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ベリアルが始めたこの催しに、老若男女の区別はない。
幼い子供や末期患者同然の老人は、かわいそうだし巻き込まないであげよう。
などと欠片程の憐憫を、狡知を司る星晶獣が持ち合わせる筈はなく。
そもそも罪悪感に突き動かされる性質ならば、殺し合いを始める選択肢からして存在しない。

「馬鹿……!馬鹿……!ふざけるな……!!」

木々の微かなざわめきだけが時折聞こえる、夜の静寂に泥を掛けるような声。
喚き散らす正体は、老人であった。
垂らした長髪も蓄えた髭も老い故に色が抜け落ち、瓢箪のような鼻には特徴的な斑点。
枯れ細った体躯を着物で隠し、老人は降り掛かった理不尽に憤りを見せていた。

「巻き込むな……!ワシを参加者側で……!用意するならば奴隷のような首輪ではなく……!高みの見物に洒落込む椅子だろう……!」

大勢に殺し合いを強要する事への怒り、ではなく。
自分を運営側に招かず、一参加者へ落とし込んだ事への怒りがあった。
真っ当な感性の者が聞けば、脳にまで老いが進行し気が狂ったと軽蔑を吐き捨てるだろうがしかし。
老人が何者かを知る者であれば、舐めた口を聞く度胸すら霧散は確実。

この老人、名を兵藤和尊という。
日本最大級と言っても過言ではない巨大コンツェルン、帝愛グループの総帥。
大々的な宣伝を行い、知らぬ者はいないとされるまであるもその実。
暴利は序の口、あらゆる手段を用いて債務者を地獄の果てまで追い詰める悪質さ。
駆け込み寺などとんでもない、破滅へ導く魔窟。
闇金が裸足で逃げ出す城の頂点に君臨するのが、何を隠そうこの兵藤なのだった。

「凡愚(クズ)どもの喚きふためく醜態を眺める……!その権利はワシのものに決まっておろうが……!青二才め……!」

とはいえ、蒼穹が舞台の殺戮遊戯では帝愛グループ総帥の肩書は微塵の役に立たない。
兵藤の暴君が如き振る舞いが許されたのは偏に、金と権力があってこそ。
絶対的権威を毟られれば、後には癇癪持ちの老人が一人だけ。
武力や知力に特別秀でてもおらず、念で相手を殺す異能など以ての外。
とどのつまり、ただのおじいちゃんでしかない。

「カカカ……!しかし天はワシを見捨てていなかった……!クズどもにはないこの『運』こそ……!ワシが神に選ばれた者である何よりの証明……!」

金は奪われ帝王の玉座からも降ろされ、それでも失わなかったのは『強運』である。
参加者共通のデイパックを漁り、手に入れた支給品は間違いなく『当たり』に分類されるだろう。

「世界(ザ・ワールド)……!いい……!実にいい……!正にワシの為にこそあるべき力よ……!」

円盤状の物体、説明書にはスタンドDISCと書かれたソレを頭に入れたのがついさっき。
そうして手に入れた力が、兵藤の傍らへ立つ黄金の拳闘士。
ザ・ワールド、とある吸血鬼が「世界を支配下に置く」と豪語したスタンド。
並外れた破壊力とスピードもさることながら、最大の特徴は時を止める能力を有すること。
試してみれば記載に偽りはなく、夜風の奏でる音が完全に停止。
宙を舞う葉が一時停止のように留まる光景に、兵藤が抱いた高揚感たるや言葉だけでは到底表せまい。

帝愛の力を以てしても実現不可能な、時間をも操る術を手中に収めたのだ。
これはつまり、天がザ・ワールドを使い勝ち残れと言っているのと同じ。
銃だナイフだを引き当てはしゃぐ凡愚(クズ)どもの、何と哀れなことか。
所詮奴らは兵頭に足蹴にされ、屍と化し優勝への道を舗装する為に集めた贄。
兵藤という王へ命を捧げる、ただそれだけの存在に過ぎない。

