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 世の理には常々、『危険な食い合せ』──というものがあるそうで。
フリーレン様が変なものを口にしないよう栄養管理をするのも、私の切実な義務となりつつありました。


「バトル・ロワイアル……か」

「ええ」

「私は非効率な争いは好まないな。さっさと済ませて一目散にベッドの気分だよ。ふぁあ~~」

「“さっさと済ませる”とはどういう意味合いで?」


 私の名前はフェルン。
隣で締まりのないあくびを漏らしている『王者の余裕』──その具現化が師・フリーレン様です。
ハイター様を看取ってから八年。。魂の眠る地《オレオール》を目指していた私たちは今、殺し合いというものに参加させられています。
……現在地は暗い森の中。無意味な鳥籠に幽閉下。
──ココこそが魂の眠る地なのだしたら、あまりの脱力に、酒でも浴びないと眠れないことでしょう。


「……で、“さっさと済ませる”とは? 返答次第では怒りますよ? グーで、怒ります」

「ふっ。せめて魔法で折衝してほしいな。──」

「──……知りたいんだ、私は。──『お風呂入っても服ビショビショにならない魔法』。──その魔導書を……」

「そんなモノのために葬られる参加者が哀れです。……あと念のため確認ですが、服が脱げる仕様なのをご存じで?」

「全部冗談だよ。ごめんて」


……あ。
ハイター様が『アルコール中毒だった理由』って、そういう…………。
意図せずして、予期せずして。
聖職者の死因と、フリーレン様の服が常に微かな残り湯の香りを漂わせている原因が分かった──今。
かなりポジティブな言い様になりますが、これはもう、この凄惨な『バトル・ロワイアル』がもたらした賜物。
つまりは『奇跡』ということになります。


「…………恐れ入りますよ、ほんと……」


……あまりにも対価と見合っていない奇跡ではありますがね。

さて、いささか強引な話し初めとなりますが、私は──『二つ』の『奇跡』を身に受けることとなりました。
常日頃から思ってる事ですが、奇跡とは強制的な消耗品です。
──すなわち、自らの意志で備蓄を切り崩すように繰り出せるものではない。ままならないものです、この世というものは。
人々はよく口にしますね。
「窮地に限って奇跡は起きない」
「真に絶望している時に限って、ひどく矮小な奇跡が起きる」……。
──私も心の底から打ちのめされてた時、湯飲みの茶柱が花を咲かせてた経験があるので、痛いくらいに気持ちが分かります。
ただ、仮に、腕の動かぬ復讐者と、追い詰められた仇敵が相まみえたとして。
両者が共に「奇跡よ起これ」と祈った場合、神様とて裁定に窮するはず。
天界の視点に立って推察すれば、奇跡の配分というものは案外、妥当なところに落ち着いているのかもしれません。

……話が逸れました。
私の身に起きた『二つの奇跡』は、それこそ涙なしには語れぬ物語となります。


「────っ! …………」

「ん? どうしたフェルン。鳩がゾルトラークを喰らったような顔をして」

「死に顔どころか跡形も残ってないでしょう、ソレ。…………いえ、別に」

「……別に、か」


 一つ目の奇跡は、言うまでもありません。
──私の師匠・フリーレン様と、この会場内で再会できたことです。
開始前、主催者は「参加者はランダムに配置される」と説明していましたが、知己との邂逅はまさしく一瞬。
満月が暗雲に覆われるよりも前に、早々フリーレン様と出会えることができました。
時間にして僅か三十分。
フリーレン様にとっての百年とは、このような体感時間なのかもしれません。


──そして、二つ目の奇跡が訪れたのが──、

────もう間もなく。


「────っ! …………」

「……なぜ、私のマネをしたんですか? 猿真似をして小馬鹿にするほど、今のやり取りがツボに入りましたか?」

「…………ごめ─」

「その四文字さえ口にすれば許されると思っているあたり、まるで魔族のやり口ですよ」

「そこまで責められるほどの悪行かな。──」

「──……ただ、『魔力』を察知しての発言なら、流石の私も加点せざるを得ないね。──」


「────私たちに急接近している『魔族』の、ね……ッ」

「……ええ」

 ……実を白状しますと、私はフリーレン様よりも先に、『一人の参加者』と遭遇していました。
邂逅に要した時間は、僅か零秒。
満月が開始の合図を告げるよりも以前、目を覚ました瞬間に、です。
……魔力探知を働かせるまでもありません。その少女は、あまりにも明白に『魔族』でした。
ただ、私は比較的平和主義……というよりも、開始早々に無駄な体力を使いたくなかったため、対話の末に一つだけ忠告を授けたのです。
「“あなたがゲームに乗るのは勝手ですが、これだけは聞いてください”」
「“フリーレン様と戦おうとしないで。逃げなさい”」
……らしくもありませんね。日和見主義もいいところです。
残酷な言い方になりますが、今思えばあの時、即座に《一般攻撃魔法》で楽にさせてあげた方が、彼女にとっても幸せだったのかもしれません。


