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「これはなかなか、楽しめそうなイベントですねぇ」

 全世界に対して宣戦布告した最強の魔人――シュトロームはほんの少しだけ、愉快そうに微笑んだ。
 彼は魔人の未来に絶望している。魔人が子孫を残す――という実験が失敗に終わったこと。そして帝国を滅ぼすという目的を達成したことで、当初の目的を失ってしまったからだ。

 しかし魔人とは破壊本能のみで生きる存在。シュトロームのように自我を保つ場合は、その本能を抑える程の「目的意識」を持つ必要がある。
 ゆえにシュトロームは目的を失った時点で自我を失ってもおかしくないのだが、意識を保ち虚無を感じていた。
 それはシュトローム自身にも当初は理由がわからず、考えた。結果的に彼が思い至った答えは――シン=ウォルフォードという規格外の存在だ。
 シュトロームは帝国を滅ぼす前にシンと交戦しているし、それ以外にも彼の情報は色々と聞いている。

 シンは人の身でありながら、目的の為に人以上の力を得た魔人を軽く超えるような存在だ。
 魔法の王――魔王だとか、神の御使いだとか。そういう二つ名を持つ世界の英雄にして、シュトロームの世界において唯一シュトロームに対抗出来る存在。

 そんなシンにシュトロームは魅せられていた。
 己の理解を超えた、人間の身でありながら凄まじい力を有する彼という存在に。

 ハッキリ言えばシュトロームとしては世界の破滅なんてどうでもいいのだ。ただ単純に、自分が滅びる前にシンの力の全てを見てみたかった。要するに全力のシンと戦いたいというだけのために、世界の破滅なんて適当な目的を掲げたに過ぎない。そういう目的ん掲げればシンを筆頭にアルティメット・マジシャンズは間違いなく動くからだ。

 その為ならばシュトロームはなんだってする。
 だからシンを魔人にしたい――などとも考えているし、魔人化したシンになら喜んで殺されるなんて思っている異常者だ。

 ――いや、厳密には彼にも優しい頃はあった。
 オリバ=シュトロームになる前――オリベイラ=フォン=ストラディウスは心優しい領主だった。
 身分差別の酷いブルースフィア帝国の領主でありながら、平民優先の政策を行う――帝国貴族としては異端としか言えない存在だった。
 そんな彼にはアリアという大切な人が居た。彼女はオリベイラとアリアの子供を妊娠していた。

 しかしそんな心優しい貴族だからこそ、下賎な貴族に目を付けられるのも必然。
 帝国は身分差別があまりにも酷く、平民などゴミのように扱われる場所だ。そんな帝国で平民達にも優しいオリベイラは民にこそ慕われているが、貴族からしたら邪魔でしかない。他領から移住希望者が多いのも原因だ。

 平民は心優しい領主を求める。
 それはあまりにも当たり前のことだが、そういう存在は貴族達にとって目障りでしかない。特に後にブルースフィアの皇帝になる外道は、オリベイラを失脚させることを他の貴族と共に企んだ。
 帝国の貴族達にとって平民などゴミも同然。そんなゴミを優遇する政策を打ち出しかねないオリベイラが皇帝になることは、貴族達には不都合でしかない。

 ――そしてオリベイラは見事に嵌められた。
 帝都へ招かれたオリベイラだが、彼が不在の間にストラディウス領は貴族達の策略により荒らされてしまう。
 それも暴力的に荒らすのではない。領主のオリベイラに平民達からヘイトが溜まるように、徹底的に工作をした。結果的に平民達はオリベイラに対して疑心暗鬼になり、遂には団結して暴動を起こすに至った。

 そして――最愛の妻は。アリアは、その暴動によって腹の子供共々、惨殺された。
 帝都から戻ってきたオリベイラは、アリアの遺体を見て涙を流し――彼らしくもない程に取り乱した。
 そんなオリベイラに浴びせられる、平民達からの罵声の数々。
 妻と子供の命を奪われたオリベイラは帝国の腐敗にようやく気付いた。何の為に全身全霊をかけて領民達を守ってきたのかも、わからなくなった。