「良いだろう……!今は参加者の立場に甘んじ、勝利してやろう……!事が済んだ暁には貴様を蹴落とし……!ワシの娯楽で使い潰すぞ……!青二才……!」

優勝への確信を抱き、今も自分を見下ろすベリアルへ宣戦布告。
ザ・ワールドが手に入った事はともかく、自身を奴隷同然に扱ったのは許し難い。
全てが終わった時には必ずや、腹立たしい笑みが崩れる程の報復を決意し――





「――――――っ!?」





ゾッと、久しく味わう事のない感覚が襲った。
自身の命が脅かされる気配、心臓を鷲掴みにされたに等しい苦しさ。
死が、間近にせまりつつある恐怖。
体のどこを見ても危害は加えられてない、掠り傷すら付いていないのに。
細胞全てが激しく警鐘を鳴らし、急かすように痛みを与えた。

「き、貴様は……」

バネ仕掛けを思わせる勢いで振り向き、兵藤の瞳が捉える。
いつの間にやらそこへいる、自分以外の参加者を。

刻まれた深い皺と蓄えた髭は、相手が老爺である何よりの特徴。
なれど、兵藤とは明らかに異なる。
両腕は丸太のように太く、筋骨隆々の四文字を当て嵌めざるを得ない。
恰幅のいい体格とて決して肥満体に非ず、巌の如き頑強な筋肉の鎧を纏うが故だ。
戦場帰りの老兵、そんな安直な表現は生温い。
今尚前線に立ち敵兵を骸の山に返る者と、そう言われても納得を抱きかねないプレッシャー。
王冠に似た装飾の下で、隻眼が真っ直ぐに兵藤を射抜く。

自身が従える黒服を百人束ねたとて、指先一つ触れられず地に伏せるんじゃあないか。
ゴクリと緊張で唾を飲み込む音が、いやに大きく聞こえる。

「フン、蟻どもの中でも特に矮小な類か」
「なにっ……!?」

聞き捨てならない呟きを、兵藤の鼓膜は確かに拾った。
冷め切った、人を人とも思わない顔で。
目の前の老爺は自分を、選ばれし地上の支配者たる兵藤和尊を指し蟻と抜かしたか。
仮に部下の失言だったら粛清は確実、地下送りや地位の剥奪程度では済まさない。

「貴様……!よりにもよってこのワシを、クズと同類に扱うか……!」

怒りを宿し睨み付けるも、老爺の反応は非常に薄い。
足元へ空き缶が転がって来て、邪魔に思う程度の。
心底どうでも良さげな表情が、余計に兵藤には腹立たしい。
今しがたの呟きだって、挑発の意図を籠めたのではない。
どうでもいい奴が現れたと、独り言ちたに過ぎないのだろう。

(屈辱……!圧倒的屈辱……!)

見下ろし、嘲笑い、機嫌一つで生死すらも左右する。
それらは全て、支配者たる自分だけの特権。
にもかかわらずベリアルもこの老爺も、我が物顔で行使しているではないか。
許せない、許せるものじゃあない。
跪かせ、徹底的に己が立場を理解させねば気は晴れそうもない。

顎でこき使う黒服どもは傍らにおらず、仮にいても無駄に終わったのは想像に難くない。
老爺が担いだ巨大な斧の一振りで、血肉の海が完成するだけだ。
だが問題無い、今の自分には時すらも支配する力があるのだから。

「カカカカカ……!身の程知らずめ……!貴様がクズの奴隷でワシが王……!変えられぬ差も理解出来ぬならば致し方なし……!」

頬を吊り上げ、狂気を絵に描いた笑みを浮かべる兵藤は気付かない。
王、その一言へ老爺が僅かに眉を顰めたのに。
気付かぬまま、勝利への言葉を紡ぐ。
一度の工程を挟めば、後はもう自分の思うがまま。
兵藤ただ一人に許された世界で、老爺に制裁を下すのだ。

