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 商店街といったら『昼間、薄暗い曇り空』という前提条件込みじゃないと、俺は妙に落ち着かない。
別に特段、シャッター街について幼年のトラウマなり、苦手意識があるわけじゃないが、なんというか、こう。
虚無感と、寂しさと、そして自分。
三人六脚で歩いているような、あの独特の心地よさを一度知ってしまうと、それ以外の時間帯の商店街が、どうにも物足りなく感じてしまうんだ。


「Vaporwaveを流しながら歩く、あの孤独感……。悪くないんだよなぁ」


……おっと、いかんいかん。
つい、独り言が口を突いて出てしまった。
だが、まあいい。ここは『ド深夜の商店街』。人影一つない。

セーフ。
セーフ・ザ・チルドレン。俺。


「…………なんて、現実逃避してる場合じゃないか」


 自分で自分にツッコミを入れながら、足を止める。
商売柄、それなりにリアリストなつもりではいるが、──神様の存在を「いない」と決めつけるほど、俺はまだ人生を達観しちゃいない。
つまり――今この瞬間も神様は、俺やほかの参加者のモノローグを聞かされ続けている可能性があるわけで。
耳タコもいいところだろうが、ここははっきり言わせてもらう。


──俺は今、不本意ながら『殺し合い』という非日常に放り込まれている。


「参ったな……これ、警察を呼んで済む話なんだろうか」


 題して、バトル・ロワイヤル。
……大の大人が寄ってたかって、ずいぶんと手の込んだ悪ふざけを始めたもんだ。
輸入雑貨の商談ならまだしも、命のやり取りなんて、どう考えたって割に合わない。
それに、これは完全に俺の都合だが、今日の三時からインテリアカフェの高橋さんと大事な取引が入っていたんだ。
……アポも取らずに運動会へ強制参加とは。
おいおい、ガキの使いじゃないんだぞ。

そうそう、ガキの使いといえば俺の支給品。   
デイバッグに入っていたこの『割り箸』にしたってそうだ。  
運営側はこれを『最後の一膳」か何かの嫌みとして入れたのかもしれないが、俺にしてみりゃ、これこそがこの戦場における唯一の救い。
──戦略的パートナーなんだぞ。


「……猫も杓子も借りたい、って時に割り箸かぁ……」


戦略的パートナー。──もちろん、精一杯の皮肉だ。
普通の人間なら、ここまで理不尽が続けば酒を浴びるように飲みたくなるものだろうが……あいにく俺は下戸だ。
その代わり、皮肉は喰らいたい。
できることなら、皮を丁寧に処理して、東坡肉あたりでいただきたいところだ。


「…………」
 このバトル・ロワイヤル、参加人数から考えても、最短で終わるに二日程度。
あのベリアルという男も、当然そのくらいのプロセスは織り込み済みなんだろう。
──なら、そのうえで聞きたいものだが、その間の食事問題はどうなるというんだ。
参加者たちは飢えに飢え、道端の草でも食って凌げというのか。
……冗談じゃない。
江戸中期の悪代官ごっこに付き合うほど、俺は物分かりのいい男じゃないんだ。
俺はいつだって、令和の空気を吸い、令和のメシを食っていたい。

……まぁ、つまるところ、こうだ。

ベリアルの物騒な脅し文句なんぞよりも、今この瞬間。
俺にとってはるかに切実で、一刻の猶予もない『問題』が浮上していた。


──『死活問題』、とはこのことである。



「……いかん。腹が、減った……」


ポン、

 ポン、

  ポォォォォン────。


………
……



《時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき──、》
《つかの間、》
《彼は自分勝手になり、自由になる》


《誰にも邪魔されず、》
《気を遣わずものを食べるという孤高の行為》

《この行為こそが、現代人に平等に与えられた【最高の癒し】──と言えるのである》



……
………


「私の名前は八九寺です。ハチクジ。今あなたはわざと『ハトクジ』と呼びましたよね? 鳩を九羽集めてどうするつもりですか。平和の祭典でも開催するんですか?」

「え? いや……ごめん、呼んでないよ」

「…………失礼、噛みました」

「え、なにが? 嚙んだのは君じゃなくて僕なんだろ? ハトクジだか、なんだかって~……」

「……ハァ。井之頭五郎さんでしたっけ。どうにもテンポが悪いですね。キレがありませんよ」

「んん??」

「比較するのもおこがましいですが、阿良々木さんなら今のボケに対して、こう被せてくるはずです。──」

「──『平和の祭典? 冗談じゃない! お前は火星からやってきて光線銃ハトにぶち込むティム・バートンテイストだろ!』とか、あとは『噛んだだと? ああそうかよ、なら僕はお前のその柔らかそうな太ももを甘噛みして逮捕されてやるよ!』だとか。──」

「──…………これぞ愚行録の極み。普段からそんな会話ばかりしてるせいか、どうにも落ち着かなくて仕方ありません」

「…………。──」


「──よくわからんが、もう一個食べるかい? タコせん」

「……結構です。私には食事が──(グゥ~~)」

「──…………失礼噛みました。やっぱりいただきます」

「……うん」



 深夜の商店街。  
迷子の少女と、並び歩きのタコせんべい。  
──『セーブ・ザ・チルドレン』。
冒頭の伏線、意図せずして回収完了。




【食物語】
【~まよいアームロック~編】

【井之頭五郎@孤独のグルメ(ドラマ版)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:
1:タコせん。タコタコ。これだよ、このチープなソース味が今の俺にはご馳走だ。
2:この迷子の少女を安全な場所へ。
3:……だが、その前にどこかで腰を据えて食いたい。

【八九寺真宵@化物語】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:
1:阿良々木さんに比べて、このおじさんはどうにも会話の燃費が悪すぎます。
2:限の空腹時に、不意に差し出されるタコせんべい……。──失礼、神はいた。
最終更新:2026年02月07日 22:31