 恩を仇で返す愚かな人間達。
 私利私欲のためこんな下らないことを画策する貴族達。

 それらを“許さない”と憎悪を爆発させた時――史上最強の魔人は誕生した。

 だからシュトロームについては異常者や狂っているというより、壊れてしまったという表現が正しいだろう。
 彼もまた腐敗した帝国の犠牲者なのだから。

 そんな壊れ切った哀れな魔人は造作もなく帝国を滅ぼした。
 目的を達成してやることもなくなり、虚無になっていた。
 それでも彼が意識を保っているのは、シン=ウォルフォードという存在が居るからこそ。
 だからシンに魅せられた彼は、世界の破滅なんていう大袈裟な目的を掲げた。全てはシンに期待しての行動だ。
 シンの恋人であるシシリーを殺せばおそらく彼は魔人化するだろう――とシュトロームは睨んでいる。
 かつて自分がそうだったように、だ。

 そしてこの世でシュトロームという存在を理解出来るのは――恐らくシン一人だとも。

 だがそんなシン達アルティメット・マジシャンズと戦う前――シュトロームは殺し合いに巻き込まれた。
 最強の魔人たる自分が、身動き一つ取れない。そんなこれまで味わったこともない体験はシュトロームの興味を強く刺激した。もしも彼が――ベリアルが自分よりも格上か、はたまた同等の存在だとしたら。それはとても楽しめることだろう。

 殺し合いについても自分が招かれたということは、対抗馬たるシンが参加している可能性も考えられる。
 アルティメット・マジシャンズの面々やゼストやミリアもそうだろう。

 とにかく、シンが巻き込まれていたら彼と戦うことを望みたい――が、バランス調整を受けている点だけはシュトロームとしては気に入らない。

(バランス調整。たしかに殺し合いを一方的にしないためには必要な縛りでしょうが、私とシン君が全力で戦うのにこれは邪魔ですねぇ)

 シュトロームは首輪が邪魔だと考える。
 ベリアルの発言からして、これによって力を縛り付けられているのだろう。そんな魔法は初耳だし、付与魔法にしてもそんな効果は聞いたことない。流石のシュトロームとしても前代未聞だが、だからこそ逆にベリアルがそれほど素晴らしい実力を持つ者だということが理解出来る。

 しかし邪魔な物は邪魔なので、首輪を解除する方法を探る必要はあるだろう。幸いなことにシュトロームはその手の研究には慣れている。

 (自分の首輪を弄るのは危険なので、とりあえず首輪のサンプルがほしいですね……。全力のシン君と戦う前に滅ぶことだけは避けたいので。となれば適当な参加者を殺すのが手っ取り早いですか)

 シュトロームは魔人だ。これまで大量の人々を犠牲にしてきた。目標を達成するためならば、他人を殺すことに躊躇はない。
 ゆえに首輪を外すために適当な参加者を見つけ次第、殺して首輪を回収することに決めた。

 (それにベリアルさんと戦うためにも、この首輪を外す必要はありそうですからねぇ)

 シンに対する期待は非常に高いが、ベリアルとも戦いたい。もちろん全力のシンと戦った上で殺されても構わないという根本的な部分は変わらないのだが、ベリアルに対しても惹かれるものはある。

 (そして私を招くということは、私やシン君と同レベルの存在が招かれている可能性もある。そこにも少しばかり期待しておきましょうか)

 もしも自分やシンと同等の存在が招かれているなら、それはそれで面白い。なかなか楽しめそうなイベントだ。
 しかし魔人シュトロームや“神の御使い”シン=ウォルフォードを招くならば、やはりそれらに対抗出来るような参加者も集められていると期待したいところ。
 わざわざ殺し合いなんて開くならアルティメット・マジシャンズやゼスト、ミリアくらいの実力者は当然として、自分が招かれたということはシンと同等の規格外が居る可能性は高いだろう。

 もしもそういう存在が居るのならば、それらにも期待したい。

 (とりあえず私はシン君や正義感の強い参加者から注目を集めるために魔人らしく人々に害を与え、殺しましょう。シン君が招かれているかはまだ不透明ですが、正義感の強い参加者の中に楽しませてくれる者がいるかもしれませんからねぇ)

 そして最強の魔人は歩み始めた。
 全てはこの殺し合いを楽しむために。元から自分の命に拘っていないのだ、結果的に死のうとも構わない。

 そんな時。

 ――ブンッ!