後で後悔しても遅い。
奴隷の分際で王に楯突く愚鈍へ、掛けてやる情けは無し。

「世界(ザ・ワールド)……!時よ止ま――――――あえ?」

何か、猛烈な違和感を感じた。
鼓膜が拾った奇妙な音は何か、頬に掛かった謎の熱さは何なのだろうか。
急に体が軽くなった理由は、一体何だという。

何故距離の離れていた筈の老爺が、目と鼻の先に立っている。
視界の端で地面に転がるアレは、見覚えのある着物に袖を通したのは――

「あ゛っ……あ゛っ……あ゛っ……あ゛ぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!??!!」

絶叫、喉が枯れん程の叫びを兵藤は発す。
狂ったように暴れ回る体にはもう、右腕が存在しない。
杖を握り、黒服達を散々殴り付けた肉体の一部の行く末は。
地面へ転がり、草花を赤く彩っていた。

「う、うで……!ワシのうで……!」

左手で必死に傷口を押さえるも、出血は止まらない。
のたうち回ろうと痛みは消えず、まして右腕は生えるわけがない。
何が起きたのか考える余裕すら失われたが、答えを明かせば難しい話じゃなかった。
ザ・ワールドの力で時を止める寸前、兵藤の意識が追い付かない程の速さで老爺が接近。
斧を振り下ろした、言ってしまえばそれだけ。

「いだ、い……痛いぃいいいいい……!!ひっ、ひぃいいいいいいいいい……!!」

これが、これが泣く子も黙る帝愛グループ総帥の姿か?
止まらぬ出血に泣き喚き、左手を真っ赤に変えながら傷口へ押し付け。
殺虫剤を吹きかけられた虫のように、暴れ回る姿は。
嘲笑を通り越し憐憫を見る者に抱かせ、いっそ一思いに楽にしてやる方が救いになるとさえ思うだろう。
両足で立ち上がる事も忘れたように、体中を動かしその場を遠ざかろうと藻掻く。
自身へ逆らう不届き者への罰など、痛みの前には塵同然。

「逃げ切れると思うか、儂から」

が、見逃してもらえるかは別。
逃げ道を塞ぐように立った老爺が、絶対零度の瞳で兵藤を見下ろす。
王の玉座を追われた老人を、処刑人さながらに射抜く。

「儂から逃げるとは即ち、死から逃れようとするも同じよ」
「な、なにを……」
「しかし恥じる必要もない。死は全ての生物に等しく訪れる終焉であり、恐怖の象徴。恐れ、遠ざけようと足掻くのは当然のことだ」

老爺の目には、何の感情も宿っていない。
嘲るでも哀れむでもなく、ただ兵藤を見ている。

「だがな、どれ程の手を尽くしても死は必ず訪れる。逃れる事の叶わぬからこそ、死は死なのだ。貴様が儂から逃げられんようにな」

斧が振り被られる。
時を止める猶予を与えはしない、抵抗など欠片も認めない。
生物にとって死は当たり前、善悪関係無しに訪れる必然の結末。
なれば確かに、老爺が感情の揺らぎを一切見せないのも納得だ。
自らを死と同義だと言うのであるなら、兵藤へ振り下ろした刃に乗せたのは。
最後の時が来たのを知らせる、その一点に過ぎないのだから。

「い、嫌じゃ……!ワシはまだ……」

死にたくない。
多くの命と尊厳を踏み躙り、弄んだ悪辣愉悦の王が零したのは。
酷くありふれた、どこまでも人間らしい言葉だった。



【兵藤和尊@カイジシリーズ 死亡】




デイパックを回収すると、頭部の無い死体に背を向ける。
荷物持ちなど本来なら臣下の仕事だが、ここにいるのは自分だけ。
つまらなそうに鼻を鳴らす様子に、今しがた一人殺した事実への動揺はない。
兵藤へ言ったのが全てだ、自分が立ち塞がるのは死を前にしたも同じ。
であれば己が与えた幕切れに、後悔を抱くのもおかしな話だろう。