ええ、
──まさか、


ガサ……

「…………フェルン、魔族は好きかい」

「疑問形にしたところで、ご希望以外の答えは求めてないでしょう」



──その『魔族』が、


 ガサッ、ガサ……

「……任せたよッ」

「…………承知しました」



 ガサッ────

「「…………!!」」




「は~っはっはっはっは!! 月がきれいだアイ・ラブ・ユーっ! だが見惚れてる暇はないぞ人間どもっ! 満月の映える夜は……我ら闇の一族の、血湧き肉躍る合図なのだからなあっ!!」



「……………ん?」 「……あ」



──こんなにも綺麗な即落ちで、フリーレン様の前に相まみえることになろうとは──────。



「私の名前は『シャドウミストレス優子』っ!! 魔族の誇りを……このバトロワを借りて……(正直やりたくないけど)見せつけてくれるわぁあああああああああああ─」

「──あ。………………あっ、」

「…………」 「………………」

「……あぁ……」


……これって、色んな意味で『奇跡』と呼んで差し支えないですよね?



………
……

♪BGM
【♪別名:シャドウミストレス一族終焉のテーマ】

「…………ぁ、あの…………っ、そ、その………」


 ……魔族の、
『シャミ子』様の、この世の終わりのような顔と正座姿を見下ろして。──鬼は淡々と感想。


「バカみたいな服装だな」

「ひっ!!!」 「いやド直球すぎませんか?」

「……しかし驚いたよ。アウラですら、これほどまでに『機能性』と『羞恥心』を天秤にかけて、両方をドブに捨てたような格好はしてなかった。魔族の進化系統は、一体どこでバグを産んでしまったのだろう」

「…………ひ、ひぃいい……」 「長々くしようと直球は直球なんですよ、フリーレン様」


「さて、──魔族だっけか。君は」

「……ひ、ち、ちちちち、違います!!! ほ、本当に私は魔族じゃありませぇん!! マゾク、ウソ、ツカナイ!!!」


 ……シャミ子様が、
必死に隠そうとしてるフリフリとしたしっぽを見て。──鬼は殺意の形相を一段階引き上げる。


「……制御できないのかな、その尻尾は」

「え?! えぇっ!!? あ、あぁ~~! こ、これは私のペットの黒猫ちゃんのでしてぇ~~! もう何度ポマードといっても躾ができなく困ったものです~! あは、あはははは……」

「…………」


 ……シャミ子様の、
隠そうともしていない頭のツノを見て。──鬼は、いっそ邪悪とも言える笑みを浮かべた気がした。


「……じゃあそのツノは?」

「え゛。……………………めぇ~~」

「なるほど、君は羊なんだね」

「……フリーレン様、もうその辺にして差し上げてください。いたたまれません」

「…………めぇ」


 ……もう、眼がダム決壊化している哀れな子羊──まぞくさん。
『魔族』とは本来──人の形をしただけの獣。
平穏を望まず、善良な人間を欺き、裏切り、自らの権力を誇示するためだけに生きる、言葉の通じない『泥人形』…………とはフリーレン様のお言葉ですが。
──流石の鬼も、このあまりに脆弱なお人形遊びには飽きが来たようです。
────杖を、かざしてました。


「────私は羊が嫌いだ」

「あぁぁぁびええぇぇぇえええええええ~~~~~~~~!!!! ゴメンナサイゴメンナサイ!! せめてお慈悲として、物凄く楽で、しかもごはん三食付きの天国キップつきで介錯お願いしますぅうううう!!! 本当に申し訳すびばせんでじだぁぁぁあああ~~~~~~~~~~~~!!!!!──」

「──うっはぁあああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んんんんんん!!!!!!!!!!」


「……ちょっとフリーレン様。もう、いいでしょう……」

「分かってるよフェルン。重い冗談だよ」

「冗談は常に軽めが大人なのです。……うちの師匠が申し訳ありません、シャミ子様。信じられないでしょうが信じてください。貴女のことは殺しません」

「うぅ……うっ、うっ…………!! お慈悲を~~お慈悲を~~恵まれない子供たちに温かな食事を~~~!!!」

「…………もうっ、フリーレン様ったら」

「ごめんて」


 まぁ、これまでの経緯が経緯ですから。
フリーレン様の魔族に対する積年の過去を鑑みれば、これほどまでにシャミ子様を精神的に追い詰めてしまう心境も、理解できなくはありませんが……。
とにかく、鬼を相手にしても必死で請い願えば、一応の慈悲が与えられることが分かっただけでも、大きな収穫と言えるでしょうか。
事態がそこそこに穏便な方向へ転じましたので、ここで改めて解説を。