「むぅん!」

 シュトロームに対して、拳が振り下ろされた。

「シュトローム!見つけたで御座る!」

 ユリウス=フォン=リッテンハイム。
 アルティメット・マジシャンズの一人にして、魔法師でありながら接近戦が得意な男だ。
 とはいえそのフィジカルは身体強化魔法により強化されており、これまでも魔人と幾度となく戦ってきた猛者。
 今回はアルティメット・マジシャンズの制服から付与魔法が消え去っている上にシュトローム直属の魔人達と戦ってきた時のシンから指向性爆発魔法を付与されたガントレットも没収されている。

 それゆえに弱体化は免れていないが、それでもアルティメット・マジシャンズの一員。彼らの世界においてシンやオーグほどではないが規格外な存在であることに違いない。そもそも魔人を倒せる時点で異常な強さなのだ。
 もっともユリウスはトールとペアを組むことで更なる真価を発揮するのだが、残念ながらこの場にトールは居ない。
 ゆえにユリウスは一人で戦う必要があるのだが、魔人の首魁であるシュトロームを見逃すわけにはいかない。

 もちろんユリウスとてシュトロームを相手にまともに戦えるだなんて思っていない。
 しかしシュトロームが存在したら、どれだけ犠牲者が増え続けるかわからない。彼を倒せるとしたらシンくらいだと自覚しながらも、だからといって逃げるなど有り得ないのだ。

「君はアルティメット・マジシャンズの――」

 一方、シュトロームはユリウスの全身全霊の一撃を余裕をもった球状の障壁で対処。傷一つ負うことなく、ユリウスの姿を確認する。
 アルティメット・マジシャンズ。シンの仲間であり、世界の英雄達だ。

「ユリウス=フォン=リッテンハイムで御座る!シュトローム、その危険な野望をここで終わらせるで御座る!」

 鬼気迫る表情でユリウスの剛腕が幾度となく振るわれる。
 並の魔人ならば殺されるほどの、圧倒的な攻撃。
 だがしかし、シュトロームとユリウスでは無常な程に圧倒的な差が開いている。ゆえに障壁にヒビ一つ入ることはない。

「無駄ですよ、ユリウス君。どれだけ足掻こうと、私に傷一つ付けられずに君は死ぬ」

「それでも――アルティメット・マジシャンズとして!殿下の“盾”として!ここは退けないで御座る!」

「そうですか。まあこちらとしても都合が良いですね」

 シュトロームはユリウスに向かって、魔法を放つ。
 凄まじい威力により地面が抉れ、地形が変化し――そこにはユリウスの遺体すら残っていなかった。彼は文字通り、消し飛んだ。

 まずユリウスにとって想定外だったのは、シュトロームが魔法を2つ同時に使用出来ることを認知していなかったこと。本来、魔法とは同時に発動出来ない。ゆえに防御障壁を張っている間、シュトロームは魔法が使えない――とユリウスは考えていたが、そこが大きな間違いである。

 そしてこれはユリウスも自覚していたが、格の差が違い過ぎた。ガントレットを装備したユリウスでも結果は変わらなかっただろう。それほどまでに圧倒的な実力差が開いている。
 ユリウスはシュトロームが魔法を放った際に身体強化魔法を解き、魔法障壁を張ったが――これほど次元が違うと容易く打ち砕かれ、結果的にユリウスは命を落とした。

