終戦から早十一年 。
勤勉を美徳とする同胞たちの血汗により、日本は高度経済成長の狂乱に沸き、天を衝く世界一の電波塔までもが聳え立とうとしている。
右も左も景気、景気、けいき、けいき!景気の連呼!
……あぁデコレーションケーキが羨ましいもんだぜ、ちくしょう!
おれさまは十円のアンパンで刹那の幸せに酔いしれるか、五円のコッペパン二つでその日暮らしするかの選択をしてるってのによ。
金なんて、糞食らえだ。
「……まぁ食糞の趣味はねぇけどな。ヒヒヒっ!」
さて、改めましてご紹介に預かりましょう。
おれの名前はねずみ男。
名刺は山ほど刷ってあるんでね、よろしければ一枚百円で購読よろしく~。
オバケ大学を首席で卒業し、今や米英のビジネスマンと足並みをそろえるエリート──
──それがこのれさまってわけだが……いやはや、全くもって世知辛い。
平坦で幸も不幸もない人生をお求めなおれなんざお構いなしに、神様って野郎は試練を与えてくるもんだぜ。
ねえ奥さん、聞いてくださる?『殺し合い』ですってよ、殺し合い 。
先の対戦で玉砕していった若兵どもの無念も露知らず、随分と不謹慎な箱庭にぶち込まれたもんだぜ。
まったく誰が政治をしているんだ!!このイカレポンチめ!
「……まぁんなこたぁ、このねずみ男さまにはどうでもいい話だがよ」
はい、その通り。
斯の美しきねずみ男先生が代弁してくれたとおり、殺し合いだろうがなんだろうが、おれの鉄の信念が揺らぐことなんざ万に一つもありゃしねえ。
ベリアルだかベーコンだか知らねえが、御大層な主催者先生の仰る
ルールによれば、『最後の一人のみが生還を許される』だとよ。
だが待てよ。
招集された我々にも、相応の矜持ってやつがある。
造反か、あるいは虚を突いた脱出か。
運営側の計算を狂わせる『想定外の出口』だって、どこかに転がっているわけだ。
一寸先は闇、あるいは光。
どう転ぶか予測不能ってのが、この低俗な戦争における唯一の魅力……。
したがって、おれさまの取るべき行動は一択のみだ。
──💰強そう or 金がありそうな参加者に取り繕う。🤑──
そ~んだけ。
工場でネジ量産のバイトするより容易い作業ね。
濁流に身を任せるように他人の生にしがみつき、最後の最後でその背を蹴り飛ばして出し抜く。
泥水すすってでも美酒を求めるってのがこのおれさまの生き様ってわけよ!
「とりあえずなにに関してもまずは銭よ! 都合よく、カモにしやすい金持ちのザコでも現れねえもんかねえ。──」
スタスタ……
「──なんて言っていたらあれまこれ! ……神様よぉ、礼にお陀仏の一つは唱えてやるぜ……ヒヒヒ!」
野心を胸に、薄汚れた裸足を一歩踏み出した、その刹那。
おれさまは、見るからに資産家の子女然とした『娘』と、運命的な邂逅を果たしちまったんだ!
「…………う、ぅぅ……」
「ありゃ、ありゃままま~?」
暗鬱な夜道。視線の先にいたのは、独り咽び泣く幼い娘。
ガキ。されども女だぁ……!
そして何より身なりを見ろ!
札束を段ボール詰めで蓄えていそうな上質な着物じゃないかね……!
カモがネギ背負ってやってきたとはこのことだ!
「(願わくば、蕎麦という名の女体でおれを温めてくりゃあ、おばけ大学エリートとしての誇が立つもんだがよ……)」
エアネクタイを仰々しく結び直し、おれさまは早速獲物へのアプローチを開始したわけよ!
「や。や。やぁねぇ~素敵なお嬢さん。どったの? そんなに顔を濡らしちゃって」
「うっ……うぅ」
「まあまあ、大丈夫、大丈夫。そんなに泣いたら、その高価な着物にシミがついちまうわよん」
「うぅ……み、みず……ひっ」
「もう大丈夫大丈夫って。ほらほら、安心しなさいの~。目の前、顔上げてごらんなさい──」
「──何せ君は、最も幸運なことに、かの美しきエリート・ねずみ男様に出会え……、」
「み、『水木』さんっ……!!!──」
「──わ、わたくしは……あんな……あんなことをっ…………! ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」
「……なんて言いたいところで、なによなによ、なんなのよぉ~~……」
……ほれ見たことか。
御嬢のお求めは『水木』だかだとよ。
……この恨みは陰湿な方法でたっぷりお返ししてやっからな!!
