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 殺し合い。
 その言葉が、私の頭の中を跳ね回る。

 スポットライトを浴びて壇上に上がる男の人を見た時は、舞台かと思った。
 褐色の女の人と戦う姿は、とても手の込んだ演劇かと思った。
 最前席で見ていた私は、思わず見とれてしまっていた。

 これは、夢なのかもしれない。
 『FINALE』で優勝したばかりで、まだその余韻が醒めていないから、こんな夢を見ているんだ。
 そう、思いたかったのに。

「──ぅ、……」

 胃の奥から熱いものが込み上げてくる。
 あの女の人が、立ち向かって、首輪が爆発して──その先の光景を思い出すのが怖い。
 目の前で見ていたからこそ、あの残酷な姿が鮮明に焼き付いて離れない。

 噎せ返るくらいの煙、爆発の音。
 肉が焦げる生々しい匂い、転がる生首。

 あれは全部、作り物なんかじゃなくて。
 本当に、本当に──人の命が奪われたんだって、理解させられた。

 私は暫く動けなかった。
 震えが止まらなくて、吐きそうで、息の仕方も忘れてしまった。
 レッスン後に疲れて動けなくなるとか、そういう感覚とは全然違う。
 本能が、動くことを拒んでいた。

 アイドルという立場上、物騒なニュースを見る機会は少なくなかった。
 過激なファンに後をつけられたりとか、勝手に写真を撮られたりだとか。
 そういう事案が起きるかもしれないから、夜道は十分に気を付けてくださいって、プロデューサー君に何度も言われていた。

 私たち学生が予想できる『危険』なんて、そのくらいだった。
 けれど今回は違う。
 明確に、命を狙う人がいる。
 殺されないために、生きるために。
 必死になって、誰かの命を奪おうとする人がいる。

 頭の中でずっと、風船が膨らんでいるみたいだった。
 ふわふわした非現実感にうちのめされて、このまま眠ってしまいたかった。
 けれど、このままじゃ殺されるっていう防衛本能がそれを許してくれない。
 だから私はこうして、あてもなく歩き続けてる。


 足の感覚がない。
 頭も真っ白で、視界もぼやける。
 キーンとした耳鳴りの中で、声が聞こえた。

「──っ、ぅあ……ひっ、……」

 子供だ、女の子の声。
 咄嗟に木陰に隠れて、その子を見る。
 無防備に蹲って、啜り泣いていた。
 まさかあんな子供まで巻き込まれているなんて、驚くと同時に私の中で迷いが生まれた。

 こんな状況で、あの子を助けたら。
 言葉を選ばずに言うと、絶対に足手まといになってしまう。
 自分の身を守ることだけで精一杯なのに、子供を守りながらなんて、命が幾つあっても足りない。

 今ならまだ、気づかなかったことにできる。
 見なかったふりをして、立ち去ってしまえばいい。

 そうだ、きっとバチは当たらない。
 私だって泣きたいんだ、生きたいんだ。
 そんな私が、あの子を助けるなんて無理。
 頭では理解しているのに、なぜか私はあの子から目を離せなかった。

「──おとうさん、……きりしま……っ」

 その言葉が聞こえた瞬間。
 私は思わず飛び出して、その子を抱きしめていた。

「え……?」
「大丈夫、大丈夫だよ」

 驚いた声を上げていたその子も、背中を撫でる私を恐る恐る抱き締め返してきた。
 そして、堰が切れたように声を上げて泣き出した。

「わぁぁああ──! うあぁ──!」
「大丈夫、もう大丈夫だから」

 私はその子を、ひたすらに慰める。
 よしよし、大丈夫と、うわ言のように何度も呟きながら。
 まるで自分に言い聞かせるように。
 私自身が、温もりを求めるように。
 ちゃんと出来ているか不安な笑顔を虚勢で張り付けて、抱きしめる。



「裕三君?」



 その瞬間、汗が噴き出した。
 後ろから掛かるノイズ混じりの声に反射的に振り返る。
 赤と白の服を着たマネキン人形のような何かが、ぞろぞろと現れた。

「裕三君?」
「裕三君?」
「裕三君」

 首輪がない、参加者じゃない。
 それはつまり、人間じゃないということ。
 あのベリアルっていう人は、この会場には『魔物』がいると言っていた。
 多分、これがそれなんだと思う。
 うるさいくらいに鳴り響く鼓動が、いやでも危険を訴えてくる。