 シャドウミストレス優子──本名:ヨシダ・ユウコ様。
私たちが遭遇したこの魔族は、これまでの魔族の定義を根底から覆すほどの、『異様な個体』でした。
半魔、あるいは半人間……とでも言うのでしょうか。
ある日突然、不可抗力でそうなってしまったらしく、その超温厚な性格に反して、不本意ながらも魔族としての活動を強いられているようです。
特筆すべき点は、その、あまりにも……あまりにも貧弱な魔力でしょうか。
通常、魔族とは己の権力を誇示するため、常に莫大な魔力を見せびらかす種族ですが、……シャミ子様は、その…………。
……あの、もしかして、この『霞』みたいなのが魔力なのでしょうか。


「…………うえぇ~~~ん!!! フェルンさん助けてくれてありがとござびばずぅぅ~~~~~~~~!!!」

「いえいえ、そんなお礼なんて……」

「しかし、すごいものだ」

「は?」

「この魔族……どうやっても魔力探知には霞ほど引っかからない。卓越した魔力の操作技術だね。……この年で、一体どれだけの研鑽を積んだんだ?」

「……え?! フ、フリーレンさま、今私の事……卓越って……!! ほ、褒めていただけたのですか!!? フ、フリーレンさまにもありがとござっばぁす~~~~~!!!」

「死体蹴りの皮肉で蘇生。フランメ様の求めていた蘇生魔法が、今ここに…………」

……それにしましても、フリーレン様のシャミ子様に対する当たりは、流石に目に余るものがあります。
もはや、人格そのものが変質していませんか。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」とはよく言ったものですが、フリーレン様がヒンメル様一行との旅路で、どれほど魔族に恨みを募らせたのか……想像するだに恐ろしいです。
……ですが、まぁ、

 ファサ……

「え……。服……?」

「シャミ子、夜は長い。その服装じゃ肌に染みるよ」

「…………ぁ、ぁあ! ありがとございますぅ~~~~!!!(あ、噛めずに言えた!) 私、『オンリーストレス優子』になってたところに、救いの慈悲ですよ~~~~!!!!」

「…………」


……表面上、あくまでも表面上のことではありますが。
――この哀れな魔族に対し、いくらかの配慮を見せている点。


ヒソヒソ、ヒソヒソ……

「……見てられないの精神。……もしかして、アウラとの戦闘時も、あの服装のことだけ考えてたんですか?」

「バカなことは言わないでくれ。あくまでシャミ子は研究対象。興味の一環だよ」

「その発言が建前か本音かで、私がどちらの味方に付くか変わりますが」

「……それに」

「それに?」


「────ヒンメルなら、そうした。……それだけだね」

「………………フリーレン様……」



──フリーレン様もシャミ子様へ、何か思うところがあるのでしょう……。



「いや、シチュエーション的にだいぶ最低な引用じゃないですか」

「ごめんて」 「あ、フリーレンさまだけに頭を下げさせられません!! ここは私も! 申し訳ありません~!! フェルンさん~~~~!!」

「…………」



背景、ハイター様。
──前置きとして、天国では食い合わせにご注意を。


──私たち三人は、もしかしたら『奇跡』を起こせるかもしれません。

────この二日という、エルフと魔族にとっては、あまりにも短すぎる刹那の中で。

──……もしかしたら。




……
………


「……シャミ子、──『ゾ』」

「へ?」

「──『ル』」

「ちょっとフリーレン様……」 「る、る??」

「──『ト』」

「……あ。よく分かりませんが……本能的に止めなきゃまずい感じですよねぇ~~!?!? と、と~……と、『統計的因果分析』!! はい『き』ですよ! 『き』!」

「キキーモラ。──『ラ』」

「あ、あぁあぁぁ!!! まずいまずい!! なにがまずいのか分かりませんが、そのスマイルでヤバイ傾向は察知しましたぁ!!! はい『ラモス瑠偉』!! 『い』ぃ~~~!!」

「…………『ア』」

「いやルールは守りましょうよルールは!!? あぁ神様仏様ご先祖様お稲荷様ぁぁ~~~~~~~~!!!」

「そもそも何の勝負ですか?」

【フェルン@葬送のフリーレン】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品×2
[思考]:
1:フリーレン様の暴走を止められるのは私しかいない。
2:シャミ子様を(物理的・精神的・倫理的な)意味で守る。

【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品×2
[思考]:
1:この非効率な殺し合いの仕組みを打破する。
2:そして、魔族の真理について知る。
3:多く仲間を募って奇跡を起こす。柄ではないがたまにはいいだろう。
4:ヒンメルに失望されない行動を取りたい。
5:がんばれシャミ子。ずぼらでわがままな私をどうか許してほしい。

【シャミ子@まちカドまぞく】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品×2
[思考]:
1:フリーレンさまとフェルンさんに一生ついていきます!
2:なんなら『自害しろ』と言われても喜んで!! 定規を首に向けて、できる限り命令に果たします!!(……嘘です~……! やっぱ死は一番怖いです~~!!!)
3:それにしても『研究』ってなんでしょう……。しおんちゃんみたいなに謎の液体のまされるんでしょうか……。
4:これで勝ったと思うなよぉ~~~!
最終更新:2026年02月14日 00:36