよね。
これまで何度もこのハイカードをシャッフルしてきたけど、来る札はいつも花札。もはやポーカーですらない。
一度でいいから国士無双で人生逆転して、
「え、後藤さんってそんな人だったんですか!?」って言われて、
チヤホヤされて、
ちやほや、
ちやほや……。
……そんな人生、送りたかった……。とほほ……。
とりあえず。
肥大化しすぎた承認欲求をマンゴー段ボール箱に無理やり押し込めて、私は支給品をひとつずつ確認することにした。
「えーと、まずこのCDは……『パープル・ヘイズ』…………?」
ご丁寧にも名前付き。しかもやたら大きい。
ていうかこれ、レコードじゃ……?
……ああ、レコードをCDって言っちゃう、私の時代錯誤っぷり。
恥ずかしさで死ねる。
殺し合いに参加してるのに、別ベクトルで社会的に死ねるよ……。
「えーと……『頭に入れると、スタンド能力を手に入れられる』…………──んん??」
思わず、虚無に腹パンされたような衝撃だった。
説明書の記載は、陰キャギタリストの脳が処理できる情報量を超えていた。
……頭に、入れる?
え、物理的に? それともスピードラーニング的な、枕の下に敷けばいいとか、そういう?
ムムム無理です絶対ぃ〜〜…………。
私の頭の容量、もう『逃げ出したい』でパンパンなんですぅ〜〜…………。
「はぁ…………」
──あ
「……すぅ……」
──どうせ最期に聴くなら、
──四人で、
──結束バンドで、鳴らした曲が良かったなぁ……──なんて。
私は諦め半分、絶望半分で、そっと支給品をしまうのだった……。
………
……
…
◆
──潮風に含まれる塩化ナトリウムの濃度は、後宮のそれとは比較にならない。
波の反復運動が、思考の縁を少しずつ摩耗させていく。
「…………ふむ」
私──猫猫は、波打ち際にしゃがみ込み、湿った砂を指でつまみ上げた。
海辺。
記憶が確かならば、私は翡翠宮で新作の薬──もとい、毒の調合を試そうとしていたはずだ。
それが目覚めれば、この有様。
拉致か、あるいはもっと質の悪い術策か。
首に巻き付いた冷たい金属の感触──『首輪』が、これが単なる悪ふざけではないことを雄弁に物語っている。
「……遊びではない、か」
小さく息を吐き、周囲を見渡す。
「まさか壬氏が……」
一瞬だけ、白粉で誤魔化された軽薄な笑みが脳裏をよぎるが、すぐに否定した。
あのおしろい野郎がどれだけ暇だとしても、わざわざ私を海に流してまでこんな悪趣味な余興を企画するとは考えにくい。
となると、後宮の権力闘争か、あるいは周辺国の工作か。
あるいは、もっと雑で、もっと下衆な理由。
うんぬんかんぬん……。
……無為だな。考察は後回しだ。
「……? これは……」
視線の端に、違和感が引っかかった。
岩陰へと続く、砂を掻き乱したような痕跡。
足跡にしては浅く、引きずったにしては直線的すぎる。
その先。
この場所には明らかに不釣り合いな、角張った人工物。──『完熟マンゴー』
そう印刷された、薄汚れた紙箱が、不自然にも鎮座されていた。
「……罠か? あるいは何かのメタファーか」
私は足を止め、脳内の棚を整理し始めた。
箱のサイズからして、大人一人が潜むには無理がある。
だが、小柄な暗殺者なら話は別だ。
私は懐の小刀に、そっと指を掛ける。
正面は危険。風上へ回り込めば、奇襲の確率を下げられる。
そう判断し、足を運ばせようとした、
──その瞬間のことだった。
『グアルルルルルルルルーーーー!!! ジュルルルルルルルルーーーーーーー!!!!』
「……え?」
「に、にににに、逃げて……っ! 逃げてくださいぃい〜〜〜〜!!! あぁぁああ私は無実無実無実無実ぅううううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「は?」
闇の向こうから響く二つの声。
月明かりの厚情もあり、次第に輪郭がはっきり映るそいつらは、明らかに私に向かって突進しにかかっていた。
──一人は、見るからに弱そうな小娘。
────奇妙な札を振り回し、言語による意思疎通も可能。つまり、最低限の知能はあることだ。
────ただ、これが私の初遭遇参加者だとしたら、小蘭は泣きながら餅を喉に詰まらせるだろう。
──そして、もう一方。
────形容するなら、『異形の変態』だった。
「……恋仲か? 後ろのやつは」
「ち、違いますよ!? と、とにかくせ、制御できなくて……。と、とにかくにげ……げげげげげげげげえええええええええええええ!!!!!!」
「ジュルーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「…………」
状況は理解不能。
殺し合い、果てはこの奇妙な二人組のことさえ、ファーストコンタクト程度では私には推察不能だった。
ただ、『事』とは成り行きがどうなろうと、必ず『伏線』が付きまとう物。
その『伏線』とやらは、奴らが私との距離が縮むにつれ、はっきりと可視化していった。
──鼻腔を刺す異臭。
──異形の拳から滲み出る、分かりやすい負の気配。
──そして何より。
────私の頬に、急速に現れ始める『発疹』。
「……ほう」
なるほど。これがバトル・ロワイヤルか。
面白い。
ならば、私の命が尽きるのが先か。この正体を解き明かすのが先か。
──その天秤に、喜んで乗ってやろうではないか。
「だ、だから……逃げて下さ──」
「安心しろ」
「はいぃいい?!」
「……そいつが何者かは、まだ完全には分からん。だが、少なくとも――狼狽する必要はないことは確かだ」
「な、なにいってんですか?! こ、この子は──」
「あぁそうだな。──」
私は、もう一度、異形を観察する。
呼気。分泌物。反応速度。──この症状。
……ふっ、紛れもない…………っ!
「────そいつ、『毒』だ」
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The Apothecary Diaries
『恥知らずのパープル・ヘイズ〜Rock n' Roll Fever!!〜』
↓
『別名:陰キャなら毒殺されろッ!!』
Bocchi-The-Rock!!
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【猫猫@薬屋のひとりごと】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:
1:死ぬ可能性? まあ、その時はその時だ。
2:バトル・ロワイヤルを解き明かす。
3:目前の異形は生物というより『毒性現象』。逃げる価値より観察価値の方が高い。
【後藤ひとり@ぼっち・ざ・ろっく!】
[状態]:健康
[装備]:パープル・ヘイズのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:マンゴー段ボール、誰かのサイン、ギターのキーホルダー
[思考]:
1:え、私、毒……? え、前から? それとも今? 社会的な意味で?
2:暗いよ狭いよ怖いよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! 助けて虹夏ちゃん〜〜〜〜!!
3:この子(パープル・ヘイズ)、完全に私の心の中身そのままじゃん……。そりゃ制御できないよ……。
4:私が触れたもの、だいたい腐るか空気悪くなるかの二択だし……毒って言われても否定材料ない……。
5:あの人(猫猫)全然動じてないの怖すぎる……。専門家が「毒です」って言う時の冷静さ……。
6:もし私がいなかったら、この場もう少し平和だったんじゃ……? いや絶対そう……。
7:スタンド能力とか言われても、どうせ使いこなせないし、暴発して誰か死ぬ未来しか見えない……。
8:私が何かを「持つ」=周囲が不幸になる、って今までの人生が証明してる……。
9:謝りたい。でも謝ったら「謝られても困る」って空気になるやつ……。
10:存在してるだけで周囲にデバフかけるキャラって、ゲームなら真っ先にリストラ対象だよね……。
11:陰キャで、コミュ障で、自己肯定感ゼロで、しかも毒……? 役満すぎる……。
12:このスタンド、私の「近づきたいけど近づいたら迷惑」って性格の完全上位互換じゃん……。
13:誰かを守ろうとすると裏目に出て、何もしなくても裏目に出る……。詰み配置……。
14:猫猫さんが平然としてるの、たぶん「毒に価値を見出してる」からだよね……。私は価値ゼロなのに……。
15:毒は用途があるけど、私には用途ない……。使い道ない毒ってただの害……。
16:いっそ本当に毒として隔離される方が、みんなのためなんじゃ……。
17:でも隔離されたら「やっぱり私はそういう存在なんだ」って一生思うやつ……。
18:誰かに「大丈夫」って言ってほしいけど、そんな資格もない気がする……。
19:この子(パープル・ヘイズ)をどうにかしなきゃって思うの、たぶん「自分を矯正しなきゃ」って思考と同じだ……。
最終更新:2026年02月07日 00:02