顔も知らねぇ水木とかいう旦那ぁ!!
………
……
…
◆
妖魔『狂骨』────。
……おれぁ別に豚骨だの牛骨だのラーメンの話をする気はさんさらねぇ。
今から語るのはな、『哭倉村』なんていう僻地に咲いた────哀れな一徒花にまつわる話だ。
「…………アンパン、食べる? あたしの食べかけだけども」
「……っ、申し訳ありません。いただきます……」
「あらま一口で!(※しかもおれなんかの食いかけをまあ!)」
「…………、っ…………」
哭倉村ってのはな、『人里離れた』なんて生易しい言葉じゃ足りねえほどの、険しい山奥に隠された秘境だ。
文明の恩恵なんざ、露ほども届いちゃいねえ。
そこを龍賀という(おれさまが大嫌いな→)成金趣味の特権階級が牛耳っていたわけだ。
全く……、経済発展が瞬く間に進む昭和のこの御世にだぜ?
一つの家系が集落の根幹を握り、絶対的な権力として君臨してるなんて、平安時代じゃあるまい。
笑わせる話だろ!
(……ちなみに漏れ聞いた噂じゃ、その龍賀の御偉方たちは、おしろい塗りに白装束、本当に平安の亡霊みたいな格好をしてやがったらしいぜ! ヒヒヒ……)
だがな、どれほど腐敗した土壌であっても、清らかな花が芽吹くことはある。
──哭倉村における実質的紅一点。
それがこの、────『龍賀沙代』だ。
今、俺の隣で必死にアンパンを咀嚼している、この可愛らしいお嬢様がそれってわけだな。
「…………水木、さん……」
「……」
ここから先の話は、いささか眉唾(まゆつば)ものだぜ。
不可思議不謹慎意味不明。はっきり言ってマジメくんが聞くもんじゃねぇぞ?
それでも聞きてぇってんなら、唾液の準備してから聞くことをおれぁオススメするぜ。
龍賀の連中は、田舎者の分際で底知れぬ野心を抱いてやがった。
あろうことか『幽霊族』の身体を実験台に供し、『M』というM薬まがいの代物を開発しやがったんだ。
それで敗戦国となった日本を再び再興させよう、なんて大義名分を掲げていたらしいがね。
……愛国心なんてこれっぽっちもありゃしねえくせに、大層なもんだぜ。
素直に『金が欲しい』って言やあいいものを。けっ!
そうそう、
幽霊族と言やあ、あの憎たらしい鬼太郎小僧も確かその末裔だったはずだが……、アイツがこれを聞いた日には、一体どんな顔をするものか。
……ああ、きっと──…………何もしねえだろうよ。あのクズは。
話を戻すぞ。きっしょく悪ぃ話はこっからだぜ。
おまけに血も汚れてやんのな、その龍賀の皆さんは。
なんと、龍賀の子供たちは、その歪な野心のために当主のジジイへ『ご奉仕』を強いられるのだという。
……すなわち、この沙代のお嬢さんも、……『ご想像にお任せする』ような、忌まわしき辱めを受け続けてきたってわけだ。
だからこそ、沙代のお嬢さんは渇望し、待ち続けた。
いつ終わるとも知れぬ永劫の時を、たった一人で耐え忍んできたんだ。
村人共がカブトガニみてぇにチューチュー実験で吸われてる地獄絵図。
その血みどろの渦中で、お嬢はずっと、喉を掻き切らんばかりの叫びを押し殺していたんだとよ。
────“誰かわたくしを……この村から連れだして────。”
……健気な話だこりゃ。
「そんじゃま、そろそろ行こうじゃないの。ほらお嬢さん」
「…………行けません」
「あぁ?」
「……わたくしには、……合わせる顔など、もうございません…………。わたくしは、わたくしは……自らの手で……み、水木さんのっ…………ことを……──」
「バァカ! 誰がそいつに会うなんて言った!? 冗談じゃねぇ~ぞこの小娘が!」
「…………」
「……あらやだ、ごめんなさい~。今の暴言は綺麗さっぱり忘れて! ね? お嬢さん!」
「……はい」
つまりは皮肉な話だな。
沙代のお嬢さんは『殺し合い』によって、雁字搦めから自由の身となってるわけだ。
お嬢さんは全てを知り、自分の邪魔する一族を皆殺しにしたうえ、その最愛の『水木』の旦那。
──自分を連れ出そうとしてくれた、東京からの使者者までも、狂乱の果てに手にかけようとしたんだ。
その後の経緯はもう支離滅裂、知ったかめっちゃかよ。
その水木の首をひねろうとした瞬間、誰かに突かれて絶命し、気が付いたら死んだ筈なのに殺し合い。
今に至るってらしいぜ?