 恐ろしいことにたった一撃を受けて、ユリウスはその命を散らせた。
 アルティメット・マジシャンズの一員であろうともシュトロームにとっては脅威にならない。
 シンの次に強いオーグでようやくなんとか時間稼ぎが出来る異次元の強さだ。それも当然、付与魔法前提の話。
 ガントレットも、制服の付与魔法も失ったユリウスにはあまりにも荷が重過ぎた。

 決死の覚悟を胸に魔人の首魁を打ち滅ぼそうしたユリウスに対して、シュトロームの心は何ら動かない。唯一、首輪だけは消し飛ばなかったので回収する。

「ユリウス君の亡骸もあれば、回収してシン君や正義感の強い連中を焚き付けるために使いたかったですが……まあいいでしょう」

 そんなことをポツリと呟き、魔人の首魁は次なる獲物を探す

 (ベリアルさんは優勝したらなんでも願いが叶うと言ってましたが、それが本当ならばアリアも――)

 ふと、そんな人間らしい感情が思い浮かぶ。
 ベリアル。まだまだ得体の知れない者であり、確証はないが彼ならばシュトロームの妻――アリアを生き返らせることが出来るのではないか?
 それはどんな魔法師や魔人でも不可能な――もはや神の領域のことではあるが。

 (フッ……。魔人になった時点でアリアが今の私を認めるかもわからない。なによりそんな奇跡が起こせる保証などないのに、我ながら甘い考えですね……)

 それでも。
 自分がアリアに認められなくても、惨殺された彼女が再び生を得られるなら――。

 (……まあ、優勝を狙うかどうかはベリアルさんの発言に確証を得られてから考えましょう。どのみち、他の参加者を殺戮することには変わりませんが)

 もしも優勝を狙うなら、他人を魔人化させる技術が制限されていないか確認する必要がある。
 負の感情を持つ者に制御不能な魔力を送り込む。それが他人を魔人化させる方法だ。
 その過程で負の感情を喚び起こすことだって出来る。――しかしユーリがそうだったように負の感情を持ち合わせていない者には効かないし、シュトローム戦のシンがそうだったように負の感情を上回る正しき感情で抑え込むことも出来る。
 しかしこれは殺し合い。負の感情を持つ者は必然と多くなるだろう。

 シュトロームは優勝を狙うならば、参加者を魔人化させることも検討している。もちろん制限次第では不可能ではあるし、仮に能動的に魔人化出来たとしてもバランス調整により一定時間開ける必要があるとか、そういうのがあるはずだ。

 もしも優勝を狙わないとしても、シンや正義感の強い連中の前で誰か魔人化させればヘイトを買うのに役立つかもしれない。そこも検討しておくとしよう。

 こうして魔人の首魁は殺し合いの場でもブレず、自分のやりたいように行動する。

【ユリウス=フォン=リッテンハイム@賢者の孫(漫画版) 死亡】

※ユリウスのデイパックはユリウスと共に消し飛びました

【オリバー=シュトローム@賢者の孫(漫画版)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、ユリウスの首輪
[思考]:シン君のような存在が居ることに期待して、正義感の強い連中を焚き付けるために殺戮します。魔人らしく、ね
1:シン君も招かれていたら、全力で戦いたいですね
2:全力で戦うためにこの首輪は邪魔です。首輪を外す方法を研究しましょう。実験用の首輪はどれだけあっても困らないので、ある程度の数はほしいですね
3:ベリアルさんにも興味がありますね。彼と全力で戦うというのも悪くありませんが……願いの件次第ですね
4:ベリアルさんの願いを叶えられるという言葉に確証が持てたら、優勝狙いも考えます
5:他人の魔人化が使えなくなっていなければ、活用するのもアリですが……何かしら制限はあるでしょうね

[備考]
※参戦時期は全世界に宣戦布告後、旧帝国の城でシンと再戦する前
※制限は採用された場合に後続の書き手さんにお任せします
最終更新:2026年02月15日 22:01