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 「アイドル」
 それは わたし達の永遠の憧れ
 夜空に輝く星のように
 大地に咲く花のように
 みんなの心を熱く震わせて
 かなしさをやさしく包み込んで
 いつも笑顔にしてくれる
 そんな素敵な人になりたくて
 わたしは「初星学園」の門をくぐりました――


「どういうことなの!?」

 意識を取り戻した花海咲季は、立ち上がると開口一番に叫んだ。
 叫ばずにはいられない。学生寮の布団で眠りについていたはずなのに、いつの間にやら森の中である。
 周囲三六〇度に広がる森は鬱蒼として、付近に光源と呼べるものは何もない。

「あのベリアルって人の話、てっきり夢だと思ったけど……」

 右手で自分の頬をつねる。痛みに顔をしかめる。
 首に嵌められている首輪は冷たくて、少し息が詰まる。
 足に触れているものは、目を凝らすとデイパックだとわかる。
 とても夢とは思えないほど、咲季の思考は明瞭だった。

「夢じゃないならドッキリ? いいえ、いくらプロデューサーでもそんなことはしない……するはずがないわ!」

 口をついて出た思考を即座に打ち消す。
 咲季のプロデューサーは予想だにしないプロデュース方針を唱えることこそあれ、悪趣味な性格ではない。
 それに、たとえ性格面を考慮しないとしても、今このタイミングでドッキリを実行するはずがない。

「よりによって、H.I.F本戦の前夜に!」

 アイドル養成校の初星学園では、定期的に「Hatsuboshi IDOL FESTIVAL」通称H.I.Fと呼ばれるイベントを開催している。
 咲季は同級生の月村手毬、藤田ことねと共に、「Re;IRIS(リーリス)」というユニットで出場していた。
 そのイベントの本戦、雌雄を決する日の前夜に、咲季はなんとか心を落ち着かせて眠りについたのだ。
 もしこの現状にプロデューサーが関与していたら、人間不信まっしぐらである。

「でも、そうなると夢やドッキリじゃないことに……」

 それ以上口にするのは躊躇われて、咲季は口を噤んだ。
 ひとまず落ち着こうと思いデイパックを漁ると、出てきたのは鞘に仕舞われた日本刀。
 およそ日常とは縁遠い凶器に触れた緊張で、咲季の手は細かく震えた。
 襲い来る恐怖に呑まれまいと、咲季は刀を掴んだ手にぐっと力を込めて宣言した。

「こんな殺し合いは認められないわ! やめさせるべきよ!」

 もちろん具体的な対抗策は思いついていない。
 しかし、殺し合いに抵抗する気持ちを高らかに叫んだおかげで、弱気は吹き飛んだ。

「でも、これからどうしようかしら……」
「そこの女」
「ひゃっ!」

 不意に背後から声を掛けられて、咲季は短い悲鳴を上げた。
 勢いよく振り返れば、そこにはロングコートを着た長身の男が佇んでいた。
 咲季から誰何の声を上げるより早く、男は低い声で忠告を続けた。

「生き残りたいなら大声は控えろ。いたずらに目立つだけだ」
「わかったわ……って、あれ!」
「……遅きに失したか」

 草をかきわけるような音のした方へスマホのライトを向けると、そこにいたのは緑色の生物。
 ゴブリン。アニメや漫画の知識に疎い咲季でさえ、名前を思い出せるくらいにはメジャーな伝説上の生物だ。
 赤銅色の武器と防具を装備したそれが四匹、五匹と現れて、咲季と男を取り囲んだ。

「……囲まれたか。多少の知恵は回るらしい」
「どうしてそんなに冷静でいられるのよ……って!?」

 一八〇センチメートルを超える男を見上げて、咲季は抗議を口にした。
 取り囲んでいるゴブリンの一匹が、耳障りな鳴き声を発しながら咲季たちへ飛び込んできた。

「その刀を使わせてもらう」
「え? ちょっと!」

 咲季の制止を無視して、男は咲季の持つ刀を掴み取ると、いきおい抜刀して薙ぎ払った。
 中空に飛ぶゴブリンの生首。そのまま男はロングコートをひるがえして、すっかり動揺したゴブリンたちとの距離を詰めていく。そうして、わずか十秒足らずで五匹のゴブリンの頭を飛ばした。

「すごい……」

 血腥(ちなまぐさ)い現場を目撃したというのに、咲季は感嘆の声を漏らしていた。
 まるで水の流れるように滑らかで無駄のない一連の動作は、咲季を惹きつけた。
 刀を鞘に納刀して立ち去ろうとした男を、咄嗟に呼び止めたのはそのためだ。