な?おれが言った通りだろ?『眉唾もの』の話って。
怪奇、不可思議、意味不明。
専門家でも茶濁して汚濁湯にするオチが、沙代のお嬢さん──そのすべてってわけだ。
だが、そのうえで言わせてもらうぜ。
『意味の分からん話は信じない』
『わけのわからぬものは口に入れない』
テメェらのような鼻持ちならない真面目くんの言い分は、平時ならもっともだろうよ。
──だがな!!
──そんなお上品な懐疑精神なんざ、この激動の殺し合いじゃあ、命をドブに捨てる甘ちゃんな考えだってことを肝に銘じなッ!
「ほら立って立って。いつまでも座ってちゃ、日も暮れて仕方ないわよん」
「…………本当に申し訳ありません、何から何まで。ねずみ男さん……」
「いいのいいの! アタシ、ボランティア精神の権化みたいな男でしょ? 貴方みたいな『ビビ~ッ』と来るお嬢さんを前にして、素通りできる性格はしてないのよね~~~」
「…………はい」
「よし! ……んじゃまぁ~そういうことで。──」
「──ほら」
「……え? “ほら”、とは………」
「あぁ~~もう! 美人に限って察しが悪いのね、このお嬢さんは!!」
右手をすっと、優雅な角度で差し出すおれさま。
その掌の意味するところに、「これに掴まって立ちなさい」だの「友情の握手」だのといった温い情緒は含まれちゃいねえ。
……金だよ。銭。
先ほど振る舞ったアンパン代。
時価と手間賃を上乗せして、ざっと五百円が定価ってもんだ!
「ん! ん!! ん!!」
「……申し訳ありません。……あいにく今、懐には一銭も……」
つ~まりは、こういうことだ。
いいか、耳の穴をかっぽじって、おれさまの至言をよく聞きやがれ!
極限状態とはすなわち──なにもかくにも、自分の内たる『栄養素』が失われているということ……!
すなわちは利用! 話を畳んでいえば生存=利用の数々!
殺し合いだの皆殺しだの願いの報酬だの、全部おれには知ったこっちゃねぇ。
あるのは今日の飢えを凌ぐための算段。
あるいは輝かしい未来の栄養補給へと繋げる不断の努力のみだ!
すなわちね。はい。
「ん!!! ん!!!! んん~~~!!!!」
「…………後日、後日どうにかお支払するので……どうにか勘弁を……」
「お支払い?!! 何でよ!? 貴方、まさか『お金』以外で清算しようだなんて考えてないわよねぇ!? もう、ゲスな下心は勘弁してちょうだい、恥ずかしい~~ッ!!」
「そ、そんなつもりでは……っ!! ……本当に、申し訳ありません。──」
「──……あの、ねずみ男さん」
「な~に、まだ言い訳が足りないのかしら、このお嬢さんは!」
「…………さっきから、何故──わたくしの『背後』を……ちらちらと見ていらっしゃるのですか? 何か、そこに居るのですか…………?」
──その背にたっぷりとした『怨霊』と『狂骨』を纏っているこの娘を、
──特級のボディーガードとして利用できる、
──この幸運よ────……。
……おっと、これ以上は野暮ってやつだな。
俺様はどうにも長話が過ぎるのが玉に瑕なもんで。ヒヒヒ……!
【ねずみ男@墓場鬼太郎】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品×2
[思考]:
1:殺し合い?! 誰が政治をしとるんだ!
2:こんな殺生なゲームを企画した政治家に文句を言いつつ、隙あらば利権に預かろうとする。
3:沙代の背後の「狂骨」を、一銭も払わずに済む最強のガードマンとして運用する計画。
4:にしても水木……どこかで聞いたようなないような~~……?
【龍賀沙代@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎】
[状態]:精神不安定
[装備]:不明
[道具]:不明支給品×2
[思考]:
1:自らの手で首を絞めようとした水木に対し、一度でいいから顔を見て謝罪したい。
※参戦時期は死後。
最終更新:2026年02月11日 19:25