アットウィキロゴ
一人の男が、道を歩いていた。
 巨(おお)きい、男だった。
 184cmの身長は、長身とはいえ破格のものでは無い。
 巨(きい)と認識させるものは、男の身体。
 131kgの体重は、筋肉と僅かな脂肪で構成され、鍛えられていない場所など見当たらない程に、身体の全ての部位が鍛え抜かれていた。
 皮膚の内側にうねる筋肉の束は、力を込めれば鋼の如く、脱力すれば乙女の柔肌の如くになる、柔軟性と強靭さを併せ持ち、それでいてフルマラソンにも耐えうる持久力(スタミナ)をも有している。
 どの要素も極めて高水準で纏まったステータスを持つ肉体。“超肉体”とでも称するべき肉体を有する男の名を、鎬紅葉という。
 ベリアルと名乗った男に拉致され、首輪を嵌められて殺し合いを強要された身でありながら、鎬紅葉は泰然自若と落ち着いていた。
 紅葉の落ち着きぶりは、超肉体を頼りに、他の者を全て殺して、帰還できるという自負によるものか?
 否、紅葉は医師である、生命を救う医師である紅葉は、殺し合いなどに乗るつもりは無い。
 己の肉体への自負と、医師としての経験と知識を駆使すれば、相手が範馬勇次郎や宮本武蔵でも無い限りは何とかなるだろうと、そう考えているのだった。

 「ほう…」

 あてど無く歩む紅葉の視界に、一つの建物が有った。
 スポーツジムである。
 紅葉も良く利用し、超肉体を作るのに利用している施設だった。
 こんな時でも無ければ、利用するのだが。
 そんな事を考えながら行き過ぎようとした紅葉の耳は、ジムの内部から音がするのを聴いた。

 「誰か居るのか?」

 こんな時にトレーニングに励む者も居ないだろう。そう思いながら、用心深くジムに内部に立ち入り、慎重に奥へと進んでいく。
 そして、音の発生源である一室を覗き込むと。

 「何ッ!?」

 紅葉は驚愕した。因みに「なにっ」では無く「何ッ」である。

 「馬鹿なッ!有り得ないッ!」

 一人の少女が居た。
 170cm近い背丈の少女が、バーベルスクワットに勤しんでいた。

 「あの少女の体つきは、体操選手か陸上競技の選手のそれ、断じて格闘家(グラップラー)や重量挙げの選手のそれでは無い。
 なのに、あの少女は、重さ20kgのバーベルに、左右30kgの重しを付けて、スクワットに勤しんでいるだとッ!?」

 ベンチプレス270kを上げる末堂厚を始めとして、ウェイトトレーニングで数百キロの重量を持ち上げられる人間を多く知る紅葉にしても、眼前の少女は異常と言えた。
 均整の取れた鍛えられた身体をしているが、120kgを抱えて、高速でスクワットが出来る体付きはしていないのだ。

 「いや…しかし」

 とはいうものの、女子中学生並みの体躯の老爺が、ヘビー級プロボクサーのハードパンチャーが比較にならないレベルの打撃を打てるのである。
 それを思えばおかしくは無い…。とは言え理合の極みと、只の身体能力では、全く逆となる。極限の理合により、魔法じみた技術を駆使する郭海皇ちて、120kg担いでスクワットは不可能だ。
 困惑する紅葉に気付く事無く、少女はスクワットを終えると、デッドリフトに取り掛かった。

 「何だとッ!まさか…パワーリフティングをッ!」

 スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの三つをこなすものを、パワーリフティングと呼ぶ。この状況下でパワーリフティングに勤しむのも異常だが、内容も異常に過ぎる。
 猛烈な勢いでデッドリフトを百回こなし、次いでベンチプレスも100回。
 紅葉が最初から見ていなかったスクワットも、百回やったのだろう。

 「ぶう…」

 バーベルを置いた少女が、軽く深呼吸をした。
 僅かに上気した凛とした顔立ちは、男だけで無く同性の視線も惹きつけるだろう、魅力を放っている。
 置かれていたタオルで汗を拭き、息を整え、紅葉の方へと向き直り、そこで初めて紅葉に気づき、硬直した。

 「…………」

 「…………」

 両者無言。紅葉にしてみれば己が少女にどう見えているかは大方察しがつき、その為にどう話しかけるか思考する。
 少女にしてみれば、このような場で出会った以上警戒するのは必至であり、そうで無くとも紅葉は変質者扱いされても仕方が無い行動を取っている。

 「…………………………」

 「…………………………」

 双方共に押し黙ったまま一分程の時間が過ぎ、少女がハッとしたかの様に後ろへと飛んで距離を空けるた。

 「誰ですか!?」

 身構えた少女からの鋭い誰何に、紅葉は両手を上げて敵意がない事を示す。

 「私の名は鎬紅葉。医療に関わるものとして、君に気概を加えるつもりは無い」

 「失礼しました。私は乙花(おとはな)スミレといいます。ミレニアムサイエンススクールのトレーニング部所属です」

 「ミレニアムサイエンススクール…?」

 聞いた事のない名前ではある。乙花スミレという名からして、日本人であると考えて良いだろう。
 ミレニアムサイエンススクールという校名に憶えが無い為に、海外の学校かとも思ったが、日本の校名全てを識る訳では無いので、放置する。

 「どうかしましたか?」

 「いや…聞いた事の無い校名だったので…」

 「ミレニアムサイエンススクールを…知らない?」

 「しつれい。寡聞にして知らないのだが、アメリカか何処かの学校かな?」

 「キヴォトス三大学園の一角を…知らない?」

 此処で頭上にクエスチョンマークを浮かべて、二人は黙り込んだ。

 「………ふむ。互いに状況の共有と整理が必要な様だ」

 ややあって、鎬紅葉は情報交換を提案した。


 「学園都市キヴォトスか…俄には信じ難いが、現状が現状だ。信じざるを得ないな」

 フィットネスバイクを競輪選手も真っ青な勢いで漕ぎながら、鎬紅葉は真剣に考え込んでいた。

 「異なる世界…というのでしょうか?」

 紅葉の隣で、紅葉に勝るとも劣らぬ勢いで、フィットネスバイクを漕ぎながら、スミレは思考に耽る。

 紅葉もスミレも、互いに相手の語ることは、全て初めて聞く事柄。しかして駄法螺と片付けるのは、今の状況が許さない。
 二人の思考が加速するのに合わせるかの様に、フィットネスバイクを漕ぐ足の速度も増して行く。

 「時にスミレさん。結構体力がお有りですね」

 「紅葉さんこそ」

 スミレの外見不相応な身体能力に、内心首を傾げる鎬紅葉ではあるが、それはさておき自分のことペースについてこれる人間とトレーニングをするのは存外楽しく。直に忘れてたしまった。

 十五分後。十字懸垂を始めた2人は、バト・ロワの事などすっかり忘れているのかも知れなかった。





【鎬紅葉@刃牙シリーズ】
[状態]:健康
[装備]: 無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~23
[思考]:状況を把握する



【乙花スミレ@ブルーアーカイブ -Blue Archive-
[状態]:健康
[装備]: 無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~23
[思考]:状況を把握する
最終更新:2026年02月07日 22:32