「あの! わたし、花海咲季といいます」

 咲季の声に男は足を止めると、顔だけで振り向いた。
 男の無表情に気圧されそうになるが、深呼吸をしてから胸に手を当てて、こう告げた。

「この殺し合いをやめさせるために――」

 花海咲季はリアリストである。
 この殺し合いという現状を現実として捉えたとき、自分にできることは少ないと咲季は自認していた。
 かつてはアスリートとして、そして現在はアイドルとして、その肉体は高い水準で鍛え上げられているが、それはあくまでアスリートやアイドルとして見たときの話だ。
 ゴブリンの群れに太刀打ちできるわけでは決してない。

「――わたしに協力してくれませんか」

 そして、咲季は必要とあらば他者を頼れる人物だ。
 ゴブリンの群れを一蹴した実力者の男を、この場においては頼るべきだと即決したのである。
 男は要求を黙殺して、前方へと向き直る。
 咲季は男の背中に言葉をかけようとしたが、今度は男の声に遮られた。

「勘違いしているようだが、俺は誰ともつるむつもりはない」

 冷たい拒絶は聞こえなかったフリをして、咲季は男の説得を試みた。
 初対面の相手に対して、何をどう説得すべきなのか、その正解はわからない。
 だから、咲季自身の率直な気持ちを、そのまま伝えることにした。

「わたしには、勝ちたい相手がいるんです」

「これまで何度も勝負してきて、ついこの前、初めて負けた相手」

「今度は負けたくない……どうしても勝ちたい」

「それなのに、もしこの殺し合いで死んだら、二度と勝負できなくなる」

「それは絶対にイヤ!」

「だから……だから、お願いします!」

 咲季は男の背中に向けて、深々と頭を下げた。
 大声を注意されたばかりなのに、最後には叫ぶようにまくし立てていた。
 十数秒の沈黙の後、咲季はガチャリと目の前の地面に何か落ちた音を聞き取った。
 おそるおそる目を開けると、そこに落ちていたのは玩具のような銃。

「刀の代わりに使うといい」
「これは……?」
「いいか」

 銃を拾い上げた咲季の肩に手を置いて、男はこう告げた。

「追いかけてきたら殺す」

 そして、いよいよ男は振り返ることなく、その場を立ち去った。
 咲季はしばらく呆然として、男の後ろ姿を目で追うことしかできなかった。


【花海咲季@学園アイドルマスター】
[状態]:健康、呆然
[装備]:オモチャの兵隊(トイソルジャー)@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:殺し合いをやめさせる。
1:呆然。
2:ロングコートの男(蒼紫)を追いかける?
[備考]
※参戦時期は初星コミュ4章15話終了時点。


【オモチャの兵隊(トイソルジャー)@@とある魔術の禁書目録】
四乃森蒼紫に支給された火器。
銃器としての正式名称はF2000R。材質は積層プラスチックであり、まるでオモチャの鉄砲にも見える。
赤外線により標的を補足し、電子制御で『最も効率良く弾丸を当てるように』リアルタイムで弾道を調整する機能を持つ。
銃身を覆う衝撃吸収用の特殊ゴムと炭酸ガスにより、射撃の反動は極限まで軽減されており、その反動は『卵の殻すら割らない』と評される。
原作では妹達(シスターズ)が使用した。


 なぜ中途半端に助ける真似をしたのか。
 ロングコートの男――御庭番衆御頭の四乃森蒼紫は、音もなく歩きながら考えた。
 人斬り抜刀斎と呼ばれた男を倒すために修行を重ねて、新たな小太刀二刀流を編み出した現状。
 殺し合いを強制されるという予想外の事態に巻き込まれたのを、蒼紫はむしろ僥倖と感じていた。
 これは己を最強の修羅とするための試練であると、そう捉えられたからである。
 しかし、森の中で見かけた少女を畜生から救い、あまつさえ武器まで渡した。
 まったく不必要な行為である。蒼紫は己の内心に未だ残る弱さを感じた。
 それでも相好を崩さないままに、御庭番衆御頭は森を歩き続ける。


【四乃森蒼紫@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[状態]:健康
[装備]:斬刀・鈍@刀語
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2(刀剣類はナシ)
[思考]:修羅となる。
1:修羅となるために行動する。
[備考]
※参戦時期は京都編。詳細は後続の書き手にお任せします。


【斬刀「鈍」@刀語】
花海咲季に支給された刀。
柄や鍔、鞘が真っ黒な日本刀。「切れ味」に主眼の置かれた刀で、あらゆる物を抵抗なく一刀両断できる。
原作では宇練銀閣が使用した。

【NPC紹介】
ゴブリン@グランブルーファンタジー
《浮遊大陸》各地に生息する小さい鬼。小刀と盾、兜を装備している。
最終更新:2026年03月30日 00:58