「裕三君」   「裕三君」
  「裕三君」     「裕三君」
「裕三君」    「裕三君」
     「裕三君」  「裕三君」
   「裕三君」


 数が増えていく。
 何体いるのかも、もうわからない。
 恐怖で頭がおかしくなりそうだったけど、すぐ傍の温もりが理性を繋ぎとめてくれていた。

「おねえ、ちゃん……」

 女の子が私の裾を掴んで、不安そうな瞳を向ける。
 涙で濡れていたけど、私のことを気遣ってくれているみたいだった。
 ああきっと、この子はすごく優しい子なんだろう。
 私は大きく息を吸って、決意した。

「心配、しないで」

 震える手でデイバッグから『それ』を取り出す。
 万が一にでも使いたくないと思っていた、人を殺すための武器。
 レイピアと呼ばれるそれは、もちろん使ったことなんてない。構え方なんてわからない。
 似たような小道具を持ったことはあったけど、手にかかる重さはその時とは比べ物にならなかった。

「お姉ちゃんが、やっつけてあげるから」

 泣くな、私。
 震えよ止まれ。
 今だけは笑顔でいて。

「やだ、やだ……! おねえちゃん、いじめ、られちゃう……!」

 きっと今の私は、とても頼りない姿をしているんだろう。
 固く閉じたつもりの唇は震えているし、腰だって引けてる。
 それでも、この子の前でだけはお姉ちゃんでいたいから。

 だから、お願い。

「逃げて」

 上手く呂律が回らない。
 その言葉が伝わったかどうかもわからない。
 私へ走り出すマネキン人形の動きが、やけにスローに映った。








「ガキ一人のために命まで張るとはな、見上げた根性だ」





 その瞬間。
 目の前のマネキン人形が、下半身だけ残して消滅した。

「ぇ、……え?」

 呆然とするのは私だけじゃない。
 他のマネキン人形も、異変を察して一斉に視線を変える。
 それに釣られて私も視線を向ければ、とても大きな人(?)が立っていた。

「貴様らは下がっていろ、邪魔だ」

 人間とは思えない姿。
 緑色の肌、頭から伸びる触覚。
 このマネキン人形よりもよっぽど恐ろしい姿だけど、なぜだかとても安心感があって。
 私はすぐに、その感覚が間違いじゃなかったことを教えられた。

「──はッ」

 そこからは、一瞬だった。
 何が起きたかわからないまま、マネキン人形達は破壊されていく。
 何体か、人形を突き破ってカラスみたいな怪物が襲いかかってきたけど、緑色の人は一撃で倒していく。
 最後の一体を倒し終えて、その人は私たちの前に歩み寄った。

「動けるか」
「え? ぁ──は、はい!」

 それはきっと、神様だったのかもしれない。
 少なくとも今の私には、そう思えるくらいの希望だった。



 ◆


「姫崎莉波、桜樹八重花……お前達のような一般人まで呼ばれているとはな」
「ピッコロさんは、この殺し合いがなんで開かれたのか心当たりとかありませんか?」
「いいや、ない。そもそも俺は死んだ身だ」
「死んだ、って……えぇ!?」

 今しがた苦境を乗り越えた三人。
 泣き疲れた八重花を切り株に座らせて、莉波とピッコロが言葉を交わす。
 互いの情報の食い違いから、異世界から呼び寄せられたのだという事実だけでも信じ難いというのに、ピッコロは二度も死んだのだという。
 一々驚きを隠せない莉波に、ピッコロはすこし居心地を悪そうにしていた。

「ベリアルのやつは十中八九ドラゴンボールを持っている。生き残ったところで、どうせ願いを叶える権利などくれはしまい」
「やっぱり、そうですよね……じゃあみんなでストライキとか……」
「それは無理だろうな、追い詰められた者はなにをしでかすかわからん」

 表情を変えないまま冷静に事実を突きつけるピッコロへ、莉波は押し黙る。
 多少の気まずさを感じるも、相手は命の恩人である。
 会話に困っていると、ピッコロは地図を広げながら歩き出した。