「仮にも死合を謳っておきながら、用意したのがこのような蟻では程度が知れるわ」

弱い、脆い、呆気ない。
兵藤へ抱いたのはそんな感想ばかりで、魂を震わせる程のものは無し。
何かしらの力は持っていたらしいが、隙だらけではどうぞ殺してくださいと言ってるようなもの。
死神どもと違い、戦における心構えをまるで理解していなかった。
別段、戦闘に意欲を見せる『6』や『5』の同胞に同調したつもりはないが。
己を巻き込み、宛がったのがこれでは肩透かしもいい所。

とはいえ、ベリアルの持つ力は本物だろう。
消滅した自分自身がここに立ってる事実だけで、その異様さが覗える。
首輪を付け一方的に命じるのは、心底腹立たしい。
だが今以上の力を手に入れる機会を、捨てる気も皆無。
勝ち残れと言うのが望みとあらば、屈辱を抑え暫くは奴の思惑通りに踊ってやる。
最終的に報復は済ませるが、一番に怒りを向ける相手はベリアルではなく。
まして自分に滅びを与えた肥満体の術師でも、手を組んだ死神でもなかった。

「藍染惣右介……」

名を口にし、歯が砕けん程に噛み締める。
己の城に土足で上がり込み、隷属を突き付けた許し難き男。
圧倒的な力の差へ狂いそうな程の怒りを飲み込み、配下となった瞬間の憤怒は未だ健在。
殺す、あの男だけは必ずや殺す。
そうして今度こそ虚圏の、いやさ現世と尸魂界も入れた三界を治める王として君臨する。
世界は我が足蹴にされる為にある、王たる己が屈辱へ揉まれたまま死する末路など断じてあってはならない。

「待っていろ藍染……儂が戻った時それは、貴様の死が突きつけられたと思え……!」

老爺もまた、兵藤と同じであった。
我こそが王…否、神であり世界全てが己の城。
絶大な力で屍者の帝国を治め、ある日呆気なく玉座を奪われた。
奴隷の立場に甘んじながらも牙と憤怒を研ぎ澄ませ、果てに呆気なく死んだ。
最後の最後まで、自身の怒りが憎き相手へ届かぬまま。

報復と支配、二つの願いを実現させるべく王は往く。
内に秘めるのが、殺したばかりの老人と然程変わらない。
迫る死から逃れたいという、ちっぽけで人間らしいモノであるとは決して見せずに。


【バラガン・ルイゼンバーン@BLEACH】
[状態]:健康
[装備]:バラガンの斬魄刀@BLEACH
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品×1~5(兵頭の分含む)
[思考]:優勝し更なる力を得て、藍染を殺す。
1:参加者を探して殺す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。

※会場のどこかに兵藤の頭から飛び出たザ・ワールドのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険が落ちています


『支給品解説』

【ザ・ワールドのスタンドDISC@ジョジョの奇妙】
破壊力 - A/スピード - A/持続力 - A/射程 - C/精密動作性 - B/成長性 - B
DIOのスタンド、ザ・ワールドが封じられたDISC。
頭部に入れるとザ・ワールドが使用可能になる他、時間停止も発動可能。
但し、初期の停止時間は最大2秒で固定。
使用者の精神次第では更に伸びる可能性がある。

【バラガンの斬魄刀@BLEACH】
支給品ではなく、バラガンが破面化の際に虚としての力の核を刀剣状に封印したもの。
謂わば魂魄の欠片であり、没収は免れた。
死神の斬魄刀とは根本的に作りが異なり、魂魄の浄化などは不可能。
単純な武器としての使用以外に、破面が刀剣解放(レスレクシオン)を行う際に必須の鍵となる。
形状は大斧であり、本来は骨組みの椅子を配下が組み立て直し斬魄刀に変える。
本企画では最初から大斧に組み上がった状態で使用可能に調整されている。
最終更新:2026年03月13日 22:51