「なにはともあれ情報がほしい。他の参加者と接触するか、目ぼしい箇所の探索に向かうぞ」
「は、はい! やえちゃん、立てる?」
「うん……ありがとう、おねえちゃん」

 先頭を歩くピッコロ。
 本来ならば莉波達よりよほど速く動けるのに、それをしようとしない。
 八重花の手を握りながら歩幅を合わせる莉波でもついていけるスピードだ。
 莉波はそれを不思議に思って、思わずマント越しの背中へと声を掛けた。

「ピッコロさんは、どうして私たちを助けてくれたんですか?」

 莉波は、それを聞くのが少し怖かった。
 やはり助けたのは間違いだったと、そう言われてもおかしくなかったから。

「どういう意味だ」
「その、一刻も早くベリアルを倒したいんなら、一人で行動した方が……ピッコロさんなら、いいのかなって」
「そうだな、たしかに一人の方が動きやすいかもしれん」

 返ってきたのは予想できた言葉。
 やはり自分達はピッコロにとって邪魔になる。
 頭では理解していたが、改めてそう言われたことに莉波は少しだけ凹んだ。

320:marble heart ◆0Lav.Bhf0A:2026/02/10(火) 15:09:51 ID:seYxvu9k0

「だが、俺はお前のような馬鹿を知っている。自分より弱いガキを庇って死んじまった、大バカ野郎をな」

 声色を一切変えず、振り向きもせず、ピッコロは淡々と告げる。
 無感情に見えるが、その脳裏には懐かしい記憶が蘇っていた。

 幼い悟飯を庇い、死んだ自分。
 あの時に身体が動いたのは、理屈ではない。
 神と命を共有しているため、絶対に死ぬべきではなかった自分が飛び出していったのは、間違いなく感情によるもの。
 八重花を守った莉波の精神性は、間違いなくそれに通じていた。

 だからこそ、ピッコロは後悔している。
 フリーザを倒した孫悟空は心臓病で亡くなり、その直後にレッドリボン軍の人造人間が世界滅亡へ赴いた。
 自分を含めて立ち向かった戦士たちは、孫悟飯と赤ん坊のトランクスを除いて全滅した。

 もしあの時、神と融合していたら。
 自分がもっと上手く立ち回れていれば、変わったかもしれない。
 けれどそんな後悔をしたところで意味はないから、ピッコロは前を進む。
 今度こそ、間違えないために。


「それが少しだけ、懐かしく感じたのかもしれんな」


 やっぱり、そうだ。
 ピッコロさんは、いい人だ。
 莉波はそんな確信を持って、少しだけ微笑んだ。


【姫崎莉波@学園アイドルマスター】
[状態]:疲労(小)
[装備]:レイピア@DARK SOULS Ⅱ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:自分にできることを探す。
1:お姉さんらしく、誰かの支えになりたい。
2:八重花ちゃんを守りたい。

[備考]
※親愛度コミュ20話以降からの参戦です。

【桜樹八重花@組長娘と世話係】
[状態]:精神的疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:いえにかえりたい。
1:おねえちゃんとおじさんについていく。
2:きりしま、おとうさん……。

【ピッコロ(未来)@ドラゴンボール】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いを終わらせる。
1:乗るつもりはないが、降りかかる火の粉は払う。
2:協力者や情報を集め、反逆の手掛かりを得る。
3:……ガキと女のお守りとはな。

[備考]
※人造人間によって滅ぼされた本来の歴史にて、死亡後からの参戦です。
 この世界線では神と融合していないので、魔族寄りの性格です。
※戦闘力が著しく制限されています。

【支給品紹介】
【レイピア@DARK SOULS Ⅱ】
ごく一般的な刺剣。姫崎莉波に支給。
刺剣は尖った切っ先を持つ軽量の剣で、盾を構えたまま使用できることが特徴。またパリィにも適する。
素早い突きは硬い敵を相手にする際や、狭所での戦闘に特に効果的である。

【NPC紹介】
【田中星人@GANTZ】
田中星児に似たパワードスーツを着用しており、これがないと呼吸出来ない。また、口の部分からは超音波を発射出来る。
人を見ると「裕三君」と連呼する特徴がある。
本体は鳥のような姿をした星人。
最終更新:2026年02月10